「奇跡の子がやって来たのです!」
「おい、クソヴィータ!何ダブってんだ!ギャハハハハ!」
「クソウゼェよ!」
解散!
「イニエ~。待ってよぉ~…。」
夢を見ている。小さい頃の記憶のようでソロンがよじよじと木に登り、先に登っていた友人に呼び掛ける。
「早くしなよー、ソロン!いい景色が見れないぞー!」
泣きそうなソロンの視線の先には大人一人が乗ってもビクともしなさそうな枝に腰掛ける活発なグーラ人の少女が手招きしている。
「で、でも、ここは強いモンスターがいるから危険だってラウムにいちゃんが言ってたよ、もう帰ろうよ…。」
木の幹にしがみつくソロンが友人の少女、イニエにもう帰ろうと提案する。
「なーに言ってんのさ!危険を被ってでもやるのが冒険でしょ!パイモンのおっちゃんに気付かれる前に帰れば大丈夫だって!それに、私たちパイモンのおっちゃんとかシュゴンとかラウムにいちゃんからアーツを仕込まれてるんだよ。ヴォルフが来ても大丈夫だって!」
しかし、イニエは心配ないと笑いかける。すると突然、辺りが暗くなった。
「ん?何だろ?」
不思議そうにするイニエとは対照的にソロンは顔を真っ青にする。
「た、たたたたた、たた、」
「どうしたの?」
急に震えだしたソロンにイニエが話しかけるとソロンは震えながら叫んだ。
「ダオースだ!早く逃げてイニエ!」
ソロンが指さした先には巨大な鳥系モンスターが鋭い目を光らせながらこちら目掛けて飛んできていた。いち早く気付いたソロンは叫んだのだ。
「げっ!ヤバ!」
イニエはソロンが叫んだことで気付き、すぐさま枝から飛び降り、ソロンも幹を滑るように降りて逃げる。その直後、ダオースの爪がイニエが先程まで立っていた枝に突き刺さった。
「イニエ!」
叫び、飛び出すように起きるとそこは森ではなかった。周りの景色は木々が生い茂るグーラの森ではなく、何やらテントらしき建物の中にいるようだ。
「こ、ここは?」
「あ!ソロンが気付いた!」
ゼパルの声が聞こえたと思った瞬間、見覚えあるウェディング衣装がテントから飛び出していった。寝起きで状況が飲み込めないソロンは呆然としていたが、段々と気絶する前の出来事を思い出す。
「…そうか、俺は天の聖杯を狙う盗賊にやられて…!」
こうしちゃいられない。そう考えたソロンはレックスたちを助けに行こうとベッドから出ると、
「ソロン!大丈夫か?」
助けに行こうとしたレックスが入ってきた。
「レックス、良かった。あの盗賊から逃げ切れたのか?」
ソロンは安堵しつつレックスに自分が気絶している間、何があったか聞こうとすると途端に気まずい顔になった。
「あー、その、驚かないでくれよ?」
レックスが気まずそうに言う言葉が理解できなくて首をかしげる。
「おぅ、目が覚めたか!」
その瞬間、聞き覚えがある野太い声がソロンの耳に入った。
「な!?」
テントの入り口に目を向けるとあの盗賊の頭と思われる大男が入ってきていた。
「いやぁ、さっきはすまなかったな。ウチの部下が加減を間違えたせいで気絶させちまってよ。」
「え?は?」
気絶する前のロクな奴じゃないという印象とは違う、面倒見が良さそうな雰囲気を出す大男にソロンは目を丸くする。
「改めて自己紹介するぜ。俺はヴァンダム。このフレースヴェルグ村で傭兵団の団長をやっている。」
「お、おぅ?」
「実は、いい人だったんだ。警戒しなくてもいいぞ。」
状況が理解できず生返事しかできないソロンにレックスが助け船を出す。
「そ、そう、だったのか。」
レックスが言うなら悪い人じゃないだろうと何とか飲み込む。すると、ヴァンダムは後ろに視線を向けた。
「おい、いつまで俺の後ろに隠れてやがる。早く出てこい。」
ヴァンダムが催促すると、気まずそうにフードを被ったドライバーが出てきた。その隣にはソロンを気絶させた女性ブレイドも一緒だ。
「お前は!?」
「ま、待って!アタシだよ、アタシ!」
ソロンが声を張り上げるとフードのドライバーは慌てて被っていたフードを取る。その顔を見たソロンは目を限界まで見開いた。何故なら、
「先にグーラから出たイニエだよ!」
夢にも出てきた、子供の頃一緒だった友人のだ。
「そうか…グーラを出た後、インヴィディアで傭兵を…。」
「まずはそっちで色々経験を積もうかなって思ってね。渡されたコアクリスタルもインヴィディアに着いた後、同調したよ。」
案内された酒場で出された料理を食べながらイニエのグーラを出てからの顛末を外で聞こえる怒号をBGMに耳を傾けるソロン。
「ごめんなさいね。イニエったら、あなたを見てテンションが上がっちゃったらしいの。」
「まぁ、お前らしいな…。」
「だ、だからゴメンって!」
既に食事を済ませたレックスたちはヴァンダムに連れられ、村の裏手から魂の頂と呼ばれる場所に向かったらしい。何でも、そこで異変が起こっているようなのだ。
「レックスたちは大丈夫かな…。」
ソロンは村の裏手に目を向けるとイニエが心配ないと言いたげに笑いかける。
「なぁに、心配いらないよ。ヴァンダムのおやっさんがいるし、レックスたちもドライバー経験は素人とは言え素質はあるんだ。ウチの教官も言ってたよ。」
「…教官?」
突然出てきた教官というワードにソロンは首をかしげる。
「さっきから声がうるさい人。厳しいんだよね。」
イニエは苦笑いしながら一点に指をさす。そこに視線を向けると広い空き地のような場所でランニングをしたり、サンドバック代わりの案山子に一心不乱に攻撃し続けたりしている傭兵たち。全員共通しているのはひいこら言いながら訓練しているのだ。そして、その中心に件の教官がいた。
「姿勢がなってない!そんなへっぴり腰で攻撃して敵が倒れると思っているのか!」
目を向けると短めの茶色い髪の毛に猛禽類を思わせるような鋭い目をした青年が訓練をしている屈強そうな男、見た目ひ弱そうな少年、おそらく傭兵になりたてなのだろうか。そんな彼らに指示を出していた。
すると、ランニングをしていた傭兵の一人が膝を着いた。
「は、はぁ…はぁ…ひぃ…。」
「おい、誰がへばっていいなんて言った?」
「も、もう無理、ですよ…フォカロル、教官…。」
「そうか。喋る元気はあるようだな。ならば、もう十週村を走ってこい!」
「そ、そん、なぁ…。」
「ほら、頑張れ!教官の訓練を乗りきったら旨い飯だぞ!」
ひいこら言いながら地獄のような訓練に励む傭兵たち。ソロンは(大変だなぁ。)と、他人事のように見ながら飲み物を飲んでいたが、
「ね。アレ、受けてみる?」
「ブゥーッ!?」
イニエからの提案が耳に入り思いっきり吹き出した。
「きゃ!?もぉー、ソロン!汚いよぉー!」
「わ、悪い、ゼパル。ってイニエ!お前それ冗談か!?」
注意したゼパルに謝りつつイニエに詰め寄るソロン。イニエは驚くソロンの顔を見て面白いのかニヤニヤしている。
「イニエ、意地悪はやめなさい。ドライバーとして少し鍛練しないかと言っているのよ。」
アガリアレプトがイニエに注意すると、詳しく説明してくれた。
要約すると、フォカロルはドライバーとしての戦い方も心得ている人物で、ドライバーになりたてのソロンやレックスにも最適な人物だということらしい。
「どうかしら?悪い提案では無いと思うわ。」
「実際、フォカロル教官のおかげでへっぴり腰だったり、やさぐれていた傭兵も鍛え直したどころか、フレースヴェルグ傭兵団の実力も上がったもんね。」
イニエがしみじみとぼやく様を見るに嘘である可能性は低い。これからの戦い、天の聖杯を狙う輩は大勢いるだろう。ならばここでドライバーとしての経験を積んで困ることは無いだろう。
「分かった。イニエ、フォカロル教官の訓練が終わったら呼んでくれ。」
ソロンはフォカロルと模擬戦をすることを決めた。その目には決意がみなぎっていたのだった。
今月はここまで!来月お楽しみに!