出来ることを探して   作:さすらいのNERW

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どうにも文章が上手く書けなくなったのでリハビリがてら気軽に書いていきたいです。


第一話

――朝。

 

それは学生の敵である。それもただの敵じゃあない。飛び切りの強敵。某RPGで言えば竜王並み、簡単に言えばラスボスクラスの強敵だ。それが毎日必ずやってくるのだ。ゲームならクソゲー間違えなし。何が楽しくて毎日魔王とエンカウントしなければいけないのだ。レベルを上げる暇も転職をする暇もないじゃないか。

 

それに、特に高校生何ていう生き物は古今東西、遅寝遅起きをするのが仕事みたいなものだ。朝を憎む高校生なんて奴は適当に石を投げても当たるくらいそこらにうじゃうじゃと存在するだろう。勿論、俺も例にも漏れず、朝は嫌いだ。いや、起きるのが嫌いだ。寝ている時が一番の楽しみとも言える。早起きは三文得とは言うが、早起きしたところで現金は貰えない。それに三文なんて貰っても現代社会では使うことはできないのだ。それなら、俺はまだ寝ていた方がましだ。寧ろ三文を払って遅起きをする免罪符が買えるなら喜んで支払うまでもある。

 

まぁ俺がこううだうだ言ったところで朝は来る。今日も今日とて人の迷惑を顧みず朝日は昇り、人々は会社に、学校にと行かなければいかないのだ。

 

――もう朝か……。

 

その日もいつもと同じく、目覚ましの鳴る音で目が覚めた。数日前まで暮らしていた四畳半の部屋に比べると倍以上ある大きな部屋、低反発の柔らかいベッドと高級布団の組み合わせは未だに慣れずどこか眠りの浅さを感じる。どうやら、生まれてこの方今までずっと染みついた貧乏性は本能的に四畳半のボロ小屋の様な部屋と綿の薄いせんべい布団を求めているらしい。寝ぼけた頭でそんなバカなことを考えた。

 

眠りが浅いとはいえ、低血圧の気がある俺にとってはこの瞬間が一番辛い。頭がぼんやりとして瞼が勝手に閉じそうになる。少し前の俺だったら一にも二にもなく二度寝を選んでいた。

 

アラームを右手で黙らせ、本能的に『五分くらいなら二度寝しても大丈夫だろう。俺の足をもってすれば全力疾走をするという前提であと十分はいける。流石に今日も寝坊して遅刻するのはまずい。だがしかし、眠いものは仕方がない。こういう時は寝るに限る。勇者もたまには魔王に負けていいのだ。それに睡眠欲は食欲性欲に次ぐ人間の三大欲求なのだ。その欲求に負けて何が悪い、いや何も悪いことはない』と脳内で長い言い訳をして二度寝をしていた。

 

しかし、ここ数日そう言う訳にはいかなくなった。

 

――…………起きるか……。

 

柔らかいベッドに少しの名残惜しさを覚えつつも体を起こし、その足でカーテンを開ける。前の家とは真逆で日当たり最高のこの部屋ではカーテンを開けた瞬間に一目で今日の天気が分かる。

 

汚れ一つない大きな窓の向こうには、バケツ一杯の青い色絵の具を特大の画用紙にぶちまけた真っ青と言う言葉を体現したような綺麗な秋晴れが広がっていた。今日も今日とて天気はいいらしい。

 

新鮮な朝日を浴びながら大きく一つ伸びをする。固まった筋肉が伸び、一気に血行が良くなる。まだまだ眠さは残るがこれで動ける。

 

 

――さて、着替えて準備するか……。

 

清々しい日光のもとこんなことを考えている最中だった。ガチャという何とも嫌な音が聞こえてきた。気になって音の方角を見る。窓とは反対側、聞こえてきた方角には一枚の扉。

 

――何で鍵が開いてんの?

 

おかしなことに昨日の夜寝る前に閉めた筈の鍵が今では何故か開いていた。もしかして、夜中トイレに行った時に閉め忘れたか、一瞬そんな考えも脳裏によぎったが直ぐに昨日はこの部屋から出ていないことを思い出た。

 

――ん? まさか閉め忘れた?

 

最近眠りが浅いし、もしかしたら鍵を掛けたと思い違いをしていた可能性もある。そんなことを考えながら内心首を捻っていた時だった。

 

ガチャリとドアノブが回る音がしたと思ったら音もなく扉が開かれた。

 

「げっ! 兄貴、何で起きてるの!?」

 

入って来たのは一人の少女。芯の強さが分かる大きな目に、すぅっと通った鼻。顔は身内の贔屓目に見ても整っていると言っていいだろう。特徴的な姫カットのロングヘアは生絹のようにしっとしとした光沢があり、朝日を反射する。もはやトレードマークとなっている黒いリボンでツインテールにした髪型の彼女はまだ朝も早いと言った時間だと言うのに何故かすでにメイクを済ませ、制服を着ていた。

 

「いや、何でも何も普通に学校あるしな」

 

驚愕の色を浮かべている彼女に突っ込みを返す。

 

今までの俺なら後三十分は布団の中だが、それは威厳を保つために言わないことにする。

 

「……くっ、起きる時間間違えたわ。……まぁいいわ」

 

ぼそぼそと何か言ったと思ったら、

 

「おはよう、兄貴。いい朝ね」

 

急に切り替えた様な顔でそんなそう言ってきた。

 

「おう、おはよう、二乃」

 

さて、ここらでいい加減目の前の彼女についての説明をしておこう。彼女の名前は二乃。もうここまでの会話で分かっていると思うが俺の“妹”の内の一人だ。

 

「ところで二乃。一つ聞いていいか?」

 

さて二乃の簡単な紹介も終わったことだし気になっていたことを聞いてみる。

「何かしら」

 

「何でお前俺の部屋の鍵持ってんの?」

 

「…………」

 

二乃の手には銀色に光る小さな鍵。始め聞こえたガチャという音の正体と昨日閉めた筈の鍵、そして二乃の手にある鈍色の物体。それらが示すことはたった一つの真実だ。

 

「い、いやーあれよ。私、この家の料理当番じゃない!? だから、一番早く起きるのよ! だから寝坊することはないの! 兄貴も知っての通り、ほらあの子達って寝坊する子も多いでしょ! だから、パパからそれぞれの部屋の鍵を貰ってたのよ! ほら、寝坊して遅刻するといけないから!」

 

「……………」

 

「ほ、本当だからね! これだけは信じてよ!」

 

「いや、別に信じていない訳じゃないけど、起こすにしても時間はまだあったんじゃないか?」

 

そう言って壁に掛かっている時計を見る。この清潔で高級感ある部屋には似つかわしくもないボロく安っぽい掛け時計は前の部屋から持ってきた数少ないものの一つだ。今にも止まりそうな時計はまだ七時にもなっていない。

 

「……いやーこれはあれよ! 実は兄貴に頼みたいことがあって」

 

「ん。何だ?」

 

「朝食を作るのを手伝ってほしくて」

 

頼みと聞いて少しばかり身構えたがなんてことはなかった。可愛い妹の頼みだこれくらい訳ない。寧ろ今までずっと二乃が食事当番だったことが可笑しいのだ。

 

「あぁ、何だそんなことか、いいよ。勿論。俺も手伝うよ。何なら当番制でもいい。俺は二乃のように上手くはないけど」 

 

二乃の料理の腕は本物だ。俺も一人暮らしの経験とバイトの都合上、一般的な高校生には負けない料理の腕を持っていると自負しているが、二乃は俺と同じかそれ以上のものがある。特にお菓子作りに関していえば俺なんて歯牙にも掛けないレベルだ。つい先日食べる機会があったが本当に店頭に並んでいても可笑しくないレベルのお菓子を作る。

 

「いや良いわよ。たまに手伝ってくれたら」

 

「そう言う訳にはいかないだろ。俺も幸いに少しは料理が出来るんだ。だから、料理は当番制に――」

 

俺がここまで言いかけた時だった、

 

「――だから、良いって兄貴。料理は好きでやっているんだし! それに、もう兄貴におんぶにだっこだった私じゃないのよ。だから、兄貴は手伝ってくれればいいから!」

 

彼女はそう言って俺の言葉を遮った。

 

――成長したなぁ、二乃……

 

姉妹の中で一番泣き虫の癖にいつも強がって泣いていた二乃はもういないようだ。嬉しいような悲しいようなそんな気持と、何と言葉にしたらいいのか分からない気持ちが一緒に芽生える。

 

「そっか……じゃあ料理は基本的に二乃に任せるか……。まぁ俺もたまには作るからさ」

 

「うん、それは楽しみにしてる」

 

そう言って笑う彼女の笑顔はとても綺麗だった。本当に少し見ないうちに成長したもんだ。

 

「で、二乃、それはさておき」

 

「ん? 何かしら?」

 

「俺の部屋の鍵くれ」

 

「え? どうして」

 

最もな俺の意見に二乃はどういうことか分からないと首を傾げる。首を傾げたいのは俺の方だ。

 

「いや、どうして俺の部屋の鍵を二乃が持っているかは分かった。でも、見ての通り俺は起きるのは早い。だから、寝坊の心配はない。だから鍵をくれ」

 

「ダメよ」

 

俺の懇願は僅かコンマ二秒もかからず切って捨てられた。

 

「どうしてだよ?」

 

「どうしても何も何で鍵を掛ける必要があるのよ? 何か見られて困るようなことでもあるの?」

 

そう言った二乃の口端が僅かに上がるのを俺は見逃さなかった。間違いなく二乃は分かっている。分かったうえで言っている。

 

健全なる男子諸君なら分かってくれると思うが、男子高校生の部屋に鍵は必須だ。今のように鍵はあるが勝手に誰かが入って来る状況は非常に不味い。今日のように寝起きならまだいい。男子は基本メイクも何もしないのだし、見られて困るようなことはない。しかし、ことの途中ならどうするっていうんだ。俺に死ねと言うのか。もしもの時はその日の内に首を吊るか、国外逃亡の二者択一だ。男は何を見られても問題ないようなことを思われているかも知れないが、俺は日本男児を代表して一つ言わせて貰おう、ナニを見られた日には男子は死ねる。女性が着替えを見られるのと同じレベル、いやそれ以上に死ねることだと俺は個人的に思っている。男子諸君なら同意してくれるだろう。

 

「い、いや……それは」

 

そう言い澱んだ時点で俺の負けは決まっていたのだろう。

 

「じゃあ別に私が持っててもいいわね。……というか私以外にも持っている人いるし……」

 

後半はごにょごにょと何を言っているのか分からなかったがどうやら二乃は鍵を渡すつもりはないらしい。それは非常に困る。死活問題だと言っていい。

 

だからこそ、二乃を言い丸めようと口を開こうとしたその時だった。

 

「それよりも兄貴、妹が久し振りに制服姿を見せるのよ、何か感想はないの?」

 

俺よりも先に二乃が音を発した。

 

「あー……」

 

そう言って再び俺は二乃を見る。見慣れない黒を基準とした制服はここら一帯では有名な女子高のものだ。転校初日の本日、制服が届かなかった彼女たちは前の高校の制服で登校するらしい。

 

「とっても似合ってるよ」

 

語彙力のない俺ではそれ以上に言葉が無かった。しかし、その言葉に嘘はない。事実久しぶりに見た黒薔薇女子学園の制服は彼女に似合っていた。

 

「――及第点ね。明日はもう少しうまく褒めなさい」

 

自分で感想を求めたというのに、彼女は直ぐにくるりと踵を返すとすたすたと歩きはじめる。

 

「ほら、早く朝食を作るわよ」

 

部屋から出ていく前そう言った彼女の横顔は確かに真っ赤だった。

 

「はいはい、明日はもっと上手く褒めますよ」

 

「――――っ馬鹿」

 

去り際の言葉は俺に届くことはなく何処かへ消えた。

 

こうしてある晩夏の一日は始まった。

 

――あ、結局鍵貰いそびれた……。

 

どうやら二乃は少し見ない間に綺麗になっただけではなく、手ごわくなったようだ。

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