狐ちゃん奮闘記   作:moti-

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三章
第30話


 街は完全に葬式ムード、といってもいいほどブルーな状況である。だれも活気がない。それも仕方ない、平和の象徴が崩されたのだから。だれも喜べるような精神状態でない。

 

 しかし、逆にパレードかというほど盛り上がる集団もある。

 

 平和の象徴がいなくなったムードで(ヴィラン)の活性化は進む。彼らが別になにかを成したわけでもなく、そもそもオールマイトにでくわす(ヴィラン)が少ないのにも関わらず、彼らは調子に乗って暴れだしていた。

 

 その喧騒を、ぼくは見ていた。

 

 さすがに姿は変えている。実行犯としての姿、死染妖狐としての姿どちらも使うことはできないので、適当にゲームの───今回はモブキャラである女の子の姿になった。普段より身長は下がっている。マイナーなゲームだからわかる人は少ないだろう。しかもモブキャラだ。バレない。

 

 人ごみに溶け込みながら、ぼくは周囲の状況を探っていた。

 

 まず、オールマイトの殉職によりエンデヴァーがNo.1ヒーローになった。愛想の悪さが目立つヒーローだし、オールマイトのような絶対的な実力もない。

 

 だからこそ、エンデヴァーに疑問を寄せる声も多い。

 

 次に雄英についてなのだが───こちらはあまりお咎めなしだ。世論では不信を寄せられているが、だからといって根津校長の天才的な頭脳がなければ運営すら厳しい高校。

 

 謝罪と様々な穴を埋める、ということで落ち着いた。

 

 これはまぁ、仕方ないのだろう。オールマイトが勝てなかったような敵であったことはだれしもわかっている。だからこそ、そのことについてだれも糾弾することはできない。

 

 良くも悪くも、オールマイトはそれほどの希望だったのだ。

 

 ぼくは服の中から飴を取り出した。包み紙を解き、口の中に放り込む。

 

「ラブラバはさ、今の現状をどう思う?」

 

「……寝耳に水だったのでしょうね。オールマイトが負けるなんてこと、だれも考えていなかったのでしょ」

 

「そうだよねー。ふつうはそんなこと考えるわけもないか」

 

 現在、顔が割れていない連合メンバーは事件の後に参加したラブラバくらいだ。ジェントルはもともと動画投稿者として活動していたので除外。

 

 その動画に出ていなかったラブラバは今こうしてぼくと一緒に活動している。

 

「……ねぇ、これはどこに向かっているの?」

 

「もーすぐつくよー」

 

 少し歩いて、そして到着。

 

 路地裏である。

 

 その中に少し入れば、すぐさま(ヴィラン)の巣窟だ。奥から湧き出る(ヴィラン)の群れに、ぼくは一つため息を吐いた。

 

「……ねぇ、なんでここに用があるの?」

 

「いや、オールマイトを倒した(ヴィラン)連合を倒して箔付けしようっていう輩があんまりにも多くてさ。ただ弔たちは警戒が多くてまともに外も出歩けない状況だし……。黒霧だって室内に向かって転移しないとバレてしまうかもなんだからさ」

 

「ああ……それで顔の割れてない二人で攻略を……。でも私を連れてくる必要はあったのかしら?」

 

「んー……経験を積ませるみたいな思惑があるんじゃないかな。ラブラバってジェントルと一緒に行動するし、場慣れしておくべきだと思ったとか?」

 

「これでもかなりの修羅場を踏み越えてきたと自負しているのだけど……」

 

「殺し合いに関しては慣れてないと思うからねー。……っと、終わり」

 

 わずかな会話の間に、出てきたぶんはすべて殺し終える。あまりに弱すぎる。やる気があるのか、などと思ったが、あんまり強い個性を持っていれば普通はヒーローになる社会なのだ。仕方ないのだろう。

 

 手を振り、血を払いながら死体を踏み越え奥へと向かう。

 

 

 

 

「ただいまぁ」

 

「おう……なんだ。どんだけ振り回したんだ?」

 

「そんなに振り回してないよ?」

 

「ちょっとはやったのか」

 

「……まぁ、ちょっと……ね?」

 

「ジェントルぅぅぅぅぅぅ……怖かったわぁぁぁぁ……」

 

 あんまり耐性がなかったらしい。主犯だろう二人くらいを治癒を利用しつつ死なない程度にいじめたのだが、それを見てラブラバが怖がってしまった。

 

 まず一人を動けないようにし、もうひとりを治癒を使いつつちょっとずつ削っていく。治癒を使って死ぬことのできない肉塊を作り上げた。

 

 そのあともう片方を少しだけ手を抜いていじめていたのだが……まぁ、なんというか。あんまり心は強くない相手だった。すぐに音を上げたので、それで切り上げて帰ってきたのだ。

 

 もっと心の強い相手なら楽しかったのだろう。今度は人と人同士をくっつけて見ようかな、なんて思っていると、弔にデコピンされた。

 

「……せっかくの新メンバーを怖がらせるな。お前、雄英に入ってから考えが過激だぞ」

 

「むぅ……だめ、かな?」

 

「駄目だ。自重しろ」

 

「はーい」

 

 あんまり自覚はなかったが……というか、ぼくって昔からこうじゃなかったか? なんて思いつつ、とりあえず謝る。殺すことばかり考えていたからだろうか? わからないけれど、とりあえず肉を口に含んだ。

 

 なんだかんだ久しぶりに食べる気がする。

 

「……それが人肉でなければ、まだ愛らしい一幕で済むのだが……」

 

「慣れてくれ」

 

「ああ、わかっている。しかし……なんというか……こう、わかっていてもぞわっとするというか……」

 

「慣れる。小学生だって適応してたからな」

 

「それはその子の肝が太すぎるだけじゃないのか……?」

 

 血が滴って指を伝う。それを舐めとり、生命力の調子を確かめる───まだまだ全然のこっている。というかこれに関しては緑谷くんが異常である。いまだに空になる様子を見せない。なにもしなければ、一年くらいは普通に過ごせそうな感じである。

 

 あんまり好きではないが、あれほどなら内臓も食べれそうだ。とりあえず補給したぶんを使って、変身する。死染妖狐の姿に戻った。

 

 と、緑谷くんで思い出したが。

 

「チャージは?」

 

「仲間集めに県外出張中。今は四国のほうにいるはずだ」

 

「……それはまた……遠いね……」

 

「あんまりヒーローもいないからな。(ヴィラン)も少なそうだが、使えるやつがいるかもしれない」

 

 可能性こそ低いが、と付け加え、カウンターに座っている弔はぼくに手招きする。近寄っていくと、膝に乗せられた。

 

「なぁに?」

 

「なんでもない」

 

「ふへー……」

 

「なんだよ」

 

「なんでもなーい」

 

「……………………」

 

 少し無言が続き、

 

「……次はなんのアクションを起こそうか」

 

 と、弔が言った。少しばかり真剣な話だ。ジェントルたちも近づいてくる。黒霧の前あたりに二人は座り、話すには充分な距離を確保した。

 

「まず、(ヴィラン)連合の目的を公開するべきじゃないかしら」

 

「動機も公表するべきだろう。目的と理由のない悪には人はついてこない。だが……明確なものがあればそれに感化される人も出てくるはずだ」

 

「たしかに……ありかもしれませんね」

 

「問題はなにで公開するか、だ。お前達の使っている動画投稿サイトに投げ込むのもいいかもしれないが……悪質なデマで流される可能性もあるだろ」

 

 弔の言葉に、全員が黙り込んだ。なるほど、ネットだとそういうこともあるのか。知らなかった。

 

 弔の体にもたれかかりながら、ぼくは考える。あんまりいい案は降りてこない。ここらへん、みんなに任せることにしよう。

 

「……私のほうで宣伝すればいけるか? 悪名だけは高いだろう」

 

「でもジェントル、初動が早いと癒着を疑われるわ! それだと目的と離れた方向に行っちゃうかもしれない」

 

「……私のような者でさえ参加している、というアピールができる。やっていることが小さいなどとよく酷評されるし、連合の規模を知らしめるには丁度いいと思うが……」

 

「……いや、それは駄目だ。お前達が動きづらくなる。……なるべく隠せるものは隠すべきだろう。不意打ちも見込めるしな」

 

 ……こういう作戦会議、基本的にぼくが省かれるのは悲しいなぁ、と思う。なんでだろう。一応ぼく、雄英に入学できる程度には頭いいはずなんだけど。

 

 やはり飽きるのが原因か。

 

 でも興味ないことには集中できないのだ。

 

 仕方ない。

 

「……適当に、どこかの掲示板に投げ込むか? あいつらの情報拡散能力だけは信用できる」

 

「……私は異論ない。それで良いだろう」

 

「ならば動きは早いほうがいい。……どうします? もう撮りますか?」

 

「ああ。……なぁ、こういうのってどうするべきなんだ? 場所を移すべきか?」

 

「……流石にバレるということはないと思うが……事の重要度が違うから、バレる可能性を考慮して移動したほうは良いと思う」

 

「そうか。……黒霧、場所を移すぞ。遠くの適当な山奥でいいだろ。開け」

 

「ええ。……ですが死柄木弔」

 

 と、黒霧は聞く。

 

「まずはジョンさんを起こしては? もうほとんど寝てますよ」

 

 

 

 

 397 名無し

【動画】

 

 398 名無し

 えっなにこれは

 

 399 名無しさん

 ネタだとするなら悪質すぎるんだよなぁ……悔い改めて

 

 400 名無し

 でもあの狐の女の子どう見ても誘拐された子にしか見えねぇ!

 くそっ! かわいいなぁ! くそっ!

 

 401 名無し

 これは……荒れるな(確信)

 じゃけんどんどん拡散しましょうね^〜

 

 402 名無し

 女の子俯いて動かないんだけどこれって眠らされてる?

 

 403 名無し

 そうじゃね? 逃げられないように意識奪ってるとかだと思う

 ただそうする必要があったのかは不明

 狐ちゃんのためだって可能性もあるからなんともいえない

 

 404 名無し

 ヴィランから生まれたヒーロー志望かぁ……しかも個性がめちゃくちゃ強いときた

 ヴィラン側からしても逃したくはないよなぁ

 

405 名無し

 気になる発言あったぞ

 こちら側にいないとこいつは生きていけないとか

 ひょっとしてなんか闇深な感じ?

 

 406 名無し

 絵の撮り方どう見ても慣れてるやつが撮ってるよな

 絶対そっちの方向の協力者いるじゃん

 

 407 名無し

 それ言ったらわりと編集も凝られてるぞ

 映像については慣れてるやつが作ってると思う

 敵連合人材豊富か??

 

 408 名無し

 連合の人材豊富とかどう考えても終わりじゃないですかやだー

 

 409 名無し

 世界を変えないといけないって

 中二かよとか笑いたいけど実際それだけの力があるように見えるのが悪質だなこりゃ

 

 410 名無し

 ワープゲートも手だらけの男もどっちも本物臭い

 つーか内容的にもガチ連合だこれ

 連合じゃなかったらおかしいもん内容的に

 

 411 名無し

 普通に考えちゃ許せないことやってるけど

 これ聞いたらなんか向こうも向こうでどうしようもない事情があるっぽいのがなぁ……

 キーになるのが狐さんなのには間違いなさそう

 

 412 名無し

 なんで掲示板使ったのか謎だが連合間違いなしだよなぁ……

 けど美少女が生きられる世界を作るっていうのは共感した

 狐さんという二次元から出てきたみたいなガチ美少女が死んだら世界の損失だし

 

 

 ───突如、インターネット掲示板に投下された一つの動画。

 

 それは瞬く間に拡散され、オールマイトを殺した連合という存在を世界に知らしめると共に───その理念まで広くに伝えていく。

 

 その動画で語られたのは、なぜ犯行に及んだのかの理由。深くまでは語られなかったが、しかし全てが一人の少女のためであると語った彼らに対して共感を寄せる声は想像以上に多く、

 

 だからこそ───全ては、(ヴィラン)連合の目論見通りに進んでいた。




ちょっと文字数短いです

いろんな世間の反応とか、連合のその後の行動とかです。
なにか理由があって行動したって知ったとき犯人のほうに共感する人って意外と多いと思うんですよね。
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