出来ることを探して   作:さすらいのNERW

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第二話

台所に二乃と並んで立つ。少し前まで住んでいたボロアパートの台所とは比べるのも烏滸がましい広さのそこは俺と二乃が並んで立っていても全然余裕があった。寧ろ後一人二人増えたところでまだなおスペースがあるのではないかと思える。流石は超高級マンション、台所一つとってしてもスケールが違う。

 

「今日は何を作るつもりだ?」

 

先日新調した青いエプロンをつけ、二乃に聞く。

 

「んー、今日は時間もあるし、和かな……」

 

そう答えた二乃の前には既に一つ鍋があった。火にかけられた鍋の中には水が見える。どうやら、味噌汁でも作る気のようだ。

 

「なるほど、了解した。では、何をつくればいい?」

 

「ぶっちゃけ、兄貴の料理スキル知らないんだけど、何が出来るの?」

 

てきぱきと作業をしながら二乃は聞いてくる。段取りだけでも分かるくらいに二乃は料理になれていた。

 

「一人暮らししてたのと、バイトの関係上そこそこ何でも出来るぞ。まぁ、和食なら卵焼きでも焼こうか?」

 

「出来るならお願い」

 

「一応メニュー聞いてもいいか?」

 

俺の問いかけに二乃は冷蔵庫を開けて少し唸った後に、

 

「そうね、今日は味噌汁に卵焼き、それにベーコンでも焼いて……ついでにサラダ。うん、これでいきましょう」

 

「OK、了解した。では俺は卵焼きとベーコンで」

 

「じゃあ、私は味噌汁と、サラダね」

 

そう言って二乃は冷蔵庫から未開封の卵1パックと、ベーコンを手渡した。

 

「任せてくれ」

 

そう言って笑いながら材料を受けとった俺を見て二乃は、

 

「本当に兄貴って変わってないわね」

 

そう小さく呟いた。

 

その言葉に何も言えなくなった俺は気を紛らわせるために材料に向き直るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、二乃」

 

二本目の卵焼きを巻き終えた時だった。ふと、二乃に気になっていたことを聞いてみた。勿論口は動かしても手は止めない。何故かあった出し巻き用のフライパンに油を塗り直す。

 

「なに兄貴?」

 

二乃はチラリとこちらを見る。しかし、こちらを見ても作業を止める気はないようで、手はシンクの中でサニーレタスを洗っていた。

 

「いやさ、お前たちって今日は昼間から登校だろ?」

 

今日から確かに我が校に転校してくる二乃だが、転校初日ということもあって登校時間には余裕があったはずだ。少なくとも朝一ではなく、昼間に学校に着けばよかったはずと、二乃に聞く。

 

「そうだけど、それが?」

 

「いや、全員分の朝食作ってるけど皆起きるのか?」

 

キッチンに掛かっている小さな掛け時計をチラリと見れば七時を少し回った時間帯を差していた。

普通に登校するにはもうそろそろ起きても良い時間だが、今日アイツらは昼から登校、そんな奴らがきちんと起きるのか気になった。

 

ちなみに俺なら起きない。死んでも起きない。朝飯なにそれ美味しいのとばかりに寝ているに違いない。

 

「普段なら、起きないでしょけど、今日は大丈夫よ。昨日皆で決めたから……」

 

洗い終わった野菜の水を切りながら二乃は言う。

 

「決めた?」

 

「えぇ、そうよ。それよりも、言うだけあって上手いはね、卵焼き焼くの」

 

「まぁ、な。それなりにやって来たし」

 

そう答えながら、フライパンを火にかけ、油を垂らす。その序にベーコンのラップを剥がしていつでも焼けるようにする。

 

――やっぱりコンロが多いと便利だなぁ……。

 

ベーコンをフライパンに投入しながらそんなことを考える。思い返すは愛しのボロアパート。狭い台所はコンロが一つしかなく、そのコンロも時たま故障で火の出ない時がある欠陥品。それに比べてこの家では小さな料理屋の厨房並みに広いキッチン。同時に色々と作業が出来て本当に楽だ。

 

「そう……。それと兄貴、一つ忠告だけど、あの子達の制服はしっかりと褒めてあげなさい」

 

サラダを器に盛り終わった二乃が味噌汁の味見をしながらそう言った。

 

――制服をほめる? 

 

「二乃、一体どういう意味だ?」

 

俺の問いかけに二乃は答える気は無いのか、黙って味噌汁の入った味見用の小皿をこちらに差し出す。とりあえず、小皿を受け取り一口。

 

――美味い。

 

それが心から出た感想だった。関東では珍しい白味噌を使ったその味は懐かしくも忘れられない郷愁の味。久し振りに飲んだ味はあの頃を何故か思い出させる。

 

――くだらない。本当に下らない。

 

その感情を切って捨てる。

 

「どう、美味しい?」

 

「あぁ、美味かったよ」

 

「そう、それは良かった」

 

二乃は安堵の笑みを浮かべる。その笑みは昔の面影を確かに持っていて、目の間に立つ彼女が俺の知っている彼女だと確かに教えてくれる。

 

「それよりも、さっきの話だが」

 

その次に出るだはずだった、制服をほめるってどういう意味だ、という言葉は出なかった。ドタドタと会談を降りる音が聞こえたと思ったら、元気なソプラノの声が俺の言葉をかき消したからだ。

 

「あっ! いい匂いがすると思ったらご飯作ってるー!!」

 

威勢のいい声の方角を見れば、二階から降りて来たばかりの一人の少女がいた。ダイニングキッチンであるこの家は台所からリビングまでが一目で見渡せる作りになっている。

 

ピョンピョンとまるで今にも跳ねそうなウサギの耳をイメージさせるリボンに大きくクリリとして目、その声を相まって活発そうな印象をうける少女だった。実際にその印象は間違いではなく、俺たち兄妹の中で随一の運動神経を誇る少女だ。

 

そんな彼女と目が合った。

 

すると途端に彼女は目を細め、破顔する。

 

「兄さん、二乃おはようございます」

 

そう言って大きく頭を下げる少女の名前は四葉。俺の妹の内の一人だ。

 

「四葉、おはよう」

 

「おはよう、四葉」

 

二乃に続いて、四葉に挨拶を返せば、彼女はトテトテと近づくと、くるりと体を一回転させたと思ったら物惜し気にこちらに視線を投げかける。彼女の恰好は普段着ではなく制服。黒を基調としたその制服は少し前に見たことのある有名女学院のもの。

 

――なるほど、そういうことね。

 

鈍い俺はそこでようやく二乃の言葉の意味に気付いた。

 

「よく似あってるな、四葉」

 

どうやら俺の回答はあっていたようで四葉一瞬にして、顔をほころばせる。

 

「あはははは! 兄さんに褒めて貰いました! 女子の見たことのない制服姿を褒める! 中々兄さん分かってますねっ! 四葉ポイントを10点差し上げます!」

 

――まぁ、二乃からの忠告のお陰なんだけどな……。

 

ニコニコと笑う四葉の手前言えない本音を飲み込む。きっと、あの二乃の言葉が無ければ、制服についての言及はなかったどころか、何故早くから制服を着ているのだろうと首を傾げたに違いない。

 

感謝の意も込めて視線を二乃に投げかければ、彼女は味噌汁をよそいながら流し目で一つウィンクを投げてきた。どうやら、気にしないでということみたいだ。心強い妹だ。

 

「ちなみに兄さん、四葉ポイント二ポイントで一日私とデートできる権利が貰えちゃいます! 凄いですね! いいですね!」

 

「はいはい、それは凄いポイントだな」

 

ここ数日で聞き慣れた言葉を適当に往なす。妹とデート出来る権利なんて貰って嬉しい兄なんていないだろう。いれば非常に問題ありだ。人格とか社会性とか……。

 

ちなみによく分からん四葉ポイントなるものはこの三日で三桁に達するくらい溜まっていた。使いどころは目下のところ皆無なのでただ増えているという状況だ。

 

「こら、四葉。階段をそんなに走って降りると危ないですよ」

 

そんな声が聞こえて来たかと思えば階段から少女たちが降りてきた。先頭は長い髪にトレードマークのヘアピンをつけた五月。その後には眠気眼の三玖、そして、その後ろにはショートヘアがトレードマークの一花。

 

「おはようございます、二乃、兄さん」

 

「おはよう、二乃……にーさん」

 

「おはよう、お二人さん!」

 

五月、三玖、一花の順に挨拶をしてくれた。出来上がった朝食を皿に盛りながら、それぞれに返す。

 

「ねぇねぇ、聞いてください、五月! 兄さんに制服褒められちゃいました!」

 

そう言って自慢するように笑う四葉を見て、なるほどこれはそういう事だと察する。ここまで来て全員が同じ制服を着ていればいやでも流れは読めてしまう。

 

――あぁ、全く柄ではない。

 

苦笑いが零れそうになるのを我慢して、リビングでこちらを見ている三人の少女に顔を向ける。髪型以外は似ているというよりも”似すぎ”ていると言った方がいいそっくりな顔。いや、三人だけではない、この部屋にいる俺以外の少女の顔がまるで鏡映しの様に似ているのだ。

 

一花、二乃、三玖、四葉、五月。

 

そう、俺の妹は世にも珍しい五つ子だ。

 

それぞれの紹介をしたいところだが、それはまた次の機会にさせて貰おう。

 

先ほどから三人の少女がこちらを期待した眼差しで見ている。

 

まずは、目の前にいる少女に期待しているであろう言葉を投げかけるのが先決だ。

 

――全く柄じゃねーな。

 

少しの躊躇と多量の本音を頭の中で整理して、口にし慣れないお世辞というのものを言うのだった。

 

――全く朝から疲れた一日だ。

 

学校に向かいながらそう胸の中で吐露したことはここではまた別の話で、授業中に明日、また新しい制服になる彼女たちのことを思い出し、気を重くするのはさらに別の話である。

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