普通に憧れた少年   作:にっしんぬ

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切ないSandglassいい曲すぎるでしょ


天才少年は思い出す

「まー君おはよう!」

「マコトおはよっ!」

 

 

………………

 

 

 

 

「まー君お昼だよっ!」

「マコトお昼食べよっ!」

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

「まー君帰ろっ」

「朝からしつこいんだけど…」

「えーっ、だって寂しそうだったし?」

 

 

 

休みも明けて学校が始まる。朝から氷川さんと

今井さんに執拗に声をかけ続けられていた

…全部無視していたが。

 

 

 

「1人でいたいだけなんだけど」

「えーっ!そんなのるんっ♪てこないじゃん」

「相変わらず意味がわからないな…」

 

 

 

帰ろう。付き合ってられない

 

 

 

「マコト、帰るの?」

「もう下校時間でしょ?帰るよ」

「じゃあ一緒に帰ろう!」

 

 

 

だめだ、この2人。どれだけ突き放しても

鬱陶しいほど付いてくる。

…いっそのこと好きにさせた方が楽かな

 

 

「勝手に付いてくるだけなら文句は言わない…」

「やった!リサちー早くー!」

「ヒナ!?待ってってー!」

 

 

 

 

──────────────────

 

 

「いや、なんで家まで付いてきたのさ」

「んー、るんっ♪てきたから?」

「頼むから言語化してくれ…」

 

 

 

今井さんは別方向で先に別れたが

氷川さんだけがなぜか家まで付いてきた

 

 

「まったく…じゃあ()()()()

 

 

なんて言いながら玄関のドアノブに手をかけドアを開ける

…待って、僕は今なんて言った?また明日?

 

 

 

「ふふっ、お邪魔しまーす!」

「あっ、ちょっ!」

 

 

 

そんな隙をついて氷川さんが中に入っていく

本当に行動が読めないんだけど何がしたいんだこの子は

 

 

 

「あらあらあらあらあら」

「……ただいま、母さん」

 

 

 

タイミングが悪すぎる…

こういう時に限って、いるんだから…

 

 

 

「氷川さん、こっち」

「えっ、まー君?」

 

 

 

変なことを言われる前にさっさと

部屋に連れていくことにする

 

 

 

「で、何の用?ていうかなにしてるの?」

「え?やっぱりまー君も健全な男子高校生かなって?」

「そんなもの1つもないから…」

 

 

 

部屋に入るなり氷川さんは机の引き出しやら

ベッドの下やら物色し始めてた

わざわざそんなもの置いておくわけがない

というか興味がないし…

 

 

 

「話戻すけど、何しにきたの?」

「んー、まー君とお話しようと思って。心配だし」

 

 

 

ベッドに座り込んで足をバタバタさせる氷川さん

心配とは何のことだろうか?

 

 

 

「氷川さんに心配されるようなこと…」

「あるよ」

 

 

 

ふだんの表情から想像もつかないような冷たい顔

なんだそんな顔出来るんだ。

 

 

 

「あたしね、まー君とは友達だと思ってるの

だからまー君がるんってしない顔してたら心配だし」

 

 

 

またそれか。正直、今井さんだけでも

うんざりだったのに……

 

 

 

「僕は君が苦手だ、氷川さん」

「えー、何で?あたしはまー君のこと好きだよ?」

 

 

どうせるんっ♪とくるからとか

そういう理由なんだろうが……

 

 

 

「見たでしょ、あの試合。相手の選手の顔

噂によると辞めるらしいよ。僕が潰したんだ。」

 

 

 

もしかしたら有名な女子バスケット選手に

なってたのかもしれない。可能性を潰したのだ。

 

 

 

 

「それに、見た?今日の周りの僕を見る目。

()()()()()そんな目だったよ」

「……なんで分かるの?」

 

 

 

決まってる。いままでがそうだったから。

 

 

 

「まー君はさ、()()ってなんだと思う?」

「…はぁ?」

 

 

 

普通…普通…。辞書で引くと

『いつ、どこにでもあるような、ありふれたものであること。

他と特に異なる性質を持ってはいないさま。』

僕が憧れた、僕には合わない言葉だ

 

 

 

「そういうるんってこない感じじゃなくてー」

「じゃあどういう…」

 

 

 

「あたしもね、少しやるだけでなんでも出来ちゃうの

でもそれでつまらないとか思ったことないよ?

これがあたしの普通だから

だって誰もあたしと同じじゃない。

だから、るんっ♪てくるんだよ?

あたし以外の人たちってなんで

こんなに面白いんだろうって!」

 

 

 

 

そういう生き方もあるのだろう。とただただ思う

ただそれは自分には真似できない

 

 

 

「今日は帰ってくれないかな。頭が混乱しそうだ」

「まー君らしくないね」

「氷川さんに調子を狂わされてばかりだからね」

 

 

 

氷川さんたちと会ってから本当に調子が狂う

 

 

 

「んー、まぁいいや!また明日ね!」

「……うん」

 

 

そう言い氷川さんは部屋から出て行く

「お邪魔しましたー!」と遠くで聞こえる

自分以外誰もいなくなった部屋で

ひとつの引き出しを物色する。

取り出したのは一枚の写真。

健全な男子高校生が例のアレを隠す並みに

厳重に保管してあるので、バレることはなかった

 

 

 

 

「どうすればいいのかな、()()

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「つーまーんーなーいーーー!!」

「うるせぇ!やれったらやれ!」

 

 

 

…あぁ、夢でも見ているのか

目の前にいるのは小学生の頃の自分と

()()()()()()()()()

 

 

 

「そんなことしてもなんでも出来ちゃうよ?」

「いーや!俺は信じねぇ!だから付き合ってもらうぞ!」

 

 

 

小学5年生と6年生の頃の担任だったかな

この頃からすでに周りから引いた目で見られ

独りぼっちだった僕に声をかけてきた

ただただ興味があった。今まで自分の才能を見てきた

周りの人たちは引いた目で見てきたから

なぜここまで付き合ってくれるのだろうと

 

 

 

小学校の卒業式に言われた言葉は

今でも思い出せる

 

 

 

「いいか、必ず俺以外にもお前の才能をきちんと

見てくれるやつはいる。だから諦めんな。

世の中は広いからな!そしてお前に出来ないことは

必ず出てくる!世の中そんなに甘くないからな!

それでも世の中つまらんなんて考えたら

俺のところに来い!とことんお前の出来ないこと探しに

付き合ってやるからな!」

 

 

 

 

……最後、いや最期に会ったのは病室だっけ

居眠り運転していたトラックに轢かれそうになった人を

庇って重体。

事故の数日後、会いに行った時に知らされ

病室に向かった時にはすでに状態が悪化し意識不明

 

 

 

「先生!!!」

「あなたが、誠くん?」

「えっと…どちらさまですか?」

 

 

 

その時に先生の奥さんと会ったんだっけか

事故の経緯を聞いて、不謹慎だけど

先生らしいと思ってしまった

誰かのために自分を捧げられるような人だったから

 

 

 

「……まこ……と?」

「先生!?」

「…誠と……2人にさせて……くれるか?」

「わかったわ」

 

 

 

時間にして10分も満たない時間だったと思う

ただただ謝られた。見続けることができなくてごめん、と

 

 

 

「謝るぐらいなら、早く治してよ。

また僕に付き合ってよ……」

 

「引き出しの……2段目……。封筒が入ってるだろ?

お前のために書いた……。お前が本当に……

心の底から……世の中がつまらないと……思ったら読め」

 

「そんなことっ…言わないでよ…!生きてよ!

先生じゃないとっ…ダメなんだよ…」

 

 

その時に先生は最期の力を振り絞るかのように

頭を撫でてくれた。

 

 

 

「卒業式のときにも……言っただろ…?

世の中、広いんだから…俺以外にも…必ず…いるか……」

 

 

 

先生の言葉は最後まで聞くことはなかった

頭から手はずり落ち、無機質な機械音が響き渡る

 

 

 

「先生?先生!!!」

 

 

 

この日、大事な人を失ったんだ

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「……先生」

 

 

 

いつのまにか時計の針は夜の9時を指していた

眠っていて、夢を見ていた。懐かしい夢を

 

 

 

「…手紙」

 

 

 

思い出したかのように写真が入っていた

引き出しの中の封筒を取り出す

書かれていたのは、短い文章。

あの先生だから、そして相手が僕だからこそ

……やはりあの人らしいや

 

 

 

「…()()()()()()()()、先生」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「まー君おはよう!」

「マコトおっはー!」

 

 

何が普通なのか何が特別なのか

まだまだ子どもだから分からないけど

少しだけ信じてみよう

先生の言葉を、あの天才の言葉を

 

 

 

 

「おはよう。()()()()

「「……えっ?」」

「…ん?普通の友達はこうじゃないの?」

 

 

 

まずは普通に友達を作ってみよう

…ありがとう先生




ありがたいことに少しずつ評価や感想もらえたりしてます
UAやお気に入りの上がり具合ももう1つのほうより伸びてます
突然突拍子のないことを書き出すかもしれませんが(今回みたいに)
よろしければ続きをお楽しみいただけると助かります

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