人生は生まれた頃からレールが敷かれていて、テキトーに生きてもそこから逸れることはない。
そういうものだと思っていた。
───今回、お前は俺たちに敵対しろ。
本心が読めない微笑みで弔はぼくにそう言った。
本日、雄英襲撃日。
襲撃することにした理由はひとえに、今日の訓練が外界と隔離される一番最初のチャンスだったからだ。バスで移動する関係上すぐに人はやってこない。
オールマイトが授業に参戦し、さらに現場が広い。戦いやすい空間ができていることは間違いないのだ。
よって、今日が雄英襲撃日となった。
今回、ぼくは
ともあれ。
訓練場へとたどり着く。
すごく広い場所だ。なるほど、遊園地みたいな容貌をしている。遊びたくなる心地を抑え、先生の話を聞くことにした。
スペースヒーロー・十三号は災害救助活動を得意とするヒーローだ。そんな彼の訓練場の紹介を聞き、そしてふと疑問に思った。
───オールマイトがいない。
読まれたか? と一瞬不安になるが、しかしそういうことはない。どうやらただ、
相澤先生の話を盗み聞き、なるほどと思う。そして一ついいことを聞いた。
うまくこれを利用すれば、オールマイト殺害も成し遂げられるだろう。
スペースヒーロー・十三号の言葉を聞き、ぼくはふと意識をそらした。
「そんじゃあまずは……」
相澤先生が、そう言おうとする───が、それより先にぼくは気づく。
ワープゲートの存在に。
空間を抉り取る黒色の歪みから、ぬるりと弔が顔を出した。
「───ひとかたまりになって動くな!!」
相澤先生がそれに気づき、即座に反応する。生徒で気づいたものはいない───よって、呆けた反応をしてしまうのも仕方のないことである。
切島くんが、危機感のない表情で疑問を口にした。
相澤先生は即座に否定し───そのゴーグルで視線を隠す。
「動くな、あれは───
ぼくの視界の中で、弔はその爛々と妖しく光る瞳を揺らし、小さく告げた。
「───蹂躙しろ」
その言葉で、
───それは圧倒的な、王の素質。
ただの子供にすぎない死柄木弔が順調に成長し、王の後継者としての片鱗を見せ始めた……そのカリスマの、発露。
「
と、弔は言った。そしてその瞳がぼくのほうを向く。
互いの瞳が交錯し、
───にやりと弔は笑う。
「……狙いは……死染と、オールマイトか」
相澤先生がそれを見て、少し悩むようにし、手短に発言した。
「緑谷! 敵が来たら死染を守れ。お前の個性は相性がいい。できるか!?」
「───っ、やります!」
「十三号! 避難開始! 学校に連絡試せ。駄目なら駄目でいい。上鳴、お前も個性で連絡試せ───あとは任せる」
「……先生は!? 一人で戦うんですか!? あの数じゃいくら個性を消すって言っても……! イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ。正面戦闘は……」
「一芸だけじゃヒーローは務まらん」
そう言って、相澤先生は敵の群れに飛び込んだ。
数稼ぎの雑魚だろう敵を千切っては投げ千切っては投げと……そのまま、順調以上に戦い進める。
強いな、とぼくは思った。やっぱり素の能力がずば抜けている───弔と互角ほどはあるだろう。
だからといって。
弔の勝ちは揺るがない。
黒霧が隙をついて、生徒たちの前に姿を現した。
「……っな!」
「───初めまして。我々は
そう言って、ぼくに視線を向けた。
緑谷くんが反応し、ぼくをかばうように立つ。
「平和の象徴オールマイトに息絶えて頂くことと同時に、私達の
と、その言葉の瞬間に、生徒の目がぼくのほうへと向く。
ぼくは黒霧を見つめた。なにか発言するべきかと考える───いや、いいだろう。
今回の襲撃の設定。
それは、ぼくを
一人でも、様々なことを記入しておけば親がいないでもなんとかなる。というかぼくの個性は変身も内包している。それを使えばいいのだ。だからこそ、ぼくはそういった手口で入学したと言い訳することも可能であり───
───この設定に、信ぴょう性を持たせることができる。
「それで、戻ってくる気はありませんか? 今なら手荒な真似をする必要もありません。さぁ、こちらへ……」
そのワープゲートで囲んだ手を、こちらに向けてくる。
ふと、ぼくは一歩だけ踏み出した。どうするべきかを悩んだままに。そして二歩目を踏み出そうとして、緑谷くんがその行く手を阻む。
「……駄目だよ、死染さん。───連れ戻しに、ってことは、
「……緑谷くん」
「そうですか……ならば、当初の予定通り」
と、言って黒霧はワープゲートを展開した。
全員を飲み込み、隔離する目的のものを。
───霧に飲み込まれる中、緑谷出久は必死の思いで死染妖狐の腕を掴んだ。狙いは、同じ場所に飛ばされること。
そしてその目論見は成功した───狙い通り、同じ場所に転送されて、地面にべちょりと不格好に落ちる。
痛みに耐え、体を起こすと、呆然とした表情の少女がいることに気づく。すぐに飛び起き、声を掛けようとする───
そのタイミングで。
横合いから、なにかが飛んできた。
それは死染妖狐という少女の胸を吹き飛ばし、その中から血を溢れさせる。
「……あ」
こぽり、と口から血を零す少女が、ゆっくりと倒れる様まで呆然と見届け、そして、鉄球が飛んできたほうを見る。
そこに、一人の男が立っていた。
手のひらで鉄球を弄ぶ、暗い瞳の男だ。その見た目に特筆すべきようなところはない。なによりも、普通といった男だ。
だがまとう雰囲気が尋常ではない───まるで、死、そのものを纏っているような剣呑な雰囲気を漂わせている。
「……死染さん」
緑谷出久は小さくつぶやいた。
返事はない。穏やかで、きれいな表情をした狐耳の少女は、瞳を開かない。
「……守るって、言ったのに……!」
それは後悔。それは懺悔。そしてそれは───憤怒。
彼の個性───ワン・フォー・オールは、それに呼応するかのように奔流した。
怒りが、後悔が、感情が緑谷出久をゆっくりと覚醒させていく。目の前で人が死んだ。その事実は受け止めよう。
しかし。
だからといって───受け入れるとは、言ってない。
「ワン・フォー・オール」
そう呟いた。個性に語りかけるように。制御が安定しているような気がする。いまなら、なんとか制御しきれるかもしれない。
失敗してもそれでいい。
今はただ───確実に仕留めるだけの、力がいるのだから。
ゆっくりと横を振り向いた。怖い。勝てない。個性を扱えるのかわからない。これで戦闘なんて不可能に決まっている。しかし、だからといって関係ない。無理を無茶にして押し通すのがヒーローだ。
だから。
緑谷出久は拳を握りしめ───地面を踏みしめる。
瞬間で加速した。容易に動くことができた。男が反応しようとする動き、それを上回り、その顔面に一発拳を叩き込む。
男はそれにあっさりと吹き飛ばされた───いや、わざと吹き飛んだ。体を回転させ、衝撃などなかったかのように着地する。
「……やりやがったな。あー、やりやがった」
男は言った。
「別に姫様なら死んじゃいねぇよ。あの程度で死ぬようなタマならとっくに死んでる」
「……それは……」
どういう、と問うまえに、男は答える。
「俺らのリーダーと握手できるのは原則死人だけだ。けど、唯一姫様だけは触れても問題ねぇんだ───あの治癒力が、死すらも阻むからな」
「……………………」
「死ぬ寸前まで消耗するけど別にいいだろ」
「いいと思ってるのか」
「まぁそう逸るな。いいか。姫様はヒーローの元では絶対に生きていけない。俺たちと一緒にくるべき存在なんだ」
「……………………」
「せざるをえない───ってわけだ。ヒーローは絶対に姫様の味方をしない。できない。なら、あの子は俺たちと生きるしかねぇだろ」
いったいどういう事情だというのか。
様々な困惑が頭の中で広がる───しかし、その一つひとつに意識を向けている暇はない。今は、なにが必要かということを考える。
「だからといって」緑谷は言った。「彼女を渡す理由にならないだろ」
「なるんだよ。───まぁ、ヒーローは納得できやしねぇよなぁ。じゃあ仕方ない。仕方ない。……自己紹介といこうか」
男は、特になにを考えているのかわからない顔で。
「茶味───俺の名前だ。あんたの名前は?」
「……緑谷出久」
緑谷は返す。
「へぇ。良い名だな。……今日は天気もいい。死ぬには良い日だろ?」
「良すぎる日だし死ねないね……!」
鉄球が放たれた。
それを手で弾こうとする───が、しかし、まだ安定して引き出せる3パーセントの出力ではまだ足りない。触れた箇所が抉られた。
それだけの威力だというのに、ふざけたことに茶味はそれを平然と連発する。
二射目が放たれた。茶味の腕はたしかなようで、確実に殺すために顔面へと向けて放たれる。
───回避できない。
そう判断し、……そして、緑谷は早速切り札の一つを切った。
即ち───指での、
放たれたそのデコピンは、鉄球を飲み込み、それをこの世から消し去りながら、風圧で茶味を吹き飛ばした。
「───ぅ、ぐっ……!」
「……は……ははは、はははは。何だよそれ。なんだその威力……クソいてぇ……」
指の一本を引き換えに放った一撃は、どうやら茶味に通用したらしい。
───いける。
耐久力が高くないことがはっきりした。勝てる。ふと、そう思った。だからこそ、指の痛みなんか気にしていられない。
自損してもいい。いくら砕けても、勝つ必要があるのだから。
「お前らに……死染さんは渡さない……!」
「吠えたな
拳を握れ。足を進めろ。戦え。
だれかを守るために、お前はヒーローを志したのだから。
姫プレイ
演技の中に許嫁という設定を搭載するあたりデレが見える
USJ編、別視点の話も書くので次回は視点が変わると思います。
(原作キャラが派手にダメージ負ったり原作より酷い目にあったりする予定ではあります)
ちなみにな話
茶味君は血が他より薄いのですが、だからといって半分は母親の血ということもあり物になにかを蓄えることだけが個性の本質とは限りません。
追記
描写の矛盾に投稿直後気づいたので修正かけました