第15話
流石の先生も中学校の卒業経歴までは騙せないということで、安全を期して中学校に入学した。ぼくだけではなくスイコちゃんも一緒だ。
狐の時間間隔は常人より長々としている。つまりたった三年。ぼくにとっては一瞬の出来事だった───それは過言なのだけれど、少なからず退屈しなかったというのは本音だ。
先生の手下に当たる相手が管轄していた中学校だったので、比較的快適な学生生活を過ごした───ぼくはこれまで学校などというきらびやかな場所へと入り浸ったこともなかったので、これはかなり新鮮な経験だったと思う。
三年は長いが。
と、いうことで無事雄英を受験することが可能になった。確実な学力を確保できただろうし、おそらく合格は容易───と、いってもそんなに目立ちたくないのでそこそこで抑えることにする。
推薦入試と一般入試、どちらがいいのかを冷静に考えた結果、一般入試のほうが確実に楽だということに気づく。推薦だって取れはするが、推薦枠は一般より人に紛れることができない。本気を出してしまうとまず負けることはないだろうから、人に紛れるのが容易な一般入試に参加することにする。
雄英に受験するのはぼくだけではない。スイコちゃんも同じく受験する。ぼく一人だけだと心配だから、らしい。
先生からもそういう評価を下されているあたり、なんとも言い難いものがある。
なんだかんだでスイコちゃんも勉強はできるので、あんまり心配することはないだろう。
と、いうことで本番。
とは言っても筆記試験は既に終わっている───ので、実技試験だ。尋常ではない人数がいるので、少しだけ頭の中が騒がしい。ショッピングモールのほうがまだうるさいので、このくらいはもう慣れたような気分ではある。
「わー雄英だよ雄英。ヒーローがいっぱいいるんだろうなぁ。ヒーローだって。あはは、ヒーローだってさ」
『狐が普段より三割増しくらいで壊れてる……』
ヒーローは嫌いなのだ。
まぁ、上っ面を塗り固めるのにはもう慣れているから、別にこれを外で出すことはないと思う。自制のできる狐なのだ。
とってもえらい。
「雄英だー……雄英だよ雄英。知ってた?」
『うざい』
「あははっ、スーちゃんったら辛辣ぅ」
『お母さんを思い出すからその呼び方やめて』
辛辣だ。
そんな話をしながら、試験の説明を受けに校内に入る。連番であるのでスイコちゃんとは隣同士だ。自分の指定の席に座り、置かれてあったプリントを見る。試験内容と、自分の試験内容が書かれていた。スイコちゃんの持っているものと比較すると、試験会場が違うだけであとはほとんど同じらしい。
「わくわくするねぇ。みんな緊張してるっぽいよ?」
『そりゃあ一世一代の試験だもんな。留年生はいるの?』
「いるんじゃないかなぁ。人多すぎるしわかんないけど」
そう話していると、人も揃ったのか壇上に一人の男が立つ。
行われるのは試験内容の解説。制限時間は十分で、『仮想
プリントには4種類の敵が載っているが───それはあくまでもお邪魔要員として載せられており、各会場に一体しか存在しない。
0ポイントの仮想敵。
こいつを狙うことは無駄でしかない行為である、ということを解説された。
『……このお邪魔、なんで存在してるんだろう』
「邪魔だから存在してるんじゃないかなぁ」
スイコちゃんと別々の試験会場に分かれる。
到着した試験会場を見て、あんまりの広さにぼくにしては珍しく固まってしまった。きょろきょろと辺りを見回すと、そこそこ市街地として完成した場所であることが伺える。
なるほど、でかい───と思うが、試験会場と思わなければそうでもないので、とりあえずの落ち着きを得た。
『はいスタートー!』
と、そうして焦っていたからか。
その言葉に、瞬時に反応できなかった。
『どうしたぁ!? 実戦じゃカウントなんざねえんだよ!! 走れ走れぇ!! 賽は投げられてんぞ!?』
開始前から動いていいぶん実戦と試験じゃかなり変わると思うんだけどなぁ。
そういうツッコミはなしにしておく。ともあれ、開始の合図は呑み込めた───個性を発動し、身体強化をする。そこそこの倍率でいいだろう。
どうせ試験ででてくる敵なんて、大したものじゃない。
そう思って、走り出した───しかし、せっかくの的が奪われそうだ。これはいけない。一先ず足の倍率を最大まで跳ね上げた。そして、軽く地面を蹴る。
それだけで瞬間的に加速し、狙われかけていた2ポイント仮想敵にひっつけた。あとはやることは変わらない。軽く足で蹴ってやれば、それだけで機械はかんたんに壊れた。
情報戦というか───索敵が早いほうがいいのだろう。せっかくだ。
強化した足で、今度は垂直に飛ぶ───それでビルの屋上へと登り、周囲を見渡した。
開始位置近くは混戦地帯になっている。遠くのほうではまだ人の手が進んでいないが───しかし、奥にいくよりはビルなどが邪魔で向かいづらい場所に向かったほうがいいだろう。
そう考えて、ビルから飛び降りる───途中、窓枠に指を引っ掛け減速しながら、六階付近までの高さからノンストップで降りる。
ついでに近くにいた3ポイント仮想敵を踏み壊し、これで合計5ポイント。
「うわっ、なんだぁ!?」
「あー、ごめん。人いたんだね」
「いや、それはいいんだけどよ……お前今上から降ってこなかったか!? 大丈夫かよ!?」
「あーうん。全然平気だよー!」
「お、おう……」
じゃあね、と手を振って、次の敵を探す。
せっかくなので、倒した3ポイント敵の脚を引っ剥がして持っていくことにする。これで遠距離攻撃手段の確保だ。
投げられる鉄の塊となると、当然強いに決まってるのだ。しかしそこそこな重さがある。
少しだけ腕の強化倍率を引き上げ、道中に2体ほどいるまだ退治されてない仮想敵を発見した。とりあえず、的が大きい3ポイントに腕を投げつけて、小さい的の1ポイントを蹴り砕く。
これで9ポイント。
どのくらいがボーダーになるのかわからないけど、少なくとも最低でも50はあったほうがいいだろう。50を狙っていこうか。
周りに人が多い───手奥から顔を出した1ポイント敵を走って捕まえ、その頭をもいだ。
これで2つの弾を確保。ここから目指すのは、試験会場の奥のほうだ。
そちらのほうに、大量の仮想敵がいるのは先程確認した。そこまで到達している生徒もまだ少ない。大量にいる中で、5、6人ほどしかそこにいないのなら───そちらが狙い目になる。
走って、奥へと向かう。その最中で、苦戦していると思わしき仮想的を蹴り壊しながら進む。
「よいさっ」
「うぉぉクソはええ狐っ娘!?」
「ぴーす」
「お、おうピース……」
「それではさよならっ!」
『なんだあの子』
冷静に心の中で突っ込まれた気がする。
ともあれ、ぼくからしたらどれも変わらないように思うが、3ポイントはどうも強さが変わっているようだ。ぼくのようにどれもを一律かんたんに倒せるようになってないと厳しいのではないだろうか。
ともあれ、いまので13ポイント。いい調子だ。うまい具合に入り組んでいるこの試験会場は、動きづらい位置にいくらかの仮想敵がセットされている。
そういうやつらは、ぼくのように機動力に優れている個性持ちからすれば狙い所にある───たとえば、入り組んだ裏路地で頭だけ出している敵などを、機動力を生かして、ノンストップで破壊する。今のは1ポイントか。これで14ポイント。
壁キックで再びビルの屋上に登る───少し遠くの位置にいる、ノーマークの3ポイント敵を持っていた残骸を投げつけ破壊する。
これで17ポイントだ───残り33ポイント。
まだ少し遠くにいる3ポイント仮想敵を壊し、これで20ポイントになる。
残り30ポイント……かなり楽なように思える。まだ開始なから二分しか経っていない。この調子なら全然いける。
よし、次だ。誰もいない空白の場所を見つけた。そこには、……だいたい合計12ポイントほどの敵がいる。だいたい目星は付いたから、足の強化値を最大まであげ、
飛んだ。
試験会場の端から、ビルを伝って跳躍していく。向かう先は先程の地点。そこならば、人はいない。
───着地した。
ビルからそのまま飛び降りたので、着地で足を痛めた。しかしその瞬間、治癒を発動して痛みをすぐにぼやかす。傷が治ったのだから全然問題なく動けるだろう。
今はだれもいない空間。ぼくだけが独占している空間だ。突っ込んでくる1ポイント敵を、少し体をずらして、蹴る。ぼくの身長的に、とんでもなく足をあげないと頭までは届かないのだが、それはそんなに課題にならない。体が硬い、という感覚がないのだから。
全開まで開脚し、頭を破砕して、1ポイントの敵を右肩に担いだ。砲台の完成だ。向かってくる1ポイント敵を、左手で頭をもぎとり、それを投げる。2ポイント確保。合計22。
そして、担いだ1ポイントを投げた───少しだけ力を込めて投げたら、木っ端微塵に砕け散る。いまのが3ポイントなので、合計25。ついでに左手に持った頭を投げ、2ポイントを破壊。27ポイント。
あとは5ポイント───2ポイントが2、1ポイントの合計3。踏み込んで、2ポイントの頭を掴む。
そして持ち上げた。振り上げた2ポイントを、1ポイントへと叩きつけ、体を回して次の2ポイントを狙う。
投げた。
粉々に砕け散った───弔のようにきれいな粉々さではないけれど、まぁポイント獲得は獲得だ。
現在、32ポイント。
制限時間残り七分。
制限時間残り六分。50ポイントを早々に獲得したはいいが、人通りの多いところに行って声を聞いたところ、45ポイントを獲得している男子がいるのを知った。もう少し確保しておくべきか悩んで……やめた。
彼がいた場所は混戦地帯なので、このポイントを追い越さないだろうと推測できる。
周囲を見渡せば、意外と得点を取れてない生徒もいる。急いでここまで取らなくてよかったな、と思いながら、これ以上得点は必要ないので、ビルの屋上から下を見下ろす。
ちょうど、混戦地帯の真上。
そこでぼくは人ががんばっている姿を見る。
───残り、一分。
「うわぁ、壮観」
とんでもなくデカイ仮想敵が出現した。
───0ポイントだろう。
ビルを破壊して進んでくる。ぼくが座っていたビルもかんたんに引き倒していくので、危ない。とりあえず隣のビルに飛んで回避する。
「どうなるのかな……」
人は散り散りに逃げ去っていて、これはもう全員これ以上の得点を期待できないだろう。0ポイントが塞いでいるのが、ぼくが狩場としていた奥のほうだ。向こうに行くのが難しい以上、これは得点も頭打ちだ。
そう思って、成り行きを見守っていた。そう、ぼくは一切目を離していなかった。だから見逃したということはありえない。けど、だけど。
───0ポイント
空に小粒ほどに浮かんでいる姿がある。男子生徒のようだ。おそらく、それがあれを破壊したのだろう。しかしぼくにはその姿が見えなかった。───0ポイント敵を壊すその動きも、一切。
「……………………」
ビルを飛び降りる。ちらりと見ると、その男子生徒が倒れている姿を見つけられる。
残り時間は……二十秒ほどもない。
「ぐっ……ゔゔゔゔゔゔぅぅううう……せめて……1ポイントでも……!!」
腕と足が破裂するように折れているその少年を見る。治癒を掛けるべきか。しかし時間はない。いや、迷っている場合だろうか。ぼくは治癒を掛ける。
腕と足が治ったことに困惑している彼は、はっとぼくのほうを見た。手を振っておく。
「……っ! ありがとう!」
と、言って、彼は走り出そうとした───そのタイミングで、
『終了───!!』
終わりの合図が告げられた。
「…………あ」
やっぱり駄目だったか。そう思いながら、ぼくは声を掛けるべきか迷う。
呆然と佇む彼に、結局ぼくは声を掛けなかった。
補足
ジョン・ドゥなんて名前はさすがにやばいということで偽名が用意されてます。
ジョンちゃんはあだ名扱いに。
あと最初は一般生徒に紛れ込みやすいから一般試験にしたなんて言い訳をしながらついつい狩りに本気出して早々にポイント集めちゃうあたりポンコツがポンコツ足る所以ですね。