かき集めた部員が超次元な奴ばかりだった件について 作:低次元領域
あ、滅茶苦茶平和な回です。具体的に言うと骨折しません。
「……もっとだ」
走る、走る、走る、駆ける。決して一瞬たりとも地上から離れないように。足が常に地面を蹴っているように。ただひたすら前へ進む。
違う、体全体を傾けることで無駄な力をそぎ落としてターンをして円を描いているのだった。ズレる砂粒一つすらスパイク越しに感じ取る必要がある。
「もっと、もっとだ……!」
壁が前にある。体に纏わりついて俺の最高速をその程度にしてしまう奴がいる。
邪魔だ、追い風よ吹け。俺よりも速く、俺よりも強く。駆け抜けて見せるから吹いてみろ。
いくら円を描いても吹く風は、竜巻は俺よりも遅い。これでは駄目だ、補助になっても突破する力にはならない。
それどころか足を引っ張られている気すらする。
「──ちっ、もうダメか」
……体が熱く沸騰しそうになっているのを理解する。これ以上は無駄だ。いくら走ろうとそれは無茶であり、成果を生み出さない努力だ。
壁から離れていく。薄膜がはがれ、俺の速さが遠のいていく。
竜巻が形を崩す。それから少しすれば生暖かい風が頬を撫でていくものだから、気持ちが悪くて仕方がない。競技場に出来た砂のサークル中央で膝に手をついた。
視界端で散る枝葉。
息を整えつつ、思い返す。自分の壁と、超えるべきものの壁を。
「……今の俺の限界はこれまで、か。どうすれば
脳裏に浮かぶは世宇子中。
先日好きなだけ暴れていつの間にか帰って行きおった奴がいた。あれが神だというなら俺はこれからワザと足を向けて寝ようとさえ思う。
だが酷くムカつくことに、認めたくはないが……奴は速かった。
それだけは確かだ。以前ストームブリンガーを乗りこなして防いだあの中国人。夥瓏よりも身のこなしが良かった? いや違う、技術においては夥瓏のほうが数段上だ。奴はひたすらに身体能力が高かった。
人が出していいものではない。俺よりもずっと多くの枷を壊したのだろうか。だとしてもたどり着けるものか。
「ヘブンズタイム、あれを超えなければ世宇子の流れは止まらない」
指を鳴らされれば時が止まったかのように体が固まり、気が付いた時には背後を歩いていく。もう一度指を鳴らせば風の爆発が襲う。
しかし、
チームの中では俺だけだから、奴の
何度も受けるうちに気が付いた、目が慣れた。これはまやかし、そしてヤツの人体の超常性を生かした必殺技なのだと。
最初の指を鳴らすのは、腕をわざと上に伸ばすのは、注目を一瞬でもそちらに向けさせるため。
周りの注意が逸れた瞬間に加速し、風を置き去りに走り抜ける。ピントがずれた視界は奴の動きをスローでとらえる。しかし本当の足は目にも止まらず動いている。湖の下の白鳥の足がごとき。
対策は簡単だ。まやかしに引っかからず、急加速して走り抜ける奴の邪魔をしてやれば簡単に止まるだろう。
……対策が分かっても追いつけない速さを考慮から外せば。
体から逃げきらない熱が煮え切る様に己を責める。
最高速を出せない頃に何度も味わった挫折感が顔を出そうとしている。
「──よしっ。考えていてもしょうがない、合流しよう」
だから一度思考の隅に追いやった。
どけた脳裏に浮かぶ部員の皆の顔を浮かべれば体の熱が楽しみの物に変わって行く気がした。
「……フハハハハ! さて待っていろ皆っ、ソニックがいま向かうぞ!」
最速で置いておいた荷物を取りに行けば、携帯にメールが届いていることに気が付いた。むっ? 部長からか。
なになに『駄菓子屋で尽きました』? ……誤字か。そこは駄菓子屋につきました、だろうに。まったく。
それと……『ソニックの分も買っておいた。公園で食べるが、溶けるといけないからそろそろ来るか?』のメッセージ。そして添付されているソーダ味のチューブアイス。
「フフッ」
……まったく、全くも全くだ。あの強面部長め、文面やら気づかいは似つかわしい事をするのは受け狙いか何かか?
零れた笑みは置き去りにすべく、俺は公園までの道を駆け抜けていくのだった。
◆
燃え尽きたぜ……駄菓子屋でな。
よくよく考えたら俺って町を歩く時は色んな人に怖がられてるんだった。
「ひ、ヒィィィ! 新手の地上げ屋かい!? じいさん、わしももうすぐそっちへ行くかもしれん……!!」
おばあさん、腰を抜かして慄かなないでくれ。そんでじいさん生きてるでしょ。後ろでフガフガ茶を啜ってますよ?
あと5nチョコ下さい。折角なので奮発して一番でかいやつ。そう、その天井に飾ってある奴。パッケージ埃被ってる辺り不良在庫なんでしょう?
いや貢物とかじゃなくてね?
「おかぁさぁぁぁん! 魔王が。魔王がいるよぉぉぉ!!」
少年よ、なにを恐れて顔を隠すか。目の前に魔王がいるから?
少年よそれは柳の木のように吹けば飛ぶ人間じゃ。さあ涙を吹くがいい、綺麗なお洋服が台無しだぞ。
──シューベルトか、懐かしいな
無駄に博識だなコルシア。夏休み前に習ったのを思い出してな?
もしかしてコルシアなら本人に出会った事もあるのかもしれないのか。そう考えると浪漫だな。
──おっ、ブドウグミだ~ちょうだーい
「ひぃっ、魔王の尻尾ぉ!」
こらっいけないぞフェルタン。小さな子供のお菓子を食べちゃ駄目だからな。
ごめんね坊や、うまかった坊買ってあげるからご内密に……。ああこら暴れないでくれ手が折れてるんだ、あっサングラスとバンダナが。
「あ、あの子は悪魔の──!?」
…………、
……、
…、
◇
──おっかし~おかしが大漁だぁー
はっはっは、そこまで嬉しいかフェルタン。微笑ましいが重心がぶれるから顕現してぶんぶん振れないでくれ。
──予算オーバーもいいところじゃな、我が契約者にしては買い物下手だった
しゃーないトロア。駄菓子屋のおばあさんがつわものだった。
最初はビビっていたかと思えば客がいなくなってしまったことを嘆き、俺達が必要以上に駄菓子を買うように仕向けてきた。おかげで闇の手ははち切れんばかりのレジ袋を持たされている。重い。
しかし自分が持てるのに部員の皆にいっぱい持たせるのはなんか格好悪い気がする。
「……部長の変装解くの忘れてたッスね。すんません……」
いやいいんだよバング。むしろ少し地中海風味になっていたおかげで騒ぎになるまでタイムラグがあった気がするから。むしろ変装前に見破ってきたあの少年が怖い。きっとそのうちいい目をもった男になるだろう。
しかし、本当に、疲れた……燃え尽きた。ただでさえ常時手が痛いのに心労も重なると辛さが倍増だぞ。
はぁ……モテたい。女の子とかとすれ違うだけでキャーキャー言われたい。人気者になりたい。道行く人たちに一目置かれたい。
──ある意味叶っておるではないか? 今朝もポストに呪いの依頼だとか悪魔降ろしの方法を教えてくれだとか愚かな投書がきていただろう?
そういうのじゃないんだよなぁ。一応呪いの依頼とかは警察に届けておいたし、悪魔降ろしの方法はメル●リって教えておいたけど。
見つかるといいね、メ●カリ使って呪いの品売りさばく妹系悪魔とか。朝目が覚めたら憑りついてる龍とか気が付いたら生えてたよくわからん骨の羽根とか
あ、そうだ今度お金に困ったらこの骨の一部とか出品してみる? 高値がつくかも。
──今朝、フェルが喰らい付いた痛みでしばらく動けなくなったことを忘れたのか? 痛覚を殺してもいいというなら知らんが
そうでした。普段コルシアの力で覆ってるから忘れがちだけどこれぶつけたりするとかなり痛いんだった。
それはそうといくら寝ぼけてたからといってもいきなり体の一部を食べようとしてくるのはほんと怖かった。蛇に睨まれた蛙どころか飲まれかけてたもん。
──いやーなんか、焼けた鶏肉の匂いがしてたからつい
さいですか。二度と食べないでね。あと多分それメアに焼かれた後の残り香。
……いや何の話だったっけ? えっとバングが自分のせいで駄菓子屋が騒ぎになったと思っている話だったな。
別に気に病む必要はない。もう公園についたしさっさと気持ちを切り替えて欲しい。
「……気にするなバング。いつものことだ」
「そうそう、部長もこう言ってるしいいじゃねぇかバング、縮こまってねぇでそろそろ食おうぜ? 」
俺の言葉に乗って励ますトール。……お前も色々と怖がられたりであるんだろう。人の背中ばしばし叩いていなければ同意したかったところだ。また力強くなったなトール、キーパーやらない? 一撃ごとに地面に埋まる気持ちなんだけど。伸びるよりかどんどん小さくされてる気がするんだけど。
……さあみんなお菓子でも食べてすっごく溜まった疲れを労おうではないか。
そんな疲れてない? どつきまわすぞおのれら。疲れてるんですよこちとら。
なあ?
「──ああ食おう、たらふくな!」
ソニック。
君めっちゃ来るの早かったね。メールしてから数分だよ? そんな近くにいたん?
いや塩の結晶がシャツに浮き出ているあたり、大分走ってきたな。
ほらソニックが好きな炭酸抜きの炭酸ジュース味を取り揃えて置いたぞ。炭酸抜きのコーラとか美味しいのかわからんけどよく飲んでるよな。
あとは……しょっぱめなポテト系駄菓子とか。おお喜んでいるな? 口元緩んでいるぞ。
「よーし食うぞ食うぞ、ミニンドーナツは全部俺のだぜ!」
「あっずるいグラさん! じゃあ僕はイノメン……ああっ、お湯もらって来るの忘れてた」
「……!」
ほう、手裏剣型ドーナツのミニンドーナツがグラサンの好みか。そしてウリ坊はやたらニンニクと脂が強いミニカップ麺を。
お湯を忘れたウリ坊をサポートするのはカガ。気がついていたと言わんばかりに取り出した水筒からは湯気が。そして反対側の手にはくそ硬い事で有名なカチールチョコが。
へぇ、硬すぎるチョコをバリバリ食べるのもいいけどお湯に溶かして謎飲み物を味わうのも乙? 知らなんだ。
「……なんでバング、お前は駄菓子じゃなくてベイゴマ買ってんだ? ワタリは置いておくとして」
「いや、なんか置いてあったからつい……まあワタリさんに比べたら」
「なんですか、ええ指輪の形をした飴を買い占めてやりましたよ。悪いですか!?」
趣味が悪いかなって……。しかもなんでドクロ型なんだ。よく売ってたなこんなの。べっこう飴だから微妙にきれいなのもあれなんだが。
トールは麩菓子を飲み物の様に口に流し込んでいる。飲み物用意しておけよ。
「……駄菓子選びにも個性って出るんだな」
そうだな、くじ付きの菓子を中心に買って大体外れたジミーよ。ほら寂しげにうまかった棒をモソモソ食べてないで俺の買いすぎた菓子を食うがよい。ジミーだけでなく欲しい奴は持ってっていいからな。
──施しをするとは偉くなったもんじゃなあ? せめてもうちっと驕りつつ配らんか。聖人の真似事は嫌いじゃ
ははは、部長を崇め奉りたまえ。ってキャラじゃないし別にいいよ。それに皆が喜んで、また選んだ菓子にドラマが見えて。
全部、キラキラに見える。普段の超次元な訓練ではまず見ることがない、普通の中学生のワンシーン。
……楽しいな、この光景が見れただけで部活作ってよかったかもしれないって思えた。
あ、部員たちよ。出たゴミはこの袋に入れるんだぞ。ポイ捨てなんてカッコ悪いことしないと思っているが、ゴミは持ち帰った方がよりクールで格好いいからな。
「おお流石は部長。ちなみに部長は何買った……ってなんだよそのやたらでかい包み」
「チョコだ」
これかジミー? 5nチョコの最大サイズ、n=20の直径100cmチョコだ。これが入るビニール袋があったことが驚きだったぞ。
値段も駄菓子のそれではないくせして、デカいだけでひたすら甘い。厚さはないのにやたら口に残る甘さがとにかくしつこい。美味しい菓子じゃないんだけど……昔からこれを食べてみたくてな。
懐かしいなぁ。
買ってって強請ったらパパがもっと大きくなってからなと言って、普通の大きさの奴を買って半分に割って分けて……。そんでママにご飯前にお菓子を食べるなって軽く怒られて……。
なんだ君たち、そんなに目を輝かせて。ジミーはともかく他のものたちはまだ手元に自分好みの駄菓子があるではないか。
……。
「──食べるか?」
「えっ、いいのか部長?」
なあに。欲しがられて分けない部長なんて大人げなさすぎるからな。それにまぁ……あれだ、多分一人で食べたら寂しくなっちゃいそうだったし。
ほら希望者は並びなさい。全員か? じゃあ今闇の手使うから。ピザみたいに切り分けてやろう。
あっやべ、ズレた。ああっ、変なところが割れた!
……すっごい歪に割れちゃった。かっこわるぅ。
どうしよう、大小が丸わかりになっちまった。
「……」
「……」
こらウリ坊たち、すっごいいたたまれない顔で見てくるんじゃない。仕方ないだろ。薄いせいで微妙な力の加減で勝手にヒビが入ったりするんだよ。
とにかくまぁあれだ。これ以上割ろうとすると惨事が起きそうな気もするし、人数分の破片が出来たし……。
「──じゃんけんだ」
ええ、計算通りですよ? 的な顔をしつつ言ってのけた。部長らしくオリエンテーションを設けたまでですが何か?
断じて、断じてオーパーツの様に複雑な形に割れたのは失敗したからではない。そう強く押し込めた宣言。
闇の手を握り宙に浮かべさせれば準備はいつでもと言わんばかりに見える事だろう。
「ア゛ー」
あっこらカラスよ止まり木代わりにするな。いい感じに決まらないだろ。
……みなさんなんか微妙な顔されてます? え、そもそも部長がじゃんけんとか似合わないって顔されてますね?
いいじゃないか、もっと年相応なことをしようぜ。ほらバング、駄菓子屋の後の公園での駄菓子争奪戦じゃんけんだぞ。すっごくそれっぽくないか!? 頼む、乗ってこい。
「じゃ、邪ん拳……!?」
なんの聞き間違い?! 違う、骨の手でチョコを割り切った技の名前とかじゃないから!! ほらみろ、今の変なボケ?のせいで周りの雰囲気がより変になった!
どうしてくれる、地獄だぞこの空気。俺はただ、ただ……部長っぽいことしたかっただけなのに!
助けて!
「あ、おツマミに良さそう。これもらうね~」
急に現れたなアルゴ!? いやまぁいいけど!
よしそのまま全員分もってけ、そんで配れ!
助かったな!?
── 一人増えたのだから、そのまま配ったらお前の分がなくなるのではないか?
……あっ。
無き今とは:骨の手に残ったチョコカス
駄菓子の話が広がり過ぎてソニック強化できなかった。
次回こそ強化されます。
~オリキャラ紹介~
・魔王(織部 長久) GK 1番
どこかの世界では魔王・ザ・ハンドという必殺技があるらしいが何の関係性もない。モテたいと本人は言うが、モテたいならまずは悪魔祓いを考えてみるべきである。
教会に出入り禁止を言い渡されないかどうかの瀬戸際をあるいていることを知らない。
~オリ駄菓子紹介~
・5nチョコ
帰ってきたチョコ菓子。nの数字が1-20まで存在し、5ncmのサイズがウリ。
甘い、ひたすら甘い。大体でかいチョコに憧れた男子が餌食になっている。
・うまかった棒
湿気ている。歯が弱い子にお勧めらしいがモソモソしすぎていて食べていると悲しくなる。
何故こんな物が生み出されたのか。
・ミニンドーナツ
ミニでニンニンな手裏剣ドーナツ。凍らせて投げつける危ない遊びが一部の悪ガキに流行しているらしい。
味は可もなく不可もなく。
・イノメン
ブタメ●のパクリとして炎上したことがある。
・ドクロ型指輪飴
一つ一つ暇な職人が形成しているとかなんとか。無駄に綺麗だが女の子にプレゼントしたら引かれること間違いなし。
・ベイゴマ
ドランザー。