狐ちゃん奮闘記   作:moti-

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第14話

「それじゃあ、行ってくる」

 

「あ、うん。いってらっしゃーい」

 

 リーダー(死柄木弔)を笑顔で見送って、少し。表情を凍てつかせ、そして感情を表現する尻尾がへにょんと下へと落ちる。

 

 わかりやすく落ち込んでいる。リーダーの布団へと向かい、それに包まりばたばたするくらいには落ち込んでいる。なるほど、それだけリーダーの存在が大きいのだと思わされた。

 

 リーダーに頼まれ、リーダーが見ていない間の観察記を書くことになったのだが、なんというか……読心にひっかからない範囲から望遠鏡で覗く、という状態になっているから、早いところ出かけてもらいたいところだ。

 

 そこから少しの間、うつ伏せで停止する───そのあと、布団から抜け出し、間の抜けた笑みを零しながら冷蔵庫を開く。なるほど、いつもの食事だろう。

 

 人を食う姿を見ていると、やはり人ではないのだな、と思わせる。しかしそうでもないとリーダーが心から信頼を寄せるわけがないか。そう考えると、納得する。

 

 口元を血で汚し、肉を食べきった。普段は丁寧に食べるが、しかし一人になったときはそうでもないらしい。女子力のメッキが少しだけ剥がれた、といったところだろうか。

 

 しかしすぐに良妻ぶりを発揮した。食事を終え、すぐにテレビをつけて掃除を開始。あの部屋の清潔さはこうやって保たれているのだと感じさせられ

 

(ここですこし途切れている)

 

 ……対象に勘付かれかけた。少し不安げに、こちらが隠れている場所を見ている。……ひょっとして、距離感覚を失敗したのだろうか。そう思ったが、視線はすぐに外れたので、野生の勘のようなもので把握されたのだと考えた。

 

 尻尾でぺしぺしと床を叩きながら、テレビを見ている。その尻尾に仕込んだ盗聴器から聴こえる音声で、なんとなくその内容を確認した。ヒーローに関してのニュースらしい。

 

 無表情だが、不満を感じさせる表情で床を尻尾で叩いている。ぺしぺし、だった調子がどんどんとばしばしに変わってきている。聞こえる内容は、どうやらオールマイトのことらしい。

 

 リーダーが嫌いなものは嫌いなようだ。とはいえ、ミッドナイトのスクープのときだけはそういった感情を感じさせるものはない。これはどういう理由だろうか。謎だ。

 

 時計を一瞥し、そこからテレビを消し、リュックを背負う。出かけるようである。今日はリーダーが一日帰らない、ということを聞かされているから、遊んで時間を潰すのかもしれない。家の中は退屈だしね、と補佐のスイコが補足した。

 

 退屈らしい。リーダー、なんか遊び道具とか構えてやったらどうだ?

 

 

 

 

 家の中では無口なのに、街に出たら「はえー」だの「ほえー」だの「とむらぁ……」だの間の抜けた声をぽつぽつとこぼすため、ひょっとするとお外恐怖症なのかもしれない。

 

 尾行していると、向かった先はショッピングモールだ。どうやらだれかと待ち合わせしているらしい。待つこと少し。向こうからやってきた人影は、なんと驚くことにヒーロー・ミッドナイトその人だ。

 

 すわ裏切りかなどと邪推したが、リーダー至上主義な対象がそんなことをするはずもないので、いつものようにポンコツを発揮して気づいたら仲良くなっていたに違いない。

 

 まったくきつねさんは

 

 

 

 

「……ん?」

 

「どうしました? 睡さん」

 

「いや……だれかに見られてるような気がして。ひょっとしてストーカーかしら?」

 

「あははは、そうかもしれませんねー。睡さん美人だから」

 

「あら、そう? ジョンちゃんも美人さんよ?」

 

 そんな当たり障りのない会話が楽しく感じられるのだから、この少女は不思議だ。

 

 香山睡は、この狐っ娘の持つ魅力について、なんともいいがたい感情を覚えている。

 

 かわいい───のだけれど、美しくもあり。箱入り娘のような無垢な可憐さで、されど野生動物のように獰猛な鮮烈さを持ち合わせているその少女を、なんと形容すればいいのかわからなかったのだ。

 

 所謂『萌え』という感情であるのだが───彼女がそれを知るのは、まだ先の話であり、

 

「『あっぶねぇぇえぇぇええええ……』」

 

 ともあれ、尾行作業中の二人は一難が去ったことについて深い溜息を吐き出した。

 

 

 

 

 勘付かれかけた。女って怖い。

 

 さて、気を取り直してレポートの執筆を続けることにする。さすがにこれ以上の難題はこないと思うが、しかしバレるだけなら別に偶然を装えばいいのだ。セーフセーフ。

 

 ただ、これは俺達がいない中での対象の行動を調査するものだから、あんまりバレるのもよくはない。ので、なるべくがんばって気配を消して行動しようと思う。

 

 どうでもいいが初手ミッドナイトとかの爆弾ぶちかましてくるあたりやっぱ狐さんパねーっすわ。

 

 対象はミッドナイトと共に、まず百均コーナーを確認しにいった。リーダーの誕生日プレゼントを探すとのことだが、まず百均にリーダーが喜ぶプレゼントがあると思っているのだろうか。つーかリーダーは誕生日プレゼントなにがいいんだ? 一応俺らも考えとくけど、なにか希望があったら教えてくれ。

 

 しかしリーダーは愛されている。対象はリーダーの『いいところ』をたくさん挙げながら、ミッドナイトと歩いていた。

 

 百均にはめぼしいものがなかったようで、次に目指したのはレジャー用品店。

 

「とむらは朝帰りが多いんですよ」

 

「……へぇー。へぇー……」

 

 リーダーへの熱い風評被害。

 

 なんというか、狐さんほんとポンコツだなと思わされる。言葉のチョイスが壊滅的。ミッドナイトの中のリーダー像がどうなっているのか、少し気になってきたところだ。

 

 とはいえ、(ヴィラン)活動のことについては全く漏らしていないので、意外と頭は使っているらしい。ポンコツなのは言語能力だけのようだ。

 

「とむらはねー、クールで、とっても頭がキレるんですー。ときどき子供っぽいところもあるけどそこがいいよね。なんだかんだ、夜はぼくを抱いて寝るし」

 

「……………………へー。へー」

 

 風評被害が衝突事故を起こしやがった。

 

 リーダーへ提出するレポートだからあんまり書きたくはないことだが、しかし俺を責めないでほしい。なぜならこれはすべて狐さんが実際に発言した言葉だからだ。これに関してはちょっと惜しいと俺も思う。抱くじゃなくて抱きしめるだったら誤解を招くことはなかった。

 

 狐さんOSの深刻な言語能力はさておいて、レジャー用品店に入った二人は、まずテントを見に行った。なぜだ。というかそもそものレジャー用品というチョイス自体が謎だ。リーダーあんまり野宿とかしないだろ。

 

 めぼしいものはなかったらしく、そのまま退店していった。対象の尻尾は少しだけ落ち込んでおり、へにょりと垂れ下がっている。

 

 そろそろなんでこの尾行をしているのか謎になってきた。リーダーのここすきポイントをずっと聞かされる俺の気持ちを考えてほしい。

 

 そうそう、我が娘はこのとき俺を置いてゲーセンに遊びに行っていた。ド畜生だ。

 

「とむらはねー、カッコつける癖して意外と子供舌で。こういうところかわいいなぁって思うの」

 

「……これが人を騙す妙技なのかしら……?」

 

 ミッドナイトの勘違いが凄まじい域にあるが、俺にはどうしようもない。リーダーがクズ男になっていることに対して俺は何を言えばいいのだろうか。リーダー、強く生きてくれ。

 

 次は本屋に行くようだ。どうやらプレゼントにおすすめなものを探しに行くらしい。このとき、狐さんにスマホを渡しておけばよかったなぁ、と思う。

 

 本屋に着いた。対象はふと悩んで、漫画コーナーへと向かっていく。リーダーが好むとしたらこういうものだろうから、これは上手な選択だと言える。

 

 陰から対象を見守っていると、対象はエロ要素が過分に含まれる少年漫画を物色しだした。

 

 違う、そうじゃない。

 

 いや普通にちょっとダークな少年マンガでいいだろうが、たとえば正義側が当たり前のように死ぬ漫画とか。そう思っていたのだが、対象はリーダーをそういうものが好きのように捉えているらしく、わりと本気なほうでエロを押し出している漫画を悩み始めた。

 

 そして結局なにも手に取らなかった。セーフ。

 

 次に対象は料理本のコーナーへと向かった。ここは自分の目的だろう。レシピ本と少しにらめっこして、すぐに購入を決意したらしく、何冊かの本を手にとった。

 

 それを購入して本屋は終了。

 

 俺もせっかくなので漫画を購入しておいた。今度読むことにする。

 

「とむらが好きなものって、やっぱりゲームなのかなぁ」

 

「ゲームはよくやってたって聞いたわね。でも最近はできてないんでしょ?」

 

「最近忙しいからねー。あんまり時間を食わないゲームとかだったら喜ぶかなぁ」

 

「じゃあゲームを見に行く?」

 

「うーん……じゃあ、ゲームを見に行きましょう」

 

 こういうやり取りの末、対象、ゲーム販売店へと向かう。

 

 ソフトを物色していると、人目を集める容姿である対象に、話しかける姿があった。

 

 チャラチャラとした金髪の男性だ。ぱっと見ですぐわかることだが、おそらくナンパである。

 

 以下、やりとり。

 

「あの……君、ゲーム好きなの?」

 

「とむらが好きかなぁ」

 

 たった二言で撃退する狐さんマジで狐さん。

 

 あっさりとナンパを撃退した強者である対象は、少し悩んで一本のゲームを手にとった。携帯ゲーム機のRPGゲームだ。このゲーム機はリーダーがときどき遊んでいたというのもあって、かなり無難な選択肢なんじゃないだろうか。

 

 ソフトを買って、誕生日プレゼント選びは終了したようだ。

 

 そのあと、ミッドナイトとは少しだけ話してお開きになった。完全に誕生日プレゼントを選ぶのに付き合ってもらっただけらしい。仕事があるだろうに、休日にこんなことをしていて大変だろうとは思う。

 

 我らが狐さんはそのまま家に直行する。

 

 そして、ゲームソフトをこっそりと隠して、そのままリーダーの布団で昼寝を始めた。

 

 時折寝言でリーダーのことを呼ぶくらい、リーダーに心底入れ込んだ様子で。

 

 

 

 

 茶味が渡した観察記を、死柄木弔は無言で読み進める。

 

 場を満たす沈黙が、どことなく痛々しい。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

「…………どうしたんですか死柄木弔、一体何が書かれていたんですか」

 

「……………………」

 

 黒霧がどうにかして雰囲気を変えようと声をかけるが、しかしスルーされてしまう。死柄木は黙々と、入ってくる音をすべてスルーしながら最後まで読み終えた。

 

「……いろいろ言いたいことはともかくとして、あいつヒーローと仲良くなってたのかよ……」

 

 死柄木はそうぼやき、頭を抑えた。

 

 なんというか、こうなると苛立ちよりも先に呆れがやってくるものだ。というかヒーローに散々な紹介のされ方してるなどうするんだこれ、と死柄木は思った。

 

「あー……でもまぁ、なんだかんだ俺達の活動については全部黙秘してたんで……」

 

「それは書いてあっただろ」

 

「そっすか」

 

「……しかし、それは……なんというか、上手く利用できそうな気がしませんか」

 

「あ? なんだ黒霧。何をどう利用するんだ」

 

「いえ、ヒーローは彼女に悪印象を抱いていなかったわけでしょう。そうなると、上手くやればスパイ活動ができる」

 

「なるほどな……却下だ」

 

 死柄木は冷静な判断でそう決断した。

 

「何故です?」

 

「あいつは馬鹿だ。そして抜けている。裏を持たせれば、必ずどこかでボロが出る。───利用するのなら、裏の事情なんかを全部教えないようにしないと無理だ」

 

「……それは流石にないでしょう」

 

「そしてそれとは別に、俺に風評被害を齎す」

 

「そっちが本音じゃねぇか!?」

 

 いやいや、違う違う、と死柄木は手を振った。

 

 しかし、せっかくのこの関係───利用しないのは勿体ないだろう。どうにかして扱う方法を探さなければならない。

 

「……先生。この場合、どうやってあいつを利用する?」

 

『…………そうだね。いや、ジョンがここまで優秀だとは思わなかった。……一番活用できる方法は、ヒーローの下に置くことだろう』

 

「……なんでだ」

 

『弔。僕がジョンの個性を取らない理由を思い出せ』

 

「……デメリットか」

 

 そう、と先生───オール・フォー・ワンは、喜びを讃えた声音で言う。

 

『ジョンは逸材だよ。ヒーローが祭り上げられるこの社会に、風穴を空けるのに役立ってくれるはずだ』

 

「……なるほど」

 

『あの子の性格も丁度いい。どんな人からも()()()()()()、元気のある性格をしている。だがその奥には───闇だ。虚無に親しい、人外故の昏さ。なにがどのように作用しても、ジョンはこの社会を壊すのになによりも役に立ってくれる』

 

「……変身もできて、とんでもない逸材、か」

 

 死柄木はそう言って、少し悩む素振りを見せ、告げた。

 

 

「先生、ジョンの経歴を作れないか? 雄英に入学させる」




 ということで番外編……番外編? は終了。
 ぼちぼちと原作入りしていきます。
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