「やっ、た………」
歓声があがる。
一時とはいえ、あの龍を止められたのだ。
膝をつく者、倒れる者、喜びに声をあげる者。
それぞれが歓喜し、安堵している。
「か、ぁ!?」「っ、あ」
だが、それでも。
「え、あ………?」
絶望はその歩みを止めない。
封印を行った2人の身体を、黒い槍が貫いて。
────赤い瞳を輝かせる黒い天使が、嗤う。
「ふ、っ、あはははははははっ!!
貴女たち、みんな私と彼の掌の上!!
全く滑稽で仕方ないわ!!
あは、あはははははははははははははは!!!」
長い金髪、血のように赤い双眸。
纏うのは闇を体現したかのような黒いドレス。
その頭の上にはまるで天使のような輪があり、
だがその色は眼と同様、血の色に染まっていた。
闇で織られた禍々しい翼を羽ばたかせ、
その身体の周囲には闇を凝縮したかのような
漆黒の球体が浮かんでいる。
手にしているのは、
紫電の走る十字架を模した赤黒い巨剣。
その掌から放たれた闇の槍が、2人を撃墜した。
誰もが、その姿に見覚えがある。
無邪気で、誰よりも残酷で。
幻想郷では珍しい、人を喰らう妖怪。
「ルー、ミア………!!?」
天使が笑った。天使は嗤う。
クルクルと、子供のように楽しそうに空を回る。
無邪気な笑いと底知れぬ悪意、
そして圧倒的な闇と恐怖を、
周囲に振り撒きながら。
「あぁ、残念。
─────天使は、笑う」
漆黒の天使が1人、空を舞い踊る。
すぐさま地上で唯一無事で、
相当な猛者である永琳はその恐怖から抜け出す。
そして弓に矢をつがえ、巨大な光を収束させる。
同時に悪魔でもあり天使と闇に耐性を持つ
吸血鬼であるレミリアが正気に戻り、
即座に魔力でグングニルを練り上げた。
「堕ちろッ!!」「散れ!!」
太陽のような光を放つ矢、
雷を纏う神槍が天使へ向かって放たれる。
だが、尚も天使はそれを見下ろし、
身体の回転を止めただけ。
2つの光は、それぞれ天使の目の前で霧散する。
天使は何もしていない。
ただ、矢と槍は斬られただけ。
新たに現れたのは、虚ろな眼をした初老の男。
緑色の羽織袴を纏い、太刀を手にしている。
その髪は白髪となっており、
青い瞳に光はなく、濁りきっており、
まるで生気を全く感じない。
「………………」
そして、ゆらりと空間が歪み、
天使の前に1人の中性的な角のある妖怪が現れる。
鬼は、初老の男と同様に刀を携えていた。
右手には盃を手にしている。
そして、幽霊のように脚がない。
その背には細い炎のようなものが揺らいでいた。
「あぁ、悪い。遅くなってしまったね」
ケラケラと朗らかに笑う中性的な女。
その姿にルーミアも笑う。
初老の男は静かに下界を睥睨している。
再び現れたそれに、下界の者たちは気付く。
─────あれは、敵だ。
紛れもない敵。
一度は排除した絶望は、
形と状況を変えて新たに現れる。
「さぁ、私たちは彼の御心のままに。
計画を進めるとしましょうか」
天使は笑い、その場から消失する。
残った初老の男は太刀を振り、
鬼も楽しむように盃を呷って刀を抜いた。
─────冥界の剣士、魂魄妖忌。
─────星幽の天使、コンガラ。
最悪の形で、2人は幻想郷に牙を剥く。