狐ちゃん奮闘記   作:moti-

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第16話

「いやぁ───やっぱり今年は豊作だ!」

 

 雄英高校の校長である根津がそう言った───ヒーロー・ミッドナイトは再生されている動画を見て、思う。

 

 ───あの少女は、いったいなんなのか、と。

 

 死体を意味する名を嬉しそうに名乗る彼女が実は中学生だったと知ったのは少し前。久しぶりに会って、そう聞かされた。年齢詐欺にもほどがあるだろうとは思ったが、顔はたしかに幼いのだ。

 

 精神面も、ときおり見せるぽわんぽわんとした姿は年相応であると言って問題ない。

 

 とはいえ───さすがに戦い慣れているし、個性も尋常ではない。彼女が知っている彼女はほんわかとして、尻尾に感情がとても表れて、特定の人物の話をしているときに普段の無表情が嘘のようにへんにゃりと崩れるような、かわいらしい姿だ。

 

 まるで遊び感覚で、あくまでお邪魔と見たとしても一切の躊躇なく───その顔面を叩き壊す行為は、そんな彼女を知っているぶん、少しだけそのギャップに困惑させられる。

 

「開始から三分で50ポイントを稼ぎ、そこから静観……ねぇ」

 

「実力はたしかにあるんだろうが……あれじゃあさすがに手を抜きすぎな気がするんだが」

 

「……いや、しかしそれも別の側面から見れば正しい行動だろう」

 

 少なくとも、壊しやすい設計であるとはいえ、さも当たり前のように巨大な───それこそ身長以上のサイズの鉄の塊を、あっさりと引き裂くその姿。

 

 ここだけ見れば増強型の個性だ。それも、かなりレベルの高いもの。ふと見せた跳躍に関してなど、オールマイトにすら匹敵するかもしれないほど。

 

 それほど強力なのだから、それ特化であるとしても十分すぎるほどだ。しかし、最後に彼女が見せた───

 

「───治癒。あくまで回復要員として見たとき、あの行動は最適以外の何物でもない」

 

「……たしかに。最低限自分の点数は稼いでおいて、あとは重傷者をすぐに癒せるように周囲を見張りつつ、リソースの温存……回復役の立ち回りとしては最高だ」

 

 そう。

 

 彼女は、両足と片腕をボロボロに壊した少年の傷を一瞬で治してみせた。回復役としての性能も超一流のそれ。

 

 純粋に、強すぎる。

 

「本人の強さも置いておいて、この回復についてはかなり将来性のある個性だよね!」

 

「しかし……あれだけの回復能力を見せるとなると、あの身体能力は素である、となりませんか?」

 

「そこは謎だね……本人からの個性届には『妖狐』と書かれているけど、あの耳と尻尾が関係するのかな? なにはともあれ、僕はちょっと親近感を感じるよ!」

 

「妖狐……? ……詳細がわかりませんね。しかし少なくとも、いくつかの個性が統合されているような状態なのは間違いないでしょう。……強すぎる」

 

 たしかに個性については謎だ。少なくとも増強系の個性と、治癒系の個性が混ざり合っているのは間違いないだろうが……『妖狐』だと、それ以外にもなにかできるような気がする。

 

 今度聞いてみようか、とミッドナイトは考えた。

 

「この子に関しては文句なしの合格でいいよね! それだけの実力はある!」

 

「……まぁ、落とすほうが難しいでしょう」

 

「しかし今回は難しくないですか? 合否判定───現在の候補が()()()()。こうなると、選別も厳しいでしょう」

 

「あれ? 言ってなかったっけ。今年のヒーロー科定員は一クラス二十一人だよ」

 

「あー……すみません、忘れてました」

 

「うん。一人くらいは増やせそうだったからね。奇数になるし望ましくはないんだけど……それでも、今年は特に優秀だったからね。増やして正解だったよ」

 

「じゃあ、これで合格者はもう決定ってわけですね」

 

 うん、と言って、根津は少女の名前と共に、合格を告げる。

 

死染(しぞめ)妖狐(ようこ)───合格!」

 

 

 

 

「ん」

 

「ん」

 

 弔の呼びかけに、醤油を渡す。作った目玉焼きにそれを垂らし、ぼくに返してきたそれを元の場所に戻す。

 

「熟年夫婦か!!」

 

(ばかにぃ)うるさい。リーダーと狐の夫婦感は今に始まったことじゃないでしょ』

 

「いや……でも……俺の心がそう叫べって……」

 

「チャージ、ごはん中だし叫ばないで」

 

「あっはい」

 

 今回は普段のバーでなく、先生が用意した家にいる。二つ部屋を隣同士にとってくれたので、親子もいつも食事に交ざりにくるのだ。

 

 時々黒霧もやってくる。

 

「……雄英の合格発表今日だろ。自信はあるか?」

 

「うん! ばっちり」

 

「お前がそういうと少し信用できないな」

 

 しっぽを撫でる弔の手に、されるがままになりつつぼくも腕に手をつけた。

 

「……料理、上手くなったか?」

 

「え? そう? ……えへへ、そうだといいなぁ」

 

『滲み出るリア充オーラ』

 

「非リアには眩しいぜ……!」

 

「……お前らはなにを言っているんだ?」

 

「いやリーダー。あんたらやってること夫婦のノリじゃん眩しいなぁ……」

 

「いやこれくらい普通だろ。別に騒がれるほどでもない」

 

「うーん価値観の相違」

 

『……リーダー、狐の顔』

 

 弔がこちらを向いた。

 

 にぱー。

 

「今日も元気だな」

 

「元気が一番なのです」

 

『完全にメスの顔してる』

 

「女の子がそんな言葉遣いすんなよ……」

 

『でも今更修正不可能じゃない?』

 

「それもそうか」

 

 弔がしっぽを撫でる───指が毛を梳く感覚が、とても心地良い。

 

 そのとき、ワープゲートが開いた。

 

「死柄木弔。雄英から手紙が届いていますが……」

 

「適当に置いとけ」

 

「はい。……しかし、もう完璧に相思相愛じゃないですか」

 

「は? 何言ってるんだオマエ。次戯けたこと抜かしたら粉々にする」

 

「相思相愛じゃないですか」

 

「よっしわかった崩れろ」

 

 弔が立ち上がった。しかしワープゲートで防御している黒霧には、そのすべてを透かされる。

 

「……チッ」

 

「あの、流石に怒り過ぎでは……」

 

「別に怒ってねぇよ」

 

 弔は、ぼくを少し抱き上げ、自分の股の間に置いた。すっぽり腕に包まれる感じになる。

 

「こぅん」

 

『まーた狐ポンコツ化した』

 

「こぉんだろ普通」

 

「ぼくはこれがデフォなのです」

 

 頭の上にちょうど、弔の顎が乗る感じになる。耳に触れる息が少しくすぐったい。

 

 弔が、少し残っていた食事を摘んでぼくの口元に差し出した。

 

「あむ」

 

「最近ちょっと量多くないか?」

 

「……んっ、そうかなぁ……配分わかんなくなってるのかも」

 

「いや、すまん。俺が食わないだけかもしれん」

 

 弔が頬を撫でる。そこから、少し摘んで伸ばす。むにーっとぼくの頬はよく伸びた。

 

「……んで、雄英からの手紙だったか? 合格通知だろ」

 

「……ん、あ、二つある。こっちがスイコちゃんのぶんかな」

 

『ん、ありがと』

 

 中から機械のようなものを取り出し、ぼくはそれを起動した。かすかに起動音がした後、空間に映像が投影され、現れたのは───

 

 

『私が投影された!』

 

 

 弔の腕が映像のオールマイトを掠めた。

 

「……クソが」

 

「ちょっと落ち着いて」

 

『いやぁ、私がここにいる理由なんだが、雄英に勤めることになったからなんだ』

 

「……ほら。これ、いい情報でしょ」

 

「……たしかにな」

 

 雄英にオールマイトがきたということは、殺す機会ができたということだ。一点に留まってくれるというのならばなによりも楽。世界中をあちらこちらへと縦横無尽に移動するのが面倒だったのであって、確実に喧嘩を売れる場所ができたということは、こちらも万全の準備をして戦うことができる。

 

『死染君は筆記・実技ともに好成績だ! 特に実技。たった三分で50ポイントを集める実力。両足が折れ、動けない少年を助けたというその実績! その2ポイントで、ヒーローとして十分な素質を持っていると判断した!』

 

「的外れなこといいやがって。なぁ?」

 

「とむらぁ、なんですごい抱きしめてきてるの?」

 

「っと、すまん。ちょっと手に力が入った」

 

「別にいいよ」

 

 しかし───ぼくがヒーローか。

 

 それとは正反対の存在なのに。たしかに、言われてみると少しだけおもしろい。ヒーローとして十分な素質?

 

 ぼくはもうどうしようもない人殺しだというのに。

 

『雄英は(ヴィラン)ポイントだけでなく、もう一つ見ていたものがある。それは救助活動(レスキュー)ポイント! ラストの治癒で加点され───敵ポイント50、救助活動ポイント75! これは二位の成績だぞ! ───死染妖狐、合格だ!』

 

「合格だとよ」

 

 それを聞き終え、弔は機械を破壊した。

 

「───はは、ははははははははは!! 面白いなぁ、面白いなぁ! なぁ!? 雄英は間抜けか!? あっさりと(ヴィラン)の侵入を許してんじゃねぇか! は、ははは、ははははは! 最高の気分だ!!」

 

「んにゅ」

 

「これだけおもしろいことはないよなぁ! よくやった! よくやったよ! 最高だ! 最高だ! これで───この社会を、盛大にぶち壊せるだろう!」

 

「……むぎゅ」

 

 弔が、笑いながらぼくの頭を撫でる。久しぶりにこんなふうに笑っているのを見た気がする。抱きしめられ、少しだけ潰されるようになりながら、ぼくはこくりと頷いた。

 

「黒霧」

 

「なんでしょう」

 

「折角だ。仲間探しを頼む。良さげなやつを見つけたら連れてこい。オールマイトをぶち殺せるチャンスがあるとでも言えば釣れるだろ」

 

「わかりました」

 

「茶味」

 

「はーい?」

 

「黒霧の補佐だ。お前の戦闘力はよくわかってる。準備は早いほうがいい。弾を作っておけ」

 

「あいよ! 幾つくらいだ?」

 

「持ち運べるだけありったけだ」

 

「了解!」

 

「ああ、あと。お前の言う母親に協力してもらえないかどうかを頼んでくれ」

 

 弔のその言葉に、露骨にチャージは嫌そうな顔をした。

 

 弔がそれを見て、少し考える。

 

「……無理そうなら別にいい」

 

「いや、無理じゃねぇ。無理じゃねぇんだけど……リーダー、大丈夫か? あれの本気とか俺は絶対見たくないぞ。直視したら気が狂う」

 

「いいじゃねぇか。見たら発狂、なんとも(俺ら)らしいだろ?」

 

「……まぁ、リーダーからのお願いだ。別にいいよ」

 

 弔が立ち上がる。ぼくはその場に残された。

 

「先生、それでいいだろ? あの平和の象徴をぶち壊せる可能性ができた」

 

『……良い。良いよ、弔。とてもいい判断だ。生徒を巻き込めばヒーローであり教育者である以上、奴の動きを抑制できる。僕からも餞別を用意しよう。それで』

 

 ───平和の象徴を、削ぐ。

 

 先生は笑ってそういった。

 

 

 

 

「そういえば弔、ちょっとびっくりしたんだけどね」

 

「ん? なんだ?」

 

「オールマイトみたいなパワーを持った生徒が受験生にいたよ。これどう思う?」

 

「…………先生」

 

『……そうか。ふふふ、ふふふふふ……その生徒もなるべく優先していいね。オールマイトと、その生徒。それを狙って挑むことにしよう』

 

 弔はぼくの頭をなでた。にこりと残酷に微笑んで、そして背中を叩く。

 

「いい情報だ。この調子で───入学してからも頼むぞ」

 

「……えへへへ」

 

 頼りにされている、ということは毒だ。ぼくは弔がお願いするんならなんだってできるけど、そういうふうに言われちゃあ頑張りたくなる。ずるい。

 

 ぼくは笑って、こくりと頷いた。

 

『……そういえば、わたしも合格だったり』

 

「なんだ、二人とも合格か……これは……いいな。本当に」

 

『狐の暴走を止めるのは任せてちょうだいぶいぶい』

 

「ちょっ!? ぼくがよく暴走するみたいな言い方じゃん。酷いよそれは」

 

「……まぁ、あんまり的外れじゃないけどな。よろしく頼むぜ、こいつのこととか」

 

『任せてちょーだい』

 

 ある程度の方針は固まった。

 

 ぼくたちは虎視眈々と機会を伺う───平和の象徴を退場させる準備を水面下で整えながら、

 

 ぼくの雄英高校入学が決定した。




 そろそろ連日更新途切れそうです
 ともあれ、入学が決まったので次回からいよいよまともに原作入りですねー!

 USJ編が楽しみです
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