かき集めた部員が超次元な奴ばかりだった件について   作:低次元領域

53 / 76
今回は本格サッカー小説です


サッカーがそこにある日

 天使と魔神のぶつかり合いだった。

 

 幻視した。雷神と形容すべき存在を円堂の背後に見た。

 

 ほんの一瞬で、煙のように消えてしまったが……あれこそが魔神なのか、名に恥じない姿。

 故に、だからこそ、今の状態は不完全だろうと理解も出来た。

 完成した暁には、足を引きずることすらしないだろう。数瞬の競り合いをも生まず、メアの一撃を止めていたに違いない。

 

 俺に越えられるだろうか、辿り着けるだろうか。

 焦燥が強くなった。それと同時に……なにか、座っていられない。自分を立ち上がらせる何かを感じ取る。

 

 気がつけば拳を握りしめ、ラインぎりぎりに立っていた。

 

「ぐぅっ!?」

 

 貫かんとした光弾と火花を散らす。

 ボールはゴールラインを跨がず弾かれ、反動で円堂のみがゴールインする。

 笛はならない。試合は続いている。

 

 俺はそれを見ている。

 ほらソニックが拾ったぞ、次はワタリのフェイントか!? それとも一号の速さの一撃か!?

 どうなるんだと未来を予測して、刻一刻と変わる試合を見ていた。

 

『──は、弾いた! シュートは入らず……円堂、メアの対決は両者譲らずかーっ!?』

 

「す、すげぇシュートだ……よぅしまぁだまだぁ!!」

 

「っ、やるね……!」

 

 シュ~ッと音と煙を立てるグローブを見て、円堂は驚きながらも笑っていた。転んで土に汚れた顔を拭くこともせず構える。

 地上に降りたメアもその迫力に一瞬怯むほど。けれどそれは決して怖さからではないだろう。何となく、そう思った。

 

「メア様……で、でも驚いてる表情もお綺麗で……」

 

「……す、すごい」

 

 少し後ろでメアファンの子が悶え叫ぶ。すっごい元気だ。

 連射する音も聞こえる。カメラで撮るのは……本人に許可取ってんのかな? 取ってなけりゃ部長辺りが注意するか。

 

 そして二号も慄いていた。彼も俺の隣に立って、目を見開いている。……いや、必殺技のひの字にも辿り着いてない俺がこんなこと言ったら失礼かもしれない……けどきっと、お前の八咫鏡も進化すれば止められる。

 

「(──俺はどうだ? ……部長はどう思ってんのかな)」

 

 ふと気になって、視線をボールの位置とは反対側へ向けた。

 仁王立ちしている、戦況の行く末をじっと見ているアイツを見る。

 

 見れば彼の足元から、腰から、小さく現れた龍と蛇とでなにやら話をしている。会話の内容は一切聞こえない。

 一体何の話をしているのだろうか。少なくともどうでもいい事ではなさそうだとはわかった。

 

 数秒、見ていれば……不意に、部長の首が動いた。

 

「──」

 

「っ!?」

 

 部長は、ただ無言で……こちらを向いた。それに釣られて蛇と龍がこちらをにらんだ気がした。

 思わず背筋が伸びる。まるで「お前ならどうする?」と問いを含んだ視線。

 

「どうって……」 

 

 返答に当てはなかった。

 ジミーの為だと言われてベンチに行って、試合の流れを少し見ただけだ。

 何か思いついていたわけでもない。

 

──だから……考える。

 改めてボールの方へ視線を戻し、考えた。

 

『流れるようなパスが一号へ、連続シュートのチャンスです!』

 

 あのマジン・ザ・ハンドは未完成ながらメアの一撃を防ぐ。パワーだけではかなわない

 では一号の光陰如箭。速さをもつあの技ならどうだろう?

 散々特訓した今なら反応できるが、それでもあの速さを防ぐのは至難の業だ。

 

光陰如ぜ ──っなに!?」

黒龍炎棘(ヘインヤッジ)……地上で溜めてたらこうなるのは当たり前ネ」

 

 駄目か。

 ブラックが腰を落とし、足をコンパスの様に廻しグラウンドに弧を描く。次いで発火、溢れた溶岩が直ぐに冷え固まり生えた棘が一号を崩す。

 ……いくら放たれた後が速くても、ああして無防備なところがあれば止められる可能性が高い。

 ブラックの様に早ければ、或いは張られていたら難しいだろう。

 

 ……必殺技は、ブラックみたいな隙が無い方がいいのかもな。

 そうじゃないと必殺技を発動するまでにかなりの手間を食う。

 

「おぉっとッス! そんで、ワタリさん!」

「っありがとうございます!」

 

『ボールは10番ワタリに、またもや習合のシュートチャンス!』

 

 じゃあワタリのような……フェイントを交えた、テクニカルな一撃はどうか。

 ちょうど一号からこぼれたボールをバングがすかさず拾い、ブラックにとられる前にとワタリへ渡る。

 

 パスを出そうと一瞬周りを見るが……ブラックが張り付いている一号、他の雷門メンバーが警戒しているメアには簡単には渡せないしメアの必殺技も少し溜めの時間がいる。

 その間に陣形を整えられてはまたマジン・ザ・ハンドで弾かれるだけだ。 

 

 だから一瞬、パスをする素振りをしてワタリが切り込んだ。

 羽が散る。

 

「こなくそっ……ぉお!?」

 

『これは……帝国陣営を翻弄したワタリの必殺技だぁ!』

 

「……フェイク・フェザー

 

 既に迫っていた染岡のスライディングを躱し、ワタリを空を飛ぶ。

 足にカラスの翼が生え、散って視界が途切れ……いつのまにやら増えた二つのボールがゴールへと伸びた。

 

 本来はパスとして使う技らしいけど……あれもかなり厄介だ。二つのボールの見た目に全く違いはない。両角から攻めたシュートへの対処に遅れれば失点も免れない。

 

「栗松、左を頼む」

 

「分かったでヤンス……ゥオワーッ!?」

 

『おおっと円堂! 増えたボールに対し、片方をDFに任せて着実に対処! 栗松も体を張ったナイスプレイだ!』

 

 ……と思ったが、駄目らしい。

 

 そこに威力と速さは共存していない。

 片方は円堂の熱血パンチで、もう片方は栗頭のDFがぶつかり羽となって消える。

 ボールは高くとんで……雷門ゴールラインを割った。すぐさま審判の笛が鳴り、腕はコーナーをさす。

 

『あーっとここでコーナーキック! 習合の猛攻に雷門イレブン防戦一方か!? それともここを凌いで反撃に出られるかぁ!?』

 

 ……いくら騙せても十分な時間があれば意味がない。時間を稼げてもあんな風に弾けるんじゃ難しいか。

 栗松は2回ほどボールの衝撃で地を転がったが……うーん。

 

──イテテ……パスの威力じゃないでヤンスゥ……

 

 このままでは防ぎ切られ、その内反撃のチャンスを与えてしまう。

 だから一点、まずは取りたい。取るためにはあの守備を打ち崩すことが必要だ。

 

 威力だけの必殺技じゃ同格以上にはキツイ。

 速さがあっても溜めに時間がかかれば効果は薄い。

 フェイントを入れても決め手に欠ける。

 

「……あれ、つまりは……()()()()()()()()()?」

 

 結論は簡単だ簡単。

──パワーとスピードとテクニックを兼ね備え、隙は無い……そんな必殺シュートだ。

 

「……い、いやそんなのあったら苦労しねぇよ……」

 

 自分で自分の頭を小突いた。

 だがこれが正しいというのは揺るがない。思えばメアと一号の天照はパワーとスピードを兼ね備えた必殺技。ここにテクニックと隙の無さが合わされば本当に手が付けられないだろう。

 

 ……ついでに付け加えれば、一発だけ撃てればいいわけでもない。サッカーは60分戦うスポーツ。継続性も大事だ。

 みんな……習合(ウチ)とブラックはバカスカ必殺技を使うが、雷門のほかの人たちはそうでもない。

 未完成のマジン・ザ・ハンドのダメージが大きいのか、時折円堂は右手を気にしている素振りをしている。

 

 うちの一番のシュート技である天照は一号の負担が大きいし、部長のドミネーションは本人は問題ないと言っているが使わせたくはない。

 何本も簡単に撃てることが必須だ。

 

 けど、そんな都合のいい必殺技なんてあるのだろうか?

 どうしたらいい。どうしたら……考える中でずっと試合が始まろうとしている。

 

 もう一度、答えを探すためにフィールドを見た。みんなはこの状況でどうしようとしているか教えてもらおうと思って、

 

「……?」

 

 心がざわついた。

 俺は、皆を見る。

 

 ソニックとバングはすぐに追いついて回して、囲んで吹き飛ばせるよう、足の柔軟をしていた。

 カガとアルゴが相手の隙間を探し、付け込もうと片や陰に潜み、もう片方は隣人の如く溶け込んでいた。 

 ウリ坊とトールは息を整え待ち構え、自分の力を完全に発揮できるよう力をためていた。

 周囲に指示を飛ばしながら、グラさんはスナイプする瞬間を狙っていた。

 

 ワタリは雷門の顔を伺い、どうすればうまくフェイントが効くか考えていた。

 メアはいつでも空高くに飛びたてる様、そして今度はマジン・ザ・ハンドを打ち破るべく小さく詠唱を繰り返していた。

 一号は先ほど邪魔された悔しさを燃やし、コーナーに向かっていた。

 

 ただその後ろで、ずっと部長は腕を組んで見下ろしている。

 助けはいらないと、皆に期待して任せている。

 

「……はは、そっか」

 

──楽しそうだった。

 

 ……部長一人だけなんか違う感じがしたけど。

 とにかくサッカーを楽しんでいた。

 力不足に悩んでいたウリ坊もその陰りは何処か、困難を前に晴れ始めている気がした。

 

「……」

 

 そうだ、サッカーを楽しんでいる。技が決まらなかったから、じゃあどうしようとみんな思いを巡らせながらサッカーを楽しんでいる。

 雷門もそうだ。まだシュートの一本も撃ててないのに対し、どうすればいいかと声を出し全力で挑戦しにきている。

 

 サッカーは負けたら悔しいけど、勝つと凄く嬉しい。そんで、その勝ち負けを決める試合中が楽しくない訳がない。

 いいな、いいな。そう誰かが呟いていた。

 

「──いいな」

 

 俺だった。

 気がつけば、スパイクの紐をきつく縛り直していた。

 ここに来てようやく、俺はベンチでじっとしていられなかったことの理由が分かったんだ。

 

 必殺技がなくたって、不意にあの日の部長の言葉がよみがえる。

 

『──あぁ、ジミー……お前に、必殺技の才能はない』

 

 その言葉は残酷だった。けどどこか、気が楽になった自分がいたんじゃないかって……今なら思える。

 

 部長はあの時、何か続けて喋ろうとしていた。

 メアのアクシデントで聞けずじまいだったけど……それがなんだったのか、今更聞くのは野暮だ。

 

 部長は俺に必殺技の才能はないと言った。

 それでもこうして部長は俺に尋ねてきた。だから、必殺技が答えではない。

 そんで、見ていれば皆が全力で挑んでいるのが手に取るように分かった。

 

 なんだ、ほんとのほんとに簡単じゃねーか?

 

「必殺技がなくたって、全力で……楽しくサッカーするだけだ」

 

 ……ただ「俺もサッカーがしたい」と思って、立っていたんだ。

 悩み事があったっていい。それはそれとしてサッカーを楽しむことを止めない。

 

 分からないから、とにかく全力で挑む。自分が今できることを全て試す。

 必殺技が通用しなくなっている今なら……そう思うと、「じゃあこれはどうだろう」「ダメ元でこれも」なんて浅い考えが出てくる。

 

 ……これが、部長の言いたかったことなんだろうか?

 どんなに強敵が控えてようと焦っても仕方がないと、お前の全力で挑めばいいと。

 

 もう一度、部長を見た。

 

「……」

 

 部長が、笑った。

 練習の後や登校……ご飯を食べる時、はしゃぐみんなに偶に見せる、心底安心したという彼の笑顔。

 

 だから、俺も心底安心した。

 

「(ああ俺はもう大丈夫なんだな)」

 

 俺もいつの間にか笑っていた。いつからだろうか……?

 戻そうと思ってもちっとも戻らない。これからのゲームの楽しさにおさまらない。

 

 彼が息を大きく吸った。

 試合を再開しようとしている審判に待ったをかける様、フィールド全体に届く声を出すため。

 

「──選手交代……9番、ジミー!!」

 

 叫んだ。腕を組んだまま、フィールドにベンチにいる俺にまでしっかりと聞こえる声で。

 

 俺は、鼻息をふかし腕をまくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──マジン……ちぃっ! ジンジンカミカミカミ腹が立つ言葉ばかり使いおって……おい契約者! ドミネーションして蹴散らすぞやはり!

──シュワシュワ……やろやろナガヒサ!

 

 いやです。というか君たちさっきもマジン・ザ・ハンド(未完成?)をぶち破ろうぞ! とか騒いでましたが実は僕ぅ、キーパーなんですよ……?

 

──別にキーパーがシュート決めるのはまずいなんてルールはないぞ長久よ

 

 お黙りコルシア。

 ロアフェルシアは痛みも何も無いから蹴っていいんだが……試合終了間近で負けそうだったらやろう。

 

 そもそもゴールキーパーが蹴る事態に陥るのもやばいし、それに……。

 

『さぁここで習合、12番の一号と変わって9番のジミーが入りコーナーキック』

 

「へへっ……!」

 

 ……俺なんかより、よっぽど信頼できるストライカーがいるからそんな機会ないだろうけどな。

 しかしコーナーキックに間に合ってよかったよ選手交代……練習試合だから少し大目に見てくれたのかな。これで「あ、じゃあキックの後交代してもらいますね」なんてなってたらすごい赤っ恥だった。

 

 改めて、遠くコーナーで笑っているジミーを見る。代わりにベンチに送られた一号がとてつもなく不満げな顔でこちらを見ているがスルーだスルー。

 ……とりあえず、必殺技の才能はない。の意図が伝わって本当に良かった。そうだよジミー。本来サッカーに必殺技なんて必要ないんだ。

 普通のサッカーをしよう。地味なのは全くもって悪い事ではない。深くうなずく。

 

──骨の手とか出してる奴が言うと一味違うのう

 

 お黙りトロア。暴れたかったのはわかるけど今それやり出したらほんとに空気が読めてないことになるから……!

 ……とにかく、今はジミーのシュートを見ようじゃないか。ほらすっごい気合入っているから。

 

「ぃよし……っ!」

 

 ──静粛。

 誰が指示したわけでもない。だが確かに皆感じ取った。もうすぐジミーが蹴ると。

 だから雷門は構えた。習合は直ぐにフォローできるよう走り出した。

 

「──!!」

 

 3メートルもない助走。軸足に重心が綺麗に乗っていた。

 ダン、とサッカーボールを思い切り蹴った時によく出る音がした。

 

 ボールは……斜めにループを描き、キーパーの真後ろ目掛けていく。

 ……地味だけど、上手なコーナーシュートだった。自分の頭の後ろというひどく取りづらい位置へ、見事に導いた。

 

 そして速かった。少なくとも、近くで見ている円堂の反応が少し遅れたほどに。

 だから彼は飛んだ。後ろに跳ねて、先ほどワタリのシュートを弾いた時の様に手を赤く燃やしていた。

 

「グッ!?」

 

 だが、それでもジミーのシュートは止まらなかった。

 俺は知っている。最初の頃から航空機のタイヤを思わせる如く重い……一撃で体が持っていかれそうになるふざけた威力のシュートだということを。

 だから、それでは止めきれない。

 知っていた。

 

「世話が焼け──」

 

 黒龍の棘がゴールラインに生えて阻む。

 熱血パンチをものともしないジミーのシュートが棘に触れた。

 

「ルッ、なッ!!?」

 

 ブラックが察し、それを阻もうとしていたことも。

 そして、見ても気が付けない、ふざけた回転数のシュートが……棘の壁を駆けのぼり、ほぼ無視する形で突破できるだなんてまったく。

 

 はははどうだうちのジミーはすごいですよねホント全く……。

 

 ……うん?

 

──……

 

 ……突破した?

 

──したなぁ……

 

 笛が鳴る。

 唖然と固まる皆。雷門だけではない、習合すら固まっている。

 ブラックなど信じられないものを見たような目で見ている。

 

「……あ、あれ?」

 

 ジミーすら固まっている。いやその、俺はやる時はやるとは思っていたよ?

 だからこそ励ましてたし、お前十分強いぞこのヤロウとか思っていたけれど。

 

 ただその……思いのほか、

 

 

「──俺、なんかやっちまったか?」

 

 

 やったなぁと。ジミーを見て思った。




~オリキャラ紹介~
・上条 翔 9番 FW ジミー
 元々強かったけど吹っ切れたせいでステータスバク上がりしたのかと思うほどのシュート。
 真正面から受ければ部長でもダークネス・ハンドで止めきれるか分からない。

 怖い

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。