巨神獣戦艦に潜入した一同はニアの捜索に取り掛かった。
しかし、行こうとする場所に見張りが所々に配置されていたり、こまめに見回ったりと、トリゴの駐屯兵とは比べ物にならないほど厳重だった。しかし、ニアが処刑されてしまう時間との戦いでもある。
「きっ、貴様ら!どこから…ぐはっ!?」
故に、進む先にいる見張りの兵が報告する前に気絶させる速攻戦法で行くしかなかった。ソロンは驚くスペルビア兵の顔面に蹴りを放ち、怯んだ所でレックスが攻撃し気絶させる。
「さてと、ここは独房のようだけど…。」
気絶した見張りを脇へ退かして見渡すと均一に並べられたドアがある部屋、独房だった。
「…ご主人。この周辺にブレイドがいますも。」
すると、何かを感じ取ったハナが話しかける。おそらくニアのブレイド、ビャッコがここに収容されているらしい。
「ハナ、そんなことも分かるのかも?」
「はい。何か、ブレイドの波動って感じですも。」
「なぁ、それってどこから強くなるとか、分かるか?」
「そこまでは分からないですも。」
「困ったな…ならどうすれば…。」
正確な場所が分からず唸るソロン。
「とりあえず、片っ端から開けましょう!」
時間も惜しい。そう考え、ホムラが思いきってしらみ潰しに独房の扉をこじ開けるを提案し、それに賛成するのだった。
ソロンは持ってきていた針金で鍵穴のピッキングを、ホムラは炎で独房の扉を溶かすことになった。ソロンは手慣れた動作で独房の鍵穴に針金を入れ、弄っていく。
(しかし、どういうことだ?こんなあっさり侵入出来てしまうなんて。少しおかしいぞ?ニアの処刑の準備のため?いや、だとしてもこんなに手薄なんて違和感を覚えるな…。)
ソロンはピッキングで鍵穴を弄りながら戦艦内部の警備兵の数の少なさに違和感を感じていた。
「あのう…、火傷とかしてませんか?」
すると、奥の扉を溶かしたホムラが申し訳なさそうに独房の中へ声をかけた。
「ホムラ、火が強すぎだよ…。」
「ごめんなさい、加減が難しくて…」
「ホムラ様!?レックス様!?」
レックスとそんな夫婦漫才をしていると中から低い男の声が聞こえた。ホムラとレックスを知っている、ハナのブレイドの波動を感じたという証言から察するに独房に入れられていたのはニアのブレイドらしい。ソロンはピッキングで開きかけた独房の扉を閉めようと手を動かすと、
「あ、あのぅ、出してくれないんですかぁ?」
中から気弱で泣きそうな女性の声がした。
「…すまんな。俺はあんたを助けに来たんじゃないんだ。」
人畜無害そうな声だが、それだけでは判断がつかない。それに、目的はレックスの仲間、ニアの救助だ。荷物が増えるのは厄介だと感じたソロンは申し訳なさそうに謝る。
「うぅ…そんなぁ…私はただ、ルクスリアで図書館の司書をしていただけなのにぃ…。」
中にいる女性は半ベソをかきながら落胆する。非常に心苦しいが、心を鬼にして行くしかないだろう。
「どうしたんだ?ソロン。」
すると、ビャッコを救助したレックスが話しかけてきた。おそらく中々来ないソロンを心配して来たのだろう。
「あぁ、待たせてすまなかった。実はここにいる人が出してくれって言っててな…。」
「お願いですぅ…。静かなんですけど本がないここは苦痛なんですよぉ…。」
「…あのな、俺達はお前を助けに来たんじゃないんだ。だから「助けよう!」
否定されてもなお食い下がる声にソロンが拒否しようとした瞬間、レックスが声をあげた。
「…なぁ、レックス。戦えるかどうかも、それ以前に独房にブチ込まれるような怪しい奴を連れていくのか?」
「だからってこのまま放っておくのは可哀想だろ。」
「そうですよ。それに話を聞く限り、悪いことをしたようには見えませんし…。」
「それにソロンが見守っていれば大丈夫だも!」
ソロンは異議を申し立てるが、三人からは助けた方がいいという意見しか出てこなかった。
「…はぁ、分かったよ。今開ける。」
これ以上議論を重ねる時間はないと判断してソロンは独房の鍵を開けた。
「ありがとうございますぅ~!」
感涙の声をあげながら独房の中から現れたのは、白に近い色のボブヘアーでマントを身に付け、片眼鏡をかけた見た目インドア派で戦闘など無理そうな童顔の女性だった。
「私はマリーって言います!このご恩は一生忘れません…!」
「あぁ、その台詞はこの巨神獣戦艦から出てから言えよ。」
(こうなるの、久しぶりだな…。)
世間ではテロリストとして認知されているイーラに身を寄せているグーラ人のドライバー、ニアは独房で身を丸くしながら懐古していた。
ある事情から人々に恐れられ、自身のブレイドであるビャッコと共に逃げ続けた末、コアクリスタルを管理している法王庁に連行されそうになったのだ。
(…あの時はシンが助けに来てくれた。今度ももしかしたら…。)
もう生きる望みもない。絶望の淵に立たされたときだった。ニアの恩人でもあり、イーラの首魁でもある男、シンが助けに来てくれた。
(何か、やけに外が騒がしいけど…まさか!?)
独房の鉄の扉越しから聞こえる喧騒からまたシンが助けに来てくれたのか。そう考え、ニアは顔をあげる。
「シンーー。」
「大丈夫か、ニア!」
しかし、来てくれたのは自分を置いて逃げたはずの少年、レックスだった。
「レックス?アンタ…。」
「遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。」
ニアが戸惑っていると、レックスの後ろから自分のブレイド、ビャッコが現れる。
どうやってここまで来たかは分からないが、レックスはビャッコと自分を助けに来たのだと思い当たる。
「…いいんだ。誰も来てくれるはずないって、思ってたから…。」
シンが助けに来てくれる。イーラを裏切るような行動をしてしまったのにそう考えていた自分が馬鹿馬鹿しくなる。自虐気味になってしまうニア。
「そんなわけないだろ!」
そこにレックスが話しかける。
「『助けたら助け返せ』。サルベージャーの合言葉その2だ。」
サルベージャーの合言葉を引き合いに出して手を差し出すレックス。ブレないその姿にニアは笑みを浮かべた。
「ふっ、アンタらしいね。」
その手を取り、立ち上がるニア。イーラに戻るまでの一時共闘はまだ続きそうだと感じたのだった。
「アニキ!ソロンが脱出ルートを見つけてきたも!急いでも!」
すると、そこへ見慣れないノポン族がやって来た。
「ノポン族?」
「お力を貸してくださった。」
「新しい仲間さ!」
突然ノポン族が現れ、驚くニアにビャッコとレックスが説明する。
「よ、よろしく。」
ニアは苦笑いながらも挨拶をした。
「さぁ、こんな所に長居は無用じゃ!脱出するぞ!」
レックスの保護者、セイリュウの声が聞こえたと思ったらホムラ以外に見慣れない人が何人か顔を出す。大所帯になってきたな。心の中でそう呟くニアであった。
「ダメですも。ハナの力でも開きそうにないですも。」
一行は格納庫から外へ出ようとしたが、格納庫へと繋がる通路に重厚な鋼鉄のシャッターが降りており、ハナの力でも持ち上げるのは無理そうだった。
「あそこのレバーが怪しいけど…。」
辺りを見渡し、二階にあるレバーに目をつけたが、その場合はもう一度戦艦内部を潜ることになる。
「待ってろレックス。そんな手間を取る必要ないぜ。」
すると、ソロンが前に出てロープを取り出す。
「こういうのは俺の得意分野だからな。」
ソロンは手すりに狙いを定めてロープを投げると、ロープは見事手すりに絡まりソロンが二、三度ロープを引っ張って感触を確かめた後よじ登り、しばらくした後シャッターが上がる駆動音がした。
「どうよ。鬼ごっこする中で編み出した行き止まりでも逃げ切れる特技だぜ。」
「あぁ、助かったよソロン!ありがとな!」
「さ、早く行くよ!」
ニアの催促に頷き、外へと繋がる格納庫へ飛び出すレックスたち。
「そういきませんよぉ。」
すると、レックスたちが進む先に貴族らしく着飾った中年のスペルビア人が巨大な斧を持った大型のブレイドと共に現れた。
「イーラのテロリストを捕らえたという実績が取り逃がした汚点になっては困るのぉ。」
「…ここに来てあいつかよ。」
現れた人物をソロンは、いや、トリゴの町に住む者は知っていた。現れたのはトリゴの町で領事をしている男、モーフだ。色々と悪どい噂を耳にしている上、トリゴの町に住んでいる人を見下している節があることから印象最悪な領事だ。
「翠玉色のコアクリスタル…お前は天の聖杯!忌々しいけど、メレフの読み通りだったと言うわけねぇ。」
欲を孕んだ目でホムラを睨み付けるモーフ。そのモーフにレックスが噛み付いた。
「ホムラを知っている?お前もホムラを狙っているのか!?」
「お前も?当たり前でしょう!」
レックスの言葉にモーフはさも当然のように声を張り上げた。
「天の聖杯…その力は空を裂き、大地を割るアルスト史上最強のブレイド!聖杯を求めないものは、その価値を知らない愚者のみ!そして私は愚者ではなぁい!だから聖杯を手に入れる!完璧な三段論法よぉ!」
モーフは自分が優秀であるという事を歌うように、酔いしれるように持論を展開する。
「あ、あのぅ…最後のは三段論法として飛躍しすぎているような気がするんですけど…。」
「マリーの言う通りですも。めちゃくちゃですも。」
ソロンの陰に隠れていたマリーがおずおずとツッコミを入れ、ハナも同調する。
「おあいにく!アタシもホムラも、アンタの手柄なんかになんないよ!」
「テロリストの分際で生意気ねぇ!」
ニアがキッパリと断るとモーフはイラついたような声を上げた。こうなれば強行突破以外の道はないだろう。
「行くぞみんな!ソロンはマリーと一緒に下がっててくれ!」
「あぁ!気を付けろよレックス!」
「き、気を付けてください!」
ソロンはマリーの手を取り、走り出すと同時にアーツの技名を叫ぶ声が聞こえ戦いが始まった。
「あいつ…ブレイドを盾にしてやがるのか…。」
「ひ、ひどいです!ブレイドさんが可哀想…。」
ソロンとマリーは隠れたコンテナから戦闘の成り行きを見守っていると、モーフは巨大な体躯をしたブレイドの陰に隠れながら、洒落た拳銃でチマチマと発砲していた。その戦い方は自分さえ無事ならどうでもいいという卑劣以外の言葉が見つからないものだ。
(ああいう戦い方は長くは持たないだろ。あのブレイドはタフそうだが、長期的にああいう戦法で行ってると先にブレイドがへばるな。それに対し、レックスの攻撃、トラのガード、ニアの回復とバランスが取れている三人を相手にしてるんだ。さて、このまま静観してるのもいいが、時間がもったいないな。)
ソロンは戦いの状況を冷静に分析しながら、時間を気にしていた。あのスペルビア兵と一緒にいたブレイドが介入してくるかも知れない可能性も考えていたのだ。
「あ、あのぅ…。」
すると、隣にいたマリーが話しかけてきた。
「あのブレイドさんの足にロープを引っかけて転ばせて、モーフさんも一緒に倒すの、できるんじゃないでしょうか?」
おずおずとマリーが指さした先にはレックス、ニア、トラの攻撃を全て受け、背後にいるモーフからも蹴りを入れられるブレイド。その足取りは既におぼつかないようで、よろめいている。
「それだ!いい着眼点だマリー!」
「私だって役に立ちたいんです!」
ソロンはアドバイスしたマリーを誉めると早速行動に移った。
「えぇい!あなたはボクのブレイドでしょ!?あんな奴ら、ちょちょいのちょいでぶっ潰しちゃいなさぁい!」
モーフは自身のブレイドの後ろに隠れながら命令する。だが、ブレイドが攻撃をしに行こうにもモーフが攻撃を受けそうになると途端に後ろに隠れてきて、攻撃しようにも邪魔で仕方ないのだ。
「くそ!あいつ逃げ足が早いぞ!」
モーフの戦い方に苛立ちを隠せないレックスは思わずそう吐き捨てる。このまま時間をかけていたら増援が来てしまうかもしれない焦燥感に駆られかけた瞬間、
「いい位置だ!」
後ろに隠れていたはずのソロンが躍り出てモーフのブレイドの足にロープを絡ませた。絡ませたのを確認した後、ハナに手渡す。
「引っ張れ!ハナ!」
「了解ですも。」
ソロンの叫ぶと同時にロープを持っていたハナが思い切り引っ張る。すると、足を掬われバランスを崩したブレイドがどうにか持ち直そうとする。
「…そうか!これでどうだぁっ!ソードバッシュ!」
そこへソロンが飛び出した意図を察したレックスがすかさずアーツを放つ。その攻撃によって完全にバランスを崩したブレイドは後ろに倒れこんだ。
「むぎゃっ!」
当然、後ろに隠れていたモーフは鈍重なブレイドの下敷きになる。
「ど…、どうして…こんな…子供たちにぃ…。聖杯を手に入れて…本国へ…凱旋…。」
ブレイドに押し潰されたモーフは自分の欲を吐き出し、気絶した。
「気を失ったようじゃの。」
「ニアを処刑しようとするからだ!」
レックスが当然とでも言うように腰に手を当て、憤る。ソロンもいい気味だと笑う。というのも、ソロンがスペルビア兵にちょっかいを出した原因がモーフのがやり方に憤りを感じたからだ。だが、心のどこかに引っ掛かりを感じた。
(こいつが痛い目見ていい気味なのに…何故だ?このスッキリしない感じは…。)
「違う…こいつらはアタシを本国へ送ろうとした…。レックス!これは罠だよ!」
すると、ニアが声を上げる。どうやら、ニアを処刑するという触れ込みは天の聖杯を誘き出すための嘘だというのだ。そこでソロンは侵入してから今まで感じた違和感、スッキリしない理由がハッキリと分かった。
「そうか!レックス、俺達は嵌められた!早く逃げなきゃマズいぞ!」
「ソロンの言う通りだもアニキ!早く逃げるも!」
ソロンとトラの催促でレックスたちは格納庫を飛び出すのだった。