”黒”のビースト、愛歌ちゃん   作:ぴんころ

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一部のサーヴァントには大変申し訳ないことをしたと思っている。だが私は謝らない。


第十七話

 赤のキャスターとビーストが戦い(話し合い)を行なっている間に、当然のことながら戦場は変遷していた。

 その変遷はあまりにも大きい。

 例えば、ルーラーもこの戦場に参戦したということ。

 例えば、赤のセイバーを相手にしていた黒のライダーを助けに入った黒のバーサーカーが宝具の使用と共に消滅したこと。

 例えば、赤のバーサーカーが己の魔力を限界まで込めた宝具を使用して消滅したということ。

 例えば、それによって半壊したミレニア城塞から大聖杯が奪われたということ。

 例えば、戦場がセミラミスの宝具『虚栄の空中庭園(ハンギング・ガーデンズ・オブ・バビロン)』に移行したということ。

 例えば、それに伴って黒のランサーが宝具『鮮血の伝承(レジェンド・オブ・ドラキュリア)』を使用させられ、さらにそこにダーニックの行った禁呪も加わったことで、その討伐に黒赤両陣営が力を合わせたこと。

 

「何が目的なのです。天草四郎時貞」

 

 そして、その最果てにて、赤のマスターだったはずのシロウ・コトミネの正体がかつての第三次聖杯戦争において召喚されたルーラーのサーヴァント、天草四郎時貞であると発覚したこと。

 

「知れたこと」

 

 彼の目的を彼女たちは知ることになる。

 

「全人類の救さ……っ!?」

 

 それが、本来の道筋だったならば。

 

 彼の言葉は最後まで口にされることはない。

 体内から心臓を抉りだしたのは小さな手。

 赤い血によってフリルドレスの袖を穢しながら、少女は謳う。

 

「お前は……!」

 

 血反吐を吐きそうになりながら、天草四郎は背後を振り向こうとする。

 もうすでにその手の持ち主はわかりきっていて、けれど心臓を抜き取られてしまっては如何なサーヴァントと言えど蘇生宝具を持たない限りは死あるのみ。

 ゆえに、ジャンヌ・ダルクの叫びを最後に彼のあまりにも長い、六十年にも及ぶ大聖杯を求める旅路は終了するのだった。

 

ビースト(人類悪)……マザーハーロット!」

 

 すでに彼女は真名を隠すつもりはない。

 あらゆる隠蔽魔術の効果はすでに途切れ、獣の冠をはじめとした彼女が人間でないことを示す全てが現出している。

 その言葉にも人間味を失った、彼女のマスターとなった人間が恐れた、東京の聖杯戦争の時の彼女の笑みを浮かべるだけ。

 ビーストのサーヴァント、マザーハーロットはただそこにある。

 

「ええ、そうよ聖女様」

 

 少女が言葉を発したことによって、その場のサーヴァントの全てが理解した。

 

A■V■■■ B■A■T

人■悪 ■■

 

 これはもう、サーヴァントの枠組みを超えている、と。

 

 おそらくはマスターを殺害しようとも、彼女が消滅することはない。

 

 そして、同時に空中庭園が崩れ始める。

 天草四郎時貞が死んだことによって、彼と契約していたサーヴァントである赤のアサシン、セミラミスが消滅を開始したのだ。

 それによって彼女の宝具である空中庭園もその形を保つことができなくなり、同時に赤のサーヴァントたちは魔力供給を受けられないことにようやく気がついた。

 ビーストの存在によって忘れていたその事実を、宝具を使用していたために急激に魔力が消費され消滅したセミラミス、それに伴う現象によって思い出したという方が正しいのだろう。

 

「なぜ、今なのですか」

 

 けれど、それは彼らのこと。

 言ってしまえばマスター殺しとは聖杯戦争における常道でしかない。

 それを咎めることなど決してルーラーのサーヴァントがしていいことではないと断じて、ジャンヌ・ダルクは崩れ行く空中庭園にて微笑んだままのビーストに問いかける。

 

 他にもチャンスはあったはずなのになぜ、今になって黒の陣営を裏切るような真似をしたのか、と。

 

「劇作家様が気づかせてくれたの」

 

 小首を傾げる様は愛らしい。

 だが、その身に充溢する力はサーヴァントの規格にすら収まらない。

 今この場での戦闘は無意味だと悟り、全員が空中庭園からの脱出を図る。

 この場での戦闘では勝ち目がない、そもそもが霊基の規格が『冠位(グランド)』ではない英霊、それが今この場にいる赤の三騎、黒の四騎程度で勝てる程度であればそれが人類悪なんて呼ばれるはずがない。

 

「ライダー。俺たちを召喚したマスターを頼む」

 

「ちっ……しょうがねえか」

 

 その最中、赤のランサーが同陣営のライダーに頼んだのは己のマスターのこと。

 『単独行動』を持たないライダーでは魔力が厳しいのは事実だが、だからと言ってここで彼らを死なせてしまえば、それこそ契約相手がおらず消滅してしまう他ない。

 そして合計六人のマスター、その全員を運ぶには黒のライダーのヒポグリフではあまりにも足りない。

 

「ならば、僕が暫定的にマスターになろう。それならば君の宝具の使用にも耐えられるはずだ」

 

 そして同時に、黒のキャスターもそんな言葉を口にする。

 あの人類悪をどうにかしないことには己の悲願も叶わぬと悟り、そしてそのためには赤の陣営の力が必要なのだと悟ったゆえの即決。

 

 人類悪顕現という事態に至って、未だに聖杯大戦を第一としよう英霊がいるはずもない。

 

 空中庭園からの脱出のために疾走をしながら、ルーラーは黒の陣営と赤の陣営、その両方に対して告げる。

 

「黒のアーチャー、赤のランサー、現時点で”黒”と”赤”の対立構造は完全に崩壊したと考えていいでしょう。人類悪の誕生ともなれば、協力態勢を敷いていただくことに否応ないとは思われますが……」

 

「俺は問題はない……ライダー、アーチャーは?」

 

「仕方ねえか」

 

「うむ……」

 

 カルナの即答。

 それにライダーとアーチャーも同意をしたことで赤の陣営はその協力態勢を受け入れる。

 アーチャーもそれに同意する。

 もはやこの状況はどちらが聖杯を取るかではなく、世界の崩壊を如何にして防ぐかという事態にまで陥っている。

 

「こちらも問題ありません。ダーニックがああいう形で滅んだ以上、次のユグドミレニアの代表は私のマスターになるでしょうし、彼女も現状を知ればその共闘に否を告げることはないと思われます」

 

 拠点とできる場所はすでにミレニア城塞しかない。

 それぞれのマスターに対して念話で”赤の陣営と共闘しないといけないような事態が発生した”ということだけを告げて、全員がミレニア城塞へと急いだ。

 その道中、赤のセイバーとも合流したために彼女にも事情を説明しながら走ることになり、その速度自体は落ちたのだが。

 

 

 

 

 

「それで……これは一体……?」

 

 バーサーカーが消滅した後、ミレニア城塞の中に戻ってきた俺はなぜか拘束されていた。

 

 彼の消滅によってオジマンディアスがビーストにかけられた縛りから抜け出てミレニア城塞に戻って来た。

 それによってこれからのことを思えば自覚せざるを得ない(持て余してしまう)感情があって、それにちょっと気持ちを馳せているときのことだった。

 サーヴァントたちから頼まれたらしく、理由は彼らもわからないとのことだが、あまりにも切羽詰まっていたためにそれに従ったらしい。

 黒のアーチャーから習ったパンクラチオンによって抗ったがそこは数の差があって最終的には拘束されてしまった。

 

「で、貴方は一体何をしたのですか?」

 

 尋ねてくるのは車椅子に座った少女、フィオレ。

 とはいえ、いきなり聞かれたところで思いつくようなものなどない。

 わからない、と首を横に振ってサーヴァントたちの帰りを待つ。

 

 

「黒のアサシンを名乗っていたサーヴァントは実際はビーストで、それが裏切り大聖杯を持ち逃げした挙句に世界を滅ぼそうとしている」

 

 

 帰ってきた彼ら、なぜか赤の陣営のサーヴァントも連れてきた黒のサーヴァントたちが告げたところによると、つまりそういうこと。

 ああなるほど、と納得するほかない。

 その言葉が赤のサーヴァントだったならともかく、黒のアーチャーから告げられたのだから信じるしかない。

 

「おいおい……なんだよそれは……」

 

 ビースト、という言葉に唖然とする獅子劫。

 ビーストという存在については誰もが理解している。

 魔術的な代物なのだから、時計塔に通うような魔術師であれば尚更に知っている。

 だから、ゴーレム作りにしか興味がないようなロシェだけはそれが何かを知らずにキョロキョロと見回している。

 しかしそちらに構っている暇はないのか、アーチャーは無視する。

 

「ですので、貴方に聞きたいのです。ビーストのマスターだった貴方に。彼女がどういう存在なのか」

 

「そういうことか……」

 

 今にも殺されそうだというのに恐ろしさを感じないのはなぜなのか。

 喋らなければ殺されるし、喋っても殺される。

 ”ビーストが助けに来ない”というのは、つまり彼女が俺を見捨てたということだろうし……うん、まあしょうがない。

 

「あいつは、根源接続者を依り代にして召喚された擬似サーヴァントだ」

 

 別に語ったところで彼女が不利になるような情報があるわけでもない。

 なら別に、語っても問題はないだろう。

 擬似サーヴァントという存在についてよくわかっていないマスターたちに対してのそれの説明は面倒なので今は省く。

 

「ダーニックがサーヴァントを引き連れてうちにやってきた時に、触媒も何もないから縁召喚を行ったらあいつが出てきた。……って言っても、それが本当に縁なのか、あいつが割り込んできたのかは謎だけどな」

 

 もうすでに令呪との間に繋がりは感じない。

 ルーラーも、俺が彼女のマスターだったとみて確認してくれたが、聖杯戦争の裁定者たる彼女からみても令呪はもうどこにもつながっていないらしい。

 

「あいつの目的は、あいつが惚れた『理想の王子様』を作ることらしい。根源に接続してるから、別の世界の恋をしている自分も発見できて、とかなんとか言ってた」

 

 皆が赤のランサーを見ている。

 彼に虚飾が通用しないということを理解している面々は特に。

 俺の言葉に嘘がないかを確認するためだろう。

 彼女についての説明……マザーハーロットとしての、ではなく表出している依り代としての意識についての説明が主にはなるのだが、俺が知っているのはそちらだけなのでサーヴァントとしての能力ならばともかく、性格面でそれ以上の説明を求められても困る。

 

「あいつの宝具は二つある」

 

「片方は、サーヴァントを召喚していたあの黄金の杯だな」

 

 カルナの言葉に頷く。

 

「ああ。あいつが使っていた黄金の杯。あれは、マザーハーロットの持つ姦淫に満ちてるとかいう伝説から魅了の力を持った魔力を生み出すことも、依り代になった少女が参加した聖杯戦争におけるサーヴァントたちを召喚することもできる」

 

 更に言えば魔力炉心としての仕事もあの杯はできるから、実質召喚は無制限だ。

 そして、もう一つの宝具に関してはそれこそ反則と言わざるを得ない。

 

「もう一つは使った瞬間に聖杯戦争の勝者になれるレベルの代物だ」

 

 使用と同時に一度世界を滅ぼし、その上で自らの持つ魔力で自らにとって都合のいい形に世界を作り変える宝具。

 黙示録の獣と縁深いマザーハーロットと、黙示録の獣を召喚して人理定礎を破壊しようとした沙条愛歌。

 二人が複合されたことによる超絶チート級の宝具。

 しかも、魔術ではなく彼女の持つ黄金の杯からこぼれ落ちる純粋な魔力によって世界全体を犯すものなので対魔力でどうにかするなんてことも不可能。

 

 その真名を『百獣母胎・万蝕融界(ボトニアテローン・メガセリオン)』。

 聖杯の『万能の願望機』としての機能を最大限に利用した『世界の内側を自由に変革する』宝具である。

 

「お前……なんていうものを召喚してるんだよ」

 

 その説明にカウレスが思わずため息。

 使った瞬間に勝利が確定する宝具。

 そんなものを持っているサーヴァントは、聖杯戦争を破壊するサーヴァントと言っても過言ではない。

 問題は、それが敵対関係になったことだけ。

 

 とりあえず語るだけのことはした。

 あとのことは他の連中に任せるとしよう。

 どうせこの場で殺される俺には関係のないことなのだから。

 どんな風に殺されるのだろうか、やはりキャスターの宝具の炉心だろうか、なんていう諦めの境地。

 どう頑張っても英霊がいる以上殺される未来からは避けられないと理解して、できれば生きたまま分解されるという最悪の未来だけは避けたいな、なんてことを思う。

 そんなことを考えていれば、カルナがこちらに話しかけてきた。

 

「人類悪のマスターよ、俺と契約をしてはもらえないか」

 

 はあ?

 

 思わず声が漏れた。

 

「……あんた、自分を召喚したマスターに聖杯を与えることを第一にしてるんじゃなかったっけ?」

 

「ああ、それで間違いはない」

 

「なら、なんで?」

 

「まずはあのビーストをどうにかしないといけない、と判断したからだ。そしてそれを成すにはお前と契約をするのが一番だと判断した」

 

 意味がわからない。

 だが、彼がこのような冗談を口にするとは思えない。

 全員から視線を向けられる中、俺は──。




人類悪顕現。顕現……? の最後のひと押しをしたのはシェイクスピアでした。
ごめんね……特に描写もなく死んだサーヴァントの皆……でも、正直何も変わらないなら原作読んでって気分にしかならないんだ……
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