最低限の栄養補給に用意した食事と、嗜好品として楽しむために食堂でかんたんに定食を購入。
席取りは任せていた。こちらに向かって手を振る姿がある。そのほうへと向かってみると、スイコちゃんがいた。
「席ありがとー」
『狐はポンコツだからわたしに気づかないかもと思ってた』
「最近ちょっとぼくのことなめすぎじゃない?」
『そう取られる態度なのが悪いんだよなぁー……それはそれとして、午後はヒーロー基礎学だね』
「あー、うん。B組もそうなんだ」
『さすがにヒーロー科は共通させてると思うよ。合同授業とかの関係もあるし』
そう言って、スイコちゃんは白米を口に放り込んだ。うまい、と呟いて、野菜炒めを箸で捕獲する。
ぼくは生命力確保に作った人肉のハンバーグを一口で頬張り、飲み込んでから定食のほうに手をつけた。
『携帯食料はまだできてないんだっけ?』
「うん。おやつみたいな感じにするのにはまだちょっと足りないっぽい。ドクターも、そういう方面が得意なわけじゃないし……それにしてもそこそこはできるのがすごいけど」
ドクターは天才だ。自分の分野でないこともそれなりにやってのけられるほどの実力がある。だからといって、まったく未体験の分野を始めるには少しだけ時間がかかる。
これをあっさりとやられるようだったら天才すぎるし才能に嫉妬するから、ドクターもそれなりにできないことがあってよかった。
それでもぼくなんか凌駕しているのだが。
「ヒーロー基礎学、スイコちゃんはどうする?」
『ん? あー……全力だと人が死ぬし、さすがに抑えてやるよ』
「本気を出したら人が死ぬって……どんな感じ?」
『お母さんの個性を1としたら1000くらいの狂気を見たものに付与する』
「発狂死確実なんだけど」
……そういえば、この間チャージの必死の説得で母親が仲間に加わった。雄英襲撃作戦は順調に進行している。
弔も珍しく本気で、最近は戦闘勘を磨くために本気のチャージと死なない程度に殴り合っている。
チャージ、あれでも脆いだけで強いのだ。
少なからず、鉄球に溜め込んで余剰だったぶんのエネルギーを体の中に蓄えているらしいから、ただのパンチでも腹を抉り、人を殺すことができる程度に凶悪だ。
そんな本気のパンチを何発も受けて笑っているのが弔になる。
さすがに何度か治癒をしているが、しかしチャージの本気を三発は生身で耐えられるあたり弔は順調に強くなっている。
まぁ、それは当然なのだけど。
なんせ未来の王だ。殺す気ならば一瞬で勝てるだろう。無個性の状態で戦って、尚チャージと互角だと、そのことがはっきりわかる。
ちなみに、エネルギーの無駄撃ちではない。弔に殴られたぶんの衝撃を蓄えているらしいので、最初とエネルギー残量はほとんど変わっていないらしい。
基本的に、吸収のほうが効率がいいらしいので、わりとすぐに溜まるとは本人曰くだ。あんまり強すぎると溜め込めないが、幸いそこまで強すぎないため、吸収しきれる威力とのこと。
ちなみに強すぎる攻撃を受けようとすると吸収しすぎて死ぬらしい。なので火力の高い相手はそのまま食らうしかないだとか。
「なんでそこまで強化されてるの?」
『んー……かんたんな話、
「そういえば、髪が蒼くなったのはなんで?」
『先祖返り。というか、なんというか───くすみがとれた、というのかな。こっちがほんとの姿だよ』
「そうだったんだ。その髪、ぷよぷよで気持ちいいよねぇ。枕にちょうどいいんだ。ぺにょんってしてうとうとしちゃ」
『おい』
ぼくがそう言うと、スイコちゃんは怒りを露わにする。
『わたしそれ知らないぞ。いつやった。吐け』
午後の授業の始まりである。スイコちゃんに怒られたあと、教室に戻ってから机でしくしくとすすり泣く。ちょっとだけ個性を開放していたのだろう。尋常じゃなく怖かった。
こんな感覚を覚えたのは───先生と初めて会ったとき以来か。それとはまた別のベクトルだろうが、なんだかとても恐ろしかった。
さらに驚くべきことなのが、
ともあれ、午後の始まりだ───涙を引っ込め、先生の到来を待つ。
「わーたーしーがー!!」
その声を聞いてすべてのやる気がなくなった。
いや、そんなのはもちろん表皮には出さないのだけれど。
「普通にドアから来た!」
嫌いだ。
と、そういうのはあくまでぼくの感想でしかないわけで、周囲からしてはすごい人認定らしい。
そりゃあそうか、と思い、ひとまずぼくの個人の感情をリセットする。オールマイトを好いていることのほうが自然なのだろう。ならばぼくはそれを演じる。
そう、オールマイトを尊敬している。ぼくはオールマイトを尊敬している。
駄目だ、むり。ぼくオールマイトきらい。
……そうとは言っていられないので、それを表皮に出さないようにする。幸い表情が動きづらい。しっぽにさえ気をつければ問題ないはずだ。
「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくる為様々な訓練を行う科目だ!」
と、言ってオールマイトは札をぼくたちに見せる。
「早速だが今日はこれ! 戦闘訓練!!」
───なるほど。
手加減できるか不安になるが、そこらへんはまぁ、大丈夫だろう。しかし奇数だが、どう分配するつもりなんだろうか。
「そしてそいつに伴って……こちら!」
教室の壁が動きはじめた。そこからゆっくりと、なにかが引き出されていく。
「入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた、
「おおお!!」
周囲から歓声があがった。
「着替えたら順次グラウンド・βに集まるんだ!」
「はーい!!」
そう言い残して、オールマイトが出ていった。全員がコスチュームをとりにいったのに、少し遅れてぼくは自分のコスチュームを持つ。
向かったのは更衣室だ。昨日体操服に着替えるのに使った場所。女子の団体とともに移動し、ぼくはコスチュームを取り出した。
「ねぇねぇ、えーと……妖狐? でいいんだよね?」
「あ、うん。えーと……」
「ウチ、耳郎響香。好きに呼んで」
「うん。響香ちゃん。なにかな?」
「いや、ちょっとどんなコスチュームか気になって。ほとんど素のままでいいんじゃないかなって思うし」
「こんなの」
ぼくは広げたコスチュームを体にかぶせるように浮かべた。
「……………………なんで腕が付いてるの?」
「ちょっとやる気になれるのです」
「ヒーロー向きっぽくないし外しておいたほうがいいと思う」
「あれ、そう? んー……………………じゃあ退けとくね」
と、言ってぼくはコスチュームの飾りである腕を取り外した。あくまでアクセサリーのようなものであるから、すぐに取り除けるように設計してもらっている。
服を脱いで、手早くスーツを着た。それですこし動いてみて、どうだと響香ちゃんのほうを向く。
へー、と言って。
「すごい似合ってるじゃん。やっぱりこれ、とても薄いけど近接戦を意識してる?」
「ビジュアル面には疎いけど戦闘面では強いのです。ぼくは特に暑いところに弱いので、うまく熱を逃がすようにできる設計なのですよ」
「耐久度も高そうだね。結構ぴっちりな感じだけどそれもわざと?」
「体にくっつくほうがなびいたりしなくて便利なので。ちょっとした重心の動きも変わったりするからねー」
「うわぁ……そこまでガチで考えてるのね」
「しっぽのところの耐久性が弱点かなぁ」
「まぁ、それは仕方ないね」
ぼくのコスチュームは単純。近づいて殴る、それだけなので、あんまり余計なものを必要としていない。
スーツだけで終わりだ。代わりに、そのスーツはぼくができないことを補えるように設計している。
と、いっても寒さに耐えられて、あとは各種の攻撃耐性のある素材を用意してもらっただけなのだが。
切断にも強く、生半可な刃なら通さない。顔が少し出ているのは別に問題ない。最悪蘇生があるからだ。そもそも、ぼくの頭を弱点扱いできるのはチャージ級の火力が飛び出してこないかぎりないだろう。
よって、コスチュームはそこまでの機能性を求めていない。
着替え終わったのでグラウンドへと向かう。その最中、すでに向かっていた生徒と合流したので話しかけることにした。
「おーいなのです」
「あ……妖狐さん、ですわね」
「そうなのです。そういうあなたは八百万さん……ですね? この間のテスト、一位おめでとうなのです」
「あら、どうもありがとうございます。妖狐さんは4位でしたね。それとは別に
「やろうと思えればもっといろんなこともできるんだろうけどねー。だけど今はやれる気がしないのです。だから今できることをがんばるのです」
「もう十分通用とすると思いますが……そうですわね。向上心を持つのは、ヒーローとして必要な素質なのでしょう」
話している間に、グラウンドへとたどり着く。男子生徒はすでにちらほらと姿を見せていた。
その中で、一人の生徒がこちらに話しかけてきた。
「よ!」
手を振って返す。
「……そういや自己紹介の時間すらなかったんだ。俺は切島鋭児郎。よろしくな」
「うん。ぼくは死染妖狐だよ。てきとーにジョンでも狐でも妖狐でもなんでも呼んでね」
「いや、ジョンはどこから出てきたんだよ」
「……あだな?」
「うーん、わからん。ま、よろしくな死染」
「よろしくなのです。ところで」
と、ぼくが続けると、彼は疑問そうに「ん?」と言った。
「服装がすごくすごいことになってるんですけど……」
「ああ、下手なものだと自分の個性でコスチュームが傷つくからな。あえて上半身は出してるんだ」
「どんな個性なの?」
「『硬化』。だから戦闘力を売ってく感じだな」
「なるほど……強そうだね」
「お、そうか? まぁ対人戦ならそこそこ粘れるほうだと思うぜ。さすがに馬鹿みてーな火力を出されると削られるが」
と、なると入試でもそこそこの点数を取れていたことだろう。
純粋に強い個性だ───ゆっくりと個性を伸ばしていけば、ひょっとするとヒーローとして大きく名を残すかもしれない。
今後の成長次第では、警戒に値するだろう。
───と、ここで全員が集合した。
「始めようか有精卵共! 戦闘訓練のお時間だ!!」
オールマイトが、そう叫ぶ。
そこから、訓練の説明が始まった。
二人一組でペアを組む。それはくじで決まるものらしい。
「せんせー。このクラス21人なんですけど、それはどうするべきですか?」
と、ここでぼくが聞いた。そりゃあ疑問だからだ。ハンデ付きで参戦するにしても、正直段取りが悪い。その場合どうするべきか───と、考えていると、オールマイトはすこし申し訳無さそうに言った。
「その……なんだ、死染少女。申し訳ない。君は今回、負傷者の治癒の当番をお願いしたいのだが……」
「あー、なるほど。了解です」
と、いうことはぼくはこのメンバーから外されるということだ。しかしそれは、一つの信頼と受け取ってもいい。
評価されている。つまり褒められている。
ぼくはえへんと胸を張った。そして、くるりとクラス全体のほうへ振り返ってから、いう。
「ということなので、みんなじゃんじゃん怪我してね!」
『『『絶妙なワードチョイスの下手さが尖ってる』』』
みんなに心で突っ込まれたような気がする。
「あー……怪我することは喜ばしくないから、みんな重傷は負わないよう気をつけて」
対人戦闘訓練、終了。
そこそこの数を治癒してちょっとだけ空腹なぼくは机にぐでーっとしながら放課後の訓練の反省会に参加していた。
すでに今ここにいる面々との自己紹介は終わっており、各々の問題点の指摘をしている。現在いないのは緑谷出久。
ヒロイズムの塊だ───理想のヒーローを追い求めてやまない、狂気的なまでのそれへの執着を持ち、傷つくことを恐れないという恐ろしさをもった少年。
今回もまた腕を破壊してしまった。治癒で治してはいるが、今回はかなりの重傷だったので保健室に連れて行った。
その姿を思い出しながら、ぼくは周囲と話す。あの姿───鬼気迫る、その姿。何よりもぼくが恐ろしいと思うものだ。
手負いの獣のような、なにをするのかわからない怖さだ。
───それが、今回はっきりと明らかになった。だから、警戒しなければならない。
頭の中では彼の恐ろしさに若干怯えながら、
それでも時間は進んでいったのだった。
ほとんど会話回・説明回になりましたね。戦闘訓練を期待した方がいれば申し訳ないです。
次回からはようやくUSJ編に入れそう……いろいろ頭の中にある構想を放出できるので、がんばります。
狐さんが訓練に参加しなかった理由ですが、一人だけ『他人の治癒をする訓練』、そんな感じの訓練になってます。
一応戦闘能力についてはある程度把握されてますし、需要のある治癒を伸ばす方向の訓練でも別に問題ないと評価されたからです。
B組は3人7グループで一つの班が3チームでの乱戦という形になりました。