後悔はしていない。
次回から本編に戻ります。
サーヴァント BBのせいで、ハワイとホノルルが合体した。
そして、サーヴァントの同人誌即売会の会場となった。
ここまでは、別に驚かない。
とっても理解に苦しむけど、チェイテピラミッド姫路城より遥かにマシである。
「ええ、先輩の言う通りです。
ですが、売り上げ1位にならない限り、ループから抜け出せなくなるとは……」
マシュが少し気落ちしたような顔で呟いた。
ループは4週目。漫画を描くこと自体初心者な自分たちが1位になるなんて、夢のまた夢。売り上げ1位どころか、下から数えた方が早い順位だ。頂きの見えない山登りをしている気分である。
「弱音を吐いてるんじゃないわよ!」
ジャンヌダルク・オルタが喝を入れるように叫んだ。
「私たちは1位を取る! あの女が描いた漫画より、上のものが描きたいの!」
オルタは宣言すると、椅子に座り込んだ。
熱意をぶつけるように、ネーム作りに挑み始める。このループを抜け出すためだけではなく、オリジナルのジャンヌ・ダルクを越えるという熱意に溢れている。藤丸立香はマシュと目を見合わせると、互いに微笑を浮かべた。
「分かってるよ、オルタ。まずは、何を手伝えばいい?」
だから、立香とマシュは今回もオルタのアシスタントに徹する。
この現象を治し、ループを抜け出すためだけじゃない。彼女の夢も叶えるために。
こうして、このループも同人誌作業に突入する。
べた塗をしたり、トーンを切ったり……オルタの手伝いに明け暮れる。
とはいえ、ずっと缶詰というのは気が詰まるもの。
人間もサーヴァントも同じである。
「ちょっと息抜きしましょう、立香」
ある日の夜、オルタが珍しく提案をしてきた。
だから、きょとんっと見返してしまう。オルタは、その顔が気に入らなかったのだろう。少し不貞腐れたようにそっぽを向いてしまう。
「なによ、その顔。
ちょっと頭がこんがらがってきたのよ。整理したいから、ちょっと海、付き合って」
「はいはい」
「そこは『光栄だね』くらい言えないのかしら。
……何よ、そのどっちを言っても嫌味を言ってきたんだろうなーって顔は。そうよ、その通りよ!」
「開き直った!?」
「いいから、行くの!」
オルタは立香の腕を引きながら、外へと向かう。
「あ、待ってください、先輩!」
マシュが上着を羽織り、後ろから付いてくるのが分かった。
夜の海は静かだった。
昼間の海も息抜きや取材で訪れたことがある。
もちろん、昼間の海も賑やかで飛び込みたくなるくらい好きだが、それとはまったく別の魅力があった。黒く沈んだ海辺には人の気配がなく、ホテルや町の灯りが篝火のように美しい。空を見上げれば星々が瞬き、自身が置かれている修羅場を忘れさせてくれる。
「……問題は、この後の展開なのよね……」
オルタがぽつりと言葉を零した。
「中弛みすることは分かってるの。かといって、中盤の展開を削れば、唐突に『おれ、デーモンになっちゃったよ』って感じになっちゃうし……」
オルタは自身の考えを整理するように話し始めた。
「それなら、前半部分を削るのはどう?」
「世界観の説明があるから削れないのよ」
「それは困りましたね……、先輩、あれは?」
マシュが遠くを指さす。
立香とオルタがその指の先を追うと、巨大なヤシガニたちが暴れていた。ヘラクレス並みにガタイの良いヤシガニたちは群れを成しながら白い砂浜を荒らしている。
「オルタ!」
同人誌づくりも大事だが、ルルハワの治安の維持も大切である。
「分かってるわよ! 指示を頂戴、マスター!」
「マシュは下がってて」
立香とオルタは同時に走り出す。
現在、マシュはサーヴァントとして戦うことが困難な状態だ。とても心強い仲間だし、頼れる後輩だが、彼女を戦闘に巻き込むわけにはいかない。マシュは少し悔しそうに俯いたが、すぐにキリっと張り詰めた表情で頷いた。
「はい。ですが、先輩。いざとなったときは、私も参戦します」
「ありがとう、マシュ」
立香はマシュを振り返り笑いかけると、前方に意識を戻した。
ヤシガニたちの数は6体。確かに数は多いが、オルタだけで倒せる数だ。
「マシュ。撮影お願い。戦闘シーンの取材がしたいと思っていたところなの」
「はい、オルタさん。任せてください!」
オルタはマシュがカメラを構えたところを見届けると、やる気に満ち溢れたような表情で舌なめずりをする。
「荒覇吐七十二閃と大黒毒竜万破、さあ、燃えるわよ!!」
オルタは腰に差した二本の刀を引き抜き、ヤシガニたちに切り込みにかかった。ヤシガニはオルタの攻撃で見事、一刀両断される。その切れ味は、自作の日本刀とは思えない。名称が厨二病的だな、とも思ったが、立香自身も数年前に似たような名前を妄想していたので、何も言わないことにしている。
「……あれ?」
そんなことを考えながら、いつでもサポートできるように構えていると、ヤシガニの一団の合間に奇妙な歪みが生じていることに気付いた。目の錯覚かと思ったが、一点を捻じ曲げるように歪み始めている。
「オルタ! 気を付けて!」
「――ッ、!? なによ、あれ!」
数秒遅れ、オルタも歪みに気付く。
歪みの内側から手が伸び、空間を押し広げ始めた。
「……新しいエネミーってところかしら?」
オルタはヤシガニの相手をしながら、警戒を高める。
その内側から現れたのは、六人の鬼だった。黒い靄を纏い、血の気の失せた白い肌が特徴的な鬼は、両眼を赤く輝かせている。
鬼たちはそれぞれ日本刀を正面に構えると、こちらに狙いを定めてくる。オルタは彼らを一瞥すると、立香たちのところまで後退した。
「……ここは退こう」
立香は前を睨んだまま、囁くような声で提案する。
ヤシガニは残り3体。そして、正体不明の鬼が6人。オルタでも無傷で倒すのは不可能であることは明らかだ。せめて、この場に牛若丸やロビンフッドがいれば話は変わってきたが、前者は別の取材で街の方へ出向き、後者はホテルで帰りを待っている。加勢は難しいだろう。
「この時間なら、まだ街にサーヴァントたちがいるはず。きっと、誰かに加勢を頼めば――……」
「はぁ? 私の辞書には退くなんて言葉はないの、分かっているでしょ?
……マスター、魔力を回しなさい。宝具で決めるわ」
彼女の宝具は対軍宝具。
普段は一人に限定して発動しているが、その気になれば、あの程度の敵を一思いに焼き殺せる。あの正体不明な一軍に使うのは早計に感じたが、そうこうしている間にオルタが傷つけられたら、こちらに勝ち目はない。
「分かった!」
立香は令呪に魔力を集中させる。
令呪によるブーストで、一気にオルタの魔力を高め、敵を一掃する。
そのつもりだった。
「――ッ!?」
鬼たちの背後から強力な水流が襲いかかるまでは。
それは水流と表現しても過言ではないほどの勢いだったが、水鉄砲のような細さだった。水鉄砲は数体の鬼たちの胸を貫き、鬼たちの視線がオルタから後ろの敵に向けられた。
立香も新たに表れた六人の人影に目を向ける。
背丈も違えば装いも違う。共通している点は、全員が水鉄砲と刀を持っていることだけだ。
どうやら今の攻撃は、その中の誰かが放った一撃だったらしい。
「さーて、僕も頑張らないとね!」
黒の短髪に浅葱色の瞳の少年が叫ぶのを合図に、残りの五人も戦闘態勢に突入する。その一軍から顔に傷のある青年が飛び出すと、ひと際高く跳躍した。
「キエェェアァ!」
青年は腹から声を出しながら、鬼めがけて切りかかる。鬼は頭から果物を斬るように、真っ二つに割れて消滅した。
「――ッ!!」
鬼たちも負けじと咆哮を上げると、近くにいたオレンジ髪の女の子に攻撃を仕掛ける。だが、女の子は不敵に微笑むと攻撃を軽やかに躱し
「お触り、禁止!」
と言いながら、鬼の腹に水鉄砲の銃口を突きつけた。
同じく幼い子どもが二人いたが、金髪に眼鏡の男の子も前髪を結わいた子も善戦している。紫色の髪をした雅な青年は目を細めると水鉄砲を構え
「首を差し出せ」
と、強力な一撃で首を弾き飛ばしていた。
その隣では、平安貴族のような優美さを醸し出した青年が悠々と水鉄砲を放っている。腰に差した刀ではなく、子どもが遊ぶような水鉄砲で敵を倒しているのは、どことなくシュールに感じた。
「はてさて、部隊長。あのカニたちも退治してよろしいのかな?」
全体的に蒼い青年は、どこかで聞いたことのあるような声で仲間に尋ねる。その言葉を受け、浅葱色の瞳を下少年は水鉄砲を構えながら首をひねる。
「うーん、遡行軍ではないみたいだけど……」
「とりあえず、斬ればいいんじゃねぇの?」
「だけどさ、敵じゃないのに切るのは……っ、博多!!」
彼らが話し合う間に、金髪眼鏡の男の子の背後からヤシガニの爪が迫っていた。
男の子は前方の鬼に集中していて、後ろからの攻撃に気付いていない。
「オルタ!」
立香は叫んでいた。
だが、立香が指示を飛ばす前に、彼女は走り出していた。
「塵芥と化せ!」
オルタは手を前に突き出すと、禍々しい魔力弾を放つ。弾はヤシガニに直撃し、男の子から注意を逸らした。その隙にオルタはヤシガニに駆け寄ると、両手に握りしめた刀で切り刻む。その勢いで、傍にいたヤシガニも蹴り飛ばし、鬼にぶつけた。彼女はそのまま鬼にとどめを刺そうと踏み込んだが、彼女の剣が届く前に、顔に傷のある青年が鬼の頭に刀を突き刺し息の根を止めた。
ヤシガニも鬼たちも塵のように消え、再び静かな夜の浜辺に戻る。
オルタは刀を鞘にしまいながら、ふんっと鼻で笑った。
「この刀に斬れぬモノは無いのよ!手作りだけど」
「ええっ! それ、手作りなの!?」
オレンジ髪の女の子が、水色の瞳をまんまるに見開いた。
女の子に続くように、金髪の男子も目を光らせながら駆け寄ってきた。
「ちょっと見しぇてくれん?」
「乱に博多、置いて行くぞ」
紫髪の青年が少し咎めるような口調で言うと、男の子は名残惜しそうに刀を見つめた。
「堀川、さっさと次の戦場に行こうぜ」
堀川と呼ばれた浅葱色の眼の少年が、傷のある青年に急かされている。
ところが、堀川少年は、ちょっと困惑したような顔でタブレットを叩いていた。
「うん、そうしたいんだけど……反応しないんだ。主との通信も繋がらない」
「たぶれっとを叩けばいいんじゃないか?」
「歌仙、それで直ったら苦労しぇんばい」
謎の一団は堀川少年を中心に、なにやら話し合っている。
立香がぽかんと眺めていると、頼れる後輩が駆け寄ってきた。
「オルタさん、戦闘の様子は無事に撮影できましたが……あの方たちは……?」
「サーヴァントの気配はしないけど、敵のようにも見えないわね」
「うん、フォーリナーの関係者にも思えない」
ルルハワに襲来し、サバフェスの開催を阻もうとする存在「フォーリナー」に関係しているようにも見えない。彼らはどこからともなく現れ、鬼退治を終えると、再びどこかへ去ろうとしている。そのことだけは理解できた。
「BBなら知っているかもしれないけど……」
立香たちが首をひねっていると、空から一人の少女が降ってきた。
「おおっと、BBちゃんの噂をしちゃったかなー?」
紫の髪に黄色いパーカーを羽織ったAIサーヴァント、BBが夜の静けさを吹き飛ばすような明るい声色で話し始めた。
「お呼びと聞いて、即・出現! 常夏の案内役BBちゃんでーす!
えっと、そこで端末をちょこちょこ弄っている男士の皆さん? 皆さんには、とっても残念なお知らせがあるので、こちらに耳を貸してもらえます?」
「残念なお知らせ、だと?」
6人の視線がBBに向けられる。
どれも好意的とは言い難い視線だが、BBは気にも留めていないような笑顔を浮かべ続けていた。
「簡単に言うと、皆さんはルルハワから出ることができません!」
「はぁ!?」
「問題が解決するまで、外との通信もできません。ですので、先輩。彼らを助けるためにも頑張ってくださいね。先輩にも関わっていることなのですから」
「ちょっと待って!!」
立香もツッコミを入れる。
「いやいや、まったく理解できないから説明して」
「実は、BBちゃん。先輩の役に立ちたくて、サバフェス運営の合間を縫って色々画策していたんです。そうしたら、別の時空を移動していた一団を見つけまして、間違えて引き込んじゃったってわけなんですよ」
「引き込んだ?」
「分かりやすく例えるなら、濡れ手に粟です。ちょっと触っただけなのに、着いてきちゃったって言うか、触れた時にはもう遅かったって言うか」
BBは残念そうに瞼を閉じる。
立香は真顔でBBを見つめると、一言だけ口にする。
「それ、BBのせいじゃない?」
「むぅ、先輩のためを思ってした行動なのに、全部の責任を押し付けてくるのは理不尽ですぅー!」
「びぃびぃ……だったか?」
紫髪の青年が険しい表情でBBを睨み付けた。
「つまり僕たちは、ここに閉じ込められ、次の戦場に行くことも本丸に戻ることも禁じられた、ということかな?」
「はいっ! その通りです!」
「んじゃ、話は早いな」
顔に傷のある青年は刀を引き抜くと、BBの首元に突きつける。
「死にたくなかったら、さっさとここから出しやがれ」
「手が早いですねー、女の子にモテませんよ?」
「生憎、俺は刀だ。色恋沙汰なんて気持ち悪ぃ」
「うーん、まったく。冗談が通じない人ですね……面白みに欠けますよ?」
「お前のせいなんだろ? だったら、早く何とかしやがれ」
傷のある青年は催促するように、さらに刀を近づける。
だが、BBは表情を変えない。むしろ、事態の深刻さを吹き飛ばすように笑っていた。
「解決手段は簡単ですよ。
先輩がサバフェスで売り上げ一位をとって、聖杯を使えばいいんです! そうすれば、この特異点は解消されますし、皆さんも元の世界に戻ることができます」
「さば、ふぇす?」
「金儲けばすりゃよかってことばい?」
金髪の男の子が、きらんっと眼鏡を光らせる。
「ええ。ただ、単に金を儲けるのではなく、同人誌の売り上げです。サバフェスで一位を取れない限り、開催までの一週間を繰り返すことになります」
「なるほど、同人誌か……」
紫髪の青年が口元に指を添え、少し考え込む。
「それは、僕たちではなく、そこの先輩……?が一位にならないといけないのかい?」
「その通りです。先輩こと我らがマスター、藤丸立香が一位の景品……聖杯を手に入れ、マウナケア火山の山頂で『世界が平和になりますように』と祈ることが大前提なのです」
「はっはっは。それは難儀なことよな」
「いや、三日月さん。笑っている場合じゃないよ」
堀川が優雅に笑う男を見上げると、口元に苦笑いを浮かべた。
「ってことはさ、この人たちに協力しないといけないってことだよね?」
オレンジ色の髪の少女はそう言いながら、ぴょこぴょこ跳ねるように近づいてきた。
「僕は乱藤四郎。立香さん、だっけ? これからよろしくね!」
「おい、乱!」
「俺の名前は博多藤四郎。金儲けのことなら、俺に任しぇとけ!」
乱藤四郎に続けとばかりに、金髪の男の子もにこやかに笑いかけてくる。博多藤四郎は右手にそろばんを持ち、じゃらじゃら鳴らしていた。
そんな二人を、傷のある青年と紫髪の青年が咎めるように睨んでいる。だが、彼らの意に反して、また一人、比較的友好的な表情でこちらに寄ってくる。
「僕は堀川国広です。同人誌はよく分かりませんが、お手伝いなら任せてください」
「堀川! お前まで、こんな得体のしれない奴らの味方になるのかよ?」
「……はあ、仕方ない」
警戒心を崩さない傷の男とは反対に、紫髪の青年は疲れたように首を振ると、こちらに雅な笑顔を向けてきた。
「僕は歌仙兼定。風流を愛する文系名刀さ。同人誌作りに協力するよ」
「文系名刀、ですか?」
マシュが薄紫色の瞳を見開く。
立香も同じところに引っ掛かりを覚えたが、そのことを質問する前に薄橙色の髪をした子が飛び出してきた。
「包丁藤四郎だぞ! ねぇ、お菓子持ってる? というか、お姉さんたち人妻?」
「はぁ!? 私が人妻に見えるっての!?」
オルタがぐわっと口を開き、怒りの言葉を向ける。その言葉にびくりっと包丁藤四郎は身体をすくめた。立香はまあまあとオルタを落ち着かせながら、包丁藤四郎の位置まで屈みこんだ。
「お菓子はいまはないけど、たぶんロビンが……マネージャー役の人が持ってるよ。人妻は……うーん……私たちは違うけど、ブーディカさんとか人妻、なのかな?」
「はい。朝食会場のブーディカさんは生前、旦那さんとお子さんがいたはずです。他にも、マリーさんや巴御前さんも人妻のカテゴリーに入るかと」
「やったー! 俺、協力する!」
マシュの言葉を受け、包丁藤四郎はガッツポーズをした。
見た目は幼い子どもなのに、人妻を求めるところに違和感を覚える。母親と死別したトラウマでもあるのだろうか。
「ロビンって名前も人妻っぽいよな? そうだよな、博多!」
「俺は人妻に興味はなかじぇ」
「うむうむ、元気なことは良いことよ」
青い着物の青年が優美に笑った。
「三日月宗近。本づくりをしたことがない爺だが、よろしくたのむ」
「三日月まで!!」
こうして、名乗っていないのは傷の青年唯一人になった。
いまだに彼はBBの首元に切っ先を突き付けたまま、次々と離れて言った仲間たちに驚愕の視線を向けている。
「お前ら、何考えてるんだよ!?」
「だけど、同田貫。他に良い方法はなさそうだよ?」
堀川国広が静かに言葉を返した。
「僕たちの目的は時間遡行軍の殲滅だけど、主のところへ帰れないと意味がない。他に戻る方法が分からない以上、この人に協力した方がいいと思う」
「だけどなあ、元凶っぽいこいつを殺った方が、ずっと手っ取り早いだろ」
同田貫はBBを一瞥しながら、面倒そうに言い放つ。
……彼の言い分に、立香は少しだけ賛成する。
今回のルルハワ騒動、すべての元凶はBBにある。彼女曰く、立香のためを思ってしたことらしいし、聖杯を捧げるのは、女神ペレを復活させるためという理由もあるらしいが、極めて疑わしい。
彼女の日頃の行いから考えれば、なおさら胡散臭い。絶対に裏があるに決まっている。たぶん、この騒動の本当の黒幕はBBで、最後には彼女を倒して終わりなんじゃないかなーなんて思っていた。
その意味では、この傷の男に賛成である。
しかし――……
「BBは殺させない」
立香はそう言い切っていた。
「真意はどうであれ、私のサーヴァントだし」
できれば、積極的に攻撃したくない。
むしろ、攻撃されたら守りたい。
その気持ちをまっすぐ伝えると、BBは一瞬だけ呆けたように口を開けた。
その後すぐに、いつもの微笑みを浮かべると、甘えるような声を出してくる。
「先輩ぃ……自分のサーヴァントだから信じるなんて……甘いですよ、お砂糖より甘いです」
「だって、まだ完全に黒だって決まったわけじゃないから」
「分かってますよ。先輩のことですから、わたしが黒だって分かっても、きっと甘々な判断をするってことくらい、理解していますよ」
「こんな状況なのに、よく笑えるな」
BBのお茶らけた空気を吹き飛ばすように、同田貫は刀を更に彼女の喉元に突きつけた。そろそろ、彼女の皮膚から血が流れてもおかしくない。立香は少し緊張感を持った。いつでもBBを助けられるように、オルタをこっそり目配せをする。
ところが、当の本人は緩んだ表情を崩さない。
「他の皆さんが先輩の力になると決めているのに、往生際が悪い人ですね。
そんな悪い子には、えいっ、ルルハワビーム!」
BBは無邪気な笑顔で桃色の光線を発射する。
ほぼゼロ距離からの攻撃に、同田貫は避けることができず、そのまま喰らってしまった。仲間が攻撃を受けたことで、堀川たちの空気が一気に険しいものに変化したが、地面に転がった同田貫の姿を見て、急激に冷えていく。
彼が纏っていた漆黒の鎧は消え去り、黒い上着と同色の水着姿に変わっていた。
本人は突然の事態についていけないのか、目を白黒させながら尻もちをついている。
「先輩の同人誌が落ちたら、たぬきになる呪いをかけました。本当はロビンさんみたいに豚にするつもりでしたが、構造が違うので上手くいきませんでした。BBちゃん、失敗です」
BBは、てへっと笑う。
たぶん、失敗ではなく確信犯だと思う。
「ということで、刀剣男士の皆さん! はりきって、同人誌作りに励んでくださいねー!
先輩も遊びはほどほどに。それでは、最終日に待ってまーす!!」
BBはとびっきりの笑顔で言い残すと、ばびゅーんと音を立てながら空へ飛び去って行ってしまった。
「えーっ、同田貫だけずるい!! 僕も水着になりたーい!」
「……いやいや、俺はなりたくてなったわけじゃねぇよ。しかも、なんとなく、こいつらの手伝いをしないと、たぬきになるような気がする……はぁ、俺は戦のことしか分からねぇのによ」
同田貫は頭を掻きながら立ち上がる。
渋々なのだろうが、先ほどまで全身から溢れていた敵意は薄れていた。
「えっと、改めまして。私は藤丸立香です」
そういえば、まだ自己紹介がまだだった。
立香は6人の前に立つと、咳払いをしてから自分の名前を告げる。
「これからよろしくお願いします。こっちは私の後輩の――……」
「はい、マシュ・キリエライトです。それで、こちらがジャンヌ・ダルク・オルタさんです」
「オルタでいいわ。立香の同人誌っていっても、私が描いた漫画を売り出すことで決定しているから」
「主殿―――!!」
オルタが説明していると、浜辺の向こうから凛と通った声が聞こえてきた。
振り返ると、牛若丸が手を振りながら近づいてくる。
帰りが遅いから、迎えに来てくれたのかもしれない。
「牛若丸ー、こっちだよ!!」
立香は背を伸ばしながら、思いっきり手を振り返す。
海に映し出された月。
満天の星空に、耳に残る波のさざめき。
今年も賑やかで、ちょっと大変な夏は、まだまだ続きそうだ。
乱と立香たちがショッピングしたり、包丁くんが朝食会場に入り浸ったり、たぬきさんがベオウルフや李先生たちと意気投合したり、博多がミドキャスと盛り上がったり、歌仙さんも同人誌を描いてみたり、謎のXXさんを水鉄砲で立ち向かったり、柳生の爺様と三日月がろこもこ探しをしたり、連隊戦なので、他の刀剣男士たちもルルハワに迷い込んじゃったり……。
燭台切がキュケオーンの新メニューを考えたり、水着コンテストで村正が脱いだり、むっさんがアルトリア(水着)と射撃を競ったり、筋肉対決でフェルグスと村正が脱いだり、髭切がイバラギンをからかったり、膝丸と今剣が牛若丸やロボと草原を走り回ったり、内番服で熱中症になった長谷部をナイチンゲールとサンソンが介抱?したり、ナーサリーやジャックと小夜が浜辺で遊んだり、来派の三人がゴッフ新所長のBBQに参加してたり、レオダニスと山伏が山籠りしたり、ヌードモデルで村正が脱いだり……
とにかく! サーヴァントと刀剣男士たちが夏の海でわちゃわちゃする話が読みたい!!
こんな小説か漫画、誰か書いてくださいー! 切実に!!