かき集めた部員が超次元な奴ばかりだった件について 作:低次元領域
インフルはガチです。死ぬかと思いました。
16:03オチを入れ忘れてたので修正しました
「で、なんでこんなことしたんですかお二方……? 特にジミーさん」
「え、えーと……そのーこっそりー……練習してたら、ちょ、ちょーっと。ちょっとだぜ? 刺激が足りなくなったと言いますか……う、ウリ坊は副部長特権で付き合ってもらっていたというか……」
「ぼ、僕が提案したんだよ! シュートブロックにジミーの手がかりたくて……」
目の前でワタリに二人が叱られている。
芝生の上で正座させられ、背中にはゼッケンの上から「私たちは無茶な特訓をしました」と紙が貼られていた。ちなみにこれはアルゴの仕業だ。
「そうですか……確かに部室棟の鍵は、キャプテンとジミーさんしか持っていませんからね。とりあえずこれは没収します」
「うっ……はい」
「それで、重力装置をいじって……9Gなんて試したんですか?」
「い、いやそれは……昨日の最後に、試しに……っていじって戻し忘れて……」
そうだろうなウリ坊。お前も潰れたカエルのような声を出していたもんな。
俺はもはや魚の干物レベルでつぶれていたよ。死ぬかと思った本当に。あと少しバングが電源切るのが遅れていたら本当にやばかった気がする。
お手柄だぞバング。
遠くにいるバンダナ頭に軽く手を振る。
──え、いやぁ……アハハ、アルゴさんが止めてくれたので、褒めるならアルゴさんにお願いするッス!
──いぇーい
照れるバング、だがすぐに手柄は自分のものではないと打ち明ける。優しい子だなぁ。
……あれ、アルゴって重力装置オンにした時フィールドいなかったっけ。
??? ま、まぁ……いいか。サンキューアルゴ。
──……何も言わんでおく
? さいですかコルシア。
偉いぞアルゴ、何でか知らんけど俺も正座の刑を受けていなければ近づいて褒めに行ったんだが。
……ニヤニヤしてるけど、もしかしてアルゴ君、俺の背中にも紙はってます? 張ってる。そっかぁ。
「キャプテンは、その他諸々含めて丁度いいので」
「リーダー、一応重し持ってきたけど……膝に乗せる?」
いらないです! それ正座の正式スタイルじゃなくて江戸時代の拷問だからなメア!?
頼むから仕舞え、何キロあるんだそれ!
──連帯責任はんたーい
──かと言って貴様、叱る立場にもなれんだろ
さいですねコルシア。ハウス。
ギャグが一度入り、空気は軽くなる。
コホンと、ワタリは一度咳払いをして締めなおした。
「……それで、もう一度お聞きします。ウリ坊さん、ジミーさん。
そう言われ、ジミー達は俯く。
歯噛みし、悔しそうな顔がちらついては消える。
「──もっと、強くなりたかったんだ!」
沈黙を最初に壊し、立ち上がったのはウリ坊であった。
両手を強く握りしめ、ワタリに、メアに、俺に、遠くで練習に励む彼らを見て吠える。
「次の相手って、あの中国の奴がいるんでしょ。その次は……部長たちが警戒している世宇子! もっと
もっと、強くならなくちゃなのに……あんまり伸びなくて」
だから危険な特訓をした。それがウリ坊の答えだった。
その姿はどこか、部活に誘った時にあった……憧れへの反転を含んでいる様な気がする。
スポーツで役に立てなくなったら、仲間外れにされてしまう。そんな危機を抱いた……叫びだ。
「──っ」
伸び悩んだら、隠し事をせずに……仲間を頼れ。
そう……気の利いた、部長として掛けるべき言葉を使おうとして、喉に詰まり腫れあがる。その言葉だけは言ってはならないと、自分の心が首を鷲掴みにしていた。
口を閉じて、ようやく解放される。息切れに似た疲労感が体に広がっていく。
「(……?)」
──言っておくが、我もトロアもフェルも何もしていないぞ
「……俺は、必殺技を覚えたかった」
正座を崩し、あぐらをかいて。
そうこうしている内に、ジミーが今度は言葉を吐いた。いつもの明るさが、軽さが消えた……重い、暗い言葉は芝生の中に染み込んでいく。
「……必殺技、ですか?」
「あぁ、メアみたいな派手にゴールぶち割れる奴とか……ワタリ、お前みたいに全員につなげられる奴とか。ウリ坊、部長みたいに敵の一撃を止められる奴。
なんか一つ、欲しかったんだよ」
そう言って後ろを振り向く。遠くでは、バング、ソニック、トールが各々の必殺技を合わせ、合体必殺技に出来ないか試していた。
ドライブアウト、ストーム・ブリンガー、雷鳴一喝。どれも派手で、俺にはなんでそうなるかが全く分からない現象が起きている。
……そんな俺だって、ジミーにとっては羨望の対象だった。
悪魔の力を借りないと何もできないというのに。
「でも……駄目だったわー!」
背中を芝生に預け、ジミーは手足を思いっきり伸ばした。
……だが、中身がない。空っぽの、明るさを装った動作だ。まったく気持ちよくないだろう。
「いくら蹴っても、何にも起こらなくて……」
天を見上げる。部室棟の最上階からは、いい空がよく見える。
今日だって雲一つない。けれど太陽は沈み、屋根の陰に隠れていた。
だから、空には何もなかった。
「もしかして、なんだけどさ。……俺、才能……ないんかね?」
ジミーは……絞り切る様に、否定してくれと言外に添えて、言い切った。
──……
……俺は、それをどうするべきか、迷っていた。
否定したら、多分この場は収まる。
けど……ジミーにとって、本当の助けにならないって、思った。
──何を言うべきか、分かっているな? それは、奴の処方箋であり……どこぞの誰かにも効いただろう
……どこぞの誰かがよくわからないが、サンキューコルシア。
地獄の帝狼の後押しを受け迷いつつも、俺も言い切る。
「──あぁ、ジミー……お前に、必殺技の才能はない」
そうまで口にして、ようやく気が付く。
ああこれは、俺にも効く筈だった特効薬なのだと……。
誰かに言って欲しくて、欲しくはなかった言葉を。
目を丸くするウリ坊たちを他所に、俺は……もう自分の為にはならない言葉で、ジミーを少しでも助けるために……。
ただ、口を回した。
……もう、助けを取る手は、何処にもないのかもしれない。
「ちょっ、そんなこと言っちゃ駄目だよリーダー……ってあぁ!」
重しをしまおうとしていたのを中断し近寄ってくるメア。転ぶ。
重しが宙を飛び、迫ってくる。
「あ」
「あ」
「……え?」
え、あのちょ、今正座してて……ちょっと痺れて動け……あ、あーっ!
助けて!!
◆
「よぅし次、こーいっ!」
それは地下深き場所。
銅像の下に隠された階段を降りて広がる深淵。人工的な明かりのみが頼りとなる世界に、彼らはいた。
「行きますよキャプテン──グレネードショット!」
突き抜ける風切り音。やがて空気の抵抗は熱を産み、ボールに爆発力を宿す。
触れれば手が持ってかれるかもしれないという一抹の不安をも抱かせるシュートだった。
「熱血パンチ!」
真正面から受け止めたのは赤く燃え滾る拳。
サッカーに注がれる情熱で煮え滾る血の証。
一見して、単なるパンチング。だが必殺技として確かにそこに存在していた。
雷門中キャプテン、円堂守の一振りだった。
「……すごいぞ宍戸! 昨日よりまた強くなってる!」
「ありがとうございます!」
MFの8番、宍戸くんは嬉しそうな声を出す。
自慢のアフロの乱れを手で触りながら、直ぐに戻っていく。転がっているボールの数からして、それなりの数を打ち込んだようだが……。
「じゃキャプテン、今度はこっちで!」
「よっしゃー! いつでも来い!」
両手をぶつけ合わせ、気合は十分だと答えて見せる円堂くん。
……まだ続ける気らしい。
少しのため息のあと、周りを見る。
「玉乗りピエロでヤンス~!」
天井に備え付けられた
対象を狙い自動的に放たれるそれに当たれば、しばしの痺れを与える。それから逃れ、ボールに乗って回避するのはDFの5番、栗松くん。
他何人かも必殺技を使ったり、或いは自身のフットワークを生かし回避している。
……これがサッカーの特訓だと言われて、昔の私は納得できたか分からない。
「あががかがが!」
「あ、栗松がひっかかったぞ」
……いえ、私が改修を命じておいてだけど、本当にこの特訓は効果があるんだろうか。
確かに結果は出ているのだけれど、日に日に進化していく彼らを見て、そもそもこれはサッカープレイヤーとしての成長なのか? と心の中に疑問がわいてきてしまう。
なんというか、超人育成をしているような気分になってくるのだ。
「──!」
「────!!」
背後で響く轟音。叫び合う男たちの声。
こんな考えを抱いてしまうのは……それは、きっとあのMF達のせいだろう……意を決し、振り向く。
「アメリカ帰りと聞いて期待したガ、こんなものネ?」
「まだまだっ、いくぞ鬼道!」
「あぁ、次はもっと息を合わせるぞ
最近、雷門に加入した……鳴り物入り三人衆。
三人とも各チームに入れば直ぐエースとして胸を張れるほどの魔物たち。
「はぁ……っ! 上だ、一之瀬!」
かつては絶対王者とうたわれた帝国学園。天才ゲームメーカー……鬼道 有人。14番。
ゴーグルをしてなお……いや、ゴーグルをしているからこそか、視界内に映る物事をすぐさま判断し、組み立てる力を持つ。
そんな彼が今、スライディングし……躱された。
「いい鋭さだけど……甘いネ」
代之総中ではあの習合を相手にワンマンで圧倒し続けた、間違いなく今大会最上級のプレイヤー。
中国で既にプロとして所属しており、世界を相手に経験を重ねている……黒月 夥瓏。15番。
高く高く、ボールを足に抱え跳ぶ姿に思わず、龍の姿を幻視する。
それを追い落とそうとする、存在が一人。
天を駆け上がり、頭を地に向けてでも足をのばす男がいた。
「届いた……!」
「っ、……訂正、中々ネ!」
一之瀬一哉。16番。
フィールドの魔術師と呼ばれる彼は……同じマネージャーの秋さん、そして土門くん曰く「アメリカにいた頃の幼馴染であり、その昔に事故で死んだはずの人間」だったらしい。
本当はサッカーができなくなっていただけだったが……それを悲しみ死を装っていたそうだ。
……かなり迷惑な嘘だ。
「が、やらン!
揺れかけたボールを再度、足で挟んで黒月くんは振り切った。
だがやはりサッカーへの思いは消えず、手術とリハビリを重ね……なんと今回、アメリカ代表に選ばれたらしい。
それを伝えるために日本に来た人が……なぜか今、雷門中のユニフォームを着ている。
その時私はいなかったが……なんでも、秋さん、土門君たちと遊んでいた頃に編み出した必殺技、トライペガサス。
思い出をもう一度、当時は居なかった円堂君を混ぜて復活させたことに感銘を受けたらしいが……。
「まだまだ、こんなんじゃ我を扱いきれるか怪しいヨ!」
「言ってくれる……!」
「くぅ~っ、もう一回もう一回!」
アメリカ代表に選ばれたのはいいのだろうか。私の疑問はもはや誰にも届かない。
改めて考える。アメリカ代表に選ばれた天馬、中国代表として既に経験を積んだ黒龍、日本トップを切っていたペンギン。
……次の試合、MFの枠は他のメンバーにあるのだろうか。
「──」
だけど、今は……えぇ、そんなことはどうでもいい。
アラームを鳴らす腕時計を見て、眉間にしわが寄る。
「……」
私は……マネジャー、雷門夏未は叫んだ。
「──いい加減っ、練習を止めなさい! 練習試合の時間よ!!」
すっかり約束を忘れ練習にふける大バカ者たちに、雷を落とす。
もうすでに待ち構えている彼らの元へと向かえと尻を叩き、修練場から追い出した。
助けのいらないデビルマン
最終章らしく、主人公は少しだけ変わるお話。
次回からはまたサッカーに殺される織部が見られます(深刻なネタバレ)
~オリキャラ紹介~
・アルゴ MF 6番
最近どんどん隠れ強者なムーブをするようになってきた。神無月になったら少し里帰りするなど冗談を吐いて楽しんでいたりする。
甘酒が美味しいが、それ神のアクアとかじゃないんすよね。
・上条 翔:ジミー FW 9番
副部長としての権限を使い、皆がいないうちにこっそり特訓をしていた。
部長的センスからして「あの地獄の特訓終わった後自主的に特訓しておいて何が才能ないじゃはたくぞ」だが……?
キック力習合最強の男はどうなるのか。
・ウリ坊 DF 4番
普通に伸び悩んでいるだけだったが、ジミーが横にいるせいでなんかウリ坊自身もかなり深刻な問題の様にされそう。
ジミーのノーマルシュート相手に猪突猛進で受け止めたり弾かれたりしていた。
進化が待ち望まれる。
・織部 長久 GK 1番
雷門がいつの間にか進化を遂げているが一之瀬の技は「トライペガサス」なのでまだラッキーな男。
馬肉はおいしいらしい。作者も久しぶりに食べたい。
お前才能ないよ、と言われる言葉はきっと、帝国戦途中までだったら彼を救う言葉になっていた。
今は無理である。
・黒月 夥瓏 MF 15番(雷門)
移籍したわけではなく、シーズンオフなのでこっちにいる奴。
大会決勝予定日が日本にいられるギリギリの日なので、仮にエイリア学園が後日来ても国に帰ることが決定している。よかったねエイリア学園。
アメリカ代表に選ばれた男と帝国のゲームメイカー相手でもまだ少し優勢な辺りほんとに出る時期を間違えている。
~オリ技紹介~
・現在特訓中の必殺技 使用者:トール,ソニック,バング
バングを中心に置き、ソニックが回り、トールが怒る。
名称未定。まるでベイブレードのアニメを見ているような気分になれる技。
まだまだ不完全。