”黒”のビースト、愛歌ちゃん   作:ぴんころ

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第五話

 結局、ゴルド・ムジーク・ユグドミレニアは彼のサーヴァントであるセイバーの、ジークフリートという真名を語らなかった。

 それのせいで『坂月真幌には語らせたくせに自分は語らないのか』というような冷ややかな視線を全マスターから受けて肩身の狭い思いをしそうだったのだが、それは俺には関係のないこと。

 むしろ、サーヴァントとしてはともかく、ヴラド三世個人としては敵側であるネロ・クラウディウス(ローマ皇帝)という真名を隠していたことにまで理解を示されてしまったために、きっと普通に真名を明かさなかった場合に比べてさらに冷ややかだったのだろうが、そこはいい。

 その考えにたどり着くまでの間に”ネロ・クラウディウスが女だったなんて”という驚きが皆に見られたので、『”俺”(転生者)から見れば型月世界では女なのが通常である存在がいたとしても、”真幌”(この世界の住人)から見れば普通ではないのだ』という可能性についても、今ようやく理解することができた。

 そうした、ある意味では実りの多い訪問だったが、ゴルドがこちらに絡んでくる可能性が捨てきれないので、帰宅することにしたのだが、そのタイミングでダーニックがこちらに話しかけてきたのだ。

 

「そういえばだ、坂月真幌。君はどうしてサーヴァントの真名を隠していたんだい? これから共に戦う予定だったのだから別に教えてくれても良かったのではないか? 例えば、私がランサーの真名を教えていたなら教えない選択肢もそこまでおかしなことではないが……」

 

「ええ、聞いてないですよ」

 

 ダーニックの言葉を引き継ぐ。

 その言葉に理解が及んだ魔術師から目を細めてこちらを見てくる。

 この言葉はつまり、俺は一目見ただけでサーヴァント(黒のランサー)の真名に気がついたということなのだから。

 どうして気がついたのかを確かめない限りは、自分たちのサーヴァントの真名を暴かれるかもしれないという不安もあって安心できないのだろう。

 特にゴルドに関しては当人が真名を隠したがっているために、その視線に乗った鋭さと焦りが他の面々に比べて大きい。

 

「では、なぜ?」

 

「いや、だって……」

 

 ルーマニアで聖杯戦争を行うのにヴラド三世を呼ばないはずがないのでは。

 

 原作知識以外では、ダーニックが手にした触媒などの情報を一切持っていなかった、そんな俺にこの場で彼らに説明できる理由などこれぐらいしかありはしない。

 ただ、今の俺が用意できる理由としては納得されるものだったのか、他の面々は”地元で大英雄とされる人物を呼ぶ”という行為の合理性を認めたのか、なるほどというような様子を見せてくれた。

 

「ヴラド三世を呼ぶ可能性は十分にあるのだから、もしもヴラド三世を呼んでいた場合にこちらが召喚したのがネロ・クラウディウスだなんて最初から聞いていたら、もしかしたら殺しにかかってきたかもしれないじゃないですか。……そうじゃなくても、大聖杯の存在すら定かではないあの状況下だったら『聖杯大戦』なんて信じられるようなものではないですし」

 

「ふむ、それもそうか……」

 

 どこか面白そうにこちらを見ているダーニック。

 

「ならば、君はセイバーの真名はどう考える? そこに至った考えも合わせて説明してくれるとありがたいな」

 

「ダーニック!?」

 

 悲鳴のような声のゴルド。

 真名がバレると思っているのか、それとも思ってはいないが万が一という可能性があるからか、その答えは俺にはわからない。

 わかるのは、ゴルドの悲鳴のような声にもダーニックは頓着していないという事実だけ。

 こちらに対してさあ、と促すような顔だ。

 俺の魔術師(マスター)として以外の部分についての評価をしようとする顔なのだ。

 

「……」

 

 これは答えないと返してもらえないな、と理解してしまう。

 そうなると、まずは俺が持っていておかしくはない情報をまとめないといけない。

 

 その一、まず召喚したサーヴァントはセイバーとしての適正がある。

 その二、このセイバーには致命的な弱点がある。

 

 ここからどうにかしてセイバーの真名を組み立てるところまで行かないといけない。

 ビーストが”ネロ・クラウディウス”と名乗ってしまったために、戦闘の逸話のない彼女を召喚したことできっと彼の中では俺の価値が下がっている。

 役に立つ駒であるということを見せないと、無茶振りをされるかもしれない。

 最大はジークフリートに真名を確定させること、最低でもジークフリートを候補の中でも上位に示すことが望まれる、といったところだろうか。

 

「……まず、セイバーのサーヴァントにゴルドさんは『致命的な弱点がある』って言った。ってことは、彼の逸話にはこのセイバーには明確な死因がある」

 

 この場合の死因は戦場で死んだ、みたいな程度のものではなく、明確に神話の中で名前付きの存在(ネームド)によって殺された、ということ。

 ヘラクレスがヒュドラの毒によって死んだように、アーサー王がモードレッドに殺されたように、そうした死因は英霊にとっては大きなものである。

 その英霊を構成するのは、死ぬところまでを含めてのことなのだから当然と言えるのだが。

 

 だが、同時にこれだけでは”致命的な”弱点とは言えない。

 確かにアーサー王はモードレッドに殺されたが、それだけならモードレッドが召喚されない限りは弱点を突かれることはないからだ。

 

「それで、”致命的”とまでいうからには”弱点を知っている人物であれば誰でもその弱点を狙える”ってことだと思う。ヘラクレスを召喚していたとしても、ヒュドラの毒を用意できる魔術師なんて限られるから、そういう意味ではそこまで致命的じゃないですから」

 

 ゴルドは戦々恐々としている。

 真名に確かに近づいているからだろう。

 

「そういう弱点ってなると、俺の知る限りだと背中だけ不死身じゃないジークフリートとか、踵だけ不死身じゃないアキレウスとか、あとは神霊だから召喚できないけどヤドリギ以外だと殺せないバルドルとか、そのあたりかな」

 

「そして、その中で考えられるセイバーとしての逸話となるとジークフリート、か。……ということは君の考えではセイバーはジークフリートだと?」

 

「今ある情報で考えられる限りだと、って話にはなりますけどね。実はゴルドさんが考えている”致命的な弱点”っていうのがそこまで致命的ではないけれど彼の逸話の中には確かに存在する弱点だからってだけの可能性もありますから」

 

「……なるほど、そういう考え方か。参考になりそうだな、ありがとう」

 

 この考え方については何も言われない。

 俺の考え方について彼がどのような評価を下したのかはわからない。

 ただ、これ以上の問いかけをするつもりはないらしい。

 もう下がっていいという言葉もあって、俺とビーストは帰らせてもらうことにする。

 ビーストが黙っていたという事実に多少の不安を覚えながら、さすがにこれで不安を抱くのはおかしいのではないかと彼女を信じようとしてしまっている部分を握り潰す。

 昼間にビーストの人間味のある部分を見たせいで少し彼女に寄り添おうとしているのかもしれない。

 このままだと彼女にズルズルと引きずられるかもしれないので、ちゃんと彼女の見方を人間に対してから根源の姫に対してのものに変えないといけない。

 

 

 

 

 

「ダーニック、あの者のことをどう思う」

 

 真幌がセイバーがジークフリートだという意見を出した後、彼はそこまで気にしていなかったが周囲の空気が確かに変わっていた。

 例えばセイバーが彼という個人を捉え、驚愕を乗せた視線を向けていたり。

 例えばゴルドは彼を見下していたのだが、わけのわからないものを見るかのような目を向けていたり。

 他の面々はそれらの視線でセイバーの真名はあれであっていたんだな、と納得していたり。

 そんな中で、黒のランサーことヴラド三世は自分(サーヴァント)のマスターであり、自分(ヴラド三世)の臣下であるダーニックに向けて問う。

 求められているのは自分の意見、そのことを理解したダーニックは思った通りのことを口にする。

 

「理屈としてはそこまでおかしな考え方ではないのでしょうが……こうまで明確に当てられるとどこか薄ら寒いものを感じてしまいますね」

 

「ふむ……貴様もか」

 

 まだたった二人でしかない。

 十四騎いる中の二人だ。

 しかも、ヴラド三世に関しては情報は行われる土地とクラスしかない。

 彼にとっては確信を持てないレベルだったのかもしれないが、それでも候補としてあげられてしまったということがダーニックとヴラド三世からの彼らに対しての注目度を上げることになった。

 

「そもそも、坂月真幌とはどのような魔術師なのだ?」

 

 すでにこの王の間に残っているのはダーニックと黒のランサーの主従のみ。

 だからこそ、ある種この城における主人である二人にしかできない会話を行なっている。

 彼が裏切るとは考えていない。

 ユグドミレニアの魔術師として参加した以上、彼には魔術協会に戻ることなど許されるはずもないのだから。

 だが、それはそれとして彼の実力を含めた諸々のことを疑っていることは事実だった。

 

「時計塔に侵入しているユグドミレニアの魔術師たちに調べさせた程度でよろしければ」

 

「ああ、それでいい」

 

 でしたら、とダーニックが口にする。

 彼自身は特別優秀なところを見せる魔術師ではなかったのだが、現代魔術科(ノーリッジ)の魔術師であるために結構な期待はあったらしい。

 何せ”あの”在学生ですら『位階』持ちが複数いて、OBともなれば全員が十年以内に『典位』以上を取得していると言うロード・エルメロイII世の教室なのだから。

 とは言っても彼以上の魔術師など無数に存在していて、彼に対して期待をかけているのはその家系という考慮材料を知っている人たちぐらい。

 そのため、知る人ぞ知ると言った類の期待ではあったが。

 

「彼の家系は坂月……昔は朔月と言ったそうです」

 

 鏡は反射してその姿を映す。

 そこに本心を反映させる、というのだろうか。

 願いを映し出し、それを取り出す。

 小規模な聖杯とも言える機能を昔は持っていたようだが、今ではそのレベルのことはできず、せいぜいが鏡による反射の魔術を行う程度が限度らしい。

 あるいは、どこかの世界では今もまだ聖杯としての機能……家系内部では神稚児と呼ばれた力を持っていたのかもしれないが、この世界ではそんなものは残っていない。

 

「……いや、待て。もしかしてそういうことなのか?」

 

「どうした、ダーニック」

 

「いえ、あの男はもしや『鏡の魔術によって領王を映す』ことによって真名などを取得したのではないかと思いまして」

 

「ふむ……」

 

 それが事実なのかどうかはわからないし、そもそも魔術師に己の成果(魔術)を教えろなどと言っても教えるわけがない。

 その程度のことは黒のランサーも理解している。

 役に立つのであればそれでいい、敵側に利するならばそれはそれで処理する名目になるだけのこと。

 キリスト教……彼が信奉する神を弾劾したというローマ皇帝を相手にしながらも状況を理解して雇用することを決めた黒のランサーがそう告げればダーニックは平伏する。

 

「了解しました、領王(ロード)。……まずは、あの男に対する監視の目を強めることにします」

 

 一日程度泊まっていったところで問題など何もないだろうにもかかわらず、なぜか真幌は早急に帰ろうとした。

 もしかしたら時計塔とはまた別の、どこかの魔術協会とつながっている可能性だってある。

 そういったところに情報を流すそぶりが見えたなら、あるいは誰かと連絡を取っているところが見受けられたならば、如何に速く、如何に情報を引き出してから殺すのかが重要となる。

 情報の流出も防がねばならないために、これまでよりもホムンクルスや使い魔による監視の目を強めなければならないな、とダーニックは思考していた。

 彼に与えた邸宅はすでに黒のランサーの(スキル)によって彼の領地と化した状態の土地。

 そのことは彼に教えていないために、もしも情報の流出が見られるようであれば彼らに対して黒のランサーの宝具たる『極刑王(カズィクル・ベイ)』による不意打ちができる。

 黒のランサー自身もそのことは理解しているために、監視の目を強めるだけの行為で許していた。

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