7years old
カチ カチ カチ カチ カチ……
部屋には時計の秒針の音だけが響いている。目の前に対峙するママはどこまでも余裕の表情で、俺の焦りは増すばかり。活路を見出そうとすればするほど、首を絞められる感覚が強くなる。どうすれば勝てる、どうすれば……
「ふふ。負けを認める?レイ。」
(……チクショウ!!!!!!)
いくら探しても希望が見つからない。生きる道がない。
俺のキングは、死んだ。
「マーカス、あんまり無茶しちゃダメだよ。」
2人の弟妹を抱えてはしゃぎ回る兄に、いつもの木陰から声をかけた。
「大丈夫だってレイ!」
そのままダーっと森の方へ駆けていくマーカスを見送った俺は、軽くため息をついた。
マーカスはスーザンと同い年の兄だ。この間10歳になったばかりのやんちゃな性格で、今の忠告も、右から左に耳を素通りしてったに違いない。
「今度の出荷はマーカスよ。」
一昨日の夜、書斎で聞いたママの冷たい声音を思い出す。
「あの子はよく怪我をするから、出荷までマーカスが無茶をしないようにしっかり見張っててちょうだい。」
それが今回の俺の仕事だ。
6歳の時、ママの手下になってから今まですでに7人の兄姉を見送って来た。その手助けをしたのは自分だ。
俺が初めて手を下したのはシンディー。いたずら好きな明るい姉だった。出荷の一週間前に知らされて、仕事内容はシンディーのそばにいること。初めての仕事だからそう難しくない内容にしたんだろうが、それは地獄の日々だった。もうすぐ死ぬのがわかっている姉と洗濯をしたり、一緒に遊んだり……感情を必死に抑えていたら、「レイってば、本当に愛想のない子ね!」と言われた。そう言って俺をくすぐって笑わせようとしてくれた姉に、ちゃんと笑顔を見せることができたか自信はない。
今思えばママは、簡単なようですごく酷い初仕事をよこして来た気がする。
「レイ、みんなで鬼ごっこするんだ!お前も混ざれよ!」
マーカスが定位置に座る俺にわざわざ声をかけて来た。
最近は俺からマーカスに話しかけるよう心がけていた。普段はあまり一緒に遊んだりしないから、急に近づいて不審がられたりしないためだ。兄弟なんだから、そこまでしなくても良いんじゃないかと思うこともあるけど、万が一危険な芽を出すのは防がなければならない。ママの手下になった時、口すっぱく言いつけられたことだ。
俺の心がけがうまい具合に作用したらしい。マーカスから声をかけてくれるなら、手間が省ける。
「……良いよ。」
俺はいかにも渋々といった風を装って本を閉じた。
「よっしゃーー!みんな、レイをゲットしたぜー!」
一瞬、「おっ」と意外そうな、でも嬉しそうな顔をして、マーカスは他の兄弟たちに呼びかけた。
「えーーー⁈どうやって誘ったんだマーカス!」
「レイったら声かけても全然遊んでくれないのに。」
「ヘヘーン。俺にかかっちゃレイだってこの通り、遊びたくなっちゃうんだな、これが!」
不本意なことを言うマーカスだが、誇らしげに笑うその顔を見て、俺は苦笑した。俺がどんなに断って避けていても、兄姉たちは代わる代わる誘いに来てくれる。それは心に深い罪悪感をもたらすが、同時に泣きたいくらいの幸福も運んでくる。こんな俺でも、俺のしていることをみんなが知らないとわかっているけど……家族として愛されている。守ってくれる、手を差し伸べてもらえる。そう思える瞬間でもあった。
俺は卑怯だった。
続く