”黒”のビースト、愛歌ちゃん   作:ぴんころ

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第十八話

 結局、カルナと契約をした。

 俺は、彼の語る可能性に希望を見出してしまった。

 彼にとっては己を召喚したマスターに仕えることが第一であり、その命有る限り主人を守ることに変わりはない。

 けれど、だからこそ彼はビーストをどうにかせねばならず、そのために俺との契約を行うという。

 彼は一言足りなかったり語らないことはあっても嘘はつかないために、その言葉は信頼に足る。

 そして、俺とカルナの契約は存外わかりやすいものだった。

 

 ──契約だ。お前は俺に魔力を供給する。代わりに、俺は必ずお前をビーストの元にまで送り届けよう。

 

 根源に接続したことで全能な彼女なのだから俺の意思など無視して彼女の望む『理想の王子様』に”改造”してしまえばいい。

 それをしないという一点がもしかしたら彼女に付け入る隙になるのかもしれない。

 そう言ったカルナによって、俺は生存を確約された。

 これは俺以外にはできないことなのだから、と。

 

「それでカルナ、どういうことなのか聞いてもいいか?」

 

 彼女の居場所がわからないことにはどうしようもないため、わずかではあるが休むことができる期間。

 赤のマスターたちは未だ毒で頭がおかしくなっている状況から治っていないために、治ったと同時に襲いかかってくるということがないように捕縛されているのだが、生存が確約されているのならばそれでマシだろうというのが赤のサーヴァントたちの考え。

 そのため誰かに文句を言われるということもなく、監視のために与えられた自室にてカルナに問いかける。

 

「……何がだ?」

 

「いや、だからなんで『理想の王子様に改造しない』っていうことがビーストの付け入る隙になるのかってことだよ」

 

「ふむ……どこから語るべきか」

 

「……お前がそう考えるに至った理由を、一から、全部言葉で、説明してもらえるとありがたい。説明を省かれたらわからなくなる可能性もあるから」

 

「……わかった」

 

 カルナが語るのは、まず彼女と最初に出会った時のこと。

 赤のバーサーカーを獲得しに行った時のことだ。

 

「あの時、俺の目にはビーストは理想の王子様とやらを取るかどうかを悩んでいるように見えた」

 

 まあ、悩んでもおかしくはないだろうな、というのがその言葉を聞いての俺の感想。

 何せ裏切られたのだ。

 誰がなんと言おうと、この世界では出会うことはないからともかく彼女は理想の王子様(アーサー王)に背後から刺されたという事実を知っているのだ。

 そして、本来ならばそれ以上のことはないはずなのに彼女は別の世界で”他の誰かと結ばれて幸せな自分”とやらを目撃してしまったから、そこに瑕疵が生まれた。

 

 それはそれとして、カルナの口から大真面目に『王子様』という単語が出るとどうしても笑いそうになるのだが。

 

「そして先ほどの第二宝具の内容だ」

 

「あれが……?」

 

「ああ。世界全体を再編する宝具。その気になれば俺たちが消滅したという結果だけを残すことも可能なはずのその宝具を使用しない事実。そこに、勝機が見えた」

 

「それって……」

 

 どういう、と聞こうとしたところで思わずあくび。

 今日は本当に色々とありすぎたせいで疲れている。

 どうやら俺たちがダーニックに与えられた家にいたホムンクルスたちも全員が連れ去られたらしい。

 そのため本当に居場所がわからず、居場所がわかるまでは黒のアーチャーによる突貫コースでの授業が始まるとのこと。

 俺を連れて行けばどうにかなるとのことだが、俺が流れ弾で死ぬ可能性が高いことには変わりないので死にづらくなるようにしっかりと鍛えてあげましょう、なんて言われた。

 それが始まるまでにどうにか体力が回復していないと間違いなく死ぬ。

 それに、カルナとの契約によってかなりガツンと魔力を持って行かれた。

 

 もう、眠気が…………

 

 

 

 

 

 赤の陣営で残っているサーヴァントは四騎。

 赤のランサー、赤のアーチャー、赤のライダー、赤のセイバー。

 この内、セイバーだけは未だに彼女を召喚したマスターとの契約が生きているが残りの面々はその契約は全て潰えている。

 よって、ユグドミレニアが妥協して捕縛したマスターたちと契約を再開させるか、赤の陣営が妥協して黒の陣営の誰かと契約するかのどちらかだったのだが、カルナが黒の陣営のマスターと契約をした、ということによって黒の陣営の誰かと契約する方向性に進んだ。

 ランサーは真幌と契約を行なったし、アーチャーはバーサーカーを失ったカウレスと契約し、そしてライダーはキャスターとの契約をそのまま続行している。

 彼らにとってこの地が敵地であることには変わりないが、それでも今は同盟相手の拠点でもある。

 よってある程度は自由に動き回ることはできていて、彼らは彼らなりに自由に過ごしていた。

 

「む、黒のセイバーか」

 

「赤のランサー」

 

 なので、こうしてばったりと出会うこともある。

 黒のセイバーも、今の所は敵がいないということでゴルドから外を出歩くことは許されている。

 彼の実力は確かにゴルドにも届いたようで、赤のランサーの真名を知ったことも合わせてそんな大英雄と戦える私のセイバーが弱いはずがない、という考えに至ったようだ。

 彼が己の失策を認めるに至ったのかどうか、それについては彼とジークフリートしか知らないことだが、今はそのことは関係ない。

 どちらにせよ、黒のセイバーを相手にして背中を取れるような相手などそういるはずもなければ、背中を取れそうなミレニア城塞にいる面々は正面からの激突を良しとする英雄英傑ばかり。

 

 そして彼らは、特にその筆頭とも呼べる人選だった。

 

 どちらからともなく無言で外を目指す。

 本気の殺し合いは許されないが、軽い修練程度ならば許される。

 むしろ、相手が無限にサーヴァントを呼び出せることを考えれば、誰かと組むことだってあるだろう。

 その時のために修練をしておくことはまるで間違いではない。

 後のことを考えないのはただの阿呆だが、だからと言って後のことを考えすぎて目の前のことを忘れてしまっていてはその”後”がやってくることがないのだ。

 

 特に、ビーストが確実に呼び出せるサーヴァントのことを考えれば、コンビを組まないでどうにかなるなんて楽観視はできない。

 

 ライダー、オジマンディアス。

 ランサー、ブリュンヒルデ。

 アーチャー、アーラシュ・カマンガー。

 

 この三名は特に、倒すという気概を失ったわけではなくとも全員が複数のサーヴァントが相手取らなければならないほどの猛者。

 どれほどまでに再現することができるのかは謎なのだが、最悪の場合は自分に忠実な状態でサーヴァントとしての力の一切を失わないままに召喚することも可能だと考えるべき。

 そのため、少しでも連携の粗を消すためにミレニア城塞前にあった草原地帯、赤のバーサーカーの宝具『疵獣の咆吼(クライング・ウォーモンガー)』によって荒廃した土地になってしまった場所に二人は向かっていた。

 

 そしてそこで、黒のアーチャーによって投げ飛ばされている真幌の姿を発見した。

 

「赤のキャスターがいれば、あるいは彼にも戦場に出るにふさわしい武器ができたのかもしれないが……」

 

 赤のキャスターには『エンチャント』というスキルがある。

 大元が良ければCランクの宝具と同程度の能力を持たせるに至るほどの強力なスキルだ。

 真幌が戦場に出ないといけないことを考えれば、彼に何かを用意してもらうのがいいのかもしれないが赤のキャスターに関してはすでに消滅している。

 あのサーヴァントのことをそこまで好ましいとは考えていないからか辛辣なランサーではあるが、『物語に仕える』という一点だけは決して違えないその在り方そのものは彼も認めてはいる。

 そのため、こういう場合に最初に出てきたのは彼のことだった。

 

「今の貴方に必要なのは逃げの一手だけです。そもそもサーヴァント相手に戦おうということ自体が間違い。貴方には頼りになる槍があるのですから、戦いそのものはそちらに任せて攻撃を避けることに専念してください」

 

「おおぅ……マジの突貫コースだ……死なせずに済む最低限の保証しか存在しない本気の超突貫コースだ……」

 

 暇なのか、それを眺めていた赤のライダーは赤のライダーでトラウマを発現したらしく、どこか青い顔をしている。

 今回の現界に際して黒のアーチャー以上に『他者を鍛える』ことに特化している英霊はいない。

 そのため、彼が真幌の生存の確率をあげるために授業を組んでいるのだが、発見次第すぐにでも向かわなければならない現状、悠長に教える時間などない。

 すでに技に関してはパンクラチオンを叩き込んであるため、あとは経験さえあれば現代で言う所の代行者クラスの実力は発揮させられるはず。

 それ以上の実力(英霊クラス)になれるかどうかに関してはもはや個人の才覚という話になるし、そもそもビーストのことを彼が倒せるなんて考えている輩は誰一人としていない。

 

 彼にどれだけ実力を持たせようと、根源接続者が相手では勝ち目などないのだ。

 

「確か、お前は北欧の戦乙女を相手にするのだったか」

 

「ああ。赤のライダーに関してはアーチャーを相手にするらしい。貴公は……」

 

「俺は、あの男をビーストの元にまで送り届ける必要がある」

 

 ジークフリートはブリュンヒルデを相手取る。

 というよりもシグルドに似ているからきっと勝手に襲いかかってくるとのこと。

 アキレウスはアーラシュ・カマンガーを。

 山をも削り取る威力の矢を東京全域を射程として超連射するような輩を相手にするには、あらゆる時代、あらゆる英霊の中で最も速いという逸話からなる、視界全てが間合いとなるほどの速度を手にする宝具『彗星走法(ドロメウス・コメーテース)』を持つアキレウスが適任。

 神性を持っていない英霊ではあるのだが、それでも彼の踵を撃ち抜けるかもしれない英霊ということで彼のやる気も出ている。

 

 それ以外に関しては適宜その場のノリと勢いで決めるらしい。

 

 ただ、相手方に一部のホムンクルスがいてそのホムンクルスたちに英霊の力だけを置換する技術がある以上、絶対に相手のサーヴァント一騎に対して二騎以上で戦うことは不可能とみてもいいだろう。

 キャスターのゴーレムは低級のサーヴァントであれば戦えるだけの実力は持っている。

 英霊に置換するという大魔術を置換魔術(フラッシュ・エア)という基礎の魔術によって実行している以上、そうして生み出された戦力もその魔術の原則によって劣化するとはいえ、元が大英雄であれば低級のサーヴァント程度では済まない実力にはなるはずだ。

 そんなものを相手にゴーレムだけを向かわせても、勝てるはずがない。

 

「お? お前らここにいたのか」

 

 セイバーとランサーがここにやってきてから真幌がアーチャーの手で地面に転がること約百、気絶した回数も五十を超えそうな時。

 そのカウントに新たな一が加算されたタイミングで、カウレスがやってきた。

 『神授の智慧』による『生存のための術』を叩き込まれ気絶しながらも、ケイローンの圧を感じる笑顔によって水を入れたバケツを取りに行かされたアキレウスに、その水をかけられて叩き起こされた時のことだった。

 そちらにはカウレスは目もくれず、ただ重要な言葉だけを告げる。

 

「ビーストの居場所がわかったらしい」




主人公の武装
・カルナさん
・ケイローン仕込みの色々
・愛歌ちゃん様によって主人公だけではできないようなところまで精密に作られた魔術礼装。

一個とってもチートのはずなのに、全く足りている気がしない

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