その日、新たに冒険者が一人誕生した。 名前は『ティア』年齢は二十歳を迎えたばかりでまだ幼い少女さを残しつつ国から冒険者としての振る舞いを認められ、材質はプラスチック製の厚み一センチ程の真っ黒カードを渡されようやく本人の夢であった冒険が出来ると浮かれたまま、市民、国をまとめる人々から依頼が入り込む酒場であり、依頼所へ足を運んだ。
「すいません、今日からよろしくお願いします」
肩までかからないほどの淡い青混じりの黒のサラサラした髪の少女ティアは深々と頭を下げ受付に立つ正装であるスーツを着た大人びた女性の微かに笑う声が聞こえ顔を上げ、深紅の瞳をぱちくりさせた。
「珍しい新人が来ましたね。 最近の子はそんな丁寧な態度見せたりしないのに」
「そうなんですか? 相手の方を敬うのは当然だと思ってましたが……私の故郷皆さん歳上で、同い年の子いなかったからあまり詳しくないんですよね…あはは」
私の故郷『ファレスト』は人口五十人程で、今いる城下町『ニルスルフ』の五倍以上小さいが、皆顔見知りで困った時はすぐに助け合える関係である。 あくまで生活範囲内の手助けであり、外にいる外敵の駆除は困難を極める。
そこで町を守ってもらう為王国の騎士が月替わりで、三名ほど護衛をしてくれている。
騎士の方々は規律正しく、私達市民の願いも真剣に聞いてくれ解決策を考案し、一緒に解決してくれる。 同じ目線で物事を判断してくれて信頼もとても厚い。
そんな憧れな騎士の道では無く、もっと身近な存在である『冒険者』の道を選んだ。
……言い訳をすると単純に騎士になる試験でお金と知識が大いに必要で……。
もっと経験を積んでから受けるつもりではあるよ?
「あっ、まずは冒険者証明のカードが必要でしたね」
袖の付いてない白のワンピースから出ている腕は色白というよりも少し小麦色に近く右の二の腕付近には冒険者登録を済ませた者なら、手にしている命の次に大切な『タンマツ』をベルトで固定していた。
固定したまま画面の明かりをつけると見ずに左手の人差し指でスライドさせ、画面をタッチすると右の手のひらに受け取ったばかりのカードを渡し、受付の女性はタブレットタンマツと呼ばれる、ティアよりも約二倍ほど大きな液晶で情報を確認していた。
ティアは不安と緊張で胸いっぱいだったが話をしている内に解れたのと、依頼所から隔たりもなく十歩ほど歩けばある酒場に集まる他の冒険者の雑談の空気ですぐに場馴れした。
酒場へ入り目を配ると、やはり故郷では指で数えられる人数しかいなかった、人間と魔物のハーフや魔物の血のみの人型が、チラホラ見受けられ昔本で読んだ内容を思い出していた。
この世界には女性しかいない。 正確には魔獣や獣にはオス、メスが存在はしているが人間、魔物はメスしか存在していないらしい。 もしオスが存在しているなら世界中大騒ぎになる事間違いなしと言っていいほどの存在である。
「はい完了しました。 ティアさんに合った依頼を確認しましたが…少し遅かったみたいですね」
「え? どういう意味ですか」
言葉の意味が分からず首を傾げる。
「正確には旅の経験があれば五件ほど紹介できるのですが、未経験という内容なので二人以上から受託出来る依頼を検索したのですが……全部埋まってまして」
「えぇー! 今から合流とかって出来ませんか?」
「………ちょっと厳しいですね」
「そうですか……どうしよう。 折角人助けが出来ると思ったのに…」
初日の旅が許可を貰って終わりにはしたくないのと、今すぐに困ってる人の依頼を一目散に解決したい思いが重なり顎に手を当て悩んでいると。
「あれ『アモル』さん今日も一人ですか?」と受付の女性がティアの横に視線を送っているのに気づき顔を向けると鼻と鼻が密着する距離まで近づけてきていた顔がすぐ目の前にあった。
「ふわああっ!?」
慌ててパーソナルスペースをとり慌てているティアに対し白銀の長髪の女性は表情一つ変える事無くじっとバイオレットカラーの眼を向けてきている。
「あ、あの私に御用ですか……? あっもしかして時間かかりすぎてお邪魔だったとか…」
「…………受付嬢」
膝までかかるロングコートのポケットから銀色のカードを出しまた目を合わせ無言で受付へ合図を送った。
「え、アモルさんが…珍しいですね」
「…………」
状況が理解できないままどうやら話が進んでいるようで恐る恐る横に並び受付のタンマツを見ると『ティア アモル 依頼開始』の文字が表示されていたと同時に、ティアのタンマツにも表示されたが本人は気づいていなかった。
「?え?」
「ティアって言ったわね……私が同行するわ。 旅の支度は出来てる?」
ようやく会話が開始されたのはいいがやはり脳が追いついてない。 このアモルと呼ばれる大人びた女性は何処かで会った記憶もない。
「人助け…したいんでしょ?」
ポツポツと喋る声は冷たいとも感じ取れるが冷静さも備えてるとも取れる。
今の言葉で背中を押された様な気がしティアはブンブンと縦に首を振り合意を示す。
「はい!!」
「…………」
表情を変えぬまま背を向け出入りする扉へ脚を運ぶ背中に置いてかれぬよう足早にティアはついて行った……。
──────────
城壁と人混みを抜け街の外に出ると時刻は昼過ぎを迎えていた。 日差しはさほど強くはなく風が心地よく身体を抜ける。
二の腕にあるタブレットを指で操作しながら歩いていると前を歩いていた足音が止まり振り返ってきた。
「………ごめんなさい」
意外な言葉にキョトンとしてるといきなり頭を撫でられた。
「私…あまり人と話すの慣れてなくて…極度の人見知りなの」
タブレットの操作をやめたと同時にティアの両手には至ってシンプルな短剣が二本握られていた。
「謝らなきゃいけないのはこちらですよ。 それとお礼もですね、誘って頂きありがとうございます」
腕を前に持っていき丁寧に頭を下げると先程まで見せなかった困った表情を浮かべていた。
「顔を上げて……一つだけ質問させて…ティアはどうして冒険者になろうとしたの?」
「? 困ってる人がいるから依頼がある。 場所も人も関係なく手を差し出せるなら私は助けたいと思っていたので…」
「それが悪に手を貸しているとしたら?」
「私が善に変えます!」
ガッツポーズをする姿に「………ぷっ」っと吹き出すような動作を見せすぐ様真顔に戻る。
「ティアほど…気楽に冒険してる人いないわ…」
「そうなんですか?」
「みんな自分の名誉の為とか…金の為とか…人間らしい妄想でいっぱいよ」
「アモルさんはそういう考えの人が嫌いなんですか? 私はそれは目標があって素晴らしいと思うのですが…」
「アナタは純粋なのね……羨ましいわ」
そう切り捨てるように吐き、会話は途切れまた歩き始めた。
ティア自身思った事を口に出すと村にいた人達から天然やら言われていたので今の発言に対してさほど気に止めてなかった。
アモルと呼ばれるこの女性はどうして同行してくれているのか、年齢は、好きな食べ物は? と彼女の事を知りたくて堪らない。
しかし、素性を聞くには自分を知ってもらはなくてはと、横に並び口角を上げ声をかける。
「あの、私……」
──────────
「着いたわ…ここが
結局喋っているのを無言で聞いてくれただけで終わったが嫌な顔せず、ずっと耳を傾けてくれただけで嬉しくなる。
気持ちを切り替え、目の前に広がる薄暗い森を見てこれまでの村での暮らしを思い出す。
「
ボソリと呟いた言葉にアモルは表情を曇らせた。
原理は詳しくない。 知っているとすれば、魔獣の影に入り薄暗い目の前にある森林や洞窟に逃げ込み目的もなく暴れ人に危害を加えたりしている。
「今私達のいるこのエリアは人間が築き上げた大陸。 ……人間、魔物、魔女で三つでエリアが区分されてるのは知ってるわね?あっ……」
鞘に納めた太刀を握っていた左手から指を立て「長くなるわ…」と言う言葉に頷く。
「……私やティアが生まれるよりも…はるか昔…影にも感情があると謳って魔女達が実験をしていたのよ…」
「? 影って今太陽に照らされて地面にある影ですか?」
指をさした先にある固まった土や岩が転がる地面に映る影を指す。
「えぇそれよ…。 影を実体化させようと実験を行ったが失敗に終わり装置や大陸の三分の一が崩壊…今でもその実験から溢れ出た残りカスが…空に舞って……」
「人間や魔獣の影に入り込み好きに暴れてるんですね…」
「そう……」
「魔女の方々はどうしてそのような考えに至ったんですかね? 人間や魔物と戦争をしていたわけじゃないですし…」
「言わば見栄を張りたかったのよ。 一番寿命の短い人間にね…」
「本来画期的な発想を起こすのは魔女の取り柄なのに……人間は次々と取り柄を奪う存在になった……そのタンマツも元は人間が作ったものだけど…今では魔女が取り締まってるわね…あくまで管理してるだけで内部は魔女でも踏み込めないけど」
「一説によれば生き物の小さな憎悪嫉妬で影は動いてるんじゃないかと…最近は聞くわね…」
争いの火種は私達自身の感情から生まれたと言わんばかりに説明を終えたアモルは、胸に下げていた太陽光で蒼く光り輝くペンダント『ペンデュラム』から金属で出来たボトルを取り出し喋り疲れた口に運ぶ。
(高等戦闘技術と高い知能が必要で今では使う人がいないペンデュラムを扱ってる…)
「………珍しい…わよね。 今ではティアが使ってるタンマツが基本なのに」
「アモルさんは何年くらい冒険者なんですか」
「五年かしら…私は…ティアみたいに勇気がない人間だから…よわ──」
言い終わる前に首を横に振りティアはボトルを戻してすぐの右手をとり目をキラキラさせていた。
「物知りで扱える人が数少ないペンデュラムも使うアモルさんはとっっても強いひとですよ! そしてとっっっても優しいっ!!」
「…誰も見てないとはいえ……恥ずかしいわ」
頬赤らめたアモルの顔を見て慌てて離す。
「ごめんなさいっ!」
口角を少し上げたアモルはまた頭を優しく撫でた。
「…………さぁ行きましょ」
「は、はい!」
──────────
狼の
「……ちょっと見せて」
「あうっ」
強めに左手首を掴まれマジマジと両手に握る短剣を数秒見られ手が離れる。
「親指側に刃を向けるのも珍しいけど、瞬時に剣を交換したのね…道理で……」
「タンマツがコンマ五秒で武器の交換出来ますから…常に備えないと何があるか分かりませんし」
「手入れは自分でしてるの?」
「職人の方に比べたら下手ですが、やっぱり自分の武器ですから」
「………愛を感じるわね。 それと……魂が」
「へ?───うわっ!?」
突然の横殴りの突風に身体がふらつき前に倒れそうになったがアモルが胸で支えてくれた。
「ありがとうございます」と自分で立てるのを教え埃がついてないかスカートを叩いているとアモルが険しい顔で口を開いた。
「ティア…今のはスリよ」
「すり? …泥棒ですか?」
「私には風はきてない…そして木々にもよ…」
剣は持っているから盗まれていない。 となると…タンマツが忽然となくなっていた。
「………あはは。 困ってる人がいたんですね」
「どうしてアナタは……私が先に追うから見失わないように着いてきなさい!」
太刀を強く握った手と連動して険しい顔が怒りに変わったアモルは目の前から一瞬で消え去り森の中から微かに聞こえる足音を元に遅れまいとついて行く。
「今アモルさん消えたよね…? 忍者とか?
まってくださーい!」
アモルは魔法の『
「見つけた…! 薄汚いネズミがっ!!」
背中を捉え踏み出した右脚に縄を投げ絡める。
「うぐっ!! な、なんだ!?」
頭部に左右犬の耳を生やしたボブショートでブルーベージュ髪の人物がうつ伏せ転んだと同じタイミングで左腕を振り上げ得物自らが意志を持つかの如く回転し──
「ひっ!!」
犯人の横を掠め、鞘に入れたままの太刀が地面に刺さりそのすぐ前で犯人は悲鳴を上げた。
魔法を止め背後から気配を消して近づき背中を踏みつけるアモルに下で呻き声と共に骨が軋む音が聞こえる。
「返せ…」
「っ…!がぁぁ!!」
「その汚い手で握ってる物を離せっ!」
「わ、わがった……! ほらごれで……」
爪の長い手からティアのタンマツが遠ざかったのを目で追う。
「………」
しかし足の力は尚更強さをマシ呼吸が難しくなり地面には爪跡が何度も残る。
「も、もういいだろっ!!」
「ドブネズミが許してもらえる訳ないでしょ…まずはその爪を全部剥がして貰おうかしら…」
「ふざけ…!」
目の前にあったはずの太刀がアモルの手に握られていたのに気づかず鞘に納めたまま振り下ろされた。
森に響き渡る悲鳴と共に右手が無残にも砕かれた。
「残念だけどその声は私の魔法でかき消しておいたわ…そのタンマツの持ち主は優しいから…きっとネズミのお前を……許すだろうけど……まだ姿を見てない今消せば………」
「ゆ、ゆるして……くだ」
顔は蹲って見えないが痛みの涙でもあり怯えの涙を流しながら地面を濡らす。 恐怖で歯が何度もぶつかりあうせいでまともに喋れなくなっていた。
「許しをこえば見逃す……アナタそれでも魔物のハーフなの? その耳は犬じゃなくて猫だったのかしら?」
「ごめん………ごめん……なざ」
声を聞くだけで不快なのかアモルは瞳の奥で憎悪を滾らせたまま後頭部へ太刀を振り下ろそうとした────
「アモルさんアモルさん! はぁはぁ…やっと見つけましたよ〜」
額に汗をかき息を切らしたティアが笑顔で木々を分けて姿を現した。
偶然にもティアは尻もちをついて目をつぶり空を見上げていた。
「っち…ティアに感謝しなさい…」
魔法『
状況が分からないティアは息を整えタンマツを拾い上げ状態を確認せず怯える彼女の元へ近づいた。
「あのどうしたんですか?」
「あ、悪魔っ!! 悪魔を仲間にしてるのかお前はっ!!?」
「落ち着いて下さい…襲ったりしませんから」
頬にティアの手が触れ乱れていた呼吸と心拍数を落ち着かせようと唾を何度も飲み込む。
後ろでアモルが証拠隠滅の為か飛び散った血が地面に残ってないか探している最中でも鋭い目つきが彼女の胸に刺さる。
ティアの手首を強く握り爪は食い込み、出血させていたのも気づかないまま時間は経ち三十分経った頃には血の気が戻り手を離し顔と頭の左右に生えた耳を伏せていた。
「タンマツとその傷…ごめん…どうしてもお前のタンマツが欲しくて…」
「困ってたんですよね? 気にしないで下さい。 でもこれ本人じゃないと操作は出来ないんですよ」
「そうだったんだ……ごめん」
「もう謝らなくていいので元気出してください」
「あ、あぁ…」
腰が上がらないのに同じ目線で合わせて膝を地に着いたティアをゆっくりと見ると眉を顰めるどころか、上げ明るい笑顔が迎えてくれた。
「アンタ優しいんだな…迷惑な事したのに笑顔なんて」
「理由なく盗みをする人なんていませんから、困っていたって理由が分かったならそれで十分です」
「………相手を間違えたなアタシ」
土を踏む音と影が入り込み顔を上げる。
「………」
(こいつ何者なんだ……?)
冷酷無情の顔を貫くアモルと目が合うだけで身体を切られた感覚に陥りまた震えそうになるが堪える。
「名前教えてくれませんか?」
「……
「アミさんですか、見た目の可愛さとマッチしたいい名前ですね!」
「はっはぁ!?」
「私はティアって言います。 こちらのコートを着た方が」
「アモルよ……ねぇティア…そろそろ依頼を終わらせて帰りましょう」
「依頼はここに到着する前に終わらせたましたよ」
タンマツの画面を明るくし『依頼達成』の文字を見せる。
「…………その腕以外、怪我とかしてないの?」
「大丈夫ブイです!」
ティアと話している時の目は普通だがやはりアミには冷たい。
「アミさん私と仲間になりませんか?」
「! 何言ってるティア……! コイツは……!」
「悪い人じゃないですよアモルさん。 ちゃんと謝罪してくれて名前まで教えてくれましたから。 それとアミさんの身体能力に惚れ惚れして追いかけてる時から仲間になってくれないかなってずっと考えてました」
「どうしてそんな甘いのティアは…!」
「また悪事に手を染めようとしたら、私が解決します」
言いくるめられアモルは口を閉ざす。
外見と思考両方が幼いティアに手を焼くアモル達の姿を見て力んでいた身体の筋肉が緩んでいた。
「ティアって言ったな…よろしくな。 アタシには固い口調しなくていいからさ」
手を差し出すとティアの顔が見る見るうちに満面の笑みに変わり握手を交わす。
「よろしくねアミちゃん!」
「……………その"ちゃん"は止めてくれると助かる」
──────────
三人で森を抜け街に帰り依頼を報告した時には夕日も落ちて夜を迎えていた。
「ありがとうございましたアモルさん」
「別にいいわよ…それで…何だけど」
視線が落ち着かない素振りを見せるアモルを後目にティアはアミにもお礼言いこの後泊まる宿の話を始めた。
「いや、待てよティア。 アモル…さんが」
「あ、ごめんなさい。 まだ用がありましたか?」
振り返ると目のハイライトが消えたアモルが肩を掴みティアを揺らしていた。
「………ちょっと待って。 ティアの仲間ってその猫女だけなの? 私は?」
「アアアモルさんは、私に合わせて付き合ってくれた人では?」
「……先輩冒険者が同伴して終わりって事?」
ピタッと揺らすのを止め微笑むティアを見て愕然とした。
(今日一日仲間と思われてなかった…? あんなにもティアを教えてくれたのに…??? どうしてティア…!!)
「どうすんだよ」
「まさかアモルさんみたいな憧れの冒険者が仲間になってくれるとは思ってなかったから…」
「な……仲間になるわっ!!」
「うわぁ!」 「ひっ!」
今日一番の大きな声に驚きと怯えの声が重なったが気にせずティアを抱きしめる。
「私の勘違いで一日終わるのは…流石つらいからティアの仲間になる!」
「く、苦しいでしゅ…それとよ、これからもよろしくお願いしましゅアモルさん」
アモルの体つきがいい為、あまり筋肉のついていないティアは圧迫され昇天しそうになっていた。
「盛り上がってるけど宿どうする?」
「……私には一人で暮らす家があるから今日からそこに…住んでいいわよ」
アミに声をかけられいつもの口調に戻ったアモルは離れ「案内するわ」と背を向けた。
────────
四人家族が住んでもまだ余裕がありそうな外観レンガ造りの家の扉を通ると物はあまりなく質素だがアモルらしいとも取れる雰囲気があった。
「寝室は四つ二階にあるから…お風呂は一階の真っ直ぐ行って突き当たりを右よ」
「本当に暫くの間お部屋お借りしていいんですか?」
「気にしないで、一人で暮らすにも余っていたから」
見つめ合う後ろで腰から生えた狼の尻尾を上げ左右に振り目をキラキラさせているアミは羽織っていたコートを脱いでいた。
「久々の風呂に入れるのかー! 屋根がある布団で寝るのは何ヶ月ぶりか覚えてないなー」
更には頭を左右に振り浮かれていた。
「犬は最後に入りなさい…」
「狼だって言ってるだろっ! 」
「アモルさん先にアミちゃんを入れてあげてください…流石に辛いでしょうから」
「分かったわ…でも」
突然魔法の
「な、なんだよこれ!? おい!!」
「ペット用の首輪…」
「ふざけんなっ…よ…?」
歯に力を入れようとしたが逆に抜けていきその場で膝をおってしまった。
「住んでいる間は…それをつけてなさい…はいお手」
「わん。……って何させんだよ!」
変な力が働いてるとは分かり外そうとするがどう引っ掻いても取れない。 今よりも恥ずかしい思いをさせられまいと抵抗していると首輪ごと身体を引き寄せられアモルが耳元で囁く。
「ティアは…許したけど……私はお前を認めない…変な行動したらティアの記憶からお前を消す…いい?」
「あ、あ、あ…」
「仲良しですね二人とも」
「ティア…明日は目の状態を見てあげるわ…」
押し出されたアミは冷や汗を手の甲で拭い首輪に触れるのはやめようと決心した。
ーつづくー