己の独創力の無さが故です。
オラティオ号の外から漏れる青く、優しげな光に乗員の目は釘付けになった。つい20年前まで地球で生きていた人々からしたら…今目の前に写る光景はとても懐かしく思っていることだろう。
中央委員会と操縦者しか入れない部屋でも、昔懐かしき地球の姿に見惚れていた。その中でワタルは小さく呟いた。
「本当に……帰って来たんだな…」
ワタルにとってはこの地球への帰還はまだ数年くらい宇宙を彷徨ってから帰ってきた感じしかしなかった。それもそうだろう…。この艦に乗っている人たちのほとんどは冷凍睡眠装置で20年中10数年という眠りについていた。時間の感覚が変になってもおかしくはないだろう。
そうやって全ての人間が地球をずっと見ている、その時だった。
艦内に凄まじい轟音と乗員の悲鳴が響いた。艦もグラグラと揺れ、ワタルやカール船長たちの足は覚束ないくらいにふらついた。
「な、何事だ⁈」
カール船長は分析係の者に聞く。
彼らはキーボードを高速でタイピングして、何が起きたのか調査する。のだが、彼らが報告する前に画面にベルドの顔が大きく映った。
「ベルド?何があったのだ⁈」
『…実に言いにくいのだが……』
「何でもいい!何があったんだ⁈」
ワタルが叫ぶと、ベルドは短い金属質の髪を掻きながら言う。
『今の亜空間航行の影響で、動力室の一部が爆発した』
「なっ⁈」
ワタルたち全員が驚きの声を上げてしまう。
そういうことはあるかもしれない……そう思ってはいたが、いざ起きるとやはり驚いてしまった。
「被害状況は?」
『動力部分の約7割が損壊。全システム復旧までの期間不明』
「…やはり…負担が大きかったか…」
カール船長は頭を抱えた。カールだけではなく、カイルもリカもそういう気分だった。しかし、ワタルだけはそれらの報告を聞いても対して大きな反応は示さなかった。
その理由はこの艦の外に見える大小様々な瓦礫だった。
ワタルの様子に気付いたカイルは彼に駆け寄り、「どうした?」と聞いた。
「外に見える残骸……何に見える?」
「アレか?なんか……何かの金属に見えるが…」
「じゃあ…奥に見えるやつは、人間…に見えないか?」
「は⁈」
カイルは窓ガラスに顔が付き、じーと金属の瓦礫の間を見詰める。
ワタルの言う通り、瓦礫の合間に人の形をしたものが浮遊していた。それが人間の死体と分かったカイルは思わず、後ろに下がってしまう。
「ど、どどどどうしてこんな大気圏外に死体が⁈」
「死体だと⁈どこだ⁈」
ワタルはその方向を指差して、船長たちにも伝える。
船長たちもさぞかし驚いていた。あの死体がどこから来たものか…ワタルは冷静に分析した。
「あれは…恐らくアラトラム号の船員だと思われます」
「アラトラム号だと⁈ま、まさか…彼らはゴジラに…⁈」
その発言した途端に、ワタル以外の委員会メンバーは顔を青ざめた。この艦に乗る人たちはゴジラという怪獣の恐ろしさを身を持って体験した者たちだ。
『それなら…今すぐ地球の軌道圏内から離れるのが懸命だ』
「だがベルド代表、動力がまともに動かないこの艦をどうやって軌道から離れさせるんです?」
『それは……』
「それに今地球から離脱は危険だ」
「どういうことですか?大佐」
「俺たちは長い時間をかけて地球に戻ったというのに、また別の星に行くなんて乗員に言ってみろ。どれだけ反対の声が出るか分かったもんじゃない。なら…最初は現在の地球の状況を調査してからの方が賢明だと思います、船長」
カールは腕組みして少し考えたのちに、頷いた。
「…それもそうだな。先に探査艇を数機送ってから地球離脱は検討しよう」
『おい!カール‼︎それでもしゴジラが襲って来たらどうするんだ⁈』
喚くベルドに対して、またリカは反抗的な発言をした。
「決めるのは船長です。あなたではありません」
「っ!」
ベルドは画面でイラついたような表情を見せたが、リカが言ったことが正論だったため何も言い返せずに、連絡を切ってしまった。
ふうと息を吐くリカにワタルはまた溜め息を吐いた。いつになったら目上の人間に対する態度が作れるのだろうかと…。
すぐに探査艇による調査は開始された。
もし…アラトラム号を破壊したのがゴジラなのか、違う何かが原因なのか調べるのが中央委員会の最優先事項だった。仮にゴジラだったとしても、カイルとベルドは共同で作ったという原子化エネルギー砲…とやらで倒せると豪語している。
それも兼ねての調査だ。最初は5機ある探査艇で特定地域を調査する。主な内容はどのような生物が生息しているか、地形、空気中に浮遊している元素、そして…ゴジラはどうなったのか…。
中央委員会の中には長い年月が経ち、あの不死身とも言える強固な身体を持つゴジラは死んだのではないかと予想している人もいた。だがそれは、ワタルからしたらただ現実を受け止めたくないがために、そう言い張っているようにしか見えなかった。
探査艇が地球の大気圏を突入してすぐに、温度で観測された地形情報と音が流れてきた。
「風の音…だけだな」
「もっと高度を落とせないか?」
そうワタルが言うと、探査艇は地表からおよそ100km辺りを滞空し始める。そこで見えた地形情報は、無限に広がる原生林のような形だった。山もあるが、その山も全て同じような木々で覆われていて、元の地球のような色鮮やかな植物があるような雰囲気には見えなかった。
「これ以上は無理です。こちらからの操縦が不可能になります」
「そうか…。文句ばかり言っても仕方ないな…」
しかし、この情報だけで地球に降り立たないというのは言い過ぎだと誰しも思った。
すると、探査艇の年代測定機から、ワタルたちが地球を去ってから何年経ったのかが判明した。
「探査艇からの情報で、地球での経過時間が判明しました。推定するに……およそ20000年…」
「20000年⁈そんなに経ってしまったのか…」
「でも、これはこれで良かったかもしれなかったな。こんだけ時間が経てば、ゴジラも…」
カイルはそう言うが、ワタルは全く釈然としない。
あの怪物が年月の経過だけで死すとはどうも考えられなかったのだ。
ワタルがこの船に乗り、10年経った時、内密に冷凍装置から抜け出して、ゴジラとの戦いの歴史を興味本位で調べた。
だが、その歴史は地獄とも言っていいほど悲惨なものだった。
特にワタルの記憶の中に残っているのは…驚異の自己防衛能力だった。アメリカ大陸にゴジラを誘導させ、150発もの核ミサイルを投下して滅殺しようとさせた作戦も…全くの無になり、逆に人類居住地域が減少するという最悪な結果を生むことになった。
そんな化け物が人間の老衰と同じ要領で死ぬのだとしたら…どれだけ楽なことかと考えてしまう。
「ワタル、1回、数百人単位の人員を連れて、地球に行くとしないか?」
カイルからそのような提案が出された。もちろん、ワタルが断る理由はない。
「そうだな…。どれくらい地球が変わったか、見てみたい。カール船長」
「うむ。300人の人員を選別し、地球に一旦向かってみてくれ。我々はこの艦で待機している」
「……分かりました」
ワタルはそう言って、部屋から出て行く。その後をリカとカイルも付いてくる。すぐにリカはワタルに質問した。
「ワタル大佐、どうしたんですか?そんな表情をして…」
そう……ワタルは自分でも気付かないうちにイラついた表情を作ってしまっていたのだ。それに一早く気付いたリカだった。
「カール船長は明らかにビビっている…。ゴジラという悪魔が生きていることが分かったら…彼らは俺が地球に降り立っている間に逃げるかもしれない」
「そんな!あのカール船長はそんなことを…!」
「あり得る」
カイルはすぐにワタルの考えを肯定した。
「…俺はそれでも構わないがな…。ゴジラを倒せるなら、俺は……」
ワタルの胸中では、ゴジラを倒すことを秘めていた。
そんな彼の姿にカイルとリカは見惚れ、カイルはこの艦にいる乗員全てを騙して連れてきてしまったことに後悔を感じ、リカはというと尊敬の念が更に増していくのだった。