聖杯乱舞「特命調査 聚楽第」   作:寺町朱穂

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第六天魔王(4)

 

『……先輩、悲しい事件でしたね』

 

 マシュが目を伏せ、辛そうに口にする。

 

「うん……悲しい事件だった」 

 

 立香も後輩の言葉に頷いた。

 

 長谷部は複雑な思いが絡み合った絶叫をしたあと、信長の静止を待たず下山してしまった。

 長谷部曰く

 

「刀を楽器に改造するような男……いや、蛮族と同じ空気を吸いたくない!

 俺は、先に八坂神社まで降りる!」

 

 とのことである。

 こちらが静止の言葉を叫ぶ間もなく、長谷部は背中から憤怒の色を湧きあがらせ、一目散に去っていってしまったのであった。

 

 ……まあ、彼の気持ちは半分くらい理解できる。

 立香は刀剣について詳しくないが、以前、水着姿の信長に

 

『どうじゃ、マスター? わしの刀を改造して作った特注のギターじゃ!』

 

 と、背景に大輪の向日葵が咲くような笑顔で意見を求められたとき、答えに詰まってしまった。

 立香には刀をギターに改造する気持ちが分からないし、たぶん、刀もギターにされることは心外だっただろう。刀に口があれば『何故!?』と叫んでいたはずだ。

 まあ、ギターから生み出される刀の化身?のがしゃどくろはノリッノリでポーズまで決めているので、それ以後は特に気にしていなかった。

 

 ある意味、人の想像の斜め上を行くからこそ、織田信長という少女は英雄になったのだろう。

 だが、その考えについていける者は少ない。

 

「ノッブは刀の気持ちが分からなかったんだね」

『……先輩』

 

 立香はため息をついた。

 肝心の織田信長はというと、先程から蹲っている。

 彼女は自分の趣味を愛刀に理解してもらうどころか、はっきり拒絶されたことが衝撃だったのだろう。

 その場に崩れ落ち、ふるふる震えていた。

 

「なぜじゃ……へし切。なぜ、分からん。この、カッコよさが、いかしたロックが、なにゆえ、伝わらんのじゃ……」

『いやー……問題はそこじゃないと思いますけどね』

 

 沖田が目を逸らしながら、信長の呻き声に答えていた。

 清光も元主と同じように、灰のように燃え尽きた第六天魔王から目を逸らしながら

 

「長谷部は名前をつけてもらっていたのに、直臣でもない家臣に提げ渡されたことを恨みに思ってたんだ。

 そのうえ、原形がないくらい魔改造されたんじゃ……うん、俺、あの人の刀で本当に良かった」

 

 と、呟いていた。

 山姥切は何も語らず、刀を鞘にしまっている。

 鈴鹿御前も立ちあがりながら、信長に軽蔑するような目を向けてた。

 

「助けに来てくれたときは、マジ感謝だったけど、やっぱり、あんなうつけが第六天魔王を名乗ってるなんて、ちょっとムカつくかも」

「鈴鹿、大丈夫?」

「ん? マスターのおかげで、3割回復ってとこ! サンキューだし!」

 

 鈴鹿が腕を回して問題ないことを現していると、通信機に投影された沖田の姿が消え、代わりに茶々の姿が浮かび上がった。

 

『伯母上って、殿下以外には通じない端折り過ぎた脳内1人構想、通称「天下布武」をすることあるよね。うん、これは明智君も裏切るし、なんちゃら長谷部も裏切る!』

 

 茶々は面白そうに笑っていた。

 

『それはそうと、刀といえば、殿下の刀はいるの!? 茶々は刀とかよく分からないし、大阪城の武具倉庫も幸村君と入ったくらいだけど、殿下の刀の付喪神は気になるかも!』

「えっと、つまり、豊臣秀吉の刀ってことだよね?」

 

 立香は茶々に確認すると、清光に目を向けた。

 

「清光、どう?」

「けっこーいるよ。一期一振に鯰尾や骨喰だろ? にっかり青江も一時期、秀吉公の刀だったっけ?」

「……大阪城には、世話になった」

 

 清光が指を折っていると、ぼそりと山姥切が呟いた。

 立香はへぇーっと目を丸くする。

 

「山姥切さんも大阪城にいた経験がある?」

 

 やはり、天下人は刀剣を集めることが趣味なのだろうか。

 立香がそんなことを考えていると、山姥切は静かに首を横に振った。

 

「……いや。主の命で大阪城に潜った」

「潜った?」

「あー、確かに、『時の政府』の命令で大阪城の地下に潜ったこともあったっけ」

 

 清光が代わりに説明してくれた。

 

『大阪城の地下に潜ったの? なにゆえ?』

 

 茶々の目が点になる。

 

「徳川が作った大阪城の地下に、豊臣時代の大阪城があるらしくて、そこに昭和の陸軍が工場を作って、よくわからない事態になってたから、出陣したことが何回かあるんだ」

『殿下の大阪城、そんなことになってたの!?』

「そっ。それで、遡行軍が豊臣の埋蔵金を貯め込んででさ、ちょうど本丸が資金不足だったから、ずいぶん助かったって感じかな」

「だから、山姥切さんが『大阪城には世話になった』と……」

 

 立香が頷いていると、茶々は口を尖らせていた。

 

『むー、茶々の黄金を勝手に盗むなんて……これには、佐吉も大激怒案件なんだけど』

『佐吉……石田三成さんのことですね。

 ですが、清光さんたちは遡行軍に奪われていた黄金を奪い返してくれたのですから……目くじらを立てる必要はないかと』

『奪い返したなら、元あった場所に戻すのが礼儀だし! 茶々は殿下のお金で熱海バカンスする予定だったのに!!』

 

 茶々は赤い般若の面を被り、轟々と身体を文字通り燃やし始める。

 

『茶々さん、落ち着いてください! ここで宝具を起動させても、向こうには届きません!』

『そうですよ。しかも、清光たちの歴史と私たちの歴史とでは、少しズレがあるみたいですし!』

『問答無用! 殿下の黄金を勝手に使っていいのは、茶々だけなんだから!!』

 

 画面の向こうが騒がしくなる。

 茶々が燃え上がる音と、カルデアスタッフの悲鳴が聞こえてくる。

 

『御免!』

 

 画面の向こうで、沖田が剣を抜く音が聞こえる。

 途端、茶々が暴れる音が消え失せた。おそらく、沖田が物理的に黙らせたのだろう。

 

『いや、すまなかったね』

 

 画面には、平然とした様子のダ・ヴィンチが映し出される。

 

「えっと……本当に大丈夫?」

『ああ、まったく問題ない』

「……彼女が目覚めたら、謝らないとな。確かに、俺たち盗んだことには変わりないし」

 

 清光が暗い顔をしていると、鈴鹿が呆れたように息を吐いた。

 

「謝る必要ナイナイ。埋蔵金だっけ? 当人たちは死んでるんだし、見つけた人がゲットしてOKじゃん?」

『埋蔵金が誰のものなのか、考えるのはあとして。

 今後のことを話すとしよう! なにしろ、時間がないからね!』

 

 ダ・ヴィンチが空気を切り替えるように、はきはきと話し始めた。

 

『牛若丸の姿が見当たらないが、立香ちゃん。ざっと説明してくれないかな?』

 

 立香はダ・ヴィンチに請われ、たどたどしかったが説明した。

 

「天草四郎は取り逃がしたけど、以蔵さんは捕まえました」

『それは僥倖だ。岡田以蔵から情報を聞き出すとしよう!』

「あ、ちょい待ち。私、さっき倒した後藤又兵衛ってランサーから聞いた情報があるんだけど。

 なんか『カルデアのマスターが打ちひしがれる様子を見たい』とかなんとか」 

「私が!?」

 

 立香は首をひねった。

 そんなことをして、北条氏政に何の意味があるというのだろう。

 

「私の先祖が豊臣家なら話は変わってくるけど……先祖の話なんて、聞いたこともない」

『うん、こちらの情報でも、立香ちゃんは一般人だ。先祖を辿っても、著名な人物は出てこない。こんな大層なことをしでかすほど、彼女に恨みを持っている人といえば――……』

 

 立香の脳裏に、一人だけ顔が浮かんだ。

 

「もしかして、ゲーティア?」

 

 ソロモン王を名乗り、人理を焼却した存在を思い出す。

 彼はこれまで積み上げてきた人理を焼却して、ゼロに戻ってから良い前提を作り直そうとしていた。

 立香は年末に彼の野望を打ち砕き、見事に人理を元通りに直すことに成功した。その時に、大きな犠牲を払ってしまったことは、今でも心に深い傷を落としている。

 

「でも、ゲーティアは……」

『消滅した。だから、考えられるのは、魔神柱だ』

「……なんだ、それは?」

 

 山姥切が疑問の声を上げる。

 立香は唸るように腕を組んだ。

 

「うーん……ゲーティアが従えていたソロモン王の使い魔のことかな。七十二柱いて、全部倒したはずなんだけど……」

『どうやら、何体か逃亡して、どこかの時代に潜伏しているようなんだ。

 既に、立香ちゃんは新宿の「バアル」、アガルタの「フェニクス」、ぐだぐだ幕末の「アンドラス」。この三柱を倒している。他にも逃げた魔神柱がいてもおかしくない』

 

 立香は三柱の他に、ゼパ……なんとか、という魔神柱とも遭遇したような気がする。けれど、そのことはカルデアの記録に残っていないし、神経を集中させないと思い出せない。だが、それは些細なことだ。わざわざ指摘するまでもあるまい。

 

「俺としては、ぐだぐだ幕末ってのが気になるな」

『すまない、清光君。その説明は、あとで立香ちゃんからたっぷり聞いてくれ』

「いや、私もあれを説明するのは難しいよ!?」

 

 本能寺で出現した「ぐだぐだ粒子」のことから説明しないといけないので、あの幕末を説明するのは時間と手間がかかる。

 

『とにかく、これは魔神柱案件かもしれない。魔神柱案件なら、聖杯が絡んでいても不思議ではないしね』

「つまり、北条氏政に魔神柱が憑依して、この時代を引き起こしているってこと?」

「うーん……でもさ、それなら、どうして時間遡行軍を引きつれてるわけ? 遡行軍と組まなくても、さーばんとを召喚すれば良い話じゃん」

 

 清光の疑問は最もである。

 これまでの魔神柱は、どれも遡行軍と手を組んでいなかった。

 モリアーティ教授やシェヘラザードと手を組んだり、織田信勝を従えたり……いずれも、サーヴァントを聖杯で呼び出して使役していた。

 そもそも、それ以前に解決して来た7つの特異点でも、遡行軍の影を見たことがない。

 

『そのことも踏まえて、岡田以蔵に聞いてみようか。ところで、以蔵君はどこにいるんだい?』

「えっと、確か……あれ?」

 

 彼が気絶していた方向に目線を向けるが、そこには誰もいない。

 

『――ッ、先輩、後ろ!』

「えっ?――ッわ!?」

 

 急激に空が近くなる。

 

「た、高い!」

 

 こんな状況だというのに、ありきたりの言葉しか出てこない。

 

「ははは! わしを侮ったことが運の尽きや!」

 

 岡田以蔵の声が酷く近くで聞こえる。

 立香は、すぐに以蔵が自分を抱えているのだと理解した。

 

「マスターッ!?」

「そんじゃ、さらばじゃ。

 こいつを殺すつもりやったが、生きたまま連れて帰ったら、マスターに褒美が貰えそうやきな!」

 

 かはは、と高らかに笑いながら、岡田以蔵は走り出した。

 

『通信がジャミングを受けております!

 ……先輩……お気をつけて……』

 

 マシュの声が雑音交じりで聞こえ、ぷつりと途絶えた。

 それと同時に、がんっと首の後ろを強く叩かれる。

 

「……い、ぞう……さん」

 

 視界が狭まっていく。

 

「しばらく寝ちょき。

 最後にええ夢をみることやな」

 

 岡田以蔵の嘲笑うような声を最後に、藤丸立香は意識を消失した。

 

 

 

 

 




経験値先生は、大河ドラマ「真田丸」が絶対好きだと思う。
今回のイベントでも、早々に「真田は滅びるぞ」と出てきて大爆笑。
真田丸最高!再放送がほぼほぼ不可能になったことが悔しい!

と、いうことで、楽しく「オール信長総進撃」を進めています。
なぜ、このイベントが一か月前、もしくは、一か月後に開催されていなかったのか……
なお、本作にアヴァンジャーノッブの出演予定はありません。

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