狐ちゃん奮闘記   作:moti-

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 スイコちゃん(娘ちゃん)視点です。
 プロローグ的な話なので短めです。


幕間・彼ら彼女らから見たアノ子
第12話


 幼い頃、頭を誰かに撫でてもらった記憶。

 

 ───あのぬくもりは、誰のものだったのだろうか。

 

 

 

 

 ある種の平凡が確実性を以てやってきた日の次の日───つまり、どうしようもなく退屈でくだらない一日の翌日。わたしことスイコは、暇を持て余し狐と遊んで暮らしていた。

 

 わずかな仮眠を取っていた間に、狐はなでなでとわたしの頭を撫でている。なるほど。だから変な夢を見てしまったのだろう。

 

 こんなセンチメンタリズム、わたしには似つかわしくない。もっともっと心を研ぎ澄まさなくちゃいけない。

 

 ───そうすることが、正しいのだろうから。

 

 目を覚ましたわたしの頭を未だに撫でている狐に負けじと、わたしはしっぽに指を這わした。弱点のようで、おもしろいくらい反応を見せてくれる狐は、(バカにぃ)と並んでおもしろい。おもちゃにするには逸品だ。毛の流れに逆らうように指を通すと、それがぞわぞわするようでわたしの手を掴んできた。

 

 狐はこころを読む能力を持っているだなんて言うが、なんだかんだで精度は低い。そうじゃないとわたしのこういう感情も、まったく見抜けないのはおかしいから。

 

 狐は人間じゃない。

 

 それはリーダー───死柄木弔から聞いている。この狐は、元々ほんとに狐だったようだ。だから、狐。耳はコスプレで着けていたわけじゃなかったらしい。

 

 狐は人じゃないから、人の心がわからない。認識はする。認識はしても、理解はしない。

 

 それはすごく、残酷なことなんだと思う。

 

 そもそも狐は人間として生きるには欠陥が過ぎるのだ。それっぽい愛嬌を持ってはいるが、それの全てが借り物でしかない。歪すぎて気持ちが悪い。

 

 善性の強い人間ならば、その違和感をあえて無視するかもしれないが、わたしたちのように影に潜むものならわかる。

 

 狐の感情は、あくまで人の感情を模しているだけにすぎない。

 

 狐は感情を解しているように見せているが、その実ただの機械のようにしか見えない。自分で考え行動するポンコツな機械だ。

 

 例えば今、こうして仲良く過ごしているように見えるわたしだって、死柄木弔の命令が下ればたやすく八つ裂きにするだろう。

 

 関わった相手に対して、驚くほどになにも感じてはいない。

 

 だからこの狐は───絶対に、正義では救えない。

 

『……はっ、(バカにぃ)がピンチの予感……!』

 

「え、急にどうしたの」

 

(バカにぃ)がなにかをやらかしたときにわたしのセンサーは反応するんだ』

 

「え、チャージはなにやったの」

 

「爆速だぜぇぇぇぇええええ───」

 

 なにか声が聞こえたような気がする。いや、間違いなく聞こえた。間違えようもなく(バカにぃ)の声だ。なにをやっているのか、と思って、体を床へと溶け込ませ、扉から顔を出す。

 

 (バカにぃ)が高速で壁に突っ込んでいった。

 

 なにをやっているのだ。

 

 人型に穴が空いている壁をの向こうから(バカにぃ)が顔を出す。こちらに気づいたのか、顔を向け、親指を立てた。

 

「バイク……楽しいな……!」

 

『ああ、うん。とりあえず死ねば?』

 

「父ちゃんライダーになるわ。なんかこう、全身をこう悪役っぽく塗装して……」

 

『蛍光ピンクのインクに溺れて死ねばいいと思うよ』

 

「やっぱ時代は悪役だぜ。正義のヒーローはどいつもこいつも必ず最後に勝ちやがるからな」

 

『ああうん。こっそり主役アレルギーだよね。悪役大好きかよそんなんだから貰うチョコレート毎年ブラックなんだよ』

 

「お前は今までにもらった血が入っているチョコレートの枚数を覚えているのか?」

 

『わたしはあげる側なんだけど』

 

「俺は数え切れない。お前の母親が毎年致死量寸前までのものを混ぜて大量に贈ってくるからだ」

 

『お前の母親でもあるんだよ。というか(バカにぃ)はお母さんと何があったの……?』

 

「ある夏休みのことだった」

 

『独白が始まった』

 

「と思ったけど面倒だからいいや。もうひとっ走りしてくるな」

 

『二度と帰ってくんなー』

 

 手を振りながら走っていく姿を見送る。前を見ずに、こちらに手を振ってくる(バカにぃ)の進行方向には壁があった。事故を起こす姿を見送って、わたしは部屋に戻ったのだった。

 

 部屋に戻ると、狐はしっぽで地面を掃除していた。ぺたんと女の子座りでだ。

 

 女子として負けた気がする。

 

「おかえりー」

 

『ただいまー。狐って女子力高いよね』

 

「女子力……? なにそれ。女の子の力? ぼくにはないんじゃないかな……?」

 

『それで女子力がないと申されるとわたしの立つ瀬がないんだけど』

 

「え、でも……だって、ぼく()()()()

 

 ……………………。

 

 ……………………?

 

『もきゅ?』

 

「あっスイコちゃんが意識が宇宙に溶けたみたいな顔をしてる……!」

 

『いやいやいやいや……それでオスは無理でしょ』

 

「オスだよ?」

 

『よしわかった服を脱げ』

 

 うん、と言われるがままに服を脱ぎ始めた狐の胸は、確実に大きい。というかなんなら下着までつけている。わたしですらまだ着けていないというのに狐のくせに生意気である。

 

『この時点でオス主張は効力を成さない』

 

「事実なんだけどなぁ……」

 

『すれ違う男たちが誰もが振り返るような見た目をしておいてなにを』

 

「ああ、それはきれいな顔を参考にしたからね」

 

 参考、とは。

 

 この狐、ひょっとするととてもずるい方法でこの美貌を手に入れたのかもしれない───まぁ、狐は人に化けるものだ。たしかに顔のいい女性に化ける方法がないとは限らない。しかし、なるほど。

 

 オスだというのにきれいな女子の姿になったのは、趣味だろうか?

 

 わたしは訝しんだ。

 

『……趣味?』

 

「趣味? ……しゅみしゅみー」

 

『は?』

 

「うぇ!? なんか間違ってた!?」

 

『間違いもクソもそもそも最初の論点から間違いすぎてて困る』

 

「語彙がたんのうだね」

 

『……あの、その見た目は自分の趣味?』

 

「……あぇー……あー……違うよ!?」

 

『その間はなんなの』

 

「……いや、とむらはこういうのが好きなのかなぁって思って作ったんだけど……」

 

『……あー』

 

 つまりこれは……。

 

 『びー』と『える』で構成されている的な関係なのでは……?

 

 わたしは訝しんだ。

 

 さっきから訝しんでばかりだな、と思わなくもない。

 

 しかしまぁ……一部の方々が喜びそうな展開ではないか。そのうえしっかりと良妻してるのがなんとも恨めしい。

 

 わたしより女子力完璧じゃないか。死柄木弔もここまで慕われていて男冥利に尽きるというものなのだろう。

 

 そのことが嬉しいのかどうかはさておいて。

 

 わたしがはぁー女子力と思っていると、電話が掛かってくる。スマホを手に取り、相手を確認する。

 

 (バカにぃ)からだ。

 

 なんだろう、と思って電話に出る。

 

『はい、もしもしー』

 

『あ、スーちゃんね! ママだよママ! 久しぶり! T字路でパパと運命の出会いをして食パン落としちゃったから久しぶりに会いたいなーって思って電話かけちゃった! 会えない?』

 

 T字路で運命の出会いで食パン落とすってなんだ。

 

 相変わらず発言からキャラの濃いお婆ちゃん───兼、お母さんの発言を聞きながら、わたしは思う。

 

 これ、一波乱が起きそうな予感───!




 軽く幕間として父娘のお話、ちょっとやっていきます。なるべく短く終わらせるつもりです。
 狐ちゃんが空気になることはないかなって思います。
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