”黒”のビースト、愛歌ちゃん   作:ぴんころ

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今日はちょっと短い


第十九話

 カウレスのもたらした情報はあまりにも大きく、強制的に叩き起こされた真幌も加えて全員が黒の陣営が集まって会話をする王の間にやって来ていた。

 

「キャスターの作ったゴーレムが発見してくれたのですが、このピラミッドは確か貴方が先日の戦いの時に放り込まれていたもので間違い無いですよね?」

 

「ああ、うん……多分、あってる。さすがに外から見たわけじゃ無いから外観だけじゃわからないけど、お前らが見たのとは同じなんだろ? それなら、あのピラミッドの持ち主は自分の愛する人の遺品以外だと召喚されるつもりがなくて、それを使って召喚したら許さねえってサーヴァントだったはずだから、あいつ以外に呼び出せるとは思えないし」

 

 キャスターのゴーレムがその目に捉えた映像を七枝の燭台(メノラー)の炎に映し、彼ら全員が視界に捉えたそのピラミッドの在処は超高度。

 以前の空中庭園のように、けれどあれよりもさらに高い場所に存在しているとかなんとか。

 

「だが、どうする。あそこまで行く手段はあるのか」

 

「さらに言えば、あの高度にまでたどり着くことができたとしてもビーストの呼び出したアーラシュに迎撃されるのでは無いだろうか」

 

 アーラシュの一射が宝具級の代物であることも、それを連射することができるということも、東京全域が範囲であることもすでに伝えているので誰もそれには突っ込まない。

 

「赤のアーチャーの宝具ではダメでしょうか?」

 

「無理だな。一射一射の狙いをつけることはできん」

 

 アタランテの宝具であれば同数の矢を放つことは不可能では無いだろうが、彼女の宝具の形からしてそれによる迎撃は難しい。

 あの宝具は、二つの手順を踏んでいる。

 矢を天空に向けて放ち、天空から災厄として無数の矢によって構成された雨が降り注ぐ。

 つまり、空から降ってくる攻撃に対する迎撃を行うときにアタランテの宝具はそこまでの力を発揮しない。

 さらに言えば、あれはアタランテが一射一射全部狙っているわけではなく範囲をある程度選ぶことができる程度。

 宝具によってアーラシュの矢を撃ち落とすことは難しい、逆ならばアタランテの範囲の絞り方次第では確実にできるだろうが。

 

「それなら、赤のライダーに突っ込んでもらえばいいんじゃない? 彼なら神性のない相手の攻撃は通用しないから、それで攻撃が止んでる隙に僕らが乗り込む形でさ」

 

「それ、可能なの?」

 

 同時に召喚できるサーヴァントの数、そして同一のサーヴァントは同時に呼べないのか、それらについてはまるで謎だ。

 最悪の場合、つまり彼女のサーヴァント召喚が無限にできるという可能性を考えないわけにはいかないだろう。

 

「確か、オジマンディアスのピラミッドは『神由来の肉体を持つ者、あるいは神由来の武具以外の宝具封印』『呪詛による猛毒』『自分と配下に仮初の不死を与える』っていう能力持ちなのよね」

 

「ああ、俺が知る限りでもそれだけの能力はあるぞ」

 

 セレニケの言葉に頷く。

 ついでに言えば中にはスフィンクスの群れである。

 一体一体が並大抵のサーヴァントを相手にすることができるだけの戦力。

 

「これ……本当にどうするんだ?」

 

 ライダーを消滅させれば彼のピラミッドもサーヴァントはともかくとして一緒に入り込むマスターは危険である。

 ビーストがその程度で消滅させられるとは到底思えないために、それではただの無駄死にとなる。

 つまり、こちらは神から賜った弓を持つアタランテ、ギリシャ由来の神性を持つケイローン及びアキレウス、太陽神の息子であるカルナ。

 この四名しか宝具を使用することができない状況でビーストを止めないと行けないのだ。

 ……無理ゲーでは?

 

「無理だろう。とにかく、こちらと向こうのサーヴァントの数に差がありすぎる。”赤”のランサーの言葉を信じるなら、その上でこいつを連れていく必要がある」

 

 ゴルドの言葉。

 それと同時に皆の視線が向いたのは俺。

 戦力になる存在に差がありすぎる以上、このままではどうしようもないというのはわかっている。

 だが、それでも手をこまねいていたり、”とりあえず聖杯大戦終わらせちゃいますね”なんてことをやっていられる時間もあるわけがない。

 赤の陣営のサーヴァントと黒の陣営のマスターが契約しているという今の状況が、それが許されてしまうことがあまりにも異例であることを忘れてはいけないのだ。

 

「っていうか、あいつを放置するのはダメなのか? 少なくとも今のところは何かをしでかす様子はないんだろ?」

 

「ダメに決まっているでしょう」

 

 ルーラーがぴしゃりと言い放つ。

 今動いていないことがこれから先も動かない、という保証にはならない。

 だからこその共闘関係であり、それを無視するというのならばこの場で殺し合いが始まるだけのこと。

 

「……まずは、あのピラミッドに向かう方法を出すことから始めましょう」

 

 結局、そこに帰結するのだこの話し合いは。

 何せ、サーヴァントに対しての対抗策があっても戦場に出ることができないのであれば意味がないのだから。

 

 そして、その話し合いは今日も今日とて平行線を辿る。

 向かうための手段が決まったとしても何日かけて向かうのかと言う話。

 俺の安全性を取るか(入念な準備か)世界全体の安全性を取るか(速攻をするか)

 俺の安全性を取ればほぼ確実にどうにかなると言うのがカルナの発言であり、だが当たり前に考えれば世界全体の安全性を取る。

 しかし、その場合はここにある(大英雄もいると言うのに!)ちっぽけな戦力で挑まざるを得ないと言うことで、俺が万が一にも死んでしまったらその時点で失敗すると言うのもカルナの発言。

 結局、どちらを取るのかは決まることはなく、今日も今日とて会議は終わる。

 

 

 

 

 

「それで、結局あなたの目的はなんなんだ?」

 

「あら、そんなことを知りたいの?」

 

 その頃、ピラミッドの中でシドは純粋な疑問を口にする。

 ビーストの瞳が彼のことを捉えるが、もうすでに彼女はシドのことなど一片の価値も認めていない。

 せいぜいが真幌のことを測るための試金石程度だろう。

 

「前にも教えたような気がするけど、私は王子様が欲しいの」

 

「そういうことではなくて……いや、今のは俺の聞き方が悪かったのか。あなたは、このピラミッドを用意して、どうやって王子様を手に入れるつもりなんだ?」

 

 その言葉に、よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりに手を顔の横で合わせて、楽しそうにビーストは告げる。

 彼女の思い描く最良の結末を。

 

「こうやって大聖杯を私が獲得したら、どうしても彼が来るしかないじゃない? そうなったら、どうなっても私にとっては成功でしかないのよ」

 

 彼が殺しにくるのであれば、それはつまり『沙条愛歌を殺した理想の王子様』と同じになると言うことで、彼女にとっての王子様の素体である以上はそれはつまり『理想の王子様』としての完成。

 逆に、殺さないと言う選択肢を取るのであれば、それは『理想の王子様』ではなく、されど『沙条愛歌をとった王子様』にはなれる。

 どちらであっても彼女にとってはいいことでしかないのだ。

 

「……もしも、あの人が来なかったら?」

 

「その場合は残念だけど世界をやり直すしかないわね」

 

 彼女の宝具ならばそれができる。

 途中で死んでも、やり直す。

 

 いつか、坂月真幌がこの場にたどり着くその時まで。

 

「それは……」

 

 本当に人類悪なのか、とシドは口にすることはなかった。

 人類を愛するがゆえに滅ぼすのが人類悪。

 そして、彼女にとっての人類とはすなわち、己の王子様だけなのだろう。

 だが、彼女は王子様だけは確実に死なせないように思えてしょうがない。

 だから、これは本当に人類悪なのかと、シドはそう思った。




主人公たちのミッション

・空中にあるオジマンディアスのピラミッドに突入。なおその時にはアーラシュからの迎撃があるものと思われる

・オジマンディアスのピラミッド内部のために「神由来の肉体、あるいは宝具を持つ者以外の宝具封印」「呪詛の猛毒」「オジマンディアスとその部下の不死化」が存在するピラミッドなのだが、ピラミッドが消えると主人公が空中からの落下で死ぬので、たとえ倒せるとしても絶対に倒してはいけない

・中には並みのサーヴァント程度の実力はあるスフィンクスが群れでいる

・サーヴァントとサーヴァント並みの戦力のホムンクルスが無尽蔵に中にいる

 この状況下でただの魔術師である主人公を最奥の愛歌ちゃん様のいるところまで連れて行かないといけない。

 …………無理じゃない?

 少なくとも作者には何も思いつかないよ……?

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