狐ちゃん奮闘記   作:moti-

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第31話

 弔とのんびりと眠り、目が覚めては街へと出て遊び、少し仕事をしてから帰る───そういう日々を過ごしていた。

 

 雄英体育祭のシーズンは過ぎ去っていた。一年生はA組の不参加により、スイコちゃんが優勝したと聞く。そう、A組は不参加だ───参加せずに、一部のメンバーがその実力を伸ばすためにずっと訓練室にこもっているらしい。

 

 そりゃあそうか。オールマイトを目の前で殺された生徒たちだ。体育祭はヒーローにアピールをするポイントではあるが、そんなことより大切なこと───その能力を伸ばし、戦闘力を上げるということのほうを重視するだろう。

 

 ぼくは思った。

 

 ───何をしているのだろうか。

 

 のんびりしている割合が大きい。というかほとんどのんびりしている。なにをしているのだろう。連合は今が大切な時期だ。活動をしなけらばならない。オールマイトの死亡により活気づく(ヴィラン)たちの中にはそこそこに有能な人たちもいるのだ。

 

 そういうメンバーも仲間にしていかなければならない。

 

「だからとむら、一緒に出かけない?」

 

「それが目的ですかこの狐は」

 

 黒霧が珍しくツッコんだ。言葉も少しばかり荒い。びっくりする。

 

「言われなくても仲間探しはしています。ですから今は無意味に危険を冒してまで外出する必要はない」

 

「……まぁそういうわけだ。俺たちも別に引きこもっているわけじゃない。だから外には出ないぞ。暑いし」

 

「……そんなに働いてたっけ」

 

「ああ」

 

 弔は堂々とそう言った。なにをしていたのか、と思って、聞くことにする。

 

 弔は言った。

 

「まずは世論調査だ。掲示板やSNSを巡回して連合についてをエゴサする。考察スレとかも出てきてるからな。だからそういうところを巡回して、適当に荒らしてる」

 

「遊んでるだけじゃん」

 

「世論調査だ」

 

 どのように取り繕っても結局やってることはインターネットを使ってのんびりと遊んでいるだけだ。しかし弔からすればそっちのほうがいいのだろう。ううむ、とわずかに唸りつつ、自分の意見のほうを取り下げることに決めた。

 

「…………死柄木弔。それは流石に…………」

 

「なんだお前。間違ってないだろ」

 

「ですがこう……言い方というものが……」

 

「事実だろ」

 

「あの……。……まぁ、ただ室内にいてできることと言えばこういうことくらいですし……ね? 仕方ないんですよ」

 

「……むー……」

 

「……あの……」

 

「わかってるよ。そりゃああれだけの大事件だもん。うかつにそとにはでれないよねー」

 

「……後半棒読みだぞ」

 

 弔に指摘された。なんと。ぼくの演技力は完璧のはずなのに。

 

 しかし人から聞いてそうだったということはそうなのだろう。素直に事実を受け入れよう。

 

 実際、外に出ることが危険だということはよくわかる。だけど人は意外と人の顔を見てないし、顔を隠しておけばバレないんじゃないかと思うし……と考える気持ちもあり。

 

 まぁあまり困らせたくはないので、自分の意見を飲み込んだ。

 

「なにもまったく働いてないわけじゃない。黒霧が大物に予約を入れてくれている」

 

「……大物?」

 

「近頃細々流行りの(ヴィラン)さ。仲間になるかはわからないが、可能ならば仲間についてもらう」

 

「……だれ?」

 

「ヒーロー殺し。聞いたことだけはあるんじゃないか?」

 

 ……ヒーロー殺し? 首をかしげたぼくの反応に、弔は黙った。黒霧が補足する。

 

「名前のとおり……ヒーローを襲う(ヴィラン)ですよ。実力は数多のヒーローを活動不能にしてきたことから証明されています。仲間にするならちょうどいい手合いですよ。……向こうも参加に肯定的です。近々面接を行う予定なので、そのときは立ち会ってもらいますね」

 

「……なるほど。よくわからないけど、強い仲間なわけだ」

 

「仲間になるかはまだ決まってない。強さは証明されてるけどな」

 

 強さだけで仲間に入れるほど甘くはない、と弔は断言した。例えば、と言って弔はぼくの頬を突き、

 

「お前が弱くてもお前は仲間だ。強くある必要はない。俺たちの仲間に入れる連中は、俺たちの仲間に足るやつらだけだ。それは信念……度胸……実力も視野に入れはするが、様々な分野を見て判断する」

 

「……茶味たちは?」

 

「こちらに協力する気だったことと、実力を評価した。あのときはひとまず仲間を増やすことが一番だったが、な」

 

「なるほど……」

 

 ……そういえば、茶味はどこだろう。周囲を見回すが姿は見えない。ジェントルもだ。仕事があるとは聞いていないのだが。

 

 ぼくの視線で気づいたのか、弔は言う。

 

「三人は今訓練中だ」

 

「訓練?」

 

「ああ。オールマイトにやられた脳無いただろ? あいつより若干ロースペックの脳無と戦ってる。死なない程度にボコれって命令してるし三人で戦ってるからなんとかなるだろ」

 

「ああ……ジェントルは死闘経験がないし、茶味も進化した個性に体がなじんでないからなぁ……」

 

「そういうわけで、絶賛戦闘中だ」

 

「ちなみに弔は戦って勝てる?」

 

「崩壊が通じるデカさなら。デカすぎると駄目だ」

 

 そりゃあそうか。弔の個性は基本的に、全ての生命に対してメタともいえるレベルの強さを有している。最近ではその強さも増し、崩壊の速度も増してきた。

 

 オールマイトはその巨体と強さゆえに崩壊はわずかだしそもそも掴むことすら厳しいが、速度が劣る相手であれば今の弔ならば勝てる。

 

 だから問題は───個性の発動条件が接触に限定されるというところだけだ。

 

 なのだが……どうにも最近はその様子も変わってきており、崩壊もさらなる進化を遂げようとしていた。

 

 元々強かった個性だが、だが成長を経てさらに凶悪な性能へと変わってきている。今では戦闘向きプロヒーロー相手にも快勝することだってできるだろう。

 

 ───あるいは、もとあるべき姿に戻ってきているのかもしれない。

 

 さらに素の身体能力が優秀だ。だからこそ、弔に勝てる相手というのは本当に少数だろう。

 

 だから、その発言はまったく不思議ではなかった。むしろ当然とも思えるほどだ。ぼくは小さく息を吐いて、どれだけの強さだったら対応できるのかを考える。

 

 極限状態で相手の個性が進化することを考慮して……それでも、エンデヴァーならば勝てると思う。オールマイト、と言わないのは彼の強さが未だ未知数だからだ。

 

 死んでしまったが。

 

 とはいえ、全盛期のオールマイトならばぼくは確実に負けるだろう。なんせ、あの先生でさえ負けてしまうのだから。ぼくが勝つなんて絶対に無理だ。

 

 そう考えると、エンデヴァーは妥当なあたりだと思う。そもそも彼の攻撃はぼくには通用しない───今のぼくなら、蒸発しても三回は復活できる。

 

 心臓が止まった状況からの復活なら二十回くらいだろうか? オールマイトの肉を少しもらったから、それを食べて今はとんでもなく回復している。

 

 そういえば……オールマイトの死体は、ドクター預かりになったのだっけ。オールマイトから脳無を作るのかもしれない。

 

 そうなった場合、最強の脳無ができあがることは間違いないだろう。そこに相澤先生の個性を加えなどすれば、ヒーローはすべて抹殺できる。

 

 ただ相澤先生はその個性の希少性からおそらく先生が持つことになるんだろうなぁ、と考えると、その選択はないか。

 

「……茶味の進化……あれは使いようによっては便利だしな。そしてジェントル・クリミナル。あれで意外と戦闘力はある。だから、ラブラバなしでの対応力を上げて……ラブラバも、生存力を高める」

 

「ジェントルって強いんだ……」

 

「あれは相手が強いほど逆に強くなるタイプだからな。お前ほど強ければ逆に狩られる可能性だって出てくる」

 

「えー? うそぉ」

 

「お前、自分の全力を全部跳ね返されるとどうなると思う?」

 

「えーと……吹っ飛ぶね」

 

「どれだけ吹っ飛ぶ?」

 

「んー……わかんないけど……たぶん数十キロ」

 

「ジェントルにはそれができる」

 

「えっ」

 

 となると……まずい。ひょっとして天敵かもしれない。相澤先生は瞬きの瞬間に殺せるし、そもそももう排除し終わってるから大丈夫だけども。

 

 味方でよかった、と今は少し思った。

 

 しかし……あのジェントルがそんな個性を持っているとは。使いようではヒーローになれただろうに。

 

 たしかジェントルは昔ヒーローになりたかったのだと聞いた覚えがある。……すべて個性を伸ばしきれなかった学校の怠慢のように思えて仕方がない。

 

 もったいない。ヒーローにしておけば、ぼくの天敵を作り出せただろうに。

 

「世の中はままならないのね」

 

「……どうした?」

 

「こっちのはなしー」

 

「……そうか」

 

 少し口が寂しくなって、冷蔵庫から飴程度の大きさの肉を持ってきた。オールマイトの肉だ。この程度でもとんでもなく生命力を回復することができるのだから、平和の象徴は伊達ではない。

 

 しかし……純粋な回復量だけでいえば緑谷くんのほうが多かった。

 

 やっぱり彼はオールマイトの息子なのだ。だからこそ、きっちりと相応の舞台で殺してやる必要がある。

 

 ぼくはそう決心した。

 

「……そろそろか。黒霧、迎えにいってこい」

 

「わかりました」

 

 と、黒霧がワープゲートを作り出した。

 

 その中から、訓練を終えた三人が出てくる。全員顔に元気がない……どころか、全身が傷だらけだ。どれだけの訓練をしていたのだろう。

 

 ひとまず全員に治癒を掛ける。奥においてあった椅子に並んで座った彼らに感想を聞いた。

 

「どうだった?」

 

「死ぬかと思った……」

 

「見えても対応できないな……あれがプロの世界なのだね」

 

「地獄だったわ。何度死を覚悟したことか」

 

「まぁ……そりゃあ単純換算で現No.1ヒーローレベルの相手だからな」

 

 弔が言った。

 

「見えただけ十分だ。問題がわかってるんならそれを直せばいい。……対応、だったか」

 

 直後、弔の手がジェントルに向かって突き出される。あわやその五指が触れる───といったところで、ジェントルが俊敏に反応し、弔の手が空気の膜に弾かれた。

 

「……なるほど。まぁまぁ戦えるじゃないか」

 

「……いや、今死ぬかと思ったんだが。反応できた自分をめちゃくちゃ褒めたい気分なんだが」

 

「ジョンがいるし死にはしねぇよ。ただ痛いだけだ」

 

「……まぁ……痛みには慣れたが……」

 

 とてつもなくなにかを言いたげなジェントルを弔は無視する。

 

「茶味」

 

「ん? なんだ、リーダー」

 

「お前が戦ったガキ……なんだったか」

 

「緑谷出久?」

 

「そう、そいつ。そいつとあの脳無はどっちが強かった?」

 

 少しだけ茶味は考え、

 

「殺しにきてるぶん脳無かな。ただ、強さでいったらどっちもそんなに変わらない」

 

「……マジか。最近のガキは強くて嫌になるよ……」

 

「ぼくなら緑谷くんでもまっさつできるよ!」

 

「狐さんがとんでもなく物騒なアピールしだしたぞリーダー」

 

「いいアピールじゃないか。自分のセールスポイントをわかってる」

 

「駄目だ……狐さんのことでリーダーに同意を求めちゃいけなかった……」

 

 なにがいけなかったんだろう。

 

 ぼくからすれば一番いいアピールなんだけど。

 

「……戦闘力で言えば、俺たちの中で一番ジョンが強い。ただこいつは馬鹿だし……もっと別の役割もある。だからこそ全員がそこそこ以上に戦えるようになってもらえないと困る」

 

「えへへ……」

 

「いや、罵倒されてるんだが……」

 

「とむらのこれは愛情表現だもんねー?」

 

「……………………」

 

「……惚気はいいので、話を進めましょう」

 

 こほん、と咳払い。

 

「……オールマイト殺害で、先生からの支援も多い。配布される脳無もそれなりにグレードが高いやつだ。だから安全……かつ戦闘経験の積める今、可能な限り能力をあげなければならない」

 

「……ただ、あんまり同じ敵と戦っていると慣れがくるんじゃないか?」

 

「そこも想定してある。ドクターに頼んで製作コストが甚大すぎる()()()()()を適当にいくらか借りた。……脳無の中じゃあトップクラスにヤバい化け物だ。これは普通の脳無とは違い知能も持ってる。だからこそ経験値稼ぎにはもってこいだろ」

 

 ……ハイエンド。名前が示す通り、脳無の枠に収まらないような化け物なのだろうと思う。ぼくでも勝てるのかわからない。

 

 そんなレベルのを複数借りた……となると、そりゃあ変なクセが付くだとか、そういったことを考えている場合ではない。なにせ脳無も成長するのだ。

 

 相手の動きに慣れるだとか、その動きを狩りにくるに決まっている。それだけの化け物……それを、さらに複数だ。ローテーションを加え、絶対に慣れる合間なんてないと断言できる。

 

 弔は言った。

 

「強くなるぞ───パワーレベリングだ」




 今の連合は世界中のヒーローから狙われるレベルになってるので性急なパワーアップが不可欠なんですねぇ……。
 狐さんだけオールマイト食ってるしほぼ覚醒しかけだけど
 狐さんは生命力が一定量を超えると覚醒進化します。進化詳細は後日。
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