かき集めた部員が超次元な奴ばかりだった件について   作:低次元領域

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鏡の「中の世界」を知る日

「お~り~べ~!!」

 

 すっかり夜を迎え、寝間着に着替えて寝る準備は万端となっていた俺。

その元へ疲労困憊といった体で恨めし気に1号がやってきた。

 

肩で息をする姿とまだ濡れている髪の毛を見るに、シャワーから上がってそう時間も経っていないようだ。

布団のシーツを整えていた手を止めると、一号はその手を掴んで引っ張ってどこかへ連れて行こうとする。

 

「来い!!」

 

その形相はとても険しく、怖い。

抵抗する気も起きずそのままずんずんと引っ張られて階段を下り、部室棟の地下へと連れていかれる。

 

……この怒りよう、よほど後半組のシャワーは地獄絵図だったのだろう。

俺も途中から耳をふさいで聞こえないふりをしていたが爆発音とかしてたのを思い出しその光景を想像する。

壊れてないといいなぁ、シャワー。

 

「……どうした」

「どうしたもこうしたも無いわ! 貴様、鏡介に何を教えた?」

「……二号? シャワーのことじゃないのか」

 

おや? と思っていたものとクレームの内容が違ったので尋ねる。

一号は少しだけ歩みを緩めつつ、握る力を更に強くした。

 

「シャワーについては覚悟していたからもうこの際どうでもいい!

突進したりやシャワーで銃撃戦始めたりするアホだらけだったのは……ま、まあいい!」

 

やっぱり地獄じゃないか。

明日も絶対一緒にシャワーしたくないなとくじ運に願う。

 

「その程度、今までの特訓をこなしてきた俺には問題ないことだ。

それでだな、シャワーが終わった俺を鏡介が呼びに来て、必殺技の構想が出来たと俺を地下まで引きずって行った」

 

一号、やっぱり死んでないか。だからシャワー浴びたばかりなのにちょっと汚れてるのか。

後で女子組の時間終わったらもう一回行ってこい。

あと二号、勝手に特訓をするのはよくないぞ。一応合宿中は使っていい時間決めてるんだからな。

 

とまぁ、色々考えるが特に口にすることなく聞き流しつつ、やがて俺たちは地下一階のグラウンド……試合用のスタジアム、その入り口へとたどり着く。

この扉の向こうには恐らく二号がいるんだろう。

 

「あともう少しできっと完成する、そう弟は興奮していた」

 

なるほど、先ほど二号は勝手に何か気が付いた風に出て行ったがもうそこまで完成させていたのか。

流石だと言いたいし、ぜひその構想力を分けて欲しい。

 

光陰如箭(こういんじょぜん)を放てるように構えて欲しいとグラウンドに立たされた。

よく分からなかったが、弟がそこまで言うんだと信じて構えた……次の瞬間だ

 

──足元が急に鏡になった」

「ほう」

 

「見れば鏡介の足元から俺のところまでどころではない。反対側のゴールまでの地面が長い楕円形の鏡になっていた。

鏡には当然景色反対側の景色が映っていたが……不思議なことに、人間は鏡介以外は映っていなかった。

ここまで大規模な技を使えるようになったのかと俺は感心した」

「よかったじゃないか」

 

中々とんでもない技だなと聞いただけで思った。

コート一面までとは言わないが、長辺分の鏡を出すなどどれほどの力がいるのだろうか。

それとも何か可能にする閃きがあの時あったのだろうか。これはますます成長が楽しみだとも思う。

 

しかし、それなら一号はなにに怒っているのだ。

そう視線を向けられたのが分かったらしい。こぶしを握り締めて彼は叫んだ。

 

「鏡介は叫んだ、『さぁ兄さん、鏡の中に入って』と!」

「……?」

「織部、貴様の仕業だろう? どうやって入らせる気なんだ……!」

 

……どうやって入ればいいんだそれ。

俺は首を傾げる。

 

「……貴様の案じゃないのか?」

 

それに対し、一号は誤解が解け怒りの様相を消すも……じゃあどうしよう、といった困った顔を見せた。

 

困りごとは当然、弟の期待に応えられない事だ。

弟が完成間近だと盛り上がっている必殺技のやり方が全く分からないなんて兄として言えるわけがない。

だからそんなトンチキな技の発案者だろう俺を取っ捕まえに来たのだ。

 

「俺は……何も。二号が思いついた技だろう」

 

そう返す他ないが、このままでは一号は弟の期待を打ち砕いてしまう事だろう。

それはできれば避けたい。

 

だが、どうやってだ?

そもそも必殺技の原理も分からないのだからその空間に入る手段なんて分かる訳がない。

 

……フェルタン、トロア、鏡の中ってどうやって入ればいいんだい?

 

─えー……? すいっと……ひょいっと

─むしろ妾達にとっては水の中に入るようなもんじゃし……

 

ダメそう。ここで俺も「分からないから帰るね」なんて口が裂けても言えない。格好悪いし。

さて……どうしよう。もう詰んだかもしれない。そう内心頭を抱えていると、両腕を覆っている黒い闇の力が蠢いた。

 

─……おい、なんで我には聞かない

 

えっコルシアも入れるの? カメラとか鏡とかに映ってイタズラしてたイメージ無くて聞かなかったんだけど。

 

─我、一応同じ悪魔だぞ?

 

へそを曲げたらしいコルシアはいかにも不機嫌だといった声色を脳内に響かせる。

 

ごめんよコルシア、拗ねないでくれ。俺に何かいい案をくれ。

今の俺の相談相手はお前しかいないんだ。

お願い、助けてー。

 

─……まぁ許してやるが次からは気をつけろよ

 

やったね。優しい悪魔で助かった。

 

─やっぱ舐めてないか貴様?

 

気のせいだよ気のせい。

 

 

 

◇◆

 

 

 

「あっ、兄さんどこに行ってたの? あれ……織部部長、とカガ?」

「……」

 

コルシアの助言を受け、俺は一度雑魚寝用の部屋に戻った。

そして明かりが点いている中、既に就寝を開始していたカガに頭を下げて同伴してもらっていた。

 

その時、部屋にいたウリ坊達は俺が来た直後に何故か全員両手を後ろに隠し、口笛などを吹いたり怪しい様子であった。

……枕がはみ出しているのが見えたので「物を壊したりとかはするなよ」とだけ釘を刺して部屋を後にした。俺はナニモミナカッタ。

 

今頃は超次元枕投げが行われているに違いない。絶対に部員全員が倒れるまで部屋に戻るものかと思った。

そういえばメアは部屋にいなかったがアイツもどこかで勝手に特訓しているのだろうか。

 

「織部、何故カガを連れてきた?」

「……そのうち分かる」

 

内容を教えたら一号に怒られるだろうと思ったので秘密にした。

 

……嘘だ。

コルシアが「カガを連れてくれば行けるかも」なんて思わせぶりな事しか教えてくれなかったのでとりあえず来てもらったのだ。

 

─その嘘意味あるか?

 

お黙り。さてどうしようかと考える。

カガが出来ることと言えばなんだろう?

彼は細かいことに気が付いてくれる。自身は無口であるが周りの人間をよく見ていて、少し擦りむいただけの部員へ直ぐに絆創膏を準備してくれたりと気がとても効く。

ただこれは今必要なものかと言われると別に思えて……

 

「まぁいいか。兄さん、特訓の再開をしようよ! ほらもう一回鏡を出すから早く」

「あ、あぁ……おい、織部大丈夫なんだろうな本当に!?

「……行ってこい」

 

興奮が冷めずに弟に急かされるものだから一号は俺に小声で念を押した後、グラウンドの真ん中へと歩いて行った。

二号は変わらずゴールの前、一号と二号はサッカーコートの半分の距離を離れお互い向き合っている。

 

「……準備はできたぞ、鏡介」

「よしっ、それじゃあ──えいっ!」

 

一号が光陰如箭の構えを取れば、二号は力いっぱいグラウンドを踏みしめ両手を前に出す。

彼の全身から白いオーラのようなものが両腕を伝い前へ集まり、巨大な青銅の鏡が作り出される。

俺にはこの時点で、今まで見たどの八咫鏡より強靭に見えた。

 

「ふぅぅう……はっ!」

 

ついで現れた現象、地面に直立する巨大な鏡の根元から影が伸びたかと思えば……そのまま反対側のゴールポストまで届き、楕円形の大きな影はそのまま鏡へと変化する。

鏡は真上、地下に存在するこのスタジアムの天井とゴール、技の使い手である二号のみが映っている。

 

「兄さん!」

「鏡の中へ入る……鏡の中……鏡の中……いや鏡の中ってなんだ?

 

ここまでは聞いた通りだが、二号の想定ではここから一号が足元に広がる鏡の中に入らなくてはならない。

その解決のためのカガ……のはずなんだが、どうすればいいか分からなかったので俺はカガに素直に聞いてみた。

 

「カガ……一号を足元、あの下へ行かせられるか?」

─どこが素直なんだ?

 

コルシアお黙り。お前が答えを教えてくれないから苦しんでるんだぞ!?

 

カガには大変申し訳ない無茶ぶりになってしまっていることは重々承知している。

そもそも悪魔連中でも言語化できないことを人間、しかもうちの部員の中ではかなりの真面目な優等生にこんな事を頼んだところで解決しないだろう。

 

やはりカガに全振りするのはやめてどうにかしていい方法を考えよう。

……フェルタンとトロアに一号へ巻き付いてもらって、鏡の中へまで引きずり込んでもらうか。

 

「……うん?」

 

絵面が酷い事になりそうだと考えながら一号へ近づこうとする俺の肩を、カガが掴んだ。

 

「! ……!!」

「カガ……頼んだ」

「……!」

 

自分行けます、そうやる気に満ち溢れた雰囲気でカガは寝間着のままグラウンドの中心へ走り出した。

いけるのか(困惑)。と思ったがきっと俺に思いつかない素晴らしい方法を彼は知っているのだろう。

 

「カガ? おい織部どういう」

「──集中するんだ」

 

自分に向かってきているカガを疑問に思い、説明を求めた一号に対し俺はごまかして答えた。

よくわからないけどカガが何かやってくれるらしいのだ。

あそこまでやる気を出しているという事は確実性があるという事だ。だから信じてやってくれ。何も知らないけど。

 

「行け、カガ」

 

カガの足が鏡の空間に迫る。

さぁ、その長い前髪の奥から自信たっぷりの雰囲気を覗かせていた男よ。

一体お前は何を見せてくれるんだ……!

 

「【ディープバイト】!!」

「えっ」

 

その間抜けな声は誰のものだったのか。

次の瞬間、カガはわずかにジャンプすると巨大なホオジロザメへと変化、いつも地中を泳ぐ時のように鏡の世界へ潜航……飛び込んだ。

へー、その要領で鏡に入れるのかと感心しているうちにカガは一号の足元まで泳いでいく。

 

「えっ」

 

次の間抜けな声は一号のものだった。

カガが急に消えたかと思えば、自身の足元に広がる鏡の世界から鮫が迫っているのが見えた。

その後にどうなるのかはチームメイトである彼が一番よく知っていた。

 

俺もその時ようやく、カガが何をしようとしているか気が付いた。

これ俺がさっきしようとした事と同じだと。

 

「ま、待て──」

 

一号は最後まで勇敢だった。

光陰如箭の構えを解かないまま巨大な鮫に嚙みつかれ、鏡の中の世界へと引きずり込まれていった。

さながらパニック映画のワンシーン。

 

これは助からないなと何故か思った。

……南無三。

さよなら一号、お前の事は忘れない。

 

「生きてるわ! あとせめて助けるそぶりくらい見せろ!!」

 

あ、出てきた。

お帰り一号、お前の事は信じてたよ。

 

始めから何もかもわかってましたよ、といった風に俺は腕を組んでうなずいた。

 

 




一号と二号の強化イベント2/3個目回
あと一回達成すると必殺技が完成します(多分)

~オリキャラ紹介~
・織部 長久 GK 1番
 今回は一切危ないことが起きなかった奇跡を迎えている。
このまま寝るまでは安全かもしれない。シャワー戦争、枕投げ等で設備に被害が出た場合は彼らの親御さんへチクるという究極奥義を持っている。

・一号(真経津 光矢) FW 12番
 兄貴分としてどうしても無理とは言えなかったので織部を頼ってしまったのが運の尽き。
織部の契約悪魔経由の作戦により、鏡の世界へと引きずり込まれる経験をした。
鏡の「中の世界」なんて無いと思い込んでいる硬い頭はこれで消えたことだろう。
この世界はファンタジーだしメルヘンだし超次元なのである。

・サッカーマスク二号 (真経津 鏡介) GK 13番
 自ゴールから相手ゴールまで鏡の世界を作ってその中に兄を入れれば最強の必殺技になるのでは?
という発想を形にしようとしている。

・加賀 守人:カガ DF
 地面下に連れて行くなら任せろ
彼は背びれでそう語った。
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