0 years old
♪〜……♪♪♪〜…♪♪……♪♪〜……
暗い闇の中で鈍く、優しく響く澄んだ声。
一番初めの記憶で聴いたその歌声を、今も覚えている。
その声は、俺が生まれる前から、俺の味方だった。いつも俺を元気づけ、慰め、勇気づけてくれる……そんな、優しくて温かい母親の子守唄。まだしっかりとした意識はなくとも、それが母親の声であること、その声がとても優しい響きだと感じる。いつでも俺のそばにある、形はない俺の宝物。ハウスに来て家族ができてからも、誰にも教えたことはなかった。
3 years old
「レイ、またそんな所にいたの。」
下を向いていた俺は、頭上でママの声がしたので、つと顔をあげた。
3歳になった年のある昼下がり、俺は他の子どもたちが昼寝をしているなか、部屋のすみで一人チェスをしていた。
チェスといっても、ルールを分かっているわけではなく、駒を動かして遊んでいるだけだ。年長の兄姉たちがママとやっているのを見てから、俺が考えるのはチェスのことばかり。駒の動きを見たくて、いつも誰かの膝に乗せてもらって観戦した。今の所わかっているのは、一つ一つの駒には名前があることと、それぞれの駒には決まった動きがあることくらい。この頃は、まだそれらを覚えるまでには至っていなかった。
「眠たくないの?」
ママが俺の前にしゃがみながら言った。
俺は頷いて、カーテンごしに輝く午後の太陽の陽射しでポカポカと暖かい部屋を見渡した。
他の兄弟たちはスヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。なかでも、真夏にとれたオレンジのような髪の色をしたエマは、特別目立つ。食べものの夢でも見ているのか、ヨダレを垂らして何やらもぐもぐ言っていた。エマと対照なのはノーマンだ。ノーマンは眠った時のまま、上を向いて穏やかな表情だ。肌も髪も真っ白なノーマンは、兄弟たちの中でも病気がちで、性格もおとなしい。元気なエマと遊ぶと必ず一度は痛い目をみるが、ノーマンとだと眠くなるまで日向ぼっこをする羽目になる。2人は色々と対照的で、2人のことは大好きだが、誰と遊ぶのがいいか、いつもギリギリまで悩んでた。
「じゃあ、ママとチェスで遊びましょうか。」
ママはクイーンの駒を持って、挑戦的な笑みをつくる。ママは兄弟みんなの性格を知り尽くしているが、まだ個性が出てきたばかりの俺たちちびっ子のことは、まだまだ把握しきれていないところも多い。ここで俺が乗るか乗らないかで、また俺の性格を測っていくつもりだろう。でもこの時の俺は、そんなことは考えも及ばない。
「うん。」
コクリ、と、動かすにはちょっと重い頭をうなづかせた。
普段のママは、ほかの兄弟たちの面倒も見なくてはいけないから、滅多に独り占めにできない。みんなで寝ている中、1人で起きていたのはそれが狙いでもあった。もしかしたら、ママが俺に構ってくれるかもしれないと。
「ふふっ。じゃあまず、駒の名前を一つずつ覚えていきましょうか。」
俺へのママの愛情は、たくさんいる家族に向けられるものと同じだった。
続く