かき集めた部員が超次元な奴ばかりだった件について 作:低次元領域
「へぇ、雷門の練習試合。それはいいことだね……雷門理事長は入院中だが、きっと喜んでくれることだろう」
「ええ、そうでしょうね」
父が言う。視界の端に私を入れながらも決して眉を開くことがない。言動とは合わない、緊張感がこの場を支配している。
習合中の、明るくなったはずの理事長室は再びカーテンに閉ざされていた。
「……ああ勿論交通費は学校で補助するよ。FF出場を契機に寄付金もいただけたからね」
「──そんなことはどうだっていいんですよ、父さん。これは何だって言っているんです!」
「……っ、それは……
話を逸らそうとする父に詰め寄り、紙を突きつける。いやでも父さんはそれに目が行き、言葉に詰まる。
そこにはただ、一人の生徒の記録が記されているだけだ。
ただ一人、織部長久……キャプテンの記録が。
「小学一年生の時に両親を亡くし、叔父に引き取られここの特待生に。理由は金銭面から……!
そして入学してからわずか一か月も立たないうちに、サッカーをして両手に火傷、右腕は筋挫傷! しかもこの日は、キャプテンと高天原中が一対一のPKをした日ではないですか!!」
思えば、以前バングさんが訓練道具を用意していた時、金銭面に関して心配していた時があった。グローブやシューズを格安だったという理由で購入していた。
理事長という立場を使い、かき集めさせた情報に虚偽はない。普段の彼を知るものならば信じられない様なものでも、信じざるを得ない。
……この日のキャプテンは、帝国の時と比べれば必殺技に対して必殺技も使わず対処をした……そんな風に思っていたが、何かが違ったのだ。
どこだ、どこで怪我をした?
単に光陰如箭を相手にした時は頭突きしかしていない。火傷をするようなものは思い浮かばない。メアさんの未完成だった必殺技を止めた時も平気にしていた。
不意に、メアさんのあの日の言葉が思い浮かぶ。
『僕の未完成な技を受けて闇の力が活性化していたんだね!? そのあと真経津兄の光陰如箭で覚醒へ……!』
思えば、この間の鯨の姿をした悪魔が憑りついた狩火庵中を解放したのは、彼の一撃だった。
──キャプテンに憑りつき隠れていた悪魔が、あの日を境に? その代償として何かを支払ったのか?
「どうして、どうして止めなかったんですか! あの時の父さんはサッカー部を憎んでいた、止めるには十分な理由だったはずです」
「……そんな症状になっても、彼は顔色一つ変えずに特訓に励んでいた。何かの間違いだと思ったというのもある……」
あの二日後、キャプテンは左腕に黒い包帯をしてきた。
これは怪我を隠すためか?
違うだろう、仮にそうなら
怪我をしていたなんて誰も気が付けなかった。
……本当に、あの時点で怪我はしたままだったのだろうか?
「……彼が、望たちがサッカーに一生懸命取り組む姿を見て、そんな中途半端な終わり方をさせたくなかったというのもあった。……結局のところ、私のちっぽけな過去ごと吹き飛ばされてしまったけど」
「その代償として、キャプテンは人の道を外れようとしています」
じゃあもしかして……可能性の話になる、訳ではない。
私には確証がある。帝国の皇帝ペンギン二号を食い尽くした黒蛇。あれが現れた直ぐ後、キャプテンは食堂で大食いをよくするようになった。
食べ盛りの学生と言えどおかしい量を腹に入れ、練習の時も平気にしていた。
……あの蛇、フェルタンさんと同じように、よく食べるようになった。まるで、失った何かを埋める様に。
生物にとって、食べる事とはエネルギーを取り入れることだ。では、あの黒蛇が食べた方はともかく、キャプテンが食べたものは
蛇とは古来より、賢き悪、永遠の生命、執着の象徴として扱われる。
……キャプテンの怪我があの黒蛇によって治されていた可能性は、捨てきれないんじゃないだろうか?
発想の飛躍だというのは分かっている。だが、仮にそうだとしたら……私が気がつけていないだけでまだ他にもキャプテンが怪我を隠し治していたことがあるんじゃないだろうか。
そしてそれを指摘できるものは、止める者は、誰もいなかった。
学校にも、部活にも……家の中だって。
「……分かっている。だからこそあの子の、あの子が築いた部活の……思い出させてくれた、サッカーの楽しさのため、力になるよ。
返しても、決して返しきれない恩がある」
「……それは、私だってそうです。こんなの……」
……父さんを責めたところで意味はない。私たちが気が付けなかったということから目を背けているだけだ。
彼の背中を見て走っていた、決してその顔を見ずに。
『理事長として──
彼があの日この場所で告げた言葉には、どんな思いがこもっていたのだろうか。
彼の叔父は中学に入学して直ぐに転勤でつい最近まで家を空けていたことがわかっている。
だから妹を名乗るストーカーが家に住み始めても、咎めるものが居なかった。
……エマさんが人であるかももはや怪しい。もしや彼女、或いは彼の家にいつも留まっているカラスだって……。
「……あの人が世宇子を相手にするとき、力不足だと思えば……無理をするでしょう」
「……どうするんだ、望」
彼は特別な存在だと思っていた。
私たちの誰よりも強くて、私達の誰よりも優しくて、私達の誰よりも大人びていて。
「決まっています──」
彼は、私たちを守るため自分を犠牲にしていた。
彼は、誰よりも優しくて、誰よりも自分に厳しかった。
彼は、子供でいてはいけなかったからこそ大人びたんだ。
「
例え、この結論が彼が嫌がるものだったとしても。
決意を新たに私は部屋のカーテンを取り払った。
◆
「……なんで黙っていたんですか、ジミーさん、メアさん?」
「いや、その……だな、まさかそんな前にも怪我してたなんて知らなかったってのもあってだな……はい。すんません」
「……輝きは、生命の灯火。彼の強さは、孤高が故に……? 僕は、助けになってみせるから……今こそ真の天使の息吹を……全然完成しないけど」
「メアさん? メアさーん……。駄目だ、少し現実逃避してますね。はぁ……、当の本人はあれだし……」
……遠くですごいことが暴露されている気がする。こう、真相が明かされてる感じがするけど変にこじれ曲がった勘違いが誕生してる感じが……。
気になるけど、集中するために思考から外す。
──足元に転がるボール一つ。向かい側のゴールを見据え、軽く息を吐く。
身体中に流れている、コルシアの力を足に集め、強く硬く進化させる。ここまではダークネス・ハンドと同じだが、ここからが更なるダークネスなのだ。
どれくらいダークネスかって言うと、この間の狩火庵中の試合映像が公開されると同時に、親御さんから子供が泣いたり、変な力へ憧れを抱いたという苦情が寄せられたぐらい。
あと俺のファンクラブへの入会希望者が急に増えたことぐらいに闇が深い。ファンメも大量に貰ったらしい。エマが自慢してくれた。
『ああ待ちわびておりました我らが主よ! 今こそ緩み切った世界を争乱の世へ、世界の破壊を!』
『貴方の力に惚れました。是非とも我らにその力の一端を……』
『髪の毛一本まで忠誠を誓います、だからどうかお慈悲を……!』
……黒魔術研究会がそのうち、新興宗教になりそうだ。怖い、助けて。
教祖とかにされたら全力で逃げます。
けど今は大地を踏みしめる必要がある。
踏ん張りが利くよう、スパイクの爪先とかかとに擬似爪を生やし、グラウンドに突きつける。本来のスパイクよりも爪が増えたことで、力が分散しより耐えられるようになる。
今ここにあるのは獣の足などという生易しいものではない。
地獄の帝狼、コルシアの脚。
準備はいいか。
──そのまま返す、失敗すればまた仲間外れだぞ
それは嫌だ、頑張ろう。独りぼっちは寂しいからな。
……世宇子を相手にするためには、俺も進化しないといけない。もっと小手先を磨いて、少しでも手数を増やさなければならない。
構える。体重をわざと一度後ろへ乗せ、蹴る。反発する力を足に、トロアとフェルタンに呼び掛ける、
「……ロアフェル──」
力を借りるぞ、と。
──ご飯ない……ない……
──チカラを振るうのは気持ちいいぞ!
──悪魔に対して借りる、か……相変わらずの傲慢だな、アベルの様にならんと良いが
傲慢なんぞしておりません……強い皆に追いつくためになんとかせねばね。しゃーないんですよ。
で、アベル? 確か、カインに殺された……世界で初めての被害者とか言われてる人だっけか……? いや流石にサッカーやってて死にたくはないよホントだよ。
……違うって? コルシア。ってことは悪魔関係?……アベル、ベルア、ベアル……傲慢……ベリアル? いやそんな、まさかね。
違うよね、コルシア? 確認し呼びかける。
「──
白龍の顎が背後に、黒蛇がボールに、帝狼が脚部に。
三つの悪魔の力を借りた大技。トロアの力の代償として足がやられるなら、怪我をしないようにコルシアの力で補助をする。
技の進化、悲しいところはここまでやっても、威力自体はロアフェルから少し上がっているだけで、生物技以外はもう碌に通用しないという事か。
インフレって怖いね……。
「ドミネーション!!」
足に走る衝撃と共にボールが飛ぶ。がら空きのゴールへと刺さる。
……見た目だけならイナズマブレイクとかエンゼルブラスター改並みの威力がありそう。そのように誤解されそう。
実際この前ブラックさんの技食い破っちゃったし。あれ見た人とかエンゼルブラスター改<<ロアフェルドミネーションだと勘違いするよね。
そのパワーアップ版……絶対誤解されるな、間違いない。
「おー……すごいッスね部長! 滅茶苦茶ド派手! 最強って感じ! ッス!」
案の定だなバング。目がキラキラしてる。
あともう語尾があの鯨並みに雑になってるぞ。
「あ、次は僕! 僕に向かって試し撃ちしてみてよ部長!」
──牡丹肉……!
お前の闘争本能はなんなんだウリ坊。目がギラギラしてる。気のせいか技を出していないのにもう猪の気迫を感じる。
フェルタンも乗り気だからいいけど……お前の猪突猛進は生物系だからあまり特訓にならんぞ。
それいっ。どみねーしょん。
「わっ、早速……猪突猛し──うわぁっ!?」
──すこし臭みがあるけど歯応えあってよしよしのよし。欲を言えばもう少し量が食べたい
さいですか……、まぁウリ坊とフェルタンが満足ならよし。
「……!」
カガもかっこいいって褒めてくれている。やったな。
お前の必殺技も格好いいから、雷門戦で披露しような。
……この流れだとメアとかも失楽園の特訓したいって言い出して……と、ワタリたちと話してたか。
見た感じ……俺の話だよね? なんなんだろ、少し耳を澄ませてみよう。どれどれ……。
「とりあえず、基本方針としては無理はさせない。少しでも体の異常が見られたら引っ張ってでもベンチへ」
「お、おう……」
「……なんだか、ジミーさんも少し疲れてます? しっかり貴方も休息は取ってくださいね?
あと、メアさんは……悪魔の方々に効果がありそうなので、悪魔関係で本当に不味くなったら、全力のエンゼルブラスターを打ち込んでみましょう。この間の鯨のように、悪魔が離れるかもしれません」
「わかった!!」
──おい全力で仮病しろ仮契約者! 妾はまだ野良になりとうない!
──どっちが悪魔なんだろねー
──よかったな、死ぬ時は一緒だぞ長久。クソくらえだな
絶対バレちゃならねぇな! イェーイ僕元気! 元気すぎて、更にもう一発打てそうだぞぉ!
──疲れたからもうよいわ
──牡丹肉以外ならやる気起きないなぁ
あっ……左様で。
えっと、なんかそれっぽいこと言って俺の紹介シーン終わります。はい。
「……今度の雷門との試合は、練習だからこそ試せることが多い。必殺技、連携を実戦で特訓できるいい機会だ。
だが、やるからには全力。……いいサッカーをしよう、みんな」
──……オゥ!!
よ、よしなんかそれっぽいまとめになったぞ。みんなやる気満々に各メニューをこなそうと準備をし始めている。
先ほど吹っ飛ばされたウリ坊なんて、どこから持ってきたのか妙な器具を……というか、もしかして野球部のピッチングマシーン? 借りたんだ、なんに使うの?
150km超えた野球ボールを捉える特訓をすることで、猪突猛進の一撃の威力が上がるかもしれない?
へぇ……禁止な、返してらっしゃい。
「え、えー!? なんでさ部長!」
いや意外そうな顔するな! お前毎度思うが発想の危険性半端ないからな!?
せめてサッカーボールにしなさい、野球ボールなんてこの先止める機会ないんだからやる意味ないです!
「うっ……わかったよ部長……今日は普通にメアのシュート相手に特訓する……」
そうそう、しっかりサッカーをな……サッカー……うん。
よくよく考えたらあまり危険性変わんない気がしてきたな。
──部長ー、重力装置いれますッスー!
あ、お願いねバング。リモコンは安全の問題から、重力をいじる場所以外じゃないと使えないのが面倒だよね。ありがたいけど。
確か今はハードワーク用の6Gではなく、安全を取った4Gで設定されてるはずだから、電源を入れたら急に負荷がかかるな。
よししっかり足腰に力入れて……今日は重りもしてないからかなり楽なはずだ。感覚マヒしてる自覚あるけどまだ天国だ。
……狩火庵中前の時は2Gまでしか練習で使わせないようにしてたのに、ここでもインフレが激しい。
──グラビティ~オンッス!
ヤード・ポンド法の単位か?
「……あ、やば」
「あ、やべ」
ん、なんかウリ坊とジミーが急に慌てたような……っ!?
そう思ったのも束の間、意識が反転……違う、一瞬にして地面に押し付けられたのだ。
耐えることが出来ない、6G……違う、重り無しでコルシアの強化を得たんだ。来ると分かっていたのに対処できないレベルじゃない。
──えっ、なんでみんな倒れてるんすか!? ちょっ……うわ9G!? ちょちよ、ぐ、グラさんこれどうやってとめるんでしたっけ!!?
9G!? ふざけんな人間の限界せめんな……!
ああ駄目だ、考えが、意識が薄れ──、
助けて──!
完
嘘です。
次回こそ雷門視点……世宇子編なのに。
~オリキャラ紹介~
・帳塚 望:ワタリ FW 10番
クソカネモチの名のもとに、ようやく父親から怪我の案件を引き出した。
だが医者と織部の企みにより、真実は知らされず、余計にこじれた。
織部は昔もフェルタンの力を使ったとバレた(時と場所はおかしい)。
・上条 翔:ジミー FW 9番
地味ならば、特訓で誤魔化せ熱血サッカー道。
人の事を言えないことをこっそりしていた。
バレた。
・ウリ坊 DF 4番
危険な特訓を思いつくことで部長の中で有名な部員。
絶対に彼に特訓の指揮を取らせてはいけない。
部長に言えないことをこっそりしていた。
バレた。