”黒”のビースト、愛歌ちゃん   作:ぴんころ

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第二十一話

「我が弓と矢を以て太陽神と月女神の加護を願い奉る」

 

 出発した飛行機の視界にピラミッドが入った頃、モードレッドからの言葉によってそのことを知った面々は、それぞれの役割を果たすために準備をしていた。

 アタランテもその一人。

 飛行機の中では何をすることもできないためにアキレウスからの愛の告白じみた何かをスルーしながら、ただその時を待っていた。

 霊体化することで壁をないものとして飛行機から外に出た彼女は、今宝具を解放しようとしていた。

 

「この災厄を捧がん───『訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)』!」

 

 放たれた矢の雨は、飛行機が下から向かうということを考えればあまりにも無謀。

 今からこの飛行機は矢の雨の中を突き進んでピラミッドに上陸しないといけないということなのだから。

 だが、今回はそれでも問題はないのだ。

 範囲を限界まで絞り、ピラミッドの周囲以外には降り注がないようにして密度を高めた。

 降り注ぐ矢の量そのものは一切変わっていないが、密度だけは高まっている。

 その一点だけで、近づくまでの時間稼ぎにはなるのだから。

 

「何ともはや……」

 

 話には聞いていた。

 アタランテも、もしかしたらどうにかされるかもしれないとは考えていた。

 だが───。

 

「まさか、全弾撃ち落とされるとはな……」

 

「そりゃ仕方ねえだろ。アーラシュ・カマンガーは一人じゃなくて二人、召喚されてるみたいだしな」

 

 超一流の弓兵である彼でも一人ではもしかしたら無理だったかもしれない。

 だが、二人揃えば不可能ではなかった、というたったそれだけ。

 

「おい、ライダー。汝は何をしている。汝の役割は私が宝具を使って奴らの迎撃を誘っている間にアーラシュ・カマンガーを滅ぼすことではないのか」

 

「いえ、彼はアーラシュ・カマンガーを普通に倒していましたよ」

 

 そこにケイローンもやってきた。

 そして、彼の瞳が捉えた絶望的な情報を一つ。

 

「ですが、元々がビーストの持つ聖杯から召喚されているせいか、それともピラミッドの効果で不死を得ているからか、倒しても意味がないようなのです」

 

「つまり、どこかで誰かが抑えなくちゃいけないってわけだ」

 

 安牌としてはアキレウスだろう。

 相手は神性を持たないアーラシュの群れ。

 他のサーヴァント達であれば脅威となる相手ではあるのだが、アキレウスに限ってはただの群れでしかない。

 だが同時に神性を持たない相手と戦うということは、彼からすれば同格ではない相手と戦うということ。

 宝具である矢の雨をいくら一人ではなかったからと言っても、ただの技量だけで全弾撃ち落とすという偉業。

 それを成すだけの実力を持つという事実があるからこそ、アキレウスは彼が神性を持っていないことを悔やんでいるだろう、とケイローンは思っていた。

 

「ま、仕方ねえか」

 

 彼は己の持つ英傑殺しの槍をくるりと一回転。

 そして、後ろにいるアタランテに告げる。

 

「姐さん、もう一回宝具の使用はできるか?」

 

「……? ああ、できるが」

 

「なら、頼むわ」

 

「……わかった」

 

「先生は片方抑えててくんねーか。今から俺がやるのは、どうしても一対一になるからな」

 

「それは、どういう……」

 

 答えが返ってくるよりも先に、アタランテの宝具が解放される。

 そして、それと同時にアキレウスが己の槍を投げた。

 

「行けッ! 我が槍、我が信念──『宙駆ける星の穂先(ディアトレコーン・アステール・ロンケーイ)』!」

 

 その槍が作り上げた一対一の空間にケイローンは驚き、されど己の役割を見失うことはなく。

 もう一体のシャドウアーラシュに向けてアタランテとともに向かった。

 アキレウスがそれを展開したのは、『たとえこの距離であったとしても、この男であれば自らを殺しうる一手を放つことができたとしてもおかしくない』と考えたから。

 つまり、アーラシュがアキレウスを殺すのが先か、それともアキレウスがアーラシュを絞め殺すのが先か。

 その戦いをしてもいいほどの相手だと、彼はそう思ったのだ。

 

 そしてその間に飛行機は超大型複合神殿体、『光輝の大複合神殿(ラムセウム・テンティリス)』の内側へと突入していた。

 

 

 

 

 

「……来たか」

 

 ピラミッドの中を走っている最中、言葉にしたのはジークフリート。

 目の前から魔力放出によって炎を纏った槍を持って迫ってくるのは、シャドウサーヴァント状態のブリュンヒルデ。

 ただし、宝具の使用ができないとは考えないほうがいいだろう。

 相手は根源接続者。

 そんな彼女が、シャドウサーヴァントの召喚に際して霊基の改造を行えないと思うほうが間違いであり、そして何よりもライダーのサーヴァントであるオジマンディアスの宝具が彼女の拠点となっているという事実が、その考えを補強する。

 ジークフリートとブリュンヒルデのステータスは敏捷がワンランクだけジークフリートが劣っているだけ。

 つまり、どのような決着を迎えてもおかしくはない。

 

 そのはずなのだが。

 

「ふんっ……!」

 

 一気に、ジークフリートが押し飛ばす。

 ジャンヌ・ダルクから令呪によるブーストを受けている今の彼であれば、ブリュンヒルデをステータスではわずかに上回る。

 斬撃を行ったところで何も意味などないと判断したジークフリートは剣の腹でブリュンヒルデの鎧を叩き、彼女のことを吹き飛ばして道を作った。

 

「先に行け……! あとで追いつく!」

 

「はっ! 背中を取られるんじゃねーぞ!」

 

 モードレッドの言葉。

 人間である真幌が走るとなると、サーヴァントとの間に走る速度の差が生まれ、最終的には置いていかれてしまう。

 では、真幌を置いていけばいいのかというわけではなく、彼を置いていけば確実に殺される。

 故に、この状況下で取られる手段はたった一つ。

 

鏡像、反転。偶像、完成。鏡面、展開(鏡よ鏡、醜い現実を隠しておくれ)

 

 魔術回路が駆動を開始し、坂月家十一代に渡って築き上げられてきて、さらにはビーストの手によっていじられた魔術刻印も独特の魔術を構築し始める。

 耐熱の魔術なんて、彼らの炎の前では何も意味など持たない。

 故に、彼が選んだのは鏡面の世界……心象世界によく似た空間に彼が受けるはずだったダメージを逃がすこと。

 逃がせる総量そのものには限度はあり、一度の展開でゼロから積み上げたそのダメージ総量が限度を超えた瞬間に全てのダメージがそっくりそのまま返ってくるのだが、ビーストによっていじられた魔術刻印が紡いだ魔術はこれまでに比べて遥かに多量のダメージを、それこそ英霊の宝具クラスの一撃であったとしても問題なく逃がせるようになっている。

 

「よし、カルナ。やってくれ!」

 

「了解した……!」

 

 真幌のことを担いだカルナの脚力に一気に魔力放出(炎)によるブーストがかかる。

 太陽神の息子たる彼の魔力放出は尋常ではない炎を吹き出し、それは担いだ己のマスターすらも焼き尽くしかねない威力となる。

 その威力の全てを逃しているために、加速度的に溜まっていく鏡面世界のダメージ総量。

 ビーストの調整がなければ一瞬で許容量を超えて死んでいただろう体も、現実にはいじられたという結果だけがあるために死んでいない。

 

 それが、過去の改竄が行われたことによって生まれたものなのか、それとも真幌が寝ている間に勝手にされたものなのか、あるいは真幌も起きていた中で行われたことなのか。

 その答えは誰も知らないのだが、『使えるものは使う』の精神で真幌は一切の躊躇なく使用していた。

 

 それを見ることなく、ジークフリートはただその場で構える。

 

「……来い!」

 

「ああ……あなた……シグルド……ごめんなさい」

 

 ブリュンヒルデはジークフリートを視界に捉えながら、ジークフリートを見てはいない。

 彼女が見ているのはシグルドただ一人。

 そのため、シドは少し危険だったりするのだが、そんなことは誰も知らない。

 

「殺し、ますね……」

 

 巨大化した槍を『幻想大剣』にて受け止める。

 炎に包まれた逸話によって得た魔力放出は槍に付与され、『幻想大剣』で防いだとしてもその熱にてジークフリートの肉を焦がす。

 得難い難敵と出会ったという確信を持ってジークフリートは、契約の経路(パス)を通じて行われる治癒に心中で感謝を告げながら油断なく眼前の敵を見据えた。

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