かき集めた部員が超次元な奴ばかりだった件について 作:低次元領域
3回ぐらい見直して投稿しているのに、なぜ誤字は発生するんだろう……
また、今週は本当に忙しいため……次の更新はだいぶ遅れるやもしれません。
勝負はうちの勝ち。それだけではなく、自分たちのボスが必殺技相手に頭突きで対抗し、勝利を収めた。
終わって、ボスがベンチに戻ってきたとき……周りの何人かの顔が熱を帯びているのに気が付いた。
「流石ッス部長! どうやったら頭突きであんな技を止められるようになるんスか!?」
「部長ー、見事な頭突きでしたよ! 僕もあんな風になれるまで特訓頑張ります!」
「お疲れリーダー。君のおかげでようやく自分がどうすべきなのか、少しわかった気がしたよ」
別に、色恋沙汰のことではない。その感情は憧れだ。
ボスに救われた奴はこの部に多く存在している。だからこそ、自分を助けてくれた存在の凄さが分かると更に興奮する。そんな仕組みだ。
自分がそうじゃなかったか、と言われれば……少なくとも、同一ではないと言い張れる。
バング、ウリ坊、メア、トール、ソニック、カガ……習合サッカー部はなにも上手くいっていなかった、現状に不満を持っていたような奴らばかりが集まったわけではない。
「……って部長! 頭から血が出てますよ、血!!?」
「擦りむいただけって……絆創膏誰か持ってないかい?」
「……」
「……あぁ、ありがとうカガくん。凄いね、いつも持ち歩いてるんだ?」
副部長──ジミーの様に単にサッカーが好きだから賛同した奴もいれば、
俺やワタリの様に、馬鹿で愚直な夢がどこまで届くのか見世物代わり。駄賃はその最後の時までの協力、と半ば喧嘩を売る形で参加した奴もいる。
「まったく……地区予選前にこんな調子では、この先どうなるか……そうは思いませんか、ジミーさん」
「その割にはワタリ、ソワソワしてたよーな? なんだかんだ言って心配してたんだろ」
「っそ、そんなわけないでしょう!? 私は──」
ワタリの方は「どうせ途中でめげるんですよ」とネガティブな感情が強かったのがせいぜいの違いだろうか。正直、最後まで居てやると言ったも同じな気がしてきたが……話が逸れた。
「おつかれ〜部長さーん、甘酒飲む〜?」
「……もらう」
「おっ? 珍しいねぇ、普段は遠慮してんのにぃ。まっ、一緒に飲む人が居ると楽しいからいんだけど〜。
あっ、グラさんは〜?」
「いや、今日はいいかな。その分ボスに注いでやりな」
最後に、アルゴ。いつも大量の甘酒を陶器の瓶に入れて飲み歩いて酔っぱらっているこいつ(アルコールほぼほぼ含んでいない筈なのに)。
彼の目的は単純。正直、お前それないだろうと自分の参加理由を棚に上げて呆れたことが記憶に新しい。
「……うまいな」
「でしょ〜! うちで余った酒粕もらって作ってるんだよぉ」
ケラケラと笑ってお猪口に注いだ一杯を一飲みにすると、ご機嫌といった風にまた笑う。いや、最近はずっとご機嫌で、更にそれが良くなったと言うべきか。
今日のようなPK戦がまたあれば、こいつは酒樽でも持ってきて勝手に宴を始めるだろう。
「……アルコールは大丈夫なのか、これ」
「だいじょぶだいじょぶ、ちゃんと煮切り*1してるし~」
──それは、彼はボスのことを
◇
甘酒って本当においしい。
アルゴって、しょっちゅう目を合わせるたんびに甘酒飲んでるけど本当に美味いんかねぇ……とか思ってたんだよな。
体の隅々の細胞にまでいきわたるのを感じる。壊れた部位もこれで治ればいいのにと思いながら、また口をつける。
次から常備しようかな……本当に。
でも多分こんなに美味しいのはアルゴが作った奴だろうからってのもありそうだ。確か酒造の跡取り息子だっけか。なんかあんま男子って感じがしないけど……まぁそれはメアも一緒か。
俺も料理は得意分野というか、一応こなせるけど……やっぱ専門家の方が数段上だよな。
「そんでボス、この後はどうするんだ? 高天原の連中は意外とおとなしく帰っていったが……」
「……そうだな」
グラさんの言葉の通り、驚くほど真経津兄は素直に負けを認め帰っていったのだった。弟の方は少し抗議の声を上げようとしたが、兄に頭を叩かれていた。
五本勝負に変更だ! とか言われてたらもう本当にやばかったので助かった。
正直俺は渾身の力で頭突きした後の記憶が抜け落ちているので、何が起きたのか全く分かっていない。なんであのやばいシュートが決まらなかったんだろう……?
そして、僅か三本のシュートで技を進化させたらしいメアはなんなの。絶対二度とお前のシュート受けないかんな!
……で、これからか。正直もう帰りたいんですけど。気が抜けて腕がじんじんと痛みを増してきているんですけど。
長袖で誤魔化してるけど、絶対腫れてないかこれ!? どうしよう、正直に「腕やばいから病院行ってくる」なんて言えない……何かないか何かないか。
あ、そうだ!
「……グラさん所のペアでウリ坊を見てくれるか?」
「ん? まぁ的が一つ増えたところで問題ないが……?」
怪我をしてくれている(恐らく皮膚に爪が食い込んだ)トールくんがいるじゃないか。いやこれもかなり重症だし、してくれているって言い方は酷いな。ごめんなトール。
確かウリ坊とのペアだったよな。じゃあウリ坊をグラさん達に任せて、自主練とか言い渡して、俺は「トールを病院に連れて行く」という部長ムーブをかまし、この場から離脱するのだ。
ふはは何ていい考えだ、天才的だな!
「聞きました部長!? グラさんに急に走らされたかと思えば、どっからか持ってきたのか分かんない量の水鉄砲で狙ってくるんスよ!? これサッカーじゃなくて射的ッスよ!!
しかも水の中にめっちゃ辛いの仕込んでるし!」
「ハッハッハッ、単に濡れるだけじゃ必死にならねーだろぉ?」
……がんばれ。抗議するバングの肩を適当に叩いて激励しておく。
さて、
「病院に連れて行く、トールは何処だ?」
トールの処置が終わったらさっさとお家に帰して、次は俺を診てもらおう。うんいい考えだ。
……うん? なんかクラクラする気が……甘酒の飲みすぎたか、それとも頭強く打ったせい……早くこの場を離れた方がいいかな。
で、肝心のトールは何処だ?
「……あー、それが部長」
そう聞くと、ウリ坊は気まずそうにしながら遠く──視界の端の方、部員の塊から少し外れたところで丸くなり、うずくまっているトールを指さした。
えぇ……?
◇
夕方、黒い雲に日も隠れた帰り道。
俺の横に来ようとしないトールに対し、何度も話しかけていた。
だからさ、そんな気にすんなって。
結局勝負には勝ったし、次からは高天原中も邪魔してこないとか言ってたしさ……。な? 終わりよければ全てよしってことだよ。
……違うな。やっぱり過程も大事だよな。
頑張ったんだろ、我慢したんだろ? じゃなきゃ、そんなに掌から血がにじんだりしないって。
悔しかったよな、バングたちから聞いたぞ。自分の事だけじゃなくて、皆のこと馬鹿にされたんだろ?
「……けど結局、我慢、できなかったんだぞ俺は……部長を」
「……大丈夫」
「……他の奴らを、傷つけちまうかも……」
いや多分そっちは本当に大丈夫だと思う。
ウリ坊見ろよ、お前とぶつかり合って何ともないんだぞ。
俺見てよ、今だってグローブの下包帯ぐるぐる巻きだかんな。絶対気に病むだろうから言えないけど。
「……俺、やっぱりチーム抜け──」
「駄目だ」
切り出そうとしたトールとしっかり目を合わせ、止めた。
いや別に、サッカーやりたくなくなったぜひゃっほーい!! 的なノリだったら笑顔で送り出してたよ俺。
いやーチームかけちゃったな、もう一人どっかで探してくるからその間みんなは練習しといて! みたいな感じで。
「……それじゃあ、後悔する」
でもさ、罪悪感からそれを言い出す部員止めずに放逐するような部長ってすっげぇ格好悪いだろ。
そんなん許したらお前この先ずっと駄目になるだろ。俺も後味悪いし。
めっちゃブルーになってんなぁ……。病院寄った後に待ち合わせでもしてラーメン屋でも一緒に行くか。トールはご飯好きだから丼もの美味しいとこがいいかもな。
とりあえず、今はやる気出してもらわないと。
「……お前の力が必要なんだ」
なんだかんだ言って、トールみたいなデカいDFが一人いるだけで相手に与える圧力は大違いだ。超次元的な力を持っているこいつらなら、すっごいディフェンス技とか思いついてくれるかもしんない。
そうなりゃあれだ、めっちゃ試合中楽できるじゃん。
「DFとして、トールとして、ゴールを守ってくれ……!」
「……部長」
必死に訴えたのが効いたのか、トールの目にようやく生気が戻ってきた。そうだよ、その意気だ。
「──ん? なんかポツポツ……雨か」
……げ、突然雨降ってきやがった。
降るならPKの時降ってくれよほんと……あ、でも腕が微妙に冷えて気持ち……よくねぇ! めっちゃ痛い! あと頭の傷口に染みてこっちも痛い!
やばい、傘、傘! ……持って来てねぇ!
畜生、カバンが重すぎるから少しでも軽くしようとしたせいだ、槍が降ってきた気分だぜ!
「……部長、これ」
「……これは」
「あの時借りた、アンタの傘だ。俺は、傘はいらない。頭冷やすのに丁度いいからな」
そう言って差し出されたのは一本の折り畳み傘。
あの時……あぁ初めて会った時の奴か。そういやトールに渡したまんまだったな。安物だったし、あげた気分でいたんだが……。そっか、大事に持っててくれたのか。
……でもよく考えたら、両手火傷してんのに傘持つとか拷問だな! 絶対持ちたくねぇ!!
「なら、お前が差してくれ」
「……は?」
「お前の身長は大きいから、二人で入っても問題ないだろ」
すごいよなぁ。俺だって同年代の奴より少し大きいのに、トールなんて下手すりゃ大学生並みにでかい。これからもでかくなるなら中学3年とかになったら二メートル超すんじゃないか?
背がでかけりゃ女の子にモテモテだって聞くし、少し分けてもらえないかな。
「……でも」
「な?」
「……はは、分かったよ」
少しのためらいの後、トールは傘を広げ俺に寄ってきてくれた。
雨が体を打つ感覚が途切れたのを感じる。
その後は病院まで、他愛もない話が続いた。
そうだよ、俺がしたかったのはこんな部活動なんだって、何度も思ったんだ。
◇
「どうしてこんな怪我をしたんですか?」
「サッカーで……」
「そんなわけがないでしょう。両手の火傷に左腕の骨折、右腕は筋挫傷。頭の擦り傷に慢性的な疲労……。
──他はともかく、左腕の骨折は治るまで最低1か月以上かかると思ってください」
えぇ……もしかして俺フットボールフロンティア終わるまでずっと骨折したまま……?
助けて。
序章「部長、全治二ヶ月だってよ」が終わりました((
嘘です、本当は1か月半くらいです。
ここから、片腕しか使えなくなってしまった部長のあがきが始まる……!
※筆者は人体についての知識が乏しく、専門家から見たらかなりとんでもないことを書くことがあるかと思いますがご了承ください。
~選手紹介~
・ワタリ FW 10番
カラスに愛されカラスを愛した男。
近寄ってくる人を見下す悪癖がある。理由はあるらしいが……?
カラスとよく遊んでいるらしく、ついばまれ毛先がバラバラな髪の毛が特徴。