空の魔法使い   作:ほしな まつり

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正しい『転移の泉』の使い方は?、の第十七話


空の魔法使い・17

「説明しろ、って言うならクライン、お前の方だろ」

 

あきれ顔で言い返されたクラインはさっきまでの自分の醜態を思い出して、ふっ、と気まずげに視線を外した。

 

「あれは、その…なんだ……俺だっていつもはあんなんじゃねーぞ。ただ、今日はつい油断したっつーか……」

「『転移の泉』を使う時に何を油断するんだよ?」

「だからっ、地上の『転移の泉』は人間達も普通に泉として使ってるだろ。んーで俺があっちの『転移の泉』のほとりで魔法力を発動させる寸前、後ろから突き飛ばされたんだよ」

「突き飛ばされた?!、一体誰に……」

「いや、あいつは別に突き飛ばすつもりじゃなかったんだろーけど、相変わらず無駄に元気良く『いってらっしゃーいっ』とか言ってたしな」

 

そう話すクラインの声や表情で心当たりの人物を思い出したキリトは「あー」と声を伸ばしたままなんとか名前を思い出そうとして力尽きる。

 

「この前言ってた……鍛冶師の女の子だっけ?」

「おう、そいつがよ『見送りに来てあげたわよ』とか恩着せがましい言い方で泉で待ち伏せしてて」

 

むぅっ、とそれまで二人の会話を黙って聞いていたアスナの唇が前に突き出た。どうしてわからないのかしら?、とついでに眉毛までご機嫌斜めの角度になっている。話を聞く限りではその鍛冶師の女の子はわざわざこのクラインという魔法使いを見送る為に待っていたに違いない。「いってらっしゃい」を言う側は同時に「無事に帰ってきてね」を願ってその言葉を口にするのだ。

それに彼だってその子に自分の予定を話すくらい心を許しているのに……とアスナが見知らぬ少女の気持ちを思いやっている間、当の本人もキリトもその事に全く気づいていないらしく、二人の男性魔法使いはアスナを蚊帳の外に話を続けていた。

 

「それで魔法力の発動のタイミングをミスったのか?」

「ま、そーゆー事だな」

「まぁ、お前くらいの魔法使いならそうそう大事(おおごと)にはならないだろうけど……」

 

消えた声の先にはそれでも少量の心配が漂っていて、それを敏感に嗅ぎ分けたクラインは「ありがとよっ」と笑顔を添えた後、その笑顔に別の意味をにまにまと混ぜ込んでグッとキリトへ顔を近づける。

 

「それよりもキリトの字、俺がちょっと来ない間にお前……」

「…そういう笑い方はやめてくれ。あと、そういう目でアスナを見るな。目が見えてなくても彼女にはわかるから」

「見えてないっ?!」

 

緩んでいた口元が一気に驚きで大きく開いた。

人の良さは十分伝わってきているけど、随分直情的な魔法使いさんね……、と逆に心配になったアスナは彼らが話していた鍛冶師だと言う女の子に同情しつつも困り笑顔で「はじめまして」と挨拶をする。

するとクラインから離れたキリトが素早くアスナの隣へと戻ってきた。

 

「紹介するよ、『空の魔法使い』のアスナだ」

 

本来であればもっと詳しい気象の名を付けるのが当たり前なのだが、生憎とアスナには自覚がない為、漠然とした紹介になってしまう。しかしクラインは軽く微笑んだアスナの笑顔にほぇぇっ、と見とれて気にも止めていないようだ。

 

「アスナ、こっちが『鉄の魔法使い』のクライン。普段は地上の良質な鉄が産出される鉱山で暮らしてるんだ」

 

自分の名を告げられて我に返ったようにクラインがピシッと背筋を伸ばす。

 

「『鉄の魔法使い』やってます、クラインと言いますっ。本日は天候も良くっ」

「いや、ここだといつも青天だぞ。『青空の魔法使い』がいるんだから」

 

幾分緊張した面持ちのクラインとそれに半眼で返すキリトにアスナが耐えきれず、くすっ、と笑えばそれを見たクラインの頬がますます紅潮していった。彼女の顔から目が離せないのか硬い表情で固まったまま唇だけがだらしなく半開きになっている。

するとアスナを隠すようにキリトが半歩前に出た。人付き合いにおいては淡泊なイメージの『夜空の魔法使い』の独占欲ともとれる行動に一瞬驚いたクラインの口元が再びほほう、とうねり始める。

 

「それで?、何で今日は泉にいるんだよ。俺を出迎えに来てくれたのか?」

 

いつもは俺が家まで押しかけても冷めた態度のお前が、とは言わないでおいてやると素直に返答できずに視線を泳がせているキリトの隣から顔を出したアスナが「ゴハン、ご一緒しませんか?」と笑顔で誘いを口にした。

 

「ゴハン?、メシ?、ここで?」

「はい、実はお弁当持ってきてるんです」

 

そう言って振り返り、キリトがセッティングしてくれたピクニックシートを示すと何かのスイッチが入ってしまったらしいクラインが「うおぉっっ」ともの凄い雄叫びを上げる。アスナがニッコリと笑い、クラインの目が蓋付きバスケットに釘付けになっている中、多分こんな感じになるだろうな、と予感していたキリトだけが、はぁっ、と少々重めの溜め息をついたのだった。

 

 

 

 

 

「それじゃあクラインさんはいつも地上の人達と暮らしてるんですね」

「まぁ、暮らしてる、ってのはちょっと大げさだけどな。住んでる場所が近いだけで」

「でも互いに顔も名前も知っていて交流があるんでしょう?」

 

バスケットを中心にしてシートに座り、アスナからおしぼりを受け取りながらクラインが自分の日常を話して聞かせていると、瞳が見えていなくても彼女の好奇心が疼いているのがわかる。

 

「地上の人間達に魔法使いはそれ程珍しくねーんだ。ここは魔法使いしかいないから分かりにくいかもしれねぇけど」

 

感心したように頷いているアスナが「あっ」と意識を隣に向けた。キリトにおしぼりを渡そうとしていた手が止まる。

 

「ちゃんとグローブはずしてからね」

 

ついいつもの癖で装着してきてしまったのだろう、少しお姉さんぶった言い方をされキリトが焦ったように「ぁっ…おうっ」と素直に返事をし、寸暇を惜しんで黒の指ぬきグローブを脱いだ。

そして「さぁ、どうぞ」と蓋を開けたアスナの声が合図のようにバスケットの中身を見たキリトとクラインの声が「おおっ」と揃い、次いで二人の手が高速で伸びてきたのは言うまでもなかった。

それからクラインがアスナに請われるまま地上での日々を説明し、時々キリトが補足をして、お弁当は着々と消費されながら和やかな雰囲気のまま食事が進む。

若鶏のローストと香草のサンドイッチを小さくパクリと一口囓ったアスナが丁寧に咀嚼している間に同じ大きさのサンドイッチを二口、三口で食べ終えたクラインが、次は何にしようかと手を彷徨わせていると、その手の着地点を見極めるべくずっと視線をロックオンしていたキリトは、狙いが最後の照り焼きサンドに定まったと気付くやいなや食べかけのサンドイッチを無理矢理全て口に押し込んでその奪取を阻止した。

いや、クラインから見れば横取りしたのはキリトの方だろうが、口に詰め込んだサンドイッチがかなり大きめだったらしく「う゛ぐぐっ」と喉を詰まらせる音を聞いて慌てたアスナが急いで「大丈夫っ?!、キリトくん」と飲み物の入ったカップを手渡し、続けて彼の背中を撫でている様を見せつけられては言うべき言葉が見つからない。

自分の胸をドスドスと叩き、背中を美少女にさすられている『夜空の魔法使い』を見ながら、それでもクラインは安心したように瞳を緩めた。実は地上にいる魔法使いや人間達はそれほど『夜空』を忌み嫌ってはいないのだ。

この城のように衣食住が魔法で賄われてはいない地上では、魔法使いにとって夜は無条件で魔法力の回復に専念できる時間だし、人間にとっても日中活動している大型の肉食動物に命を脅かされることなく安心して眠りに就ける時間だからである。




お読みいただき、有り難うございました。
「刀」関連の魔法使いにしたかったので単純に
『鉄の魔法使い』になりました。
『鋼の魔法使い』じゃ格好良すぎる(笑)
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