狐ちゃん奮闘記   作:moti-

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第28話

 オールマイトはすでに限界だ。足を動かすことすら叶わないだろう。そんな状態にも関わらず、オールマイトはぼくのほうへと向かってくる。気合で限界を超えるタイプは怖い。緑谷くんを幻視する。

 

 いや、緑谷くんがオールマイトに似ているのか……だが相手はすでに疲弊している。そして弱体化も著しい。伸びしろのある彼と比べ、オールマイトはまだ()()()()()()

 

 ……そんなにやる必要はないと思うが、一応能力を引き上げた。本気を出して、確実に殺すことにする。

 

 腹へと放たれる拳を手で跳ね除け、逆にカウンターを図る。しかしオールマイトの巨体は重く、速く、ぼくの体は吹き飛ばされてしまった。

 

 足を地面に突き立て勢いを殺し、そして突進してくるオールマイトに対応するために跳躍する。

 

 足を掴まれ、地面に叩きつけられた。腕を蹴ることで手を離させ、そしてようやく体勢を立て直す。握られていた足が痛い。だがそれも一瞬のことだ。すぐに治る。

 

「───おいおいオールマイト。助けを求める生徒を見捨てていいのか?」

 

「───!」

 

 黒霧のワープに絡め取られ、弔が触れる直前になっている梅雨ちゃんの姿がそこにはあった。オールマイトが気付き、即座に反応する。

 

 だが遅い。弔は指を動かすだけだ。必ず遅れる。弔が指を触れた。個性が発動───

 

 しない。

 

「……チッ、イレイザーヘッドか……」

 

 見れば、いつの間にか相澤先生が目を覚ましている。発動系の個性を阻害できる個性……やっぱり早く殺しておいたほうがよかったな、と思う。

 

 脳無が一番相性がよかったのだが……ぼくでは相性が悪い。個性を阻害されるとなにもできないのだ。

 

 しかし見ることが条件の個性だ。ならばやりようはある。

 

 視界に入らなければいいだけだ。

 

「───っ、いかん相澤くん!」

 

「…………っ」

 

 オールマイトの呼びかけも虚しいものだ。しかし隙を与えた相手が悪い。

 

 そもそもオールマイトの体格のせいで、視界を遮っていたのだ。その状況で、目に見えない速度で視界から逃れ、そして背後に回り込む。

 

 そのまま上に伸し掛かった。

 

 跨がるようにして、相澤先生に伸し掛かった。その胸に指を食い込ませながら。

 

「今なら遺言を聞いてあげよう。期間限定サービスだよ? えへへ、ぼくはとっても優しいのです」

 

 えっへん、と言いつつ、言葉を少し待つ。オールマイトが考えなしに向かってくるようならば殺せる。人の肉など、指で貫けるものでしかない。

 

 オールマイトが動いた瞬間、ぼくは相澤先生を殺す。そのつもりだ。

 

「…………殺せ」

 

「ん、そーする」

 

 お望み通りに、心臓を貫いた。そういえば、先程殺した轟くんと相澤先生、脳無の材料に使えばいいものができそうだ。

 

 うん、素体にしよう。これには弔も賛成だと思う。あ、先生欲しがるかも。先生は死んでからじゃ個性を盗めなかったはずだ、と遅れて気づき、こっそりと心臓を再生した。

 

 意識こそないが生きてはいる。下手に動かれても困るので、爆豪くんのときのように四肢を切り落とした。少しだけ治癒することで出血を止めた。

 

「黒霧ー。これ、持って帰ってー。あと轟くんの死体も」

 

「わかりました。……先生に渡せばいいのですよね?」

 

「よくわかってるじゃん。えらいえらい」

 

 黒霧が、相澤先生を転送する。そして次に轟くんの死体を回収した。

 

 オールマイトのアクションがない。どうしたのだろうか、と考えていると、ついに動きがなくなっていた。

 

 活動限界……だろう。一歩も動けないほど消耗しているのだと思う。こちらを睨みつけているので、その姿に笑顔で返す。

 

 すぐそばで転がっている爆豪くんを見つけた。ああ、腕もないから起き上がることしかできないのか。

 

 その頭を撫でる。

 

 すべては君のせいだ、だなんて思いながら。

 

「オールマイト、オールマイト。同僚が死んだんですよ? 少しはなにかしたらどうですか? それとも動けないの?」

 

「……………………」

 

「動けないんだね。動くことすらできないなんてかわいそう! なにそれ! 平和の象徴ってその程度なの?」

 

「……………………」

 

「なにかしゃべらないの? それともしゃべれないの?」

 

「……………………」

 

「生徒を殺せばしゃべるかな? 爆豪くんはおいといてー……そこで寝てる、緑谷くんとか!」

 

「……………………!」

 

 少し反応があった。ぼくは笑う。それでは緑谷くんになにかがあると告げているのと同じではないか。

 

 ───謎に満ちた増強系。バスの中で梅雨ちゃんがいっていたように、オールマイトに似た個性。そして今のこの反応を見るに、間違いない。

 

 緑谷くんはオールマイトの子供である。

 

 うん、間違いない。だったらその精神性が似通っていることも理解できるし、個性の共通点もわかる。一つわからないことといえば、見た目がまったく違うことなのだけど……ほとんど母親からの遺伝だったと考えれば辻褄も合うだろう。

 

 完璧な推理だ。しかし……そうだとすれば、今のうちに殺しておかないといけないだろう。

 

 茶味との約束があるしなぁ、なんて思いつつ、少し迷う。殺すべきか、殺さざるべきか。なんて思っていると、悲鳴が聞こえてきた。

 

 何事か、と目を向けると、梅雨ちゃんが弔に捕まっている。その体が崩壊していき、ものの数秒で塵になって消え去った。

 

「……オールマイト、どうした。止めないのか? ほら、生徒が死んだぞ。これで二人目だ。どうしてそこで突っ立っていられる? 平和の象徴、今ここで若い芽が摘み取られたぞ。卵を潰されたぞ。戦わないのか?」

 

「ところが残念とむらくん! オールマイトは体力切れでもう動くことすらできないのです!」

 

 弔の言葉に、ぼくが便乗した。一瞬なんだコイツ的な視線を向けられたが、しかしそれでも弔はそれを聞いて言葉を続ける。

 

「……そうか。動けないのか。残念だな、それはそれは残念だなぁ! ならそこで突っ立って生徒が殺されるのを黙ってみてろ」

 

「───せ」

 

「あ? なんだって? 聞こえねぇな」

 

「───殺すなら……私を殺せ……」

 

「ははははははは! なんだって!? 全然聞こえねぇ!」

 

 黒霧のワープゲートが展開された。そこから峰田くんが顔を出す。

 

「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!? た、助け───」

 

 弔の指が触れた。顔が解け塵になり、頭を失った人の体がワープゲートから吐き出される。残った体もゆっくりと塵になっていき、梅雨ちゃん同様に峰田くんも息絶えた。

 

「……これで生徒は三人目……実際の被害はもっと多いかもなぁ……? どうだ、お前はなにも守れない。聞いたか? 今のガキ。『助けて』だってよ。なぁ! 助けを求められたぞ! ヒーロー! お前はなぜ動かない? はははははははははは……No.1ヒーロー、どうしてこんなことになった?」

 

「……………………」

 

「決まってるよなぁ。お前のせいだ! お前が雄英に来なければ生徒が戦いに巻き込まれることはなかったし! お前が戦えれれば生徒は救えたはずなのに!」

 

「……………………」

 

「……飽きたな。何も喋りやしねぇ。殺す価値があるのかすら疑わしいぜ」

 

 そういって、弔はオールマイトに近づく。確実に殺そうというのだろう。オールマイトは動かない。ただ、やってくる死の運命を無言で受け入れている。

 

「ただまぁ、できるだけ不安要素は摘んでおくべきだよな」

 

 弔が、その指で触れようとし───

 

 その手を撃ち抜かれた。

 

 銃弾に撃たれた。飛んできた方向を見る。そこには、プロヒーローの姿がある。

 

「…………あはは」

 

 ぼくは笑う。そして呟いた。

 

「相澤先生がいないんじゃ、君らに勝ち目はないよね」

 

 

 

 

 状況を離れて眺めていた生徒もたくさんいる。プロヒーローがきた現状───彼ら彼女らは自分たちが助かる可能性について希望を持ったことだろう。

 

 オールマイトから手を離し、ぼくのほうへと向かってきた弔がぼくの頭を撫でた。

 

「プロの大群のおでましだ……どうだ? いけるか?」

 

「ん、余裕。余裕すぎて涙が出るくらいなんだよ」

 

「そうか……じゃ、ちょっとだけヒーローの芽を摘んで帰ろう」

 

 弔の言葉に頷いた。個性を発動する。まず一番厄介なのは、的確に射撃をしてくるスナイプだ。だが照準が上手い───ただそれだけだし、銃遣い。火力はないのだ。だからこそ、かんたんに近づけるし、かんたんに殺せる。

 

 近付いて、手刀で首を打った。少しだけ変身を使って刃のような形状にしている。だから、手は首に食い込み、

 

 そのまま首を切り飛ばした。

 

「───!?」

 

「遅いほうが悪いんだもんねっ、悪く思わないでねっ?」

 

 そして、次に狙うのはセメントスだ。めんどくささでは一位に近い。だからそれを殺して───と、思い飛んだとき、

 

 後ろから引っ張られた。

 

「んにゃっ!?」

 

「───!」

 

「やー、もー! お腹べとべとするぅ……」

 

 瀬呂くんが、その個性でぼくを絡め取った。お腹をぐるぐる巻きに拘束されている。粘着が気持ち悪くて、思わず声をあげてしまった。

 

 しかしそれ、デメリットのほうが大きい気がする。そう思って引っ張ると、テープが切り離された。

 

 つまり、今完全にぼくは空中に囚われているわけだ。どうしようか。下を見れば、プロヒーローが各々構えている。これからぼくは一斉攻撃を食らうのか、しかし攻撃に向いた個性持ちはいなかったはずだ。

 

 と、思っていると()に殴られる。

 

 そのまま吹きとばされた───痛い。そういえば忘れていた。プレゼント・マイクは音で戦うのだったか。

 

 その直撃を貰って、少しだけ体の中身が()()()()。すぐに治癒で治すが、選択を間違えたかもしれない。高火力の敵を先に倒すべきだった。

 

 地面に落ちると、セメントスが体を拘束する。体が飲み込まれ、顔と肩だけが出た状態になる。

 

 なるほど、これは強敵だ。弱っているオールマイトとくらいしかロクに戦っていなかったから、少し舐めすぎていたかもしれない。

 

 ───襲ってくるハウンドドッグが、ぼくにその口の拘束を解きぼくに噛み付いた。筋肉がそれで絶たれた。普通の人ならどうしようもないかもしれないが、ぼくにはそれも治癒で治せる。

 

「へぇー……」

 

 笑う。

 

 野生の動物ではよくある、こういう殺し合い。昔クマを殺したときに、互いの肉を喰らいあって勝利したのだけれど……そのときを思い出す。

 

 だから肩を噛んで、相手の牙が抜けない間に、

 

 ───ぼくは彼の首に噛み付いた。

 

 首を噛みちぎり、口の中に血と肉が流れ込む。そして、そのまま怯まず噛みつきを強くする相手に対応するために、余った腕を拘束から解き放ち、ハウンドドッグの肩を掴んだ。

 

 首へと噛みつき、そのまま首を引き抜く。

 

 自分の肩に人の首がくっついているという、愉快な状況になっている。それに対して、セメントスは拘束の量を増やした。通常なら圧殺されるほどまでその拘束が増やされる。

 

 生き埋めになった───しかし、それでも抜け出せる。体の強化倍率を引き上げ、体を無理やり動かす。

 

 内側から拘束を破壊した。

 

「んな───」

 

 肩にくっついたその頭を持って、そのまま投げた。驚愕しているセメントスの前に立つブラドキングが、それを弾く。

 

 だが遅い。わずかな隙に自分の体を差し込んだ。そして、拳を握り込んで、セメントスの腹を叩き割る。

 

 次の獲物。プレゼント・マイク。彼は適当に口につけたスピーカーを破壊し、四肢を切断する。おそらくスピーカーがないと味方を巻き込んでしまうのだろう。

 

 だるまにしてしまえば、殺すまでもない。そのままお荷物だ。

 

「……なーんか、プロヒーロー飽きちゃった」

 

 相手がやるのは相手の得意を押し付けてくることだ。だから、連携はうまい。確実に並の(ヴィラン)なら拘束されてしまっているだろう。

 

 だが今のぼくは絶好調だ。負ける気はしない。だから、今の程度の連携を食らったとしても正面からすべて叩き伏せることができる。

 

 そして今のプロは、個性の扱いが上手いからこそこのように強力なのだ。個性自体は強すぎるということはない。強いていうなら校長とブラドキングが強いのだが……しかし彼はスイコちゃんの担任だ。

 

 だから殺さない。スイコちゃんはぼくと違い演技が下手だ。きっと担任が変わっても前担任の心配のそぶりも見せないだろう。

 

 だから殺さない。

 

 ───ただ、その場合飽きがくる。

 

 だから、ぼくは生徒に目を付けた。

 

 ───狙うのは、いかにも優秀そうな飯田くん。黒霧の壁を乗り越え、救援を呼びに行った生徒だ。

 

 クラスの中でも、上位に食い込んでくるほどの才覚を見せている。だからこそ───餌には、もってこいだ。

 

 だからこそ、ぼくは飯田くんへと向かって走り出し、

 

 顔面を殴り飛ばされた。

 

「───あれ?」

 

 誰だろう。頬を撫でて、ぼくは周囲を見回す。

 

 そして、見つけた。

 

 飯田くんを守るように立つ、緑谷くんのその姿を。




 書き上がったのがギリッギリで後半駆け足気味になってるかもです。すみません……。
 作者的に先生方の個性について劇中の活躍例がほしいですね。かなり先生の個性について迷いましたし……。

 ともあれUSJ完結まであとすこし

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