狐ちゃん奮闘記   作:moti-

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 今回オリキャラばかりです。すみません。


第10話

 結局、弔には睡さんのことは言えなかった。歩きながら、ぼくがどうするべきかを考えた結果、弔に報告することはできなかった。

 

 冷静な判断では、言ったほうがいいのだろう。実際ぼくもそうするべきだと思っていた。

 

 しかし、それをしようとしたが、ぼくはどうしても言えなかったのだ。

 

 ───感傷か。なんなのか。

 

 ぼくに無駄な感情などいらないのだと思う。実際、ぼくはいろんなことを知っているけど、知っているだけで()()()()()()

 

 人の感情を模しているだけで、ぼくが抱いている感情が、果たして実際に抱いているものなのかも証明できない。

 

 ベッドに転がりながらぼくは考える。

 

 天井の暗さが、光を遮っているということをぼくに伝えてくる。伸ばした手を握りしめた。部屋という箱。箱といっても箱庭の部類だ。

 

 そこから抜け出すことが、なぜだかとても恐ろしくなった。

 

 わかっている。

 

 余計な感傷でしかない。ぼくに求められている役割ではない。こんなの、ぼくじゃない。だからこそ、すべてを気の所為にして眠ることにした。部屋の中に入って持っていたかばんを投げ捨て、着替えることも億劫だったので睡さんに仕立ててもらった服のままぼくは布団に突っ伏した。

 

 弔の影はない。今日は弔はいない。電話で報告は終えている。今日は楽しく過ごしたとだけ告げた。帰りながらだったから、ひょっとすると周囲の音が入ってるかもしれない。

 

「あー……」

 

 お腹が空いたから、這いずりながら冷蔵庫をひらき、腕の肉を引っ張り出す。部屋は汚くない。やることがなさすぎるから、毎日部屋を掃除するようにしているのだ。

 

 服にシワがよるかもと思ったが、この姿で寝ようとしてた時点で今更だ。

 

「あ……ん」

 

 やっぱり、買って食べるものとか、自分で作って食べるものよりはるかに味は劣る。どうにかできないかなぁ、と思うが……まぁ、食べれないわけではないのだ。ちょっと味が微妙かなってだけで。

 

 いけない。昔の弔が危惧しているみたいにグルメになっている。一旦どこかで舌を痛めつけたほうがいいな、と思った。

 

 ショック療法である。

 

 布団に潜ってテレビをつけ、しっぽを振り回していると、そこにはさっきまで会っていたヒーロー・ミッドナイトの姿があった。

 

 テレビの姿は、今日の私服と違いかなり際どい恰好をしている。いや、今日はコートを着ていたので、その下は薄着だったのかもしれない。

 

 個性の発動条件にその薄着が深く関係しているようだ───なるほど。確保に限ってはかなり強いかもしれない。

 

 場合によっては逃げの手段の黒霧を封じられるかもしれない。そう考えると、かなり強い個性だと思った。

 

「ねむい……」

 

 枕に顔を埋めて、ぼくは小さくつぶやいた。

 

 純粋に体力がないのかもしれない。今日一日遊んだくらいで、体が疲れている。

 

 どうにかして体力伸ばさないとなぁ、と思いながら、目を閉じて眠ろうとした。

 

 そのとき、ぼくの個性に反応があった。

 

『やぁ』

 

「……だれかな」

 

『特に名乗る名前もない』

 

 『声』でぼくはだれかが来たことを察する。顔を上げて、だれだろうか、と確認する。

 

「……あれ? 今日の」

 

 そうだ。

 

 今日、ぼくのしっぽを握った女の子。

 

「どうして君はここにいるのかな」

 

『お前を殺すため』

 

 心の声で返答される。なるほど、ぼくの個性が暴かれちゃってるパターンのような気もする。

 

「わぁ、物騒。久しぶりにびっくりしちゃったかもしれない。ところでお父さんは?」

 

(バカにぃ)なら』

 

 そう言って、彼女は腕を振り上げる。

 

『外で個性の準備中』

 

 振り下ろされた。布団から飛び跳ね、天井を蹴って少女の頭を蹴り飛ばす。

 

 べちゃり、という感触と共に、攻撃が透かされた。

 

 距離を取り、ぼくは先生に連絡をつなぐ。すぐに先生は出てくれた。

 

『なんだい』

 

「ごめん先生、家割れた」

 

『なるほど……ヒーローじゃないのかい?』

 

「違います」

 

『わかった。じゃあ、命知らずな襲撃者に楽しんでもらいなさい』

 

「はーい! どんな感じがいいです?」

 

『そうだね……地獄へようこそって感じかな』

 

「わっかりましたい!」

 

 炎を灯した。体の中にじゃない。掌に、だ。それも今まで使っていなかったようなレベルの、大きな炎。

 

 あんまり具現化するような能力は得意じゃないのだけれど、触れない敵への対応にはこれが一番いいだろう。

 

「そいっ」

 

 炎を投げる。下から、だ。地を這うように疾走るそれを、床に入って回避しようとした少女からの悲鳴が響く。

 

 よし、と思いながら、ぼくは一つ息を吐いた。そして床に火が点いているのを見て、やってしまったとすぐに気づく。

 

「……先生、許してください……」

 

『別にいいよ。君もかなり成長している。今の炎、消費はどれくらいだ?』

 

「変身よりちょっと少ないくらいです」

 

『あんまり効率はよくないね。途中でガス欠するだろう。補給用にいくつか肉を持っていきなさい』

 

「はーい」

 

『じゃあ切るよ。……ああ、弔に連絡したほうがいいかい?』

 

「別にいい。ぼくひとりでも大丈夫、です」

 

『……連絡しておこう。万が一があっても困る』

 

 大丈夫なのに……。

 

 とりあえず、先生に言われたようにいくつか腕を持ちだしておく。リュックの中に突っ込んで、そして靴を履いて玄関を出る。

 

「───陽火流(ひかる)の仇ィ!」

 

 人の頭サイズの()()が飛んできた。

 

 ぼくの頭を吹き飛ばしながら、部屋の中を進んでいく。

 

「……やったか?」

 

(バカにぃ)。それフラグ』

 

「うるせぇ! 頭ぶっ飛ばして死なない奴がいるかよ!」

 

『あそこに』

 

 なるほど、楽しそうなやり取りだ。しかしそのやり取りを聞いているだけで頭痛がしてくる。心を読む個性の消費さえも厳しくなった。

 

 かばんを開き、腕を取り出して食べる。まさか初っ端から蘇生を使うことになるとは思わなかった。

 

 ドクターに溶かされたとき以来だろう。そこそこの肉体強度はしているはずなのだが……それを超えるほどの威力だった、ということだろう。

 

 これでも金属バットで殴打されても耐えきれる程度の耐久はある。───それが突破されたとなると、なるほど。強個性であると思われる。

 

「おいおい……こっちも結構()()()()()んだがな? 頭飛ばされたんだから死んどけよ」

 

(バカにぃ)。補給してるし消費激しいんじゃない?』

 

「おっ、マジか。でもさっきのもう一回やれってのは厳しいぞ。溜めてる時間がねぇだろ」

 

『だから、(バカにぃ)戦って』

 

「……お前なぁ……」

 

 二人が話している間に、生命力はいい具合に回復できた。身体強化を使いながら、ぼくは足を踏み込む。

 

 速力とは地面を蹴る力によって得られるものだから───そのまま真っ直ぐ体を飛ばす。近くのブロック塀などを使って立体的な移動を考えながら、ぼくは二人に───父親のほうに、近づいた。

 

「速ぁっ!?」

 

(バカにぃ)。喋ってる暇ない』

 

「残念ながらっ!」

 

 父親は小さめの鉄球を取り出し、それを()()()()()

 

「速いだけなら対応できるんだなぁ」

 

 それを殴った。ぼくのほうに飛んでくるのではなく、二人の周りを守るように縦横無尽に駆け巡る。

 

 これでは踏み込めない。足を止め、鉄球の空白を伺う。……完全にランダムなのか、動きには統一性がない。時々自分たちに当たりそうになるのを避けているので、操作は完璧ではないらしい。

 

「……そういえば。陽火流って誰だっけ?」

 

「はぁ!? 忘れたとは言わせねぇぞ!」

 

「忘れたんだけど」

 

「お前らが個性を奪ったやつだよ!」

 

 ……今まで何度も奪ってきただろうので、今更そんなことを言われても困る。

 

 しかし───最近のことだろうか。少しばかり、覚えがあるような気もする。

 

「たしか、黒霧との初めての仕事のときだったかな……」

 

「……その感じ、人違いとかじゃねぇんだな」

 

「え、人違いの可能性あるとか考えてたの? 人違いかもとか思いながら人のあたま吹き飛ばしてたの? こーわいんだーこわいんだー!」

 

「確認だわアホぉ! ……ったく」

 

(バカにぃ)いい反応するから面白いよね』

 

「わかる気がする」

 

「なぁにくだらねーことで意気投合してんだ!?」

 

 こういうふうにツッコミが返ってくるところとか楽しい。

 

 しかし……仇討ちか。理由としてはちゃんとしているように見えて、だからといって個性を奪われるといった可能性があることを知りながら向かってくるのは変だ。

 

 ───いや、あの男が先生じゃないと個性は奪えないということを教えていたのなら、その警戒は無駄だろう。

 

「なぁるほどねぇ」

 

「ん? なんだ?」

 

「いや、理由がそれだけだと弱い感じがして」

 

「……デストロさんは仲間思いだからな」

 

「……デストロ? なにそれ」

 

「俺らのリーダーさ」

 

 そして、彼は少女を引き寄せながら、こちらに指差す。

 

「俺たちは異能解放軍。同じ志の仲間をやられて黙ってられる人間じゃないのさ」

 

(バカにぃ)がカッコつけてる。ダサにぃだ』

 

「おい!? お父さんカッコつけたんだから褒めろよ!」

 

『やだよ。お母さんがおばあちゃんって知ったときのわたしの気持ち考えれないからバカにぃはバカにぃなんだよ。人のこと道具扱いだし』

 

「いやそれ俺のせいじゃないからね!? 押し倒してきたのあっちだからな!?」

 

「……なかなか闇が深い家庭のようで……?」

 

「ほらぁ! 敵からも同情されちゃってるじゃん!」

 

『だいたい(バカにぃ)のせいだと思う』

 

 そんなバカ話をしていると、鉄球がごとりと地面に落ちた。

 

「あっ」

 

『あっ』

 

「……………………」

 

 無言で踏み込んだ。

 

(バカにぃ)ほんとバカ』

 

「うぉぉぉぉこうなったら一騎打ちじゃあバカ野郎!!」

 

 先程からの攻撃を見ると、砲台として戦えるのは父親のほうだろう。ならば先に潰しておく必要がある。

 

 娘を先導させた───ということは、おそらく近接戦闘は苦手とするところだろうからだ。

 

 だから、踏み込んで殴りかかった。

 

 それを、娘が腕を伸ばしてガードする。液体を叩くような感触だ。

 

 時々いる、スライム系の敵だろう。

 

「サンキュー!」

 

『娘に助けられるのってどんなきぶん? ねぇどんなきぶん?』

 

「うるせっ……」

 

 一体いくつ隠し持っているのか。

 

 男は鉄球を取り出し、それを手のひらに構えた。指でそれを弾き飛ばす。

 

 どんな膂力をしているのか。かなりの速さで撃ち出された鉄球は、ブロック塀を紙のように貫き、そして彼の手元に帰ってくる。

 

「え!? なにそれずるい!」

 

「ズルくない! こっちもベクトル計算とか頑張ってるの! ズルいで済まさないで!」

 

「それはごめん!」

 

『仲良しじゃん』

 

「仲良くは───ねェなっ!」

 

 今度は指ではなく、投げたものを後ろから殴りつける形になった。

 

 しかし殴りつけられた鉄球は()()()()()()()、彼の手元に戻る。

 

「それじゃ二発目だ」

 

 くるりとその手の中で鉄球を半回転させつつ、デコピンで弾き出す───先程のように、高速の弾丸が迫る。

 

 ただ、直線だから読みやすい。少し横に逸れると、それだけで回避できる。

 

 逆再生のように戻った鉄球を、当たり前のように彼は受け止めた。

 

 いやそれありえないだろ。

 

 大きさこそ違えど、威力はかなりのものだ。ぼくでも怪我をするかもしれないと思うほどのもの。そんなものを当たり前のように受け止めてる時点でなにかがおかしい。

 

「あー……ベクトル計算ダルい……マジ無理病んだ」

 

『急にギャルにならないでよ(バカにぃ)。計算くらいがんばってよ』

 

「じゃあお前は積極的に近接戦闘がんばってな?」

 

(バカにぃ)防御力クソ雑魚だから守ってあげてるのに……』

 

「俺は鉄球バリア張れるから……」

 

『娘がどうなってもいいの……?』

 

「おう! 俺が無事なら! ……あ、ごめんうそうそ、大嘘だから蹴るのやめてな。痛いから」

 

 この二人動画投稿者にでもなればいいんじゃないだろうか。

 

 それくらい掛け合いがおもしろいのだが……しかし、この掛け合いを見てるとこちらも少しやる気が萎えてくる。

 

 襲撃犯ではあるのだが。

 

 と、ここでふと思う。

 

「どうやってここがわかったの?」

 

「ん? ああ、今日こいつが尻尾触っただろ? そのときに毛の中に発信器をぺたり」

 

『わたしが作りました。生産者まーく』

 

「作ってないだろうが。わたしがやりましたのほうがよくないか?」

 

『そう言ったら犯罪者みたいになるじゃん(バカにぃ)ったらほんとセンスないよね』

 

「おう、ここで親子兼兄妹喧嘩やるか? 負けねぇぞ」

 

(バカにぃ)は私を貫通できる火力がない。さらに娘に手をあげる父親はクズ。よって(バカにぃ)はクズにぃでありザコにぃ。よってクソにぃはクソ。やーいクソやーい』

 

「娘じゃなくて息子だったら腹ぶち抜いてた」

 

『ナチュラルに我が子を殺害しようとする沸点の低い人間のクズ』

 

「沸点高くない!? いや俺けっこう耐えたと思わない!? ねぇねぇそこの狐耳美少女! 俺めちゃくちゃ沸点高いと思うんだけどっ!」

 

「あ、うん。仲いいね?」

 

「おいあれ絶対よくわかってないぞ。とりあえずそうだねとか言っとけばいいとか思ってる感じのやつだぞ」

 

(バカにぃ)もときどきやるよね。死ねばいいのに』

 

 なんというか、戦闘という雰囲気じゃなくなってしまった。今日のところはもう解散でいいんじゃないだろうか。

 

 ぼくも眠いし。

 

 そう言い出そうとして───二人の背後に、誰かが立っていることに気づく。

 

『───ッ! お父さん!』

 

 そう言って、少女は父を突き飛ばした。父はわけもわからぬと言うような表情だった。

 

 直後、少女の体が()()()()

 

 水が散るように。

 

 氷を破壊するように。

 

 彼女の体が砕け散り───周囲に散った。

 

「───ッ!? スイコ!?」

 

 少女の体を吹きちらしたのは、筋肉で体を固めた巨大な男。

 

 拳を振り下ろした体勢だ───ひょっとして、殴って散らしたのか。

 

「……なんだお前」

 

「デストロさんに遣わされた。お前の仲間だよ」

 

「……人のガキ殺してなに言ってやがるよ」

 

「うるせぇ。バカ騒ぎしてたから殴ったら散った。大事な任務で遊ぶバカは異能解放軍に要らない。……お前らの自業自得だ」

 

「殴る方が悪いに決まってんだろ」

 

 彼は取り出したデカイ鉄球を指で弾く。

 

 至近距離から放たれたそれは、バカでかい筋肉のその男の腹に当たり、───そのまま何十メートルもぶっ飛ばした。

 

 その隙に、彼はこちらに寄ってくる。さすがに殴るのもどうなのか、と思って拳を止める。

 

 彼はぼくの横に立って、筋肉だるまに中指を立てた。

 

「ああ! わかったよ! 異能解放軍って組織から抜けてやる! 抜けてやる───俺は、こっちの味方をしてやるよ!」

 

「え、それでいいの?」

 

 思わずツッコんだ。

 

 彼は頭を掻いて、恥ずかしそうにぼくに言う。

 

「いや……異能解放軍なんて入ったのも全部娘の為だしな。その妹を殺しやがったやつらに協力する必要もない」

 

「え、友達殺されたんじゃないの?」

 

「じゃあ逆に聞くけど、友達と家族どっちが大事だよ」

 

「なかなか秤に掛けづらい質問だね……」

 

「俺にとっては家族。だからいくら友達がいようとも、家族を殺したやつの所属する場所には居られねぇよな」

 

 こう言い切るあたり、このひとも良い人そうに見せかけ、(ヴィラン)なのだなぁ、と思う。

 

「ぼく君が頭吹き飛ばしたの許してないよ」

 

「それはマジですまんかった」

 

「……まぁ、別に楽しかったしぼくはいいけどね。君の気持ちもわかるし。これからぼくたちに協力してくれるっていうんなら、別に許してあげてもいいよ」

 

「そのくらいで許されるんならいくらでもやってやる。んで、早速すまないけどあいつ殺すの手伝ってくれない?」

 

「わかったけど───君の個性ってどんなのなの? 全く想像つかないんだけど」

 

「それはあとで教えてやるよ。とりあえず───」

 

 彼はポケットの中から、小さい鉄球を一つ取った。

 

「あいつを仕留めようぜ」

 

「ん、わかった」

 

 彼の指が弾かれる。

 

 銃弾より速いだろう速度で、鉄球は弾き出されていった。




 ほんとはラストの乱入者を血狂いマスキュラーにしようと思ったんです。
 ただ話の都合上断念したのでオリキャラばかりになりました。申し訳ございません。

 タグに敵連合強化ってつけたほうがいいかなぁ……ってのが最近の悩みです。

 追記
 予約投稿をミスって即時投稿しちゃったので推敲がガチで抜かってます。誤字が多発してるの申し訳ございません。
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