モーフを撃破して巨神獣戦艦を出たレックス一行はそのまま基地の出口へと突き進んでいく。
(ニアの言うことが聞き違いであってくれよ…!)
ソロンは僅かな望みに祈りながらレックスの後を走ったが、
「この炎は!」
いつか見た蒼い炎の壁が出口を塞ぐ。そしてその壁の中から二人の人影が現れた。
「おいおい…嘘だろ、くそったれ!」
その人影の正体を見たソロンは思わず悪態をつく。
炎の中から現れたのは、一人はスペルビアの軍服を身に包み、両手に青く燃え盛る細身の剣を持った中性的な美青年。もう一人は、その青年に負けず劣らずな美貌を持つ、記憶に新しい蒼い炎のような糸目の美女。どちらも只者ならぬゆっくりした足取りでレックスたちの進む先に立ち塞がる。
「炎の輝公子、メレフ…!」
ビャッコが炎の中から現れた二人を見て呟く。
「スペルビア帝国、特別執権官メレフ。帝国最強のドライバーにして、同じく帝国最強のブレイド、カグツチの使い手…。」
「最強×最強でチョー最強ってわけか…。」
ビャッコの説明にレックスが素直な感想を漏らす。
「やはり、モーフ君には抑えられなかったか。」
モーフが失敗するのを見越したように呟くメレフ。兵の少なさ、警備の薄さ、ニアが聞いた情報と外で聞いた情報の食い違い。ソロンの予想は的中していたということだ。
「ニアを処刑と言う情報を聞けば仲間が助けに来る…。だから警備が薄くして助けに来た所を一網打尽にする。イーラのテロリストと天の聖杯だ。利用価値があるんだろ。そして、俺達にモーフを戦わせたのはアイツが欲まみれのクズでアンタを蹴落とそうとする魂胆があることを見抜いていた…。自分の障害になりかねないから俺達に戦わせ、俺逹が勝てば捕らえていたテロリストを逃がした責任で問い詰める。仮に俺達が負けてもアイツのやましいことを持ち出して問い詰めてたんだろ?」
「…ほう?そこのグーラ人は中々頭が回るようだな。その通りだ。そこのテロリストは利用価値がある。しかし、天の聖杯は少し違う。」
ソロンの分析に面白そうに笑うが、メレフは一部分を訂正する。
「翠玉色のコアクリスタルは天の聖杯の証し…。そのブレイドが真に天の聖杯ならば、私にはやるべきことがある…。」
「やるべきこと?」
「空を裂き、大地を割るその力…二度と世界を灼かせるわけにはいかない…!」
メレフはホムラを鋭い目で睨み付け、その存在自体を許さないと言いたげだ。
「ホムラが世界を灼いただって!?いい加減な事を言うな!」
レックスはホムラを庇い、メレフに叫ぶ。しかし、メレフは鋭い目付きを解くことがない。
「知らないのか?500年前の聖杯大戦の出来事を。」
「み、三つの巨神獣を雲海の底に沈めた伝説の力の事、ですか?」
ソロンの後ろに隠れていたマリーが恐る恐る声を出す。会話に入ってきたことで自分に視線が集まった事に気付いたマリーはまたソロンの後ろに隠れてしまう。
「その通りだ。ルクスリアの図書館司書。」
「マリーさん…それ、本当なのか!?」
レックスが驚くのも無理はない。今、目の前にいる優しそうな少女がこの世界の人々の生活の基盤となっている巨神獣を3体も沈めた恐ろしい力を持っているとは思えなかったからだ。
「全て歴史が語る事実だ。」
信じられないレックスにメレフは諭すよう語りかける。ホムラも辛そうに俯き、沈黙の肯定をする。
(巨神獣を三つも沈める、か。確かにそれは放っておくわけにはいかないよな…。)
ソロンも内心驚いてはいたが同時に納得もした。500年前の伝説はソロンも生まれの村で聞いたことがある。確かにそんな力を持っていれば500年たった今も語り継がれても不思議ではないだろう。メレフの言い分は理解できる。
(…でもな。)
しかし、ソロンはメレフの要望を受け入れたくなかった。ただ、図書館の司書をしていただけのマリーを閉じ込め、今辛そうな顔をしているホムラの顔を見ると黙っていられなかった。自分を育ててくれた伊達男はこう言った。
『いいか?ソロン。女の子は涙が似合う事もあるが、一番似合うのは笑顔だ。いい男の条件は女の子を泣かせる奴から体を張って守れること。お前のそせ…、じいさんはそういう男だったぜ。』
ソロンは今も自分の背中で震え続けるマリーと俯くホムラを見て決心がついた。
「分かったぞ!ホムラを戦争の道具にするつもりだろ!誰がそんなことさせるもんか!」
レックスもメレフに対して敵意を剥き出しにし、ホムラを守るように移動する。
「そのような力を野放しできないと言っている。」
「嫌だ。と言ったら?」
「力ずくでも君たちを拘束する。」
メレフは両手を動かすと手に持っていた二対の剣が青い炎を放ち、鞭のようにしなった。その目からは冗談ではなく、本気であることが伺える。
(マリー。俺はアイツの妨害をしてくる。お前は隠れてろ。そして俺達に気を取られている隙に逃げろ。分かったな?)
(イ、インドア派な私には酷ですけど…頑張りますぅ!)
ソロンはマリーに耳打ちするとマリーはこそこそと巻き添えを食らわないように隠れていった。
「だったら!全力で言ってやる!ぜぇーったいに、い!や!!だ!!!」
「ふっ、ならばその意志、等しく力で見せてみろ、少年!!」
全員に抵抗の意志がある事を確認したメレフは不敵な笑みを浮かべると武器を振りかざした。
攻撃と防御と回復のバランスが取れているレックスたち三人でもメレフ相手には劣勢を強いられていた。レックスとトラはドライバーとしてはまだ未熟。ニアも攻撃型ではない。三人がかりにも関わらず余裕で渡り合えるメレフとカグツチは帝国最強の名に恥じない実力だ。
(こいつらで、どこまで行けるか…!)
ソロンは自身のポーチに入れてある悪戯道具がメレフに通用するか、不安に思いながらもかんしゃく玉を投げつける。
「ふん。」
しかし、メレフは見抜いていたように剣を振るい、蒼い炎を操る。かんしゃく玉はメレフの足下に辿り着かずに爆裂してしまい、ソロンは思わず舌打ちをした。
「君の事はカグツチから聞いたよ。我が兵を困らせているようだね。」
ソロンに一歩ずつ近付く。その威圧感にソロンは後ずさりをする。
「ソロンはやらせないぞ!」
「させませんわ!」
その隙を突こうとレックスが斬りかかるが、カグツチが剣を振るい妨害をし、邪魔をされたレックスは悪態をつく。
「流石はスペルビア最強のドライバー…そう簡単にやられてはくれないか…!」
ソロンは自分の手札が通用しない相手に舌打ちすると、メレフが剣を掲げた。すると、ソロンの眼前に突如火の手が上がり、ソロンの視界を炎が覆う。
「うわ!?」
ソロンは思わず腕で防御する。が、いつまでも攻撃が来ず、不思議に思いながら目を開くと、ソロンの目の前に炎の壁があった。
「君はそこで大人しくしたまえ。私はモーフくんとは違い、ドライバーではない無力な者をいたぶる趣味はない。」
「ぐっ、ちくしょう!」
炎の向こうからメレフの声が聞こえる。モーフよりは情があることに安堵はしつつも、分断され、連携を取れなくなってしまった状況にソロンは別のルートから合流しようとする。が、360°視界全てが炎の壁に埋め尽くされており、八方塞がりである事が明白だった。
(どうする?このままじゃレックスたちも危ない…。何か…何かこの状況を逆転できる道具は…!)
すぐさま荷物をひっくり返し、現状打破できそうな道具を探すが、どれも効果が薄いか、それどころかこの状況では何の役にも立たない物ばかりだった。
「ああくそ!こんな事になるんだったら消火剤持ってきておくんだった!」
そう叫んでも欲しいものは地面から生えてこない事くらい分かっていたが、叫ばずにいられなかった。炎の向こうでは炎でよく見えないがレックスがメレフに押され、劣勢である状況が見える。
「ぐぁっ!」「あぁっ!」
レックスが攻撃を受ける度にホムラの悲鳴が聞こえる。
(向こうもヤバいみたいだけど、助けに行けねぇ…くそ!何か…)
ソロンは焦りながら荷物を漁ると、あるものが目に止まった。
「これは…!」
「どうした?君の意志の力とはその程度のものか!」
スペルビア最強のドライバー、メレフ・ザハットの猛攻に圧され気味になるレックス。ホムラの炎を上回る火炎を操るカグツチにそのカグツチと巧みな連携が取れているメレフ。伝説のブレイドを要していてもドライバーになったばかりのレックスでは逆立ちしても埋められない差があった。
「くそっ!どうすれば…」
何とか打開策を見出だそうにもそれを許さない程の鞭のようにしなり、動くメレフの猛攻にレックスは歯噛みする。
「伝説のブレイドであろうと、ドライバーがこれではな…。」
メレフは落胆するように呟くと止めを刺そうと剣を構えた。が、
「隙あり!」
「なっ!?」
突然炎の壁から飛び出した影に気を取られる。その影の正体にその場にいる全員が目を見張った。
「貴様は…!」
「ソロン!?」
メレフの攻撃を妨害した影の正体はソロンだった。しかし、全員が驚いた理由はソロンの手に持っている物だった。
「その武器…この土壇場でドライバーになっただと…!?」
そう、ソロンの手には紅く、先端が燃え上がる炎のような形の刀身の剣が握られていたのだ。
「レックス!立て直せ!」
ソロンは鍔迫り合いをしているメレフを押すように力を入れる。この時、ソロンの指輪に光が灯ったが、気付く者は誰もいなかった。
「今だ!」
ソロンが更に叫ぶと、ソロンが飛び出した所とは別の方向から、ソロンと同じ武器を持った白い影が飛び出す。
「二対の武器だと!?」
「メレフ様!」
カグツチが咄嗟にメレフと白い影の間に入り、シールドを張る。白い影はシールドに弾かれるとそのまま剣をソロンに投げ渡しながらソロンの後ろに着地する。白い影の正体は、白一色のスリットを入れたウェディングドレスのような服装で、頬に特徴的な×字の傷が付いた、赤髪でつり目の少女だった。その胸にはブレイドである証のコアクリスタルが青く輝いている。
「私と似たような武器とはな。さっきは驚いたよ。」
「ホムラは渡さない…。」
メレフが立て直すと同時にソロンの後ろにいたレックスも立ち上がる。
「聖杯とか力とか、ホムラをもの扱いしてるお前なんかに…!」
レックスは隣で倒れているホムラに手を差し伸べ、ホムラは差し出された手を握り、立ち上がる。
「ホムラには行きたいところがあるんだ。その気持ちを…お前に閉じ込められてたまるかぁっ!!」
レックスはもう一度炎の奔流をメレフに放つが、メレフは蒼炎の壁で打ち消す。
「出力は向こうが上ってワケか…。」
「みんな、大丈夫か?」
ソロンは忌々しげに呟き、肩で息をするレックスは吹っ飛ばされた他の仲間の安否を確認する。
「な、何とかね。」
「あの二人、すんごく強いも…。」
「どうするレックス?このままじゃ俺達皆仲良くムショ行きだぜ。」
「だよな…このままじゃオレ達…何とかしないと…何とか…!」
トラとソロンの言葉に同意しながらレックスは思考を張り巡らせる。
(あいつの属性は火…火は水に弱い…水?)
一つの妙案が浮かんだのかレックスは辺りを見渡し、何かを見つけた後、頷いた。
「勝算があるのか?レックス。」
「ああ、飛びっきりのがね!皆!あと少し走れるか?」
ソロンの問いに短く答えたレックスはすぐさまニア達に声をかける。
「え?あ、あぁ。」
「よし、来い!」
レックスがそう叫ぶと、防御に割いていたのか蒼い炎が消えた基地の出入口へ全力疾走をして、全員レックスの後を追いかける。ソロンは辺りを見渡し、隠れていたマリーを見つけるとマリーをお姫様だっこして走り出した。
「逃げるか?」
炎を防ぎ、逃げていくレックスたちを見たメレフも後を追いかける。だが、それがレックスの狙いだった。
「ホムラ、最大火力いける?」
「はい!あと二回なら…。」
「十分!」
基地から出たレックスはホムラにアーツの確認をしたあと、すぐさま追いかけてきたメレフに向き直る。そして、メレフが追いついた後、トラ、ニア、ソロンは陣形をとってメレフを包囲するように取り囲んだ。
「いっけぇぇぇぇ!!」
「芸が無さすぎるぞ、少年!」
その直後にレックスは炎を放出するがメレフは先ほどと同じように炎の壁で防ぎ、行き場を失った炎は四方八方に飛び散る。だが、それが仇となった。
「そう来ると思った!ハナ、頼む!」
「リョーカイですも。」
一旦距離を置いたレックスはメレフの背後に目掛けてアンカーを放つ。呼ばれたハナはレックスの隣に来ると、不動のゴンザレスすら引き上げられる怪力でアンカーを引っ張り始めた。
「引けぇぇぇ!」
レックスの声とともに腰を落とし引っ張るハナ。何を引っ張っているのだろうかとメレフがアンカーの先を見るとそこには貯水タンクがあり、その下には支柱が赤く柔らかくなっており、ゆっくりと折れ曲がろうとしていた。さっき防いだ炎が貯水タンクの支柱に当たったのだ。
「貯水タンクだと!?狙いはそれだったか!」
火が使えなくなると無力になる。作戦に気付いたメレフは阻止しようと走り出す。
「させるか!」
「くっ!」
しかし、スペルビア兵との鬼ごっこで培ったソロンの素早さによる辻斬りとホムラの炎、そしてニアのブレイド、ビャッコの咆哮の波状攻撃で思うように前に進めなかった。
「引けぇぇぇぇぇぇ!!!」
レックスとハナが引っ張っていた貯水タンクは遂にバランスを崩し、辺り一面を水浸しにする。
「あぁっ!」
苦手な水により思うように力を発揮できないカグツチが膝をつく。
「うぉぉぉぉぉ!!!」
そこに間髪入れず、水の中でもアーツを放つことができるホムラの炎が迫る。
「しまった!」
メレフが叫んだ直後、貯水タンクがあったスペルビア駐屯基地前は大きな爆発音と水蒸気に包まれた。
一章最後は17時20分に投稿します!