狐ちゃん奮闘記   作:moti-

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第24話

 世界を満たす純白が、空を塗りつぶした。世界すらも呑み込み、世界を新しい姿へと変質させる。

 

 そこに死染妖狐は弾かれたらしい。つまり、これは完全に一対一の勝負。

 

 どういう事情かはわからないが、緑谷出久はその超常現象を観測していた。なにが起きているのかはわからない。だが、一つだけわかることもある。

 

 ───相手にも、譲れない何かがあるということ。

 

 相手からすれば、死染妖狐はそれだけ大切な存在であり、そして先程の母親と呼ばれる存在曰く───彼女は、(ヴィラン)の中ではそれほど酷い扱いを受けていたわけではないらしい。

 

 実際、彼はどれほどボロボロになっても立ち上がろうとしていた。それだけ譲れないなにかがあるのだと、その姿が教えてきた。

 

 なるほど、認めよう。(ヴィラン)ながら天晴(あっぱれ)だ。だからといって、彼らを許すわけにはいけない。

 

 彼らは罪を犯しすぎた。だからこそ、緑谷出久は───理解をしつつ、相手の前に立ち塞がる。

 

 世界とは残酷にできている。どれだけ頑張ってもそれが報われるという保障はない。こうして戦うことになる以上、どちらかが負け、どちらかが勝つ。

 

 仕方のないことだ。

 

 だけれど、一つ思う───誰もを救えるヒーローは、その重圧に向かうとき、恐れを吹き飛ばすためにこうするのだ。

 

 緑谷は笑った。拳を構え、笑う。守るべき対象を背中に、負けるわけにはいかないから。

 

 恐ろしい───敵は強大だ。形振り構わず、命すら賭してまでこちらに全力でぶつかってくる。だけれど、負けるわけには───負けてやるわけにはいけない。

 

 ヒーローとはそういうものだ。

 

「───ありがとう。最後まで、守らせてごめん」

 

 蒼から変化した純白の髪を揺らす茶味が、俯いたままいう。

 

 顔を上げたとき、そこには決意の瞳があった。

 

「───だから、せめて───お前は俺に倒されろ」

 

「……できない」

 

「だろうな。もうわかった。お前は強情だ。譲るようなやつじゃない。それが敵連合(俺たち)にとって、なによりも脅威だから……だからお前はここで断つ」

 

 茶味は言う。

 

「たとえ命を燃やし尽くしても」

 

 受けて、緑谷は言った。

 

「最高のヒーローってのはさ……(ヴィラン)をやっつけるだけじゃないんだと思う」

 

 笑みは保って。一粒汗がこぼれ落ちた。当たり前だ、先程とは違う緊迫感。相手も本気だ。戦えば、やられるかもしれない。

 

 だけど。

 

「相手の信念に対して正面からぶつかれる人じゃないといけないと思う」

 

 だから。

 

「だから───僕が勝つ!」

 

「……………………」

 

 茶味は、鉄球をばら撒いた。触れた地面が光り輝く。鉄球は動き、文字を形作った。

 

「言葉の力は軽んずるものじゃあない」

 

 ───刻まれる。世界に干渉する言葉が。

 

「自分の言葉で潰されないように精々気をつけろ」

 

 ()()()()()()()

 

「───!?」

 

 足で耐えきれなくなり、一瞬膝をついた。ワン・フォー・オール───駄目だ。足と腕では間に合わない。どうするべきか。

 

 判断しかねているわずかな間に、白は胎動する。地面から伸びてくる光の奔流に対応するために、拳を放ち、

 

 それが腕をすり抜ける。

 

 体を肩を刺した。こちらの攻撃を回避し、相手側からの攻撃は刺さる。卑怯だ、と思う間もなく、光は脈動しこちらへと向かってくる。

 

(どうすればいい)

 

 考える。どうするべきか。いや、殆ど体が勝手に動いていた。考えるまでもなかった。

 

(───全身へ)

 

 全身へとワン・フォー・オールを発動する。体をまんべんなく強化し、バランスの悪い状態を脱却する。

 

 重力の増した空間でも、それにより立ち上がることができる。

 

 襲いかかってくる光の槍を、間一髪回避しつつも、一先ず距離を詰めなければ始まらない───走って、距離を縮めようとする。

 

「甘いぞ」

 

 と、茶味の声。どこからくる───全方位を警戒する。しかし攻撃が来たのはその何処でもなかった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()血を溢す。同時に血を吐きながら、全身に張り巡らせたワン・フォー・オールも途絶え───地面へと縫い留められる。

 

「や……ば……っ」

 

 と、焦燥する間は一瞬。

 

 腹の下から生えてきた光の大槍は、緑谷出久を貫き遥か天高くへと聳え立った。

 

 

 

 

「悪く思うなよ」

 

 茶味は手を翳したままの体勢でそう言った。視線は未だ、緑谷出久に向けたまま。それは彼を明確に脅威だと認めているからであり───そして、だからこそ、万に一つも緑谷の勝ちはありえない状況だった。

 

 体の中で母親の残響を感じる。母親は自分の命をすべて個性に融かし、茶味へと与えた。茶足の個性はエネルギーを溜め込むことが主になっているが、実際はそうではない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()。それが一家が代々繋いできた個性だった。だからこそ、血に親和性のある母親の力は茶味に取ってなによりも受け入れやすいもの。

 

 母の個性は先述した通り、なにかわけのわからないものになる個性。だからこそ、一家は代々怪物扱いをされる。自らも通った道だ。母も同じであると聞いたし、娘もそうだった。

 

 一家の宿命とも言えるものか。

 

 正常な人間の誰からも嫌悪される怪物になる。そんな宿命。

 

 だから個性の能力もグロテスクに出来上がっている。自己再生能力が高く、脳みそだけになっても生き返ることができる。名状しがたい異形へと変化することもできる。見たものの正気が喪われるような、悍ましい姿。それが一家代々の本性だ。

 

 液体状の、名状しがたい怪物。そんなもの、だれにも受け入れられるわけがない。そんなの当たり前だ。自分だって敬遠するだろう。だって、化け物じゃないか。

 

 だから自分は力のすべてを封印した。

 

 そんな一家に生まれ、母親は早くに気を病んだ。狂っていないと世の中は生きづらいから。だから人になることを学んだ。

 

 父親が異端排斥の結果死んだと、伝聞で聞いていたから。

 

 人にならないと、人に殺される。だから人になることを強いられていた。母親の母親───即ち祖母に当たる人物は、母親を育てている最中にどこかへ消えた。

 

 帰ってきたのは頭だけ。頭をもぎ取られ、送られてきた。だから母親は一人で暮らすしかなかった。

 

 ヒーローは、いなかった。

 

 だから、母親は自分を守るために、普通の人のように生きて───結果、茶味という男が生まれた。

 

 優しい人だった。口ではクソババアだのと言いながら、なによりも尊敬していた。

 

 そもそも母親は見た目は全く変わらない。だからババアと呼ぶには厳しいものがある。液体の要素を濃く含んでいる家族は、成長のある一定段階になると成長が停止するのだ。

 

 だからこそ、母親も娘もどちらもある一定で成長が止まるのだろう。自分は違う。ただ、少しだけ異端の成分が混じっている。

 

 母親からすればこんな息子はまったく別人の子供のようだっただろうに、よく育ててくれたと感謝さえしている。そんなことを思っているから、どうしても謎なのだ。

 

 ───なぜ自分のために、命を捨てたのか。

 

 視線の先で緑谷出久が蠢いた。なんだ、と視線を向けると、緑谷は光に()()

 

「───そんなの、愛しているからだろう……!?」

 

 ───()()()()()

 

 

 

 

 光を通じ、相手の思考や感情が流れ込んでくる。だからこそ緑谷出久は立ち上がった。

 

 そうせずにはいられなかった。相手のどうしようもない勘違いも、怨嗟も、全てを受け止めて、正面から打ち破ると宣言した以上───緑谷出久には、立ち止まっていられない。

 

「ぉぉぉぉおおおおおおおおおお───!」

 

「光、なのに……! なぜ砕ける!」

 

「ほんとに光なら触れるか! はっきりわかった、その個性! ───いろんなエネルギーを操作して器用にあれこれ作ってしまうんだ! だから、イメージが強固になる瞬間でなければなににも触れれない……!」

 

 光の槍が襲いかかってくる。問題ない。発生からまだ数秒だ。イメージ力を源泉としている以上、これは自分に刺さらない。

 

 一度刺さった場所から体内に()()するが───だからといえ、体の中にあるぶんの力を使い切れば、再びその中に補充するまではダメージが通らない。

 

 イメージを固め、こちらに襲いかかってきた光の槍は───そのまま砕ける。蹴って破壊した。足を止めるな。まだ走れる。

 

「……なんでだ……!?」

 

「強固になれば───こっちも触れる」

 

「……ちぃ……! 能力の把握間違いか……!」

 

 光の壁を作り上げる。だが遅い。イメージが完成し、壁の中に閉じ込められることを恐れずに緑谷はそこを突っ切った。そして、そこには茶味と彼を阻むものはなにもない。

 

「───5パーセントデトロイト───」

 

 光の壁の建設は間に合わない。これはそのまま受けるしかない。だがこの拳に危険性は感じられない。ならば耐えられる。

 

 そう、茶味は判断した。

 

「───スマッシュ!」

 

 ───だが、痛む。

 

 殴られた頬がひどく痛む。先程より威力は弱いはずだ。何故ここまで痛むのか───そう考え、今の動きが振り下ろしの物であることに気づく。

 

 強くなった重力のぶんの力さえ利用した───と、いうことか。

 

 自分で作り上げたフィールドの特殊効果が自分に牙を剥く。なるほど、自分に相応しい間抜けな敗因だ。だがしかし、それにしても先程よりは弱い。

 

「───負けねぇ……!」

 

 今の衝撃を跳ね返す。着地した姿に、拳を振り上げる。だがその姿がかき消え、躊躇した。

 

「───スマッシュ!」

 

 今度は、後頭部。

 

 衝撃が走り、そのまま足が地面から離れてよろける。だからといって、倒れられない。何とか耐え、再び視界から消えた姿を探す。

 

「どこだ……! どこにいる……!」

 

「ここだよ」

 

 背後───いや、上か。

 

 下から殴り上げられた。その隙に再び姿を消す。

 

 全く見つけられない───どういうことだ、と考える。先程までは、こういうことはなかった。どうしてここまで翻弄されている?

 

 ───速くなっている。

 

 相手の動きが、速くなっている。どんどんと速くなっている。目で追えない速さになってきている。さらに、相手の死角へと入り込む動きで行動を完璧に隠蔽していた。

 

「……成長……か……!?」

 

 光の壁を建設する。攻撃を躱すためだ。しかし、完成した瞬間に蹴り壊された。かなりの強度で作ったはずだ。何故このようなことになった。

 

「───1()5()()()()()()

 

 聞こえた言葉は、明らかに出力を増した数値。

 

「───この───反則野郎がぁ───!」

 

「デトロイト───スマッシュ!」

 

 明らかに、威力の増した威力が突き刺さる。100パーセントよりはマシだ。だが、それも何度も受けているとダメージは蓄積する。

 

 いや、むしろ大きく反撃が狙えるぶん、100パーセント一発のほうがまだ受けられる。だからこそ、こうしてそこそこの威力を連発されると───体が耐えきれなくなる限界が近いだろう。

 

 光を大きく振り回し、全方位を300キロの光の刃で薙ぎ払う。それも、空中に出ることで回避され、そして顔面を打たれる。

 

 血を吐き捨てた。

 

「戦闘の中で成長する……! いいよなぁ! 才能のあるやつってのは! 俺たちは成長できずに燻ってんのに! いいなぁ! ずるいなぁ!!」

 

「───僕だって」

 

 ワン・フォー・オールの出力はますます増していく。体が耐えきれる限界? そんなのもうとっくに超えている。筋繊維が千切れる音が聞こえている。100パーセントのように一気に壊れていないというだけで、全身の出力が増していくことに体は悲鳴を上げている。

 

 ───35パーセント。

 

 崩壊は加速する。だがそれで動く。まだ動ける。四肢は爆裂していないからだ。制御を失敗すると体が弾ける? そんなの考えている暇はない。

 

「───才能はなかったよ!!」

 

 ───腕の出力、50パーセント。

 

「───デトロイト───スマッシュ!」

 

 緑谷は放つ。充分緑谷の限界を通り越した一撃を。度重なるダメージの蓄積で満身創痍な茶味の体は、その拳が嫌に芯に響いていた。

 

「───それは悪かったな!」

 

 反撃の拳が振られる。空気を破壊する恐ろしい一撃だ。しかしそれも怖くはない。耳元を掠めていった。鼓膜が破れる音がする。

 

「───50パーセントぉぉぉぉぉ───」

 

「させるかよ」

 

 腹の下から、光の槍が放たれた。それは大きく緑谷の体を後ろに弾き飛ばす。距離を取られた。

 

「───デトロイト・スマッシュ!」

 

 だが関係ない。そのまま放った。風圧が体の形に。茶味の頬を打ち付ける。

 

 拳が痛む。限界を超えすぎた。50パーセントを解除する。腕はもう、痛覚の塊のようになっている。痛みはまだ超えていない。

 

 ならばよし。光の槍を腹から引き抜く。どろりと血が溢れた。もう何度血を流したかわからない。

 

 狐の治癒が血の量まで再生していなければ、間違いなく死んでいる。

 

「負けねぇ……! 負けられない……! 俺の思いだけじゃねぇんだぞ!? 立ち上がれ……茶味! お前の足は何の為にある!?」

 

 風圧で殴打された腹部を押さえながら、傷ついた体に鞭打って茶味が立ち上がった。

 

「───光」

 

 その言葉をきっかけに、全身を光が満たしていく。茶味という主のために集まっていく。

 

 ほとんど動かない体を、能力を利用して無理やりに動かそうとしているのだろう。まるで、自らを操り人形にするかのごとき行為。

 

 緑谷の体にある光が炸裂した。ついに体の中から痛覚が消えた。だけれど、かわりにこの体を突き動かすものがある。

 

 ───光を通して伝わってくるのは、茶味の感情と、決意。

 

 封じ込めた在りし日の過去。

 

 救いを求めるように鮮烈に流れてくるそれに、緑谷はもはやまともに動かせない体を操って迎え撃つ。

 

 相手のわだかまりを打ち砕くために。

 

 ───ワン・フォー・オールが、わずかにその輝きを増した。




 昨日は体調不良で更新できませんでした。申し訳ございません。

 50パーセントはやりすぎじゃね? 魔改造じゃんとか思われた方はほんとに申し訳ございません……デクくんをぼくが神格化しすぎてるのだと思います。
 あとまさか一話まるまる茶味に使うことになるとは……想定より長いんですけど……。
 ともあれ次回、おそらく茶味戦終了です。
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