狐ちゃん奮闘記   作:moti-

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第17話

 今日は入学式。

 

 ぼくは着替えを終え、出かける準備を終えようとしていた。

 

 かばんの用意はしてある。ひとまず、必要なぶんのいろいろなものを詰め込んでおいた。服はもう制服だ。似合うか聞いたら「そこそこ」とのこと。

 

 家を出て、スイコちゃんと合流しそこからいろいろを乗り継ぎ、雄英高校に到着。あまりの広さに迷子になりそうになりながら、自分のクラスへと向かう。

 

 そういえば、スイコちゃんとはクラスが分かれた。スイコちゃんが1-B、ぼくが1-Aだ。ぼくと違ってそこそこおとなしめだったらしいので、そのくらいの点数は当たり前かなぁ、といった感想である。

 

 ともあれ、ぼくは教室に到着した。大きな扉を開くと、こちらを向くのは多くの瞳。それに臆さずにてけてけと、自分の席はどこかと探した。

 

 席は指定されていた。とりあえず自分の席に座り、かばんを置く───どうしていいのかわからなかったので、とりあえず自分の足元に置いておくことにする。

 

 ……暇だ。せっかくなので、心の声でも聞いて遊ぼうと思ったが、それはそれで煩わしいのですべてを無視することにする。

 

 心の声を無視するのにも慣れてきた。昔のおぼつかなさが嘘のようだ。とりあえず、机に顔をくっつけた。眠くはない。眠くはないが……どことなく退屈。

 

 退屈なのだ。

 

 と、思っていたらとてとてとこちらに向かってくる姿があった。

 

「俺は市立聡明中学の飯田天哉だ」

 

「よろしくー。んーと……死染妖狐。気軽にジョンとかって呼んでね。たしか試験会場一緒だったよね? あの速い人だ」

 

「君はあの、腕を治療した人なのだろう? 君ならば合格するのも納得だ。これからよろしく頼む」

 

「うんうん。よろしくね」

 

「こちらこそ」

 

「よろしくね」

 

「ああ、こちらも……って何回やるんだこのやりとり!?」

 

 よろしくねは相手が打ち切らない限り続くものだと思ってた。

 

 手持ち無沙汰にしっぽを撫でる。

 

 時間を見ると、まだまだ余っている。少し早く来すぎたかなぁと思いつつ、耳をぴこぴこと動かして遊んだ。

 

 てしてし。しっぽがゆらゆら揺れる。

 

 がらりと扉が開かれた。

 

「……………………」

 

 入ってきたのは、目つきの悪い一人の男子。入学初日だというのに制服を着崩している。雑に扉を閉めて、彼は自分の机へと向かっていった。

 

 そのまま椅子を引き、机に足を乗せた。

 

「───ちょっ、君!」

 

「あァ?」

 

「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」

 

「思わねーよてめーどこ中だよ端役が!」

 

 ……これはこれは、なんともヒーローとは思えない言動だ。

 

 ひょっとするとぼくと同じような形で、(ヴィラン)が潜入しているのかもしれない。そうだったら仲良くできそうだ。棘のある性格も、弔が怒ったときと考えれば途端にかわいらしく見えてくる。

 

「ぼ……俺は市立聡明中学出身、飯田天哉だ」

 

「聡明───!? クソエリートじゃねぇかぶっ殺し甲斐がありそうだな」

 

「君酷いな!? 本当にヒーロー志望か!?」

 

 うん。

 

 これは間違いなくぼくたちの仲間だ。適当に話してみて、場合によっては協力関係に持ち込めるかもしれない。

 

 軽く探ってみるべきだろう。ひとまずぼくは彼を同盟相手予備として記憶しておく。

 

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

 

 

 ぬっ、と。

 

 扉の向こうにだれかがいるのを見て、ぼくは少しだけ目を疑った───疑うほどの視力ではないのだけれど、それでも目を疑った。くっきりと見えているが疑った。

 

「ここはヒーロー科だぞ」

 

 寝袋のままゆっくり起き上がる。邪魔だったのか、寝袋を脱ぎ捨てながら立ち上がった。

 

 誰だろう。生徒であるとは思えないが、と思って、ならば先生だろうと推測できることに気づく。

 

「はい、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

 

 その言葉でぼくの推測は確実なものになった。さすがぼく。ポンコツだポンコツだと最近ずっと言われているが、少なくとも馬鹿みたいに偏差値の高い高校に合格しただけあってそれほど頭は悪くない。

 

 つまり、ポンコツじゃない。

 

「担任の相澤消太だ、よろしくね」

 

 担任らしい。……そういえば、先程一息で十秒チャージを啜り上げたような気がする。

 

 睡さんが昔言ってたのはこの人だろうか? たしかに、見た目は不健康そうなものだ。睡さんの懸念も理解できる。

 

 しかし、先生である以上はしっかりと活動できるだけのエネルギーは配分しているのだろう。だとするとあんまり心配することはないのかもしれない。

 

 全部ぼくの素人考えだから、なんともいえない。

 

「早速だが」

 

 そう言って、相澤消太と名乗った先生は寝袋からなにかを引っ張り出した。

 

体操服(コレ)着てグラウンドに出ろ」

 

 

 

 

「個性把握……テストぉ!?」

 

 とりあえず、体操服に着替えてグラウンドへと。言われたとおりの行動をして、そこで告げられたのは、今しがたオウムのように返されたこの言葉。

 

「入学式は!? ガイダンスは!?」

 

「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ」

 

 ヒーロー過酷すぎだと思う。

 

「雄英は『自由』な校風が売り文句。そしてそれは『先生側』もまた然り」

 

 たしかに、自由といえば自由だけれど……となると、睡さんのあれは自由に休暇を取って遊んでいたのだろうか? いや、あのひとに限ってそれはないと思うんだけれど。

 

 どうなのだろうか。この型破りな姿をいざ見せられると、少しばかり疑問になってくる。

 

「爆豪。中学の頃ソフトボール投げ何メートルだった」

 

「67メートル」

 

 呼ばれて、返事をしたのは推定(ヴィラン)仲間の少年。

 

「じゃあ個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。はよ。思いっきりな」

 

「……んじゃまあ」

 

 そう言って、ボールを受け取った彼は振りかぶり、

 

「死ねぇ!!」

 

 瞬間で、ボールが吹っ飛んでいった。爆風が周囲をかき乱す。ぼくの耳が風で揺らされた。

 

「まずは自分の最大限を知る」

 

 相澤先生が測定器を見て、それを生徒に見えるように差し出してきた。

 

「それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

 見せられたその記録は───705.2メートル。

 

 だいたい1キロ。がんばったらぼくでも飛ばせそうだ。

 

「なんだこれ! すげー面白そう!」

 

「705メートルってマジかよ」

 

「個性思いっきり使えるんだ! さすがヒーロー科!」

 

「…………面白そう、か」

 

 あがった声の一つに、先生が反応する。

 

「ヒーローになる為の三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい? ……よし。トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」

 

 爆弾を投げ込んだ。

 

 ひょっとすると普段ぼくが投げてると言われるものよりもよっぽど大きいそれを。

 

「生徒の如何は先生(俺たち)の『自由』」

 

 ひょっとして、最下位になるかもしれない、とふと思うと、少しだけ恐ろしく感じた。

 

 手を抜こうだなんて考えていたが……それをしてしまうと、ひょっとして最下位になるかもしれない。

 

 よし、本気、だそう。

 

「ようこそ、これが───雄英高校ヒーロー科だ」

 

 ヒーロー科怖い。

 

 

 

 

 第一種目は50メートル走。

 

 ぼくより少し前の生徒が飛んでいたのを見るに、飛ぶのはありなのだろう。だとすると、一歩で50メートルぶんを飛んでしまえば一番早いのではないだろうか。

 

 人数が奇数な以上、二人ずつの計測の場合だれかが一人にならなければならない。その枠にぼくが入ったので、周囲の邪魔を気にせず全力で走ることができる。

 

「よーい」

 

 その言葉で、一気に足の倍率を引き上げた。

 

「どん」

 

 そのまま、地面を踏みしめ、そのまま前方へと体を飛ばす───そのつもりが、うっかり上方向へと体を向けすぎた。

 

「あーれー!?」

 

 予定よりも大きく飛び上がり、50メートルのラインを飛び越えてしまった。回転しながら、地面へと着地する。

 

「……4秒2。一応言っとくがそれ走ってないからな。立ち幅跳びの分野だぞ」

 

 失敗しなければ、もっと早いタイムだっただろう。力の入れ方とか、もうちょっと練習するべきかなぁ、と思っていると、驚いた顔でこちらを見る姿がちらほら。

 

「50メートルだぞ? たったの一歩って……」

 

「というか耳と尻尾かわいい」

 

「あの尻尾、どうやって出してんだろ……体操服からそのまま……つまり、ワンチャン脱げる……!?」

 

「個性は回復のはず……となると素の能力だろうかしかしそれにしては強すぎるだとすると一つの中に何個も同じ個性を持っている形になるんだろうか? いやそれ強すぎないか純粋に戦闘の場面で一人いたらほとんどが解決してしまう強いなこれ」

 

 よくわからないが、なにやら褒められているらしい。

 

 手を振った。

 

 振り返された。

 

 第二種目、握力測定。

 

 これに関してはあんまり成績が振るわなかった。というか、ぼくの個性は攻撃力だとかそういうものを引き上げているようで、これに関してはいくら鍛えても強くはならない。

 

 記録は20。普通ならこれでもがんばってるくらいだと思うが、しかし540キロが現れたためぼくの記録は底辺にも等しい位置であるのだった。

 

 第三種目、立ち幅跳び。

 

 余裕の390メートル。1キロの三分の一と考えれば、そこそこの記録は出せている。少なくとも本気でやればかんたんにそれくらいは出せるということだ。実戦では足場なども多いぶんこれだけ出せても無駄なのだけれど。

 

 第四種目。反復横跳び。

 

 これに関しては、体の扱いには慣れているから、足がもつれないように気をつけながら、足の強化だけで終わらせた。記録は140。

 

 第五種目、ボール投げ。

 

 ∞を出した女子がいた。正直わけがわからない。無限ってなんだ無限って。そう考えて、やってきたぼくの番。

 

 これは適当に腕の強化倍率を引き上げ、投げた。だいたい400メートル。

 

「あまくみてた……」

 

 がんばったら行ける、などと考えた自分を殴りたい。かなり恥ずかしい勘違いじゃないか。

 

 列に戻ると、速い人───飯田君が、こちらにやぁと声を掛けた。

 

「順調な成績じゃないか! 君の個性は『治癒』じゃないのか!?」

 

「あはは、違うよ? あれはあくまで個性の応用……といっていいのかわからないけど、応用みたいなもの。応用ばっかり使っちゃっていつの間にか治癒が基礎みたいになってるけどね」

 

「む……応用で治癒ができる個性か。見た感じ、増強型なのだろう? どのように応用したら治癒ができるのかわからないのだが」

 

「かんたんだよ? 増強型っていっても、ぼくのはちょっと特殊だからね。他のひとと事情は違うんだけど」

 

「その効力か? そういえば、握力はふるわなかったな」

 

「そう。ぼくの個性、生命力を消費するんだけどねー。それを使って、魔法みたいに発動させるの。ゲームでいう戦闘中に使う強化わざ。積み技ってやつかな?」

 

「……なるほど。君は生命力を他人に分け与えることで治癒をしてる、ということか!」

 

「んー。わかんない」

 

「……違うのか?」

 

「いや、なんで治癒できるのとかわかんない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、っていうのが正しいかんじで、たぶんあんまり理論なんて意味がないんだよ」

 

「そんな無茶苦茶な……おっと、次は緑谷君か。彼はこのままだと不味いぞ……?」

 

「ったりめーだ無個性のザコだぞ!」

 

 ここで、すぐ側にいた(ヴィラン)仲間の少年が交ざってきた。

 

「無個性!? 彼が入試時になにを成したのか知らんのか!?」

 

「は?」

 

「それはそうと、飯田くんこのひとの名前なに?」

 

「爆豪君と呼ばれていた」

 

「爆豪勝己だクソ耳! 知っとけ!」

 

「知っとけもなにも自己紹介されてないもん」

 

「うるせぇわ察しろ!」

 

「こぅんこぅん」

 

「急に媚びるな」

 

「あぉーんわんわんにゃーん」

 

「お前狐だろうが! てか統一しろ!」

 

「飯田くん、このひとひょっとしたらいい人かもしれない」

 

「しっかりツッコむんだな……すまない爆豪君! 君を誤解していた!」

 

「うるさいぞそこ」

 

 先生から注意された。

 

 緑谷、と呼ばれた少年が、ボールを振りかぶった。

 

「46メートル」

 

「───!? な……今、たしかに使おうって……」

 

「個性を消した」

 

 こともなげに、あるいは気怠げに。

 

 相澤先生は、その髪を逆立てて言い切った。

 

「まったく───つくづくあの入試は合理性に欠くよ。おまえのような奴も入学できてしまう」

 

「消した……!? あのゴーグル……そうか! 抹消ヒーロー・イレイザーヘッド!」

 

 ……個性を消す個性。

 

 つまり、弔を一般人と同じレベルまで格下げしてしまう能力。それはこの社会において、とんでもない()()を張れる能力だ、と一瞬で悟った。

 

 この社会において、個性を消すというのは強制的な殴り合いを用意できるということだ。それを考えると、強すぎる。

 

 ……素の能力がずば抜けているモノを使わないと、だめだろう。

 

「指導を受けていたようだが」

 

「除籍宣告だろ」

 

 耳がいいので、前後のやりとりもすべて聞こえていたが……しかし、除籍宣告というのは正しい。実際にそのとおりだ。

 

 緑谷くんは振りかぶった。

 

「───見込み」

 

 しかし───その個性を発動するタイミングが、違う。

 

「ゼロ……」

 

 今回は、全力でありつつ、また別───指への発動。

 

「───!?」

 

 指一本を破壊するのと引き換えに、その一投は尋常ではない破壊力を叩き出した。

 

「……先生……! ───まだ動けます」

 

 それが明らかに、オールマイトのような威力と例えられるものだというのはぼくでもわかった。だからこそ、思う。

 

 ───危険だ、と。

 

 弔には警戒度を上げるように伝えないといけない。この敵は、全身をボロボロにしても尚立ち上がる。何度でも這い上がって、倒すべき敵を確実に地獄へと引きずり込む。それまでは絶対に死なない、と、そう断言できるような、

 

 そういう、恐怖されるべき存在だ。

 

 

 

 

 すべての種目が終わったあと。

 

「んじゃぱぱっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明するのは時間の無駄なので一括開示する」

 

 そこまで言って、先生は機械を操作。

 

 

「ちなみに除籍は嘘な」

 

「んにゃっ!?」

 

 

 ぼくは思わず声をあげた。

 

「君等の最大限を引き出す、合理的虚偽」

 

 嘘だぁ。

 

「あんなの嘘に決まってるじゃない……ちょっと考えればわかりますわ……」

 

 嘘だぁ。

 

「そゆこと」

 

 嘘だぁ。

 

 ぼくに嘘は通用しないんだぞ。

 

 先生が超本気であったのは、なによりもはっきりぼくがわかっている。心の中を覗いたからだ。そこでは、本気で緑谷くんを落とすつもりだった。

 

 となると初っ端から人数が減って20人になるところだったのか……と考えたところで、

 

「死染」

 

 先生に名前を呼ばれた。なにか、と問い返す。

 

「緑谷の傷治してやれ。できればでいい。一応保健室利用書も書いてるからな」

 

「やれます」

 

「じゃあ頼む。明日からもっと過酷な訓練の目白押しだ」

 

 そう言って、先生は去っていった。

 

 緑谷くんの傷を手早く治して、釈然としない思いのまま身体測定は終わっていった。




 緑谷くんの評価が完璧に化物かなにかに対する評価なのひどいねこの狐
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