狐ちゃん奮闘記   作:moti-

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第36話

 ───轟焦凍型ハイエンド。

 

 轟くんと相澤先生の死体を利用して作られた脳無だ。と、いうよりは死体を無理やり動かしているような感覚といったほうが正しいか。蘇生し、人格をすこしいじってから相澤先生の個性を移植した存在。

 

 成り立ちから他の脳無とは違い、どちらかといえば普通の被検体と言ったほうが正しくはあるのだが、改造人間であるため脳無と呼ぶことにしている。

 

 あるいは、666(シックス)

 

 改造人間であり、その順列を示す数字だ。どちらも呼称として通用するが、なによりも恐ろしいのは二つの強個性を持っている、というただそれだけでハイエンド認定された尋常でない()()()()と呼べる能力を持つことだ。

 

 身体能力はあまり高くはないが、それでも個性の使用に長けているため大体の敵は炎と氷で仕留められる。しかもそれに加えて相手の個性を抹消する能力まであるのだ───エンデヴァーの上位互換のような個性のうえ、さらに発動型個性の天敵とも言える個性を持ち合わせているのである。

 

 だからこそのハイエンド。ほとんど手を加えられていないにも関わらず、ハイエンドとして認定された実力はたしかなものだ。

 

 無理な改造をしないのは、轟くんの見た目を崩さないためだ。雄英に再侵略するときに轟くんの見た目を使っていれば、ヒーロー側の動揺を誘うことができる。

 

 だから、素の身体能力にも調整を加えられている脳無の中では弱い部類に入る。

 

 ただ、このヒーロー社会において単純な戦闘能力だけを売りにしているものはどれだけいるのだろうか? 一応、ヒーロー殺しは個性の関係がない戦闘力を保有している。探せばそのようなヒーローも存在するだろう。だがそういうタイプにはまた別の脳無をあてればいいだけ。

 

 ステインはたしかに強力だ。戦闘力でいえば、前のぼくが苦戦するくらいはあっただろう。連合の前の戦力では足りなかっただろうことがかんたんに想像できる。

 

 今は普通に勝てるだろうけど。

 

 まぁ、そんな事情もあり───利用できる駒として、これほど優秀な脳無もいない。事実、エンデヴァーをあっという間に仕留めてしまった。

 

 その制圧力は驚愕に値するものだ。

 

「それにしても退屈だったね」

 

「……ああ。No.1ヒーローのくせに味気ない」

 

「というか普通に喋れるんだ。ベースが轟くんだから? 状態としてはどんなかんじになってるの? んー、ちょっとわかんない。あ、ねーねーハイエンド。ぼくのこと、なんて呼ぶ?」

 

「死染だろ」

 

「轟くんのベースを弄ったのかな? なるほど、なるほど。あるいはなにも考えてない可能性もあったりするかもだにゃん? そこんところどうなのさハイエンド」

 

「……よくわからん」

 

「そうだね。帰ったら先生に聞いてみよっと。んー、ハイエンドって呼ぶのもあれだな。それじゃあ轟くんって呼ぶことにするね? それでいい?」

 

「ああ」

 

 No.1ヒーローの死体は……いらない。轟くんのほうが優秀だからだ。体はいじっていないとはいえ、個性だけは少しだけ出力を増している。だからこそエンデヴァーに価値はない。

 

 肉も、どうせ美味しくはない。ならばぼくには必要がなく、ならば氷像は放置しておいたほうがいい。

 

 No.1ヒーローの敗北が伝わるのだ。そちらのほうがいいに決まっている。

 

 ふと、気配を察知した。心の声も同時に聞き取る。不意打ちを狙っているようだ。空中にいるらしい? 後ろを振り向き───その瞬間に、地面へと叩き潰された。威力は相当なもので、どうやらぼくの背後の地面が割れている。

 

 そして、自分の腹が潰れているのにも気づいた。普通の人間なら致命傷だ。少し痛い。相手の背が低いから、轟くんもぼくを巻き込むのを恐れてか個性の発動を躊躇する。

 

「撃って」

 

 だからこそ命令する。そう言えば、即座に炎を放つ。それはそこそこの大きさであり、ぼくを巻き込みながら駆け抜けていった。

 

 治癒を施して、一瞬で後ろへと飛び去った相手の姿を見る───老人だ。到底戦闘能力があるとは思えないその姿は、しかしコスチュームを着ている以上ヒーローなのだろう。

 

 少し面食らいつつ、ぼくは体を起こした。相手から離れてくれた以上、ハイエンドの個性が発動できる。ぼくの治癒を邪魔しないように、先程は発動しなかったようだ。

 

 たしかに個性を封じられた状態で死ねば、ぼくは蘇生ができずに死亡するから……その判断は間違ってはない。

 

「いきなりお腹ぶち抜いてくるとかヒーローは酷いなぁ。痛かったんだよ?」

 

「死んでも死なねぇようなヤツだろうが。それにな、ヒーローには汚名を被っても相手を殺さざるをえないときがあるんだよ。わかるか?」

 

「なんで? それって(ぼくたち)と同じじゃん。ヒーローって名目があったら人殺しも許されるの? おかしいよ」

 

「お前らみたいなイカレ野郎共に対抗するための最終手段だよ。お前の戦闘能力を考えて……捕らえるのはほとんど不可能だ。拘束もすべて砕かれるだろうしな……現に轟のやつがやられちまってる。だからこそ、これはもうなりふりかまってられる状況じゃねぇ」

 

「んー……おかしいよ。変じゃない? ねぇ、それ、なにかおかしいよ」

 

「No.1ヒーローを二人殺したような人間だろ。生き延びたところで死刑は免れない。それだけ重い罪なんだよ……お前らと出会った場合、殺せと俺達は指示されている。それだけのことをやらかしたんだ、お前らは」

 

「変だもん」

 

「変じゃねぇよ」

 

「それでヒーローって言えるの?」

 

「悪人を切り捨ててでも市民を守るのがヒーローだ」

 

「へぇー……人質を見殺しにするヒーローさんのくせに、そんなこと言えるんだ」

 

 怪訝そうに、老人の目が細められる。ぼくは少し周囲を探して、先程いじめた女の人の死体を指差した。

 

「ほら、あれ。エンデヴァーは見殺しにしたよ? 助けてーって言ってたのに。おかしいね、おかしいね。市民を守るヒーローなのに人を見捨ててるよ? おかしくなぁい?」

 

「……安い挑発だ」

 

 老人はいう。

 

「人を嘗めるのも大概にしろよ若造。お前らみたいな人間捨ててるやつに、人の力ってのを思い知らせてやる」

 

「えへ、個性もないのにできるわけないでしょ」

 

「そうか? 俺はそうは思わねぇけどな」

 

 老躯であるというのに、その気配は尋常のものではない。

 

 思わずぼくは一歩下がってしまう。しかし、今の現状ではぼくまで個性を抹消されてしまうので、下がったのは正解だったと言える。

 

「轟くん」

 

 氷が這ってゆく。老人の体へと迫り、その身を凍てつかせようとする───が、しかし、それは回避されてしまった。

 

 そりゃあそうか。あれだけの速度を持てる個性、それを制御する肉体は強靭なものでないわけがない。だが個性で速度を得て、そこから威力を捻出するタイプなのだろう……こちらに攻撃は仕掛けてこない。

 

 堅実に立ち回るヒーローだ、といった印象を思わせる。面倒だ。手早く片付けるべき……なのだが、勝負を急ぐと轟くんが邪魔になる。だからといって抹消を使わないのは不安が残るし、持久戦は避けたい。

 

 応援を呼ばれると面倒だからだ。幸い、ヒーローの初動が遅くて助かったが……それでも、またすぐに駆けつけるだろう。

 

「……むー、めんどくさいなぁ。轟くん、個性解いていいよ。ぼくがやる」

 

「……わかった」

 

 抹消が解除される。それにより、ぼくは個性を不自由なく発動することができる。体の強化を利用し、老人へと躍りかかった。

 

 相手は空中へと逃げることで、ぼくの初撃を回避する。足の裏から空気を噴出しているようだった。優れた個性だ。空中でも自由に軌道を変えることができる時点で、空中戦は分が悪い。

 

 ひょっとするとエンデヴァーより断然強いかもしれない……まぁ、戦闘力だけで見ればエンデヴァーより強いヒーローはもっといるのか。そりゃあ当然だよな、と自分の思考にツッコミつつ、ぼくは空中を駆け上がった。周囲のビルの壁は、蹴るには丁度いい幅をしている。それを利用すればぼくだって空中で戦える。

 

 老人に蹴りかかった。そこを回避され、足を払われてバランスを崩す。勢いも失速し、早速制御を失った。

 

 慣れていないことはするものではない。老人が上から叩き落とそうと画策しているのを直感し、ぼくは上へと体を向けた。降ってくる彼のリーチより、ぼくのリーチのほうが長い。だからこそ、相手の攻撃がぼくに入ってくるまえに、ぼくは足で蹴り上げて───はるか空へと打ち上げた。

 

 反動で、自分が勢いよく地面に落ちる。老人のほうは高く打ち上げられ───抹消を恐れてか、ビルの屋上に立っていた。

 

 地面へと追突して、道路が派手に割れる。自分が隕石になったような気分をするのは久しぶりだ。痛い。地面にめりこんだ体を起こし、老人をにらみつける。

 

「相手が空から降ってくれば抹消で仕留められるんだけど……」

 

 と、思ったが相手は降りてくる姿を見せない。

 

 揺さぶられている。

 

 ちくしょー、とぼやきつつ、しかし相手がアクションを見せないのならこちらにも考えがある。

 

 民間人を適当に犠牲にすればいいのだ。

 

 そう思って軽く周囲を探したがだれもいない。やはりここらへん、逃げられちゃったか、と思う。どうにかする方法はないか、と考えて、

 

 ビルの中から一人の男性が出てきた。

 

「……えへ」

 

 彼は周囲の閑散とした状況に困惑している。外の情報を仕入れることはできなかったのだろうか。しかしそれも仕方ない。ことが起こったのはついさっきの出来事で、報道機関がまだ仕事はまだ仕事をしていない。

 

 中から外の様子がわからなかったのだとすれば、それは仕方のないことだったのだろう。

 

 ぼくは男性に近づいた。そして、いつかの先人に習ったように、彼の体の中に炎を生み出す。

 

「…………───」

 

 男性があっさりと事切れたというのに、なぜか老人は降りてこない。ヒーローの怠慢だ、と思いながら、ぼくは彼に視線を向けた。

 

 ……なにかがおかしい。さすがにヒーローというのに、これだけ降りてこないというのもあるのか? 何故だろう。なにかがおかしい。

 

 疑問に思って、ぼくは飛び上がった。ヒーローが人を見殺しにするのはおかしいから。ひょっとすると、なにかの罠に掛かってしまっているのかもしれない。

 

 屋上に到達する───のと、背後から狙撃されたのはほとんど同時だった。

 

 肩を撃ち抜かれ、ぼくは制御を失う。落ちまいとかろうじて屋上の端に掴まり、撃たれた傷を治す。

 

 その手を、老人が踏んだ。

 

「あ───……」

 

「だから甘えよ、若造。会社が何やってるかくらいしっかり把握しとくんだな」

 

「や、待って、落ちるの痛いから……ね、考えなおそ? あぶないよ、落ちたらあぶないよ?」

 

 足を踏む力が強まった。耐えれないことはない。握力に関しても、無理やり強化したことでコンクリートにめりこんでくれている。だが……それが崩れてしまえば、お終いだ。

 

 落ちるのは嫌だ。ぼくだけ痛い目をみるのは嫌だ。割に合わない。手玉に取られたような気がして、お腹の奥がむかむかする。

 

「お前は今まで助けてといった敵を助けてきたのか?」

 

「あるよ!」

 

「そうか。で、その敵はどうなった?」

 

「えーと……たしか、襲ってきたかな」

 

「ならそれが答えだろ」

 

「ちょ……っ……やぁ、痛いって……!」

 

「悪いな」老人は、ぼくの足を踵で踏み潰す。「落ちろ」

 

 体のバランスがおかしくなってきた。あやふやだ。まずい、これじゃほんとに落ちる。それは嫌だ。嫌だから……足を強化した。

 

 そのまま、大きく足を振った。バランスはおかしくなるけど、それでもいい。どうせ落ちるなら巻き添えにしてしまいたい。自分だけで落ちるのはしてやられた気分になるから。

 

 なにを、と困惑する老人を置いて、ぼくは屋上を()()()()()。先程の蹴りで天井を破壊しておいたのだ。だからこそ、筋力を強化して───落下しながらも、ぼくは屋上を持ち上げた。

 

「狙撃手、いるよね? 痛かったんだもん。やりかえしていいよね?」

 

「……ばっ……───!」

 

 指を引き抜き、片手で老人を捕らえた。もう片方の手で、屋上を狙撃手がいると思われる向かいのビルへと投げつける。

 

 真っ二つにビルが割れた。

 

「……く……っ!」

 

 老人はぼくを蹴り、手から離れていく。しかし無駄だ。ぼくは轟くんに合図を出した。その瞬間、個性が抹消される。

 

 ぼくも、老人も、どちらもの個性が消し去られた。

 

「じ、自爆戦術か───!?」

 

「違うよぉ。ぼくは落ちてもたぶん大丈夫。……死にたくないけど、死んだら死んだでそのときだし」

 

「……ぐ、く……」

 

「えへへへへ。それじゃ、おじいちゃん。さようなら?」

 

 地面に打ち付けられるまで、あと少し。尋常でない速度で落下するぼくたちは、高度を考えるに確実に死ぬだろう。

 

 それは嫌だけど……まぁ、運が良かったら生き残るかも。ぼくの蘇生判定が、個性を使えるようになったときに行われるんなら問題ないと思う。

 

 だから、怖くはない。恐ろしさもない。落下でぐちゃぐちゃになることも、怖いことなんてなかった。

 

 なんて言って、少しだけ恐ろしく感じていることがある。

 

 ぼくが死んだら、弔はどう思うのかな───なんて。悲しまないでほしい。ぼくなんかで悲しまないでほしい。けれど、悲しんでくれることが嬉しいぼくもいる。

 

 ああ、やだな。やっぱり死ぬのはこわいかも。

 

 蘇生できたらいいのだけれど───なんて思った直後、地面に体が打ち付けられた。

 

 激しい衝撃で、体の外に内臓が飛び出した。衝撃で体は潰れ、破裂して血を撒き散らす。内臓が喉からにゅっと出てきて、気持ち悪さに吐き出した。頭も割れて、目も飛び出して。もう人の原型は保っていない。

 

 ───意識は薄れる。自分の体の崩壊を、なんとはなしに感じ取ったけど。

 

 これで生きてたらすごいよなぁ、だなんて考えて。

 

 同様に落下した老人の血だろうものが、ぼくの体へと飛び散ってきた。

 

 そのことだけに安心して、僕は意識を失った。




 覚醒条件が整いました。
【条件:生命力を充分以上に蓄えた状態で原型を留めないほど体が崩壊する】

 補足
 狐さんを狙撃した方向の会社はヒーロー用のデバイス開発会社です。男性を模した機械で目を引いた隙に中に仕込んだ刀で原型も残さないほどに切り刻む、といった方法を取る予定でしたが中身がすべて焼かれてしまったのでこの方法はとれませんでした。
 一般人だからと狐さんが尋常じゃなく油断してたのもはっきりわかるシーンだと思います。すくなくとも、警戒してれば心の声を聞くなりで確実に判別できたわけですし。
 狐さん無意識に舐めプするとこあるからだめ。

 屋上にいた狙撃手は異変に気づき狐さんに対応しようとした会社専属のヒーローだったり。たぶんいるとおもいます。
 屋上という見晴らしのいい場所にいて、グラントリノと結託した人です。
 屋上ぶんなげられて死にました。
 あとグラントリノですが、全盛期であれば無個性状態でも狐さんに勝てたと思います。たぶん。

 追記
 とんでもなく変な日本語間違いが多発してました
 見直して気づけたぶんは修正します。
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