Ray〜lonely fight〜   作:小石

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続き


Preparedness

 

9years old

 

 

「レイ?」

 

部屋で寝る準備をしていると、同室のマージョリーが俺を呼んだ。先月5歳になったばかりで、花や自然が好きな可愛い妹が、無垢な瞳で俺に手を伸ばしている。

 

「抱っこして!」

 

小さい子は、時々意味もなくねだる時があるが、今マージョリーはそれらしい。なんだってその相手に俺のような無愛想な兄を選ぶのか不思議でならないが、小さい妹を追っ払うのは兄としてあまりに大人気ない。俺はベッドに座って小柄なマージョリーを膝に乗せてやった。どうせすぐに飽きるだろうと。

マージョリーは嬉々として俺の膝に乗ると、それからは何か話すでもなくじっと俺の腕に抱かれていた。ゆりかごみたいに揺れてやろうかと思ったが、ねだられているわけでもないので辞めて、俺も無言になる。普段からそんなに喋る方じゃないから、不審には思われないだろう。途中、マージョリーと仲の良いナンシーやパティが来たり、コリンがマージョリーをからかったりしたが、今日は甘えたい日なのかマージョリーは俺から離れなかった。時々手で遊んだりもぞもぞしたが、それでもだ。

ずっと無言でいる俺に甘えて楽しいのか?なぜ俺のところに来たのか、本当に謎だ。

そろそろ就寝の時間になってマージョリーを下ろそうとしたところ、俺はマージョリーが俺をじっと見ていることに気がついた。これも小さい子には時々あることだ。普通は赤ん坊の頃にお父さんかお母さんの顔をじっと見つめて視線を外さないものだ。ここにはみんなの父母の代わりにママがそれにあたる。たまにママが抱いている赤ん坊がママの顔を凝視しているのを見かけることもあった。しかし、もうマージョリーは赤ん坊ではないはずだが…

 

「マージョリーは怖くない?」

 

突然、マージョリーが言った。俺から視線を外さずに唐突に言うから、俺はとっさにマージョリーの言葉の意味を図りかねた。

 

「…なにが?」

 

「レイは、みんなが怖いみたいだったから。それで、マージョリーのことも怖いかなって思ったけど…マージョリーは大丈夫だったね!」

 

マージョリーはそれを小声で言って、最後にニコッと笑った。

 

(怖い?俺が?マージョリーを?みんなを?)

 

俺はみんなを怖がったことはない。ただ、みんなと話したり親しくするのを恐れることはある。朝にダレンと話した時だって、仲良くしたくないからいい加減な態度で接した。ほかの兄弟に対しても同じだ。必要以上に近づいたり話したりすると、みんなを…見殺しにすることができなくなるから。辛くなるから、俺は家族とはできるだけ距離を置くようにしてきた。6歳の頃から、兄姉は俺が殺してきた。大好きだった姉のスーザンも、殺した。実際に手をかけていなくても同じだ。自分の意思で裏切ったのだから、俺が殺したも同然だ。そしてこれからも俺はそうする。マージョリーに対しても。

でも、俺はみんなが怖いのではない。兄弟たちからしたら無愛想だったりきついことを言ったりするように見えても、それだってなるべく態度には出さないように注意しているし、怖がったそぶりなんかしていないはずだった。俺の仕事は、計画は、完璧なはずだった。

 

「マージョリー?」

 

「レイ、怖い時はマージョリーがいるからね。マージョリーが守ってあげる。でもその代わり、雷が鳴る時は、レイがマージョリーを守ってね!」

 

矢継ぎ早にそう囁くと、マージョリーは風のように俺の腕から飛んで行った。ほかの兄弟とお喋りしながら自分のベッドに戻るマージョリーを見ながら、俺の目はなにも写していなかった。

マージョリーには、俺が何かに恐れていることがわかった。なぜだろう?あんなに小さい子が?俺の内心を読み取った?

それだけじゃない。マージョリーは俺が怖がっているみたいだったからと言った。つまり、俺が態度に出していたということだ。それがどんなに些細な違いとか仕草とか表情だったとかそんなことは関係ない。マージョリーに分かってしまった。気づかれてしまった。その事実が問題だった。

 

(マージョリーは、まだ小さい。けど、俺の様子をいつまでも覚えていて、もし本当のことに気づいたら?俺はマージョリーをーー)

 

恐ろしかった。マージョリーが俺の内心の真実に気づいたことが。俺が気づかせてしまったという事実が。そして、そのせいで俺が思いついてしまったむごい考えが。

全身から血の気が引いた。

 

「じゃあみんな、ランプ消すよ!」

 

同室で1番年長のヒューが部屋の明かりを消して、みんなはまだ小声で話したりしながらもベッドに入った。

 

「レイ、どうした?」

 

ヒューが、いつまでもベッドに入らない俺に気づいた。斜め向かいのベッドにいるマージョリーの視線を感じた。

 

「…なんでもない。」

 

俺はのろのろと横になった。ヒューは大して気を払わず、そのまま寝たようだ。それからは話しかけてこなかった。

俺はずっと眠れなかった。

俺はとうとう気が狂い始めたらしい。大切な家族を、大好きな家族を、今まで見殺しにしてきたのは紛れも無い事実でも、それは決して望んでのことでは無い。みんなの代わりに俺が死ねたらとさえ思った。でもそしたら、そんな事をしたら、これまで見殺しにしてきた兄姉の犠牲はどうなる?目的のために殺した人たちの命の意味は?俺も死にたい。だけど、まだダメだと耐えて耐えて耐えて…耐えてきた結果がこれか?…マージョリーを犠牲にしようと考えるなんて。本当は嫌だとか、大好きだとか、実際に実行するかしないかとかじゃ無い。そう考えついたこと自体が罪だ。そんな事を思いついてしまってはいけないんだ。そんなの家族じゃない。兄じゃない。人間でも、ない…

 

(人間じゃない…)

 

そう、ママは人間じゃない。ママの人生がどんなだったのか、俺は知らない。だけど、これだけは分かる。今のママは人間じゃない。人間の皮を被った、奴らと同類だ。そして俺は、そのママの…息子だ。俺も人間ではなくなってしまった。

いや、違うな。俺は最後の最後まで人間であり続ける。何が何でも人間として死んでやる。俺が兄弟たちにしてきた事は許されない、それで良い。許されてたまるか。許されて良い事じゃない。

でも、これだけは絶対譲れないんだ。俺は死ぬ。いずれ死ぬ。だが、その時は紛れもなく奴らと戦った1人の人間として死ぬ。最後まで絶望と戦い、現実に抗ったちっぽけな人間として。

食えると思うなよ。食わせられると思うなよ。こんなちっぽけな人間を、食えなかったと悔しがれ。そうだな、その時の悔しさが増せば増すほど良い。俺はそのために自分を最上級の値打ちにまで引き上げておこう。何が俺たち食料の価値を上げるのか、俺は知っている。年齢とスコアだ。だから俺はハウスの中で誰よりも賢くなろう。誰よりも歳をとろう。絶望と罪とを抱えて、俺はまだ生きる。

 

(まだ……)

 

俺は見つけてしまった。6歳の頃に定めてしまったんだ。俺にとっての希望を。そして、今の俺を支えるものは家族からの愛だ。家族を殺し続ける俺が求めるものが、家族からの愛とは。そして家族は無償でそれを与えてくれる。

幸せだ。そして、罪深い。

 




続く
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