Ray〜lonely fight〜   作:小石

9 / 10
続き


hope

俺が木陰で番犬をしている時、エマとノーマンはよく俺のところに来た。

今日も2人は飽きもせず、面白い話もできない、無愛想な俺のところへとやって来た。

2人は時々俺を会話に混ぜながら、楽しげに笑い合う。俺はそんな明るい2人が好きだ。何も知らずに幸せを生きる2人が好きだ。眩しくて温かくて優しくて、鮮やかな色を纏う2人。本人たちは知らないうちに、俺に2つのものを与えてくれる。

救いと希望だ。

ともすれば、救いは罰になり得るし、希望は絶望になる。俺は2人を守ることで救いと希望を見出しているが、同時に2人を守ることで他を殺して地獄を見ている。みんなの死の上に俺やエマ、ノーマンが立っているのだ。それを考えてしまえば、気を抜けばとても正気を保っていられなくなりそうだった。それがみんなを裏切っている俺の罰でもある。2人に希望を託しても、裏をめくれば絶望に飲み込まれそうになる。

だからせめて、2人にはその時まで、知らないでいてもらいたい。その時までは健やかに明るく無邪気でいて欲しいんだ。俺にはできない事を、持っていないものを、2人にはあげたいと思う。他の家族も同じ。癪なことにここだけはママと同じ意見を持つことになるが、真実を見ることになるその時まで、その最期の瞬間までは、自分はただの孤児だと思っていて欲しい。食べられるために生かされているとか、殺されるために生まれたとか…残酷な現実を知らないで、恐ろしい思いなんてせずにいて欲しい。生きている間は元気で子どもらしく。伸び伸びとやりたい事をやらせてあげたい。

2人を眺めていたら、ふと、俺は昔の記憶を思い出した。

まだチェスをするのもおぼつかない、甘えることしか知らなかった頃に、俺を甘やかしてくれた兄のことを。

俺はこの時初めて考えて、初めて気がついた。なぜ俺が2人だけは守ってみせると決め、誓うことができたのか。

2人は兄に似ていた。マーリンに。

いや、マーリンだけじゃない。ノーマンは面立ちがどことなくマーリンと似ているし、優しげで穏やかな性格は、かつて俺に話しかけてくれたブリジットのようだった。エマはいつも俺を外に連れ出そうとする。かつて俺を笑わせてくれようとしたスーザンやシンディーやマーカスのように。

それが、この2人を守ると誓ったことに直接関係あるのかは、わからない。今ふと感じただけのことだ。生きていた兄や姉たちに2人を重ねて、無意識に許されたかったのかもしれない。許されるべきじゃないと分かっていながら…。もう助けられない兄や姉の代わりに。過去に死んでいった、そしてこれから死んでいく家族の代わりに。

死んで欲しくなかった。死んだとわかったのはだいぶ後だったが、それでも。もう二度と大切な人を失いたくない。

そう思いながらも、家族全員は救えない。全員なんて、とても望めやしない。

だから、その中でも俺が1番好きな2人を。希望を託せる2人を。きっと生き延びてくれると、家族の分まで幸せになってくれると信じられる2人だけは、守ってみせるから。

みんなごめん。死なせてごめん。真実を知っていても生かしてあげられない俺の無力を、裏切りを、許してくれ。

希望はきっと、守るから。

 




続く
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。