狐ちゃん奮闘記   作:moti-

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一章
第1話


 ぼくは狐なんだろうと思う。

 

 と、いうのも普段のように目を覚ますと、どことなく頭が冴える感覚───そして、普段とは異なる体の感覚。そして普段より広がった思考力。知識も増えたのか、自分がいわゆる狐と呼ばれる動物と同じ姿をしていることを認識したからだ。

 

 よってぼくは狐であると思われる。

 

「……………………」

 

 一つ鳴いてみた。こぉん、と小さく声が漏れる。喉は普段と変わっていないようで、いや、少しばかり違うような気もする。

 

 とりあえず、自分に変化があるということを認識した。それはたぶん間違っていないことだった。なんせ、昨日までの自分がこんなふうに考えることなんてできなかったのだから。

 

 ならばこうして考えられるようになったのはなぜなのだろうか。

 

 推測すると、自分の体になにかが起こった───そのなにかが、わからないのだけれど。

 

 ともあれ、自然界を生きるための力になってくれるだろう。どことなく身のこなしも普段より軽い。たった一夜でステップアップ、ということではないだろうが、しかし確かに能力が向上している───よし、がんばる、そうとだけ考えて、ひとまず自分の能力の把握をすることにした。

 

 闇雲に走っていく。あちら、こちら、どちら? そちら。

 

 あっちへこっちへひらひらと───体を動かしてみる。自分の想像を裏切らない動きを体はしてくれた。多少の無茶にもしっかりと応えてくれる。これは、ぼくが体の動かし方をわかってきたってことなんだろうか? それはわからないけれど、たしかに身体能力は向上している気がする。

 

 身体能力の把握は終了───結論は、多少自分の意識通りに動かすことができる、といったところだろうか。いやはや、これはぼくも進歩したものだ。そう思いながら、今自分は獲物を探す───なんというか、とっても一気にお腹が空いた。

 

 身体能力や思考力の代わりに、エネルギーを多く使うらしい。とってもお腹すいた。燃費悪くなったのは辛い。

 

 周囲を探る───目も良くなったのか、すぐに獲物は見つかった。

 

 

 

 

 それはいわゆる、イノシシと呼ばれるものだろう。

 

 それを見て、まだなんにも気づいていないそいつにアドバンテージを持てている、という事実が体をわずかに鈍らせる。

 

 確実に殺すべきだろう。しかしどうやって? 普段どおりにできるものか。そもそもイノシシなんかに普段は勝負を挑まない。冷静じゃない。一旦落ち着けぼく。なんでイノシシなんかの前にいるんだ。

 

 普段は昆虫とか、そういうちっちゃいのばっかり食べてただろ? それでいいじゃないか。

 

 なんて躊躇するのは一瞬。飢餓感が体を支配し、体を勝手に動かした。隠れた草むらの中からイノシシの前に姿を出す。

 

 向こうも気づいたのか、こちらを見て、警戒を見せている───それが痛いほど伝わってくる。

 

 どうする? 噛み付く? どう殺す?

 

 どうやったら戦えるのか、そう考えた。しかし答えは出ない。自分がどうすればいいのか、なんて咄嗟には出てこない。何分経験が少ないし、ぽんぽんと冷静にとるべき行動は出てこない。

 

 結局、突撃することにした。せっかく頭脳を手に入れたのに、全部を無駄にするかのごとく突貫。脳みそちっちゃいんじゃないかなって思う。しかし、自分の体はすでに行動している。あとから考えている状態になった。こうなったら、自分にはどうしようもない。

 

 あとはただ、流れに任せるだけだ。

 

 イノシシはこちらの動きに触発され、そのまま突進してきた。それはとても怖いという感情を携えている。とても早い。当たれば未だ子供の自分は死ぬだろう。だったらどうしたらいいのか? わからない。わからないけど、ただ闇雲に正面から突っ込んだ。

 

 衝突する───起こる衝撃に備え、瞳をつむった。痛いのは嫌だから。ぼくはまだ死にたくない。なのに、なんでこんなバカみたいなことをやっちゃったのかな。そんなことを若干後悔しながら、そのまま突進する。

 

 そして、衝撃。体に激痛。いたい。しかしそれは一瞬だった。あっという間に痛みは引き、自分の瞳をまんまるに開かせた。

 

 ……想像したよりは、痛くない。

 

 と、いうか。そもそもイノシシと衝突したら吹っ飛んでいるはずだろう。そう思ってぼくは周りを見た。イノシシがこつ然と消え去っていて、どうにもわからず首をかしげる。

 

 自分の体が濡れている、ということにその時気づいた。自慢の毛は濡れて気持ち悪い。一体なんだ、雨は降ってないよね? と思いながら、自分の視線を落とす───赤い。

 

 赤い?

 

 ひょっとして、と思って、後ろを振り向いた。

 

 イノシシが死んでいた。

 

 

 

 

 ちょうど、顔からおしりまでに一直線に穴がある。それはちょうどぼくくらいの大きさだった。そのことから考えられるのは、ぼくがこのイノシシとぶつかって、そして勝ったということだ。

 

 わからない。

 

 なんでぼくが勝てたのか、その理由も。体格的には完全に負けている。イノシシみたいな大質量に、小柄なぼくが勝てるわけないのだ。それが常識なのだ。

 

 じゃあ、なぜ勝てたのか。

 

 ……ひょっとすると、ぼくは自分の体を自在に強化できるのかも?

 

 もしくは単純に、イノシシよりぼくの力が強くなっているか。どうなのだろう。ためしにイノシシを運ぼうと口に咥えた───重すぎて断念する。

 

 なので、この線はないだろう。

 

 じゃあ、最初の考えが正解なのかも。自分を強化できる。それも、小柄なぼくがイノシシに勝てるほどに。なんだそれ。とっても強い。

 

 先程からの飢餓もこの力の影響なのだろうか。

 

 まぁ───そんなのは、今のところどうでもいい。とりあえず、ぼくはお腹が空いている。殺したイノシシの、そのお腹。それを噛みちぎって、飲み込んだ。

 

 美味しくはない。でも虫よりはまし。なんだ、だったら虫を食べる必要はないかなぁ。と思いながら、二口目をいただく。

 

 肉を喰らうたび、耐えきれないほど膨れ上がっていた空腹がやんわりと安らいでいく。イノシシを食い尽くす頃には、その苦しみは全部消え去っていた。

 

 なるほど。

 

 なんというか、───でかいやつでも、動物なら全部食い殺せそうだ。

 

 じゃあ基本、見つけ次第喧嘩を売っていいだろう。そうしようか。

 

 ついでに、自分の力がどれほど強化できるのか───それが気になったので、意識して足に力を込めていく。

 

 血で体が気持ち悪い。水場に向かうついでに、この力を試しておくのだ。

 

 そう思い、一歩足を踏み出し───制御しきれずに吹っ飛んでいった。

 

 大きく飛び上がり、木々にぶつかり、それらを()()()()()()()、ぼくは水場に向かって進んでいく───ここまで自分の身体能力を底上げできるのか、と驚きながら、ぼくは川へと着水した。

 

 

 

 

 それからだいたい不自由もなく、好きなときに起き、好きなときに寝て、好きなときに適当な動物を殺して食べる生活をしていた折のこと。

 

 

()()()───いや、()()世にも珍しい動物の《個性》持ちかい?」

 

 

 あんまりに唐突に人生(狐生)が終わりを告げた音を聞いた。




 のんびりのんびり。タグネタバレがひどい気がしますが。
 所謂プロローグなのでやんわりと。似非ほのぼのを目指してがんばります。
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