周囲を見渡した。そこには立派な街がある。街だ。大きい街だ。行き交う人々の数が、それを証明している。ともあれ、ぼくはさらに大きくなり……大人に容姿が近づいてきた、ということもあり、普段とは装いも変えていろいろなものを漁っていた。
普段のデパートに行けばいいのだが、しかし歩いて店を探すこの感覚もまた一興───少なからず楽しみの一つであることは間違いない。手に持ったかき氷を口へと含み、気分は夏祭りのそれだ。近頃の暑さは馬鹿にならないので、こうして体を内側から冷やす必要があるのだ。
ぼくは冷却方面への適正が皆無なので、体に熱を溜め込みやすい。だからこそ普段の服装は露出が多いものになっているのだが……あんなものを外で着ているなんて、さすがに気合が入りすぎる。
寒さには対策できるから、個人的にはあれが一番最適な格好なのだが……派手さがすぎるので、あんまり普段から着はしない。
と、いうことでひとまず繋ぎということで適度に涼しい服装を見繕ってもらった。変身で服装の情報を変更するのは若干難易度が高いので、あんまりやりたくはない。
そもそも服装に関しては容姿のおまけ程度でしかない。服を変えようとすると体ごと変えてしまうことになるのだ。それは流石にめんどくさい。
と、言うことで買ってきてもらった服はあんまり派手でなく、人目も惹きづらいもの。
よって人混みに紛れやすいというわけだ。
そりゃあ耳としっぽでそれなりに目立ってしまうのは仕方ないとして、まぁまぁ街に馴染めているのだから問題はないだろう。掬った氷を口の中へ。冷たい。夏の暑さを逃れるのに、やっぱり氷菓子は必須だと思う。
超常社会ということで、やはりそれなりに治安は悪い。特に都心ともなればなおさらだ。田舎であれば問題はないのだが。
のんびりと歩いていると、正面からやってきた集団の一人に肩がぶつかった。まぁそういうこともあるだろう、と無視して歩くが、しっぽを掴まれてその足を止めざるをえなかった。
「……なぁに?」
「いやいや、それはないっしょ。人に当たっといてなにも言わないとか」
「なんで? なにかを言わないといけないの?」
と、気づけば周囲を取り囲まれていた。こういうことがあるのか……なんて思いつつ、全員を殺すのに必要な時間を考える。
二秒で殺せるな、と判断した。
その個性だろう……ぼくの首に、針金のようなものを突き付けられる。切断力があるのか、ぼくの首に少し食い込んだ。血が溢れる。
「状況、わかる? こっちはぶつかられてんだよ。ほら、さっさしないとやっちまうぞ?」
「なにを? なにをするの? なにをしろっていうの?」
「……だから、謝れってんだよ」
「謝ればいいの? ん、わかった。ぶつかっちゃったよ。ごめんね?」
とりあえず言葉にして謝っておく。面倒な輩に絡まれたな……と思う。相手の心に目を向けると、その中には情欲の炎しか宿っていない。どいつもこいつもこの超常社会で頭がどうにかなってしまっている。
……気色悪い。
「悪いと思ってんなら、俺らと来てよ。な、それが誠意ってもんだろ?」
「んー、やだ。ぼくやることあるし」
首に、さらに食い込んできた。金属の冷たさがちょうどいい。だがそれもぼくの体温ですぐにぬるくなってしまった。少し不満だ。
周囲の声がうるさい中、ふと心の声の中に別のものが混じった。それはこちらに近づいてきている。同時に───存在感の強い姿が、人の隙間からちらりと見えた。
ぼくの首にモノを当てている男に、炎が向けられた。とはいえとんでもなく弱い炎だ。やけどする程度のものが一瞬だけ迸り、その体を巻き込む。
それだけで容易に男の意識を刈り取り、沈静化したのだった。
「……さて、流石に看過できない状況だが……貴様ら全員確保と行くか?」
「……え、エンデヴァーだ! 逃げろ!」
「逃がすと思うか?」
炎が迸る。集団の退路を絶ち、そしてその後にごく弱い炎で焼いた。それだけで、全員の意識を奪い去る。
警察に連絡し、そしてエンデヴァーはぼくに話しかけた。
「……大丈夫だったかな、お嬢さん」
「あ、はい。大丈夫ですけど……」
「……ヒーロー殺しが出ている現状、警戒態勢が上がりあまり活動的な
「いえいえ、大丈夫ですよ! それより、助けてくれてありがとうございます!」
自分でも白々しいセリフだ、と思った。しかしこの状況でお礼一つも言わないのはなにかがおかしいだろう。
「こっちも仕事だからな。……すまない、一つ聞くが……」
「はい?」
「死染妖狐、という子が親戚にいたりはしないか? この間の事件で誘拐された雄英生徒だ」
心臓が口から飛び出るかと思った。
まさかその言葉が出てくるとは思わず、かなり驚いた───見た目もかなり変わっているし、わかる人はいないと思ったのだが。
ただ、自分が気づいていないだけで面影はある、ということなのか。それともプロヒーローの観察力が鋭いだけかもしれない。なんて思いつつ、ぼくはひとまず否定する。
「……いえ、知りません」
「そうか……お嬢さん。貴女の名前はなんと?」
「……え、と。……
ぱっと思いついた偽名である。ぼくの本当の名であるジョン・ドゥをベースに考えついた名前だ。あんまり不自然な名前じゃないからか、そこに疑問を持たれることはなかった。
「……すまない、妙なことを聞いた。容姿が似ていたのでな」
「いえ! 紛らわしい自分の見た目が悪いんですから! こんな狐の耳としっぽ、なかなかないと思ってたんですけどねー!」
「ああ。とても似ていると思ったよ」
……。やっぱり耳としっぽはひっこめておいたほうがいいだろうか。
その後、ぼくはエンデヴァーと別れた。また街を行く。かき氷はもうどろどろに溶けていて、また買い直さないといけないなぁ、と思った。
ぐずぐずに溶けたかき氷は、もはや味のついた飲料だ。カップに口を当て、残ったぶんを飲み干した。勢いよく傾けてしまって、少しだけこぼれてしまう。首を伝って落ちていく水滴の流れを指で止め、ぼくはべたつく肌を軽く弄ぶ。
「うふふ」
笑う。笑え。笑ってしまった。
当然だ。今から死ぬとも知らないそのNo.1ヒーローは、一体なんの冗談か和やかにぼくと別れてしまった。もっと深入りすれば、きっとどこかでボロが出ただろうのに。
だから、ぼくは笑ってしまう。
ケータイ電話を取り出した。それは弔と連絡する手段だ。連合と通ずるものでもある。
ぼくは弔に電話を掛ける。ヒーロー殺しは動き始めるだろう。ならばぼくはぼくで、弔に言われたとおりに動くのだ。
───エンデヴァーを殺すために。
「───誤りを───正さなくては……」
物騒に呟くステインに、ぼくは話しかけた。引き連れているのは、三体の通常個体に一体のハイエンド。つまりは脳無だ。
「精神統一ってやつかな」
「……来たか。待ちくたびれたぞ」
「ごめんね? でもぼく、保須ははじめてなんだよ。ちょっとくらい下見してもいいじゃない?」
「……確かにな。逃走ルートの確保は必須、か。俺が間違っていた」
「そういうことなのです。とはいえ、相手がヒーローな以上このハイエンド一体で皆殺しにできると思うんだけどなぁ」
何故ならこの個体は、ヒーローの天敵……どころか、この超常社会においてすべての存在に対する天敵とも言える存在だ。
相手の個性を封じ込めてしまうのだから。
故にそれはハイエンド。先生とドクターが作り上げた中でも、特に凶暴な一品。それをぼくに託してくれたのは、先生なりの信頼なのだろう。
ちょっとうれしい。
「……どうだ、狐。この保須の誤りを見て……なにを思った?」
「んー……そうだね。鬱陶しいやつに絡まれたし、ヒーローは来るのが遅いし……やっぱりヒーローって、やだな」
「……それはすべて、贋物だ……ヒーローと呼ぶに値しない。だからこそ俺たちは正さなければならないんだ……」
「……んふふふ。そうだね。そうすれば、弔の望む世界を……」
「……相思相愛……か。お互いに惚れ込んでいる」
「……んふ、んふへへへへへ……」
「……………………」
嬉しいことを言ってくれた。にへーっと笑うぼくに向かって、ステインは言う。
「……そろそろ、動くぞ」
「はーい!」
ここからは、別行動。ヒーロー殺しは彼のやるべきことをやり、ぼくはぼくで弔の目的のために動き出す。
ステインが飛び出して、いなくなった場所。そこでぼくは脳無へと話しかける。
黒霧はいない。弔もいない。脳無以外にはぼくとステインだけ。
だがそれでもやれるだろう。なぜならこの脳無はそれだけ強い。
「それじゃあ行こっか」
ぼくは脳無へと話しかける。
その合図で十分だった。一人の脳無が飛び立ち、そして消える。今頃は人を襲っているだろう。そこにヒーローは集まるはずだ。
ならば───そこにエンデヴァーがいる。
───脳無が現れた。その情報を聞き、状況は即座に動き出す。
戦闘力に優れるエンデヴァーは現場へと駆けつけ、炎で早速一人目の脳無を焼いた。周囲には人の姿。サイドキック、また別のヒーローが一般人の避難を合図している。
「……
「───正解でーす!」
そこにぼくが現れた。流石に姿は変えている。雄英襲撃のときの姿だ。牽制用脳無がやられてしまったのは痛いが、今のうちにヒーローがいない場所へと脳無は飛ばしている。だから問題はない。
エンデヴァーの上から、落下するようにして強襲する。炎を放ち、それのブーストにより回避したエンデヴァーがぼくに炎を向けた。
ただ、それへの対策はもう取っている。
「おっと、いいのかな? いいのかな? ヒーローが一般人を見捨てていいのかな?」
「……た、たすけ……」
「───!?」
周囲の動揺が心地よい。たった一瞬の隙でも、ぼくはもうその間に移動することができるようになっている。
だからこそ、安全圏にいたと勘違いしている一般人を引き込むことなど余裕だった。
肌触りのいい若い女性だ。あるいは、少女といったほうがいい年齢かもしれない。逃げられないように、肩を脱臼させておく。
骨が外れ、気味のいい音が鳴った。同時に、女性の叫び声が上がる。そのことに、自分の心が燃え上がるのを感じる。理性が蒸発するように、ただ本能の赴くままにぼくは彼女へと指を這わす。
「───ぁぁぁぁぁああああ!? なんで!? なんでこんなことを!? え、やだ、ちょ。いた、痛───やめ、腕はそっちには曲がらなぁぁぁ───!?」
「あら、とれちゃった」
腕を捻って後ろに引っ張って遊んでいたら、ちょっと力を込めすぎたのかぶつりと腕が千切れた。
もらう気はなかったのだけれど。そう思いながら、折角だ。その腕の肉を噛みちぎって、食べる。二口だけ食べたところで捨てた。飽きたのだ。
オールマイトを食べてから、いかんせんあの味か強烈すぎるせいか……没個性の肉は、食べても美味しくなく感じるようになった。
美食家の兆候だろうか。しかし、こう……なんというか、面白い反応をしてくれる。ヒーローも、人も。雄英のときは腕を切ってもだれも叫びすらしなかったから、あの空間がどれだけプロの精神に溢れていたのかがよくわかる。
「ほら。がんばれ、がんばれ? まだ腕一本だけじゃない? まだあと三つもあるよ? 気を失うには早いよ?」
「や、やだぁ……助けて……いや……!」
「だそうですよ? ヒーローさん、もっと頑張ってよ。助けてだって!」
「……く、クソ……ッ……!」
「そんなこと言ってもなにも解決しないよ? ほら、ほら。ヒーローさん、なにもできないの? ほら、はやく、はやく」
と、急かすけれどヒーローはだれも動こうとしない。遅いなぁ、と思いながら、ぼくは彼女の足に触れる。
「……………………」
首を弱々しく振る彼女の顔は、涙に濡れて、その目は虚ろであり誰もの同情を誘うだろう。ぼくは彼女に笑いかける。
そして、変身で指を変形させて刃の形に。ゆっくりと足の根本に切れ込みを入れた。
彼女が穿いていたスカートはそのカットしたぶん、右側が落ちる。そのきれいな足に血が滴り、白い肌を赤く染める。
「い、いた……っ」
「ゆっくーり」
「──────ぁっ!? っ、ぅ、ぁぁぁ……ゃっ、ぁあああぁぁ───っ!?」
ゆっくり、その肉に刃を食い込ませていく。あえて骨はすぐ切れない程度の切れ味にした。肉に吸い込まれるように刃が消えていき、骨に当たる。
このままでは切れないので、のこぎりのように前後させて骨を削る。それはさぞ激痛だろう。ただ、治癒を利用して意識は絶対に失わせないようにしているので、彼女の悲鳴が途切れることはない。
「やぁぁああああぁあああ───! やだぁ! 助けて! 誰かぁぁぁぁ───! 痛い! 痛いの! ひぅっ、ちょっ、やだっ、あ、あああぁぁぁっ───まって、やめて、とめてきれちゃうからおねがいだれかとめ───」
「えい」
骨をようやく切断した。そのまま、肉をゆっくりと切り落とし、完璧に切断した。女性の体と、ぼくの体はほとんど密着している。だからこそヒーローはだれも行動しない。下手には動けない。
女性の足が切断されたとしても。
「ぁぁあああぁ……切れちゃった……あ、わたしの……足……」
「でも大丈夫だよ、これくらいなら治せるしね」
と、いってぼくは治癒を発動する。女性の足をくっつけた。腕は止血だけしておく。傷がふさがったせいで再び切り落とさないと腕は治すことはできないだろう。
「……ぁ、え? 治った……?」
「うん! それじゃ、もう一回やろっか!」
「───え?」
痛みで意識が朦朧としているのだろう。ぼくの言葉に、わけがわからないといった表情をした女性のお腹に、ぼくは刃を突き立てた。
「と、思ったけど足を切るのは飽きちゃった。今度は生きたままの内臓で遊びましょっ」
「……やだ。やだ、やだ、やだ、やだ。やだ、やだ。やだ。やだ。やだ。やだ。まって、やだ。やめて。やだ。やだ。やだ、まって。やめてやだ。たすけて。だれか、あっだめ入ってきた、やだ、まって、そこ回しちゃ……っ、いたっ。だめ、そこ触らないでぇっ……やだ。いたいよ。たすけ、だれかたすけて……そこ、触っちゃ駄目なの……」
「……これ、腸? 小腸かな、大腸かな。どっちかな?」
「あぁぁあぁぁぁああああ……だめ……出てきてるぅ……ああ……」
「えへ、楽しいね。楽しいよね? おねーさん」
「……痛い。痛いよ。もう、無理。殺して? どうしてわたしだけこんなことに……ぁっ、そこ弄っちゃだめぇ……!」
うん。足を切ったりなんかよりずっといい反応だ。これにはぼくもご満悦。
「むり、だめ、これ以上は死んじゃうからぁっ……だめ、出さないでぇ……っ!」
「え、でも死にたいんじゃなかったの? なーんかそれ、おかしいね? あ、これなんだろ」
「───ああああああぁぁぁぁぁ!?」
下腹部にあったものを、引き抜いた。なんなのだろうか、これ。ごっそりとずる抜けてきたものを持って、ぼくは首をかしげた。
「おねーさん、これなんだと思う?」
「───……………………」
「あれ? ……死んじゃった。もっと遊べると思ったのになぁ。まぁいいや、で、どう? 人質を見殺しにした気分は」
「…………最悪の気分だ」
エンデヴァーは絶大な炎を展開する。熱がぼくのもとまでやってきた。なるほど、本気になればここまでのことができるのだろう。
ただ、それでもハイエンドにとっては敵ではない。
ぼくは手を二回叩いた。それは合図として、ハイエンドに作戦開始を知らせる。
───ぼくの体を、氷が覆う。それはとても大きな氷塊だ。ハイエンドが陰から放ったそれに、エンデヴァーはわかりやすく反応した。
「───焦凍ォ!? 焦凍! やはり生きていたんだな! 焦凍!!」
「……ちょ、エンデヴァーさん! 敵の可能性だって……!?」
そして───ぼくの背後から現れたのは、
轟くんは、エンデヴァーのもとへと歩き始めた。
「敵のフリしてずっと機会伺ってた」
「……焦凍! よかった……お前が生きていてくれて……! 俺は信じてたぞ! ───本当によかった……!」
「……ありがとう、親父」
轟くんは、エンデヴァーへと視線を向けた。
途端、エンデヴァーの炎は消え去った。個性が強制的に解除された、ということだ。
「───お前がバカで助かった」
「───な───」
そして、エンデヴァーが足元から凍っていった。その炎は発動しない。体がゆっくり凍っていき、動かすことすら叶わない状況でエンデヴァーは、まるで馬鹿な父親のように。
縋るような目で轟くん───ハイエンドを見た。
「……焦凍……これは、なんの冗談だ? 嘘だろう? ……はは、ははははは……」
ハイエンドは、答えない。ただ、溶かされないようにエンデヴァーをまばたきすらせずに見ている。
「───はははははは! はははははははははっ! ……ああ、わかった……俺が愚かだった……
エンデヴァーを助けようと向かってくるサイドキックは、全員炎で焼かれ死ぬ。ぼくも氷を砕いて、そこから這い出た。
「───忘れるなよ……貴様ら……俺が死のうとも───ここで息絶えようとも───必ずやヒーローが貴様らを捕らえ……貴様らは地獄に堕ちて死ぬ───!」
「それ、ヒーローの言葉なの?」
───エンデヴァーが完全に凍りつく。その氷像を、ぼくは軽く小突いた。それだけでエンデヴァーは崩れ去った。
あっさりと、No.1ヒーローが死亡する。
砕け散るその輝きを見て、ぼくはおもしろみがないと呟いた。
一般人女性をいじめるシーンで筆が乗って二千文字くらい普段より増えちゃいました……それのせいで投稿すこしだけ遅れましたすみません。
直接表現したらNGかもと思ってめっちゃぼかしましたが子宮引き抜いてます。
どうでもいいけど人間オルガンとかすごいいいよね!
補足
狐さん、人をいじめてるときにだんだん嗜虐心がうずいて暴走します。衝動を自分じゃ止められないって感じです。