かき集めた部員が超次元な奴ばかりだった件について 作:低次元領域
未だに目がチカチカする。
全力で放たれた一撃が、亜風炉ごと、反対側のゴールまで飛ばしたところまでは何とか気をたしかに持てていた。
でも、流石に限界だ。メアも天使の羽が徐々に消えつつある。どうやらこいつも気が抜けてしまったようだ。
……いやどちらかと言えばザ・ユートピアで張り切り過ぎたせいじゃないか?
「──おっと」
ふらふらと泳ぎ倒れそうになる体を慌てて支える。
全身に掛かる重みに足と左手が悲鳴を上げたが……それしきで人を地面に落とすなんてマネはしない。
全力でクールを装いつつ、声をかける。
「……大丈夫、そうだなメア」
「うんっ……ひんやりしてて気持ちいいね、この手」
──コルコル、今さっきの痛み分で増えた力食べさせて。疲れた
──あ、妾にも寄越せ。お前ばっか力増しててムカつくんじゃ
──やめろこの蛇公が! そしてトロアの方は今のぶつかり合いを瞳で見てたんだから収穫があっただろうが誤魔化すな!
悪魔たちが俺の体の中で争っている。放っておこう。
──おいこら契約者だろ貴様! 我が食われる分、身体能力の強化が減ることを忘れるなよ!!
はいはい。いつも頼りにしていますともコルシアさん。
左手を覆うようにして作った板状の闇と右手で抱える。
こうして、俺の手に微笑むこいつは……ファンクラブがそろそろとんでもない数になってきた理由が分かるぐらいに綺麗だ。それでいて年相応の子供の無邪気さも持っている。
「勝ったんだよね、僕たち」
「……あぁ、よく──」
「いいや、まだだっ!!」
勝利に浸ろうとした時、近くの花壇に体を突っ込んでいた神が飛び起き怒りを発した。
青筋が浮き出るほどの憤怒。一撃を喰らったものの本当にまだまだ元気なようだ。えぇ、どうなってんだよお前の体力……。
「神の一撃を返したことは褒めてあげよう! きっとこの先二度とない快挙、奇跡だ! だからこそ、それがどれほどの薄氷の上に成り立っていたものかを教えてあげよう!!」
再び広がる黒い翼。先ほどよりかは薄くなっているが未だに甚大な力を感じる程の胎動。
もはや塵すら残さないと決心した彼の一撃はどれほどの惨劇を生み出そうとしているのか。
「ぐっ、あの子まだやる気か……!」
「メア、無理に動くな」
……メアは流石に無理そうだよなあ。自己暗示による一撃だからこそ疲れた、気が抜けてしまったという状態に於いて絞り出すのは難しいだろう。
ダークネス・ハンドV2でも当然無理だ。V3はそもそもメリットがない。単に心をぶっ壊すだけ。ならダークネス・ハンドV2を両手でくり出す方がまだ強いだろう。
えっ、やばくないかこれ?
──やばいから早く蛇共にどうにかするように言ってくれ長久
コルシア、ハウスッ。今は内輪もめを気にしている余裕ないんだよ。
どうしよどうしよ他の皆もまだフラフラしてるし頼れないぞこれ。
助け……、
──ん?
あ、大丈夫かもしれない。
屈辱に燃える偽神を見て、もう泥はつけられていると思った。
そして、
「……いや、これどういうことネ?」
「うわーなんかすごい事なってるぅ」
亜風炉の襲撃から偶々難を逃れた二人、ブラックとアルゴの帰還。
二人してこの騒ぎからどこ行ってたんですか……? あ、二人とも片手に甘酒の紙コップ持ってる。もしかして飲んでました? いいな、後で下さい。
これは好機だ。ブラックは語るに及ばず、アルゴもやたらと潜在能力が高いんですぜ的なポーズをちょくちょく見せてくる。
この二人を頼れば、もしかしたらなんとかなるかもしれない。
「……二人とも、頼む(手伝ってくれ)」
しっかりと目を見て、こっちに来てくれとお願いをした。
「……」
「……」
……あの、その目はなんですか? 何でブラックさんは神妙な顔して、アルゴさんはニヤニヤしてるんですか?
僕すっごい嫌な予感するな―。
「(倒れている者の看護)確かに、承ったネ」
「ボクも」
あっこっちに来てくれ……ない! 倒れてる雷門とふら付いている習合の人たちをシュバババと回収してくれている! いやそれも必要だけれども! 違う、あとアルゴさんは絶対わざとやってるだろお前!
最近なんか勘づいているってこっちも気が付いているんだからな! 晒してくれもはや! 一体何の秘密を握ってるんだお前は!
「……それじゃあ、最期の言葉を聞いてあげよう」
ほら、もう逆にゴミども掃除してくれてありがとうみたいな態度してるじゃん! 誰がゴミだって!? あぁ!?
──お前の心不安定過ぎないか?
逆にこの状況で落ち着いてティーでも飲む奴がいたらそいつの頭ヤバイよ。それかアルゴだよ!
え、えっとどうしようかなー!? と、とりあえず一発ぶち込んでこっちは気が済んだみたいなところあるし、なんか褒めて場をうやむやにしよう!
コーディネートとか褒めたら意外と気を良くしたりするんじゃないかな!? ほ、ほら頭のその。
「……意外と、花冠が似合っているじゃないか」
「殺す」
駄目でした!!
いやそりゃ花壇に頭ツッコんで出来た花飾り褒めたら挑発になるよね! 俺は馬鹿か。馬鹿じゃないとこんなところいないな!
後はえーと、白い服についた土汚れがいいアクセントに……どう考えてもこれも挑発だよこんちくしょう!
あ、あー! 逃げたい! でも流石にメアがいる前で逃げられない!
かくなる上は、ダークネス・ハンドに無理やりサクリファイスハンドを合わせて──
「真、ゴッド──」
「そこまでです」
救いの神が来た! ベータちゃんが駆け寄って来て亜風炉の前に立ちふさがる。
よく来てくれた! 色々と仕掛けられたけどもうすべて水に流してしまいたくなるほどのファインプレーだ。流石未来人!
「……何のマネかな、マネージャー。邪魔立てするようならまずは君か……らっ!?」
一瞬の驚きと共にまた髪の毛を逆立たせる亜風炉……しかしそれはすぐ重力に負けた。
急に亜風炉が口元を手で抑えたかと思えば翼も消え、尋常ではないほどの汗が噴き出す。
覇気が消えた。遠くにいても感じ取れたはずの力が空虚だったかのようにその存在を消す。
「
「……はっ、はっ、はっはっはぁっ!!」
息切れ? 口をパクパクとさせてもだえる姿は……病気にしか見えない。一体何が。
これが奴の力の代償?
「加えて、こちらの不手際ですが手駒の8割は使えなくなりました。もはや私達には大それたことは出来ません、戻りますよ」
「やめろっ、触るな! ああっ!?」
暴れる亜風炉だがその力は弱弱しい。
俺一人さえも振り払えないだろう剣幕は当然通じず、ベータちゃんに腹から抱えられ持ち上げられる。
「やめろ、やめろ……」
子供だあれは。周りに恐怖しか覚えていない子供。俺とほとんど変わらぬ年の人間がとるものではない。
アフロに対しての感情が、憐れみに近い物に移っていく。
彼も、ベータたち『エルドラド』並びに影山に利用されているのかもしれない。
……世界の滅亡を止めるための手段と言えど、それを是とするのは、あまりに格好が悪い。
「……ベータ」
だから俺は、碌な会話も無しに去ろうとする彼女の背中に呼び掛ける。
ビクリと肩を震わし、振り向きもせずに「なんですか」と言葉だけ返してきた。……嫌われてるかな。
だけど、とりあえずこれだけは伝えておこう。そう思い口にする。
「──決勝に、世宇子の席はない」
主目的である「サッカーを潰す」なんてさせない。例え未来の世界が滅亡する原因になろうと勝ちあがるのは俺達だ。
勝てる確証なんてなかったけど、つい言ってしまった。
◇
「……まぁ、出来るだけ抗ってみてください。また後日、今度は
彼女の別れ際の言葉がそれだった。
一時間、二時間がたち帰りの時間が近くなるまで俺達は雷門中にいた。
倒れていた人たちも意識を次々に取り戻し絆創膏を貼ったりなんだりかんだり。頭を打ったかもしれないので何人かは近くの病院に行くことになるそうだ。
「それで! それで!?」
「リーダーの包み込み浸してくれる闇が、僕の不安定な光を支えてくれたんだ! おかげであのゴッドノウズに打ち勝つことが出来て……!
あれこそ正しく本当の神が生み出し、原初の空間である楽園とも言えるような──」
「ふははははっ、よくわからん」
俺達? ピンピンしてるよこいつら。ウリ坊が俺に突進しながらメアに話を聞いている。ソニックは話半分にストレッチ。
もう癖になってますねこれ。治したて(コルシアは犠牲になった)の左手が早くもやばい。あんなにボロボロになってたくせになんでもう回復してるんですかね。
え? 雷門からおにぎり貰ったからそれで? いややっぱりお前らギャグマンガの人間だろ。食べもの食べて回復とかカービィか己ら。
──貴様が言うのかそれ……あと絶対このことは恨んでやるからな長久。今日の夜中あたりに復讐してやる
すまんコルシア。まあほら、アヴィがやってた分心体とやらに力分けて食べさせたんだろ? 直ぐ回復するってそれぐらい。
あと許可しないと俺の骨の翼が食べられそうだったから……しまおうと思ったら仕舞えたけどほんとこれ何なの? 怖い。
「キャプテン、円堂さん達も元気になったようなので挨拶に行きましょう。お伝えしたい事もありますので」
おおそうだなワタリ。……円堂さん、彼も何度かシュート喰らってた気がするんですけどすっごい元気におにぎり食べてる。彼もまた超次元な人間だったのか……。
俺なんて杖突きたい気分でいっぱいだぜ。見てくれよこのプルプルとした筋肉の痙攣の一切を隠そうとする歩き方を。
「……もう元気そうだな、円堂」
「ああ! 織部達は大丈夫だったのか?」
見ての通り瀕死ですよ。
やめなさいウリ坊、俺の左手でバスケットボールの如くダムダム跳ねるんじゃない。ドリブルしないからな。
「……元気いっぱいって感じだな!」
そうか!? 部位破壊一歩手前なんだが!?
俺が驚愕している間にワタリが一歩前に出る。
「改めまして私は帳塚 望。皆にはワタリって呼ばれています。円堂さん、この画面を見ていただけますか」
軽い挨拶も矢継ぎ早に、ワタリは携帯の画面を円堂さんに見せた。何だろうとのぞき込む彼だったが……直ぐに神妙な顔へと変わる。
俺も肩越しに見て、驚き声に零す。
「木戸川清修が棄権を表明?」
「どうなってんだ!?」
「……武方三兄弟が病院に担ぎ込まれて、事態を重く見た監督が判断したそうです」
……亜風炉たちか。時系列的に、俺達の前から居なくなった武方たちが遭遇したってことだろうな。
それにしたってすげぇ判断スピードだ。よほど手ひどくやられたのか、或いはこんな手が使われることを想定していたのか……。
豪炎寺さんのところの母校だもんな、つながりで影山の情報とかわたっていたのだろうか。
「……これで雷門は決勝進出が決定的になりました。後三日後の準決勝戦で、あなたたちと戦う学校が決まります」
「っ」
世宇子か習合か。
その選択はキャプテンである彼に深刻に伝わる。世宇子の一人にここまで二校がやられた後で、習合が一度やり返せた後で、雷門は後一週間と少しでその二校のどちらにだって勝てる力を身につけなきゃならない。
能天気そうに見えていた彼の目に覚悟が見えた。……やっぱキャプテンしている人は色々違うもんだな。
「……もちろん、勝つのは僕たちですが。そうでしょう? キャプテン」
俺? いや無理じゃないかなって気持ちが半分占めてますよ。
だってサッカーって11人で攻めてくるゲームだし……ザ・ユートピアのためにメアをゴール前待機なんてこと出来ないし。
みんなぴんぴんしてるけど亜風炉が来た時は見たことがない程疲弊してたし。
「……」
そう思って、振り返る。
「ん? なにリーダー! 今ねジミーと新必殺技のアイデアをだねー!」
「部長―、なにをどうすりゃ背中から羽生えるんだ? やっぱこう背中に力入れたら生えんのか??」
「おいウリ坊ーいい加減こっち戻ってこーい。ちゃんとグラウンド整備して帰るぞー」
「そっッスよー、グラサンの銃口が足元狙ってるうちに戻ってくるべきッスよー」
「ほらほらのみねぇのみねぇ、うちの特製甘酒」
「いやもう飲めないから止めてくれアルゴ……ああよせ弟に注ぐな」
「兄さん、僕もう……」
「鏡介ー!!」
「だからやっぱりドンッしてダンッ! て感じにだな……重力増やして鍛えた方がいいか?」
「……! ……!」
「であろうなぁカガ! 音速を越えるためには更なる負荷が必要だ!」
……全員、少したりとも絶望していない。メアがやたらキラキラ輝いていたせいだろうか?
だからうん、格好つける為にまた俺はその言葉を言う。
「世宇子に勝つのは──優勝するのは、俺達習合だ」
そう言い放てば、円堂さんの目には覚悟を核に燃える炎が見えた。
世宇子に対する不快感が邪魔者になり燃えて消えてしまうほどの純粋な闘気。
……もしかしたらベータたちが語る未来では、雷門が優勝していたのかもしれないな。ふと思ってしまうほど。
「……よしっ! じゃあ絶対、決勝戦で会おうぜ、織部!」
「あぁ」
絶対に勝たねばならない約束。
俺達は後三日で、あの世宇子たちに勝てるほど強くなる。
「強くなって、もう一度いいサッカーをしよう。そうだろう、みんな!」
──オゥ!
雷門の覚悟を借りて、俺は腕を上げて仲間に示した。
痺れる程の返事が返って来て、思わずこけそうになる。格好つかないのはごめんだと踏ん張った。
決まった、これは決まっただろう。遠くで見ている雷門の女子生徒の方々とかファンになってくれないかなぁ。
……ピリリ、と電子音が鳴る。
台無しすぎる。音源はワタリから。
「あ、メールが……」
……プルルルル、と着信音が鳴る。
今度は俺の携帯だ。……相手はエマだ。直ぐに出る。
近くにいた円堂さんをなんかのけ者にしてしまったが悪意はないんだ信じて下さい。
「……エマ? どうかしたか」
『あぁ兄さん♥ いえ……なんでもない、事後報告みたいなものなんですけど……羊を追っていたら少し手を滑らしちゃった子がいて』
「……?」
『えーとその、ちょーっと騒ぎになっちゃいまして……』
羊……はベータちゃん達の手駒の人間だとして、手を滑らしたってなんのことだ。
要領を得ないな……珍しい。意外と素直にしゃべることが多いのに。どんだけ後ろめたいことが──
「えぇっ!!?」
電話に気を取られていた俺は、突如叫んだワタリに驚いて転びかける。慌てて手元にいたウリ坊が俺の体を支えてくれた。
力強い、流石トールとぶつかり稽古しているだけはある。ありがとうウリ坊……ごめんな邪魔っけにして。
ウリ坊の頭を撫でながらそちらを向けば……顔面を青く染めた彼がいる。
なにか、また恐ろしい事が起きたのか?
『で、ですからそのぉー……』
「ど、どうしたワタリ」
「きゃ、キャプテン──
──今度の試合会場が、爆発したらしいです……」
『ちょ、ちょっと脅しはしたんですけど……まさか爆弾が仕掛けられてるなんて流石に思わなくてぇ……これ私のせいですかね。違いますよね兄さん? 優しい兄さんならきっと許してくれますよね?』
……後日、フットボールフロンティア大会委員会によって、事件の全容解明の捜査を進める事、他スタジアムの精査をすることが発表。
幸いにして怪我人は下手人であった影山の手駒たち数人。取り調べ中らしいが口を割らず理由もその組織形態も不明。
また習合対世宇子の試合は、他のスタジアムを使ってもよかったが……万が一を取って一週間の延期。
エマは……フェルタンの発案により本物の羊を捕まえてくるまで家に帰ってきてはいけないという罰が下され、二日で任務をこなし帰ってきた。
……格好が、つかない。
怒涛の終末を目まぐるしく過ごす俺はただそう呟いた。
朗報 試合が一週間後になったよやったねナガちゃん
次回から特訓三昧、部員が全力でイベントを発動してくる「部長、最期の一週間だってよ編」が始まりです。
パワーレベリング(直喩)ともいう。
~オリキャラ一覧~
・黒月 夥瓏(へいふぇい くーろん):ブラック 雷門 FW 番号はその日の気分
ストレッチをしていたところアルゴに酒盛りに誘われ楽しんでいたら襲撃が終わっていた。食いしん坊の素質がある。
次の出番は世宇子戦が始まるまで無しなのだ。
・アルゴ MF 6番
とある神社の家系であり酒蔵の一人息子。
織部が翼生えているのを見て滅茶苦茶楽しそうにしていた。
なんとなく助けてほしそうだという事は理解したが、言葉にしてくれなかったのでわざと他の救援に向かった。
・エマ 妹
爆発に巻き込まれはしたが普通に無事だった子。伊達に実体持ちの悪魔していない。
羊はちょいと国を渡って野生のを見つけて来たらしいっす。織部の翼を目撃していないのは幸か不幸か。
流石に会場爆破はやばいという常識的な感性を持つ。