聖杯乱舞「特命調査 聚楽第」   作:寺町朱穂

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今日から、ぐだぐだイベント……。
アヴァンジャーノッブ、うぐぐ……その設定、あと一か月前に欲しかった!!




第三節
第六天魔王(1)


「ねぇ、ノッブ」

 

 清水寺への道を走りながら、立香は先ほどの話を思い出す。

 敵のサーヴァントは6人。巴御前、岡田以蔵、ジル・ド・レェ、呂布、天草四郎、そして、後藤又兵衛。ジル・ド・レェは倒したので、残りは5人になったわけだが、いくつか疑問が残っていた。

 

「後藤又兵衛って誰?」

 

 他の5人の名前は知っているし、カルデアに召喚されている。

 だが、後藤又兵衛だけは知らなかった。中学の時に習った日本史を思い出しても、該当する人物が思い当たらない。戦国時代の武将か、幕末の志士か、それとも、全く違う時代の人なのかすらも分からなかった。

 

「後藤又兵衛とは、簡単に言えば不運な戦国武将じゃ」

「不運?」

「武勇に秀でた男での、黒田長政に仕えておった。じゃが、不仲が原因で追い出された挙句『再就職禁止令』を出され、仕官先が見つからず、やっと池田家に拾ってもらえたが、理由をつけて厄介払いされた男じゃ。

 『大坂の陣』では豊臣方に加勢し、最期は討ち死にしたらしい」

「……悲しい最期だね」

 

 立香は目を伏せる。

 武勇に秀でていても仕事が見つからず、最期は討ち死になんて、世界を恨んでいそうだ。

 

「ランサーの疑似サーヴァントと名乗っておった。実に見事な槍裁きじゃった」

「疑似さーばんと? なにそれ?」

 

 清光が首をひねる。

 

「えっと、英霊を人の身体を依り代にして召喚したサーヴァント……で、いいんだよね?」

 

 立香はロード・エルメロイ二世に教えてもらった内容を思い出す。

 ロード・エルメロイ二世自身も本来は一介の魔術師に過ぎないのだが、英霊 諸葛亮孔明の依り代となることで、サーヴァントとして戦う力を手に入れている。

 

「たぶん、風魔小太郎も疑似サーヴァントだと思う。風魔小太郎を依り代に、英霊としての風魔小太郎を召喚しているから」

「その通り! ……しかしな、わしが会った後藤又兵衛は少し毛色が違っておった」

 

 信長はここで言葉を止めると、素早く家屋の陰に隠れる。

 ちょうど向こうの通りを遡行軍が通り過ぎるところだった。清光は戦いたそうに刀に手を伸ばしていたが、信長が彼を制する。遡行軍は周囲を見渡しながら、ゆっくりと通り過ぎていった。

 

「……毛色が違ったって、どういうこと?」

 

 遡行軍が去ったことを見届けると、立香は声を潜めて尋ねる。信長は再び清水への道を急ぎながら

 

「依り代が、人ではなかった」

 

 と短く答える。

 

「一度遭遇した時、わしとの相性が悪かった故に引き下がったが……その時の戦いで、本人が自嘲しておった。酒瓶を脇に置きながら

 『曲がりなりにも神の身体に、人の魂を入れ込み、疑似サーヴァントにするなんて。マスターは変わり者だ』

 と、言っていたのじゃ」

「神の身体に人の魂?」

 

 それでは、あべこべだ。

 神霊を格落ちさせて、疑似サーヴァントにするのは聞いたことがある。例えば、インドの女神 パールバティは、とある女の子の身体を依り代にすることで神格を落とし、疑似サーヴァントとして召喚に応じてくれた。

 だが、その逆はない。神のままでいることができるなら、神のままでいた方が強いに決まっている。それを、わざわざ神に人の魂を入れ込んで格落ちさせるなんて、どうかしている。

 

「信長公、質問していいい?」

 

 清光が少し考え込むそぶりを見せると、信長に真剣な眼差しを向けた。

 

「そいつって、酒瓶を持っていたほかに、どんな特徴があった?」

「そうじゃのう……前髪が数本触手みたいに伸びていて、くせ毛を後ろで雑にまとめておったな」

「それって!」

 

 清光が足を止めた。

 頭を釘バットで叩かれたような、愕然とした顔をしていた。

 

「そいつ、天下三槍の日本号だよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……文殊智剣大神通」

 

 すとんと、清水寺の屋根に舞姫が降り立つ。

 狐の耳に桃色の髪をなびかせた少女の頭上には、三つの輪が広がっていた。ただの輪ではない。刀の輪だ。一本一本が金色に輝く刀が250本、輪を成して宙に留まっている。

 

「……恋愛発破……」

 

 狐耳の少女の黄金色の瞳は、鋭く射貫くように清水の舞台に向けられていた。

 そこには槍を構えた男が一筋の汗を流していた。

 

「……こりゃ、まずいな……」

「『天鬼雨』!!」

 

 少女の号令と共に、250本の刀が雨のように男へ降り注ぐ。

 男は最初こそ槍で防ごうとしたが、250本の刀が相手では為す術もない。男の姿は刀の雨に埋もれて、少女空は見えなくなってしまった。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

 少女は肩で息をしながら、自らの刀を鞘に納めた。

 

「宝具出す羽目になるなんて……マジありえないんですけど」

 

 少女 鈴鹿御前は清水の舞台に舞い降りる。

 250本の刀は役目を終えて消え去っていた。舞台には男だけが倒れている。

 

「こいつ……あれだけの攻撃を受けて、まだ息が残ってるなんて……!!」

 

 鈴鹿は再び刀に手を伸ばした。

 

「……飲み過ぎたか……いや……これで良かった」

「あんた、なに言ってんの?」

 

 鈴鹿が刀を振り抜き、警戒しながら近づく。 

 男は愉快気に笑った。もう虫の息なのだろう。身体の半分は金色の粒子で覆われ、消滅していく。

 

「だいたいよ、福島正則を殺して奪い取った槍を依り代に、後藤又兵衛を召喚して戦わせるなんて、マスターは何を考えてんだって話だぜ。

 後藤又兵衛としては、そりゃ、オレを認めなかった世界を恨んでる。仕官を認めておきながら捨てられたり、嫌がらせをされたり、散々だった。

 だがよ、オレの中の正三位が叫んでんだ。『この聚楽第はおかしい』ってな」

 

 鈴鹿御前は男の末期の言葉に耳を傾け続ける。

 

「前の主の福島正則を殺し、豊臣を全滅させ、無関係な人まで皆殺し。そりゃ、おかしいだろ。酔った幻覚ならともかく、実際に起きたことだから質が悪い」

「なら、さくっと裏切れば良かったじゃん?」

「あのなぁ、オレはこれでもサーヴァントだ。主を裏切ることはできない。

 だが、まあ、負けたとなっては話が別だ。オレの代わりに、あの化け物を倒してくれよ」

 

 男の身体は半分以上が消えていた。

 しかし、男は鈴鹿御前に言葉を伝える。消失の痛みを堪えながら、一矢報いるための言葉を口にした。

 

「あいつは、カルデアのマスターを待っている。カルデアのマスターが、打ちひしがれる様を見るために、聖杯を使ってこの聚楽第を隔離した、と言っても過言じゃねぇ」

「はぁ? なにそれ。意味わかんない」

「主は肌身離さず聖杯を持っている。オレを含めたサーヴァントも遡行軍も近寄らせないで、聚楽第最奥で聖杯を抱いたまま座しているって話だ。

 つまり、その聖杯をとれば……聚楽第の隔離は解かれ、歴史が動き出す……ッ!!」

 

 男は唸った。

 既に胸の位置まで金砂に埋もれ、消失寸前だった。男は青々とした空を見上げると、悔いるように最期の言葉を口にする。

 

「次があるなら、オレみたいな付喪神を正しく使いこなしてくれる……審神者の元で、正三位の槍を振るいたいものだぜ。

 その時は、飲み過ぎて、負けたなんてことが、ないように……しねぇとな……」

 

 鈴鹿御前の足元で、男は消失した。

 鈴鹿は刀を握りしめたまま、男が横たわっていた場所を見つめた。

 

「……マスターを狙うため? 自分のサーヴァントを近づかせない? どういうことなの?」

 

 鈴鹿は男の遺した言葉の意味を考える。

 一部分だけ、納得がいった。

 この地にレイシフトした際、鈴鹿は立香の元から弾かれ、八坂神社の辺りに立っていた。

 藤丸立香を打ちひしがれる姿を見るために、わざとサーヴァントを離散させたと考えると説明がつく。しかし、何のためにそんなことをする必要があるのだろうか。

 

「――ッう、とりま、移動しないと」

 

 刀の痕は消えたが、舞台に刺さった痕は残っている。

 しかも、あの男の口ぶりからして、他にも敵方のサーヴァントがいることは明白。戦いの痕跡を辿られ、すぐに襲われたら面倒だ。

 鈴鹿は宝具の発動で、魔力の大半を失っていた。JK風の衣装を纏っていたが、槍で切り裂かれた箇所を修復する魔力すら惜しい。

 幸いここは清水寺。

 山へ隠れれば、人の目をごまかすことが出来るだろう。

 

 鈴鹿御前はそう判断し、舞台を去りかけた、その直後だった。

 

「誰だし!?」

 

 鈴鹿御前は殺気を感じ、すぐに舞台の入り口へ目を奔らせる。

 

「……日本号は、今回の部隊にいなかったはずだが……」

 

 煤色の髪をした青年が刀を抜きながら、鈴鹿の方へ近寄ってきた。

 釣り目気味の藤色の瞳は、怒りで燃え上がっているようだった。

 

「なに? あんた、こいつの知り合い?」

「……同じ主に仕えた間柄だ」

「ふーん……」

 

 鈴鹿御前の眼が光った。

 

「じゃあ、こいつの仲間ってことでOK?」

「お前に恨みはないが、この事態を解決することが主命だ。散れ」

 

 青年が地面を蹴り飛ばした。

 その速度は並みのサーヴァントよりも遥かに速い。丁度、一緒にレイシフトして来た牛若丸と同じくらい素早かった。

 鈴鹿は刀を構えるのが一歩遅く、辛うじて避けることはできたが、頬を切り裂かれてしまう。青年は鈴鹿の頬を切り裂いた後、そのまま足を踏み込み、接近して来た。

 今度はなんとか、受け止めることが出来たが、それでも圧が凄い。

 

「圧し斬る!」

「これ、ヤバッ」

 

 きりきりと圧されてしまう。

 鈴鹿は左を頭上に掲げると、黄金色の刀を出現させる。青年がそちらに一瞬、気を盗られた隙に、鈴鹿は別の刀を出現させ、そちらに飛び移った。

 

「よっと!」

 

 次々に出現させた刀に乗り移りながら、青年との距離をとる。

 

「待て!」

 

 青年も続けて刀に乗ろうとしたが、鈴鹿が一念するだけで足場としていた刀が消えた。青年は体勢を崩し、舞台へと落下する。

 

「邪魔だっての!」

 

 鈴鹿は出現させた刀を数本、矢のように飛ばした。青年は落下しながら向きを変え、刀を弾き返すと、猫のように音も立てず着地した。

 青年は舞台から、鈴鹿は宙に浮いた刀の上から、しばし互いに睨み合う。

 

 鈴鹿は青年の服装から真名を分析する。

 先ほどの男は、正面から「疑似サーヴァントの後藤又兵衛だ」と名乗ってくれたが、目の前の青年は名乗りそうにない。

 獲物に刀を選んでいる割には、和装ではない。カソックのような聖職者が纏う服装に近いように思える。そうなると、キリシタン大名なのだろうか。

 

 鈴鹿が分析していると、青年はこちらを睨んだまま動き始めた。

 軽く跳びはね、舞台の桟を踏んだかと思えば、そのまま、まっすぐ跳躍してくる。

 

「空を飛ぼうが無駄だ!」

「はぁ!?」

 

 鈴鹿は刀で圧しだされ、体勢を崩して舞台へと落下する。

 また刀を足場代わりに出現させたかったが、そろそろ魔力が底をつきそうだ。

 

「マジ信じられないんだけど」

 

 鈴鹿は着地しながら、逃げる算段を立て始める。

 現状、速度も力も敵の方が上。おそらく、純粋な剣技も青年の方が上だろう。先ほどの戦いは鈴鹿が圧倒的大量の刀を出現させ、物理量に物をいわせた戦法で勝利することが出来たが、今度はそうもいかない。

 

「しつこいと嫌われるっての」

 

 鈴鹿は刀を構えながら、視界の端に舞台の端を映す。

 舞台の下に飛び降りて、自殺に見せかけた逃走をするか。 

 けれど、青年の戦い方を見る限り、飛び降りても後を追いかけて来そうな勢いがある。

 

「これで、終わりだ!」

 

 青年の刀が急速に迫ってくる。

 避けることもできない。舞台を飛び降りることもできない。鈴鹿は駄目もとで刀を前に突き出し、受けて立とうとした。

 

 ところが、その刀は鈴鹿に届かなかった。

 鈴鹿の目の前の床が黒ずみ、とあるナマモノが盾のように出現したのだ。

 

「なにぃ!?」

「ノッブー!」

 

 これには青年も足を止め、ナマモノを凝視する。

 黒いマント、長い黒髪、軍帽に輝く木瓜紋。大きな白い眼に、デフォルメされたぬいぐるみのように可愛らしいナマモノ。

 

「な、なんだ、悪趣味な生物は!?」

「ちょ、待って。これって、ライブラリで見たことあるし!」

 

 青年は固まっているが、鈴鹿はこのナマモノに見覚えがあった。

 ナマモノは増殖し、そのうちの一体が鈴鹿に近づいてきた。そいつは

 

「ノッブ、ノブ!」

 

 と言いながら、どこかへ案内するように手を振っている。 

 鈴鹿は八重歯を見せるように笑った。

 

「サンキュー、マジ助かった! あいつ、勝手に第六天魔王とか名乗ってて、ちょームカついてたけど、前言撤回! オダノブ、マジ感謝だわ! この場は、あんた達に任せた!」

「待て! 第六天魔王だと!?」

「ノッブ!」

 

 青年が後を追いかけようとしたが、ちびノブがわらわらと群がり行く手を邪魔する。

 ちびノブたちは青年に突進し、自爆しようとする。無論、彼女?たちは、自爆しても魔力が尽きない限り復活する優れものだ。

 鈴鹿は安心して逃げることができた。

 ちびノブに案内されるまま舞台の袖から下の参道に駆けおり、ひたすら走り続ける。

 

「あ、誰かが登ってくるじゃん! オダノブが迎えに来てくれたって感じ?」

 

 鈴鹿は前方に見えた塊を見て、ほっと胸を落とした。

 

 だがしかし、物事とは上手くいかないのもの。

 

 前方に見えたのは、織田信長ではなかった。

 時間遡行軍の群れ。太刀や薙刀を抱えながら、白い髪の青年を先頭に近づいてくる。

 

「あんた……! 天草四郎!」

「後藤又兵衛の様子を見に来ましたが……その様子では、既に倒された後、ということですね。残念です」

 

 天草四郎はさほど悲しむそぶりも見せず、平然と鈴鹿御前を見返した。

 

 

「第四天魔王の娘、鈴鹿御前。我が陣営に投降しますか? 

 それとも、この場で討ち死にしますか?」

 

 

 

 

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