「とむらぁ、とむらぁ」
「あー……なんだ、ジョン」
「とむらとむらとむらとむらとむら」
「なンだ」
「とむらとむらとむらとーむーらー!」
「うるせェ」
なんとか喋れるようになった。
時々舌がもつれるが、それは早口のときくらいなのでそんなに問題ない。変身は、元に戻るときにも変身という判定があるようなので、あれからずっと人の姿のままだ。
なので、そろそろ人の姿にもなれてきた。
繊細な指の動きとはいかないが、それでもなんとか指だって扱えるようになった。その証拠として箸で豆をつまむことだってできる。まれに弾いてふっとばす。
なので、ぼくも遊びたい。
「あそんでよとむらー!」
「うるせえ。そこにゲーム機あるだろうが」
「ぼくはとむらであそびたいんだよ」
「人で遊ぶな
なんて言いながらなんだかんだ怒ってない弔好き。
現在ぼくは一つの壁に行き当たっている。
───暇。
そう、暇なのだ。ぶっちゃけめちゃくちゃ暇なのだ。毎日毎日特にやることはない。ぐでーっとだらけているだけだ。人によってはそれでもいいのだろうが、しかしまったくアクションがないと暇でしかない。
ぐでぐでとしているからか、個性を全く使わないから燃費はいい感じだけれど、それでもやっぱり暇なのはつらい。森の中だったら個性を試して遊べていたのに、今は狭い室内だ。暇でしかない。
「お前さァ……暇だとか言ってる暇あるんだったらその舌っ足らず直せよ」
「ひまだとかいってるひまがあるからひまなんだよ!」
「ちッ……じゃあわかった。一緒にゲームやってやるから来い」
そう言って、弔はモニターの側にあるゲーム機の、一本のソフトを起動する。
弔が前荒んでおられたゲームだ。格闘ゲーム。ぼくは喜んでコントローラーを受け取った。
絶対勝つ! と望んでキャラクターを選択するのだった。
「……………………」
「新参には負けねぇに決まってんだろ」
このやりとりではっきりとわかるとおり、ぼくは敗北した。
「とむらひどい」
「俺酷くない。練度の差だろ。お前は初心者俺は慣れてる。な? そりゃあ俺が勝つさ」
「なぐさめはいらないんだよ」
「折角の人の好意を……!」
「つぎはかつもん」
二戦目、以前弔が言っていた、リーチ差でハメようと考えて、ぼくは剣持ちキャラを選択した。
これなら勝てる、と思いたい。
弔は基本的に素手のキャラを使うので、殴られる前に攻撃が届くのだ。相性的には勝ってる。なら勝てる、と思いたい。
対戦が始まる。これならぼくが勝てるだろう、と思いながら、コントローラーを強く握るのだった。
「しょぼん」
「口で言うのか……」
敗北。なんというか、そう───弔強い。
そう、弔が強いのだ。ぼくが弱いわけじゃない。しかし、そうか。ならばぼくも本気を出すしかない。再戦を要求し、先程と同じキャラを選択。そして対戦を開始する。
そしてぼくは個性を使用した。
眼を強化し、相手の攻撃を確実に
「……………………」
「お前個性使ったなおい」
「くふ」
「負けてるんだから威張れねぇよ」
善戦はしたでしょうに。
対戦ではどうやっても勝てないと判断したぼくは、弔の膝に頭を乗せた。ちくしょー。絶対いつか勝つ。そう思いながら、腰をホールドするように手を回して、丸くなる。
「邪魔だ」
自分の体を揺すってぼくを剥がそうとするが、しかしぼくは離れない。離れてやらないのだ。
その感情には、怖れと緊張。やっぱり。
人との触れ合いを極端に避けている印象がある。
いや、それは仕方ないのかもしれない。こんな場所で、しばらくの間を一人で過ごしているのだ。人に慣れるわけがない。
それは、少し悲しいなぁ、と思ってへばりついたままの姿勢をキープしていると、諦めたのか弔はインターネット回線を通じて人と対戦を始めた。
見ているかんじ、かなり余裕そうな立ち回りだ。成長が早い。この間と比べて相当強くなっているんじゃないだろうか。
動きが細かく、ところどころフェイントを交えつつの攻防だ。見ていてかなり意外に思うが、そういえば弔はなかなか堅実な立ち回りをするタイプだったと思い出す。そりゃあうまくいくよなぁ、と思っていると、部屋の扉が開いた。
「ふたりとも、少し社会見学の時間を───……」
先生だった。
先生はぼくと弔の格好を見ると、固まった。先生のこんな姿は本当に珍しい。というかぼくが見るのは二回目だ。いつも先生は毅然としているので、動揺することがない。
となると、これは今とてもレアな光景なんじゃないだろうか。
相手をきっちり仕留めて勝利した弔が、ゲームをスリープモードにして振り向いた。
「社会見学ですか?」
「ああ、うん。まずジョンを振りほどいたらどうかな」
「全然離れないんだよこいつ。おい、退けって」
「うん……なんというか、仲がいいことは伝わってきたんだけど」
先生はぼくを見て、
「この格好はちょっと教育に悪いよね」
「たしかに」
なんで?
たしかにヘソ出しパーカーにショートパンツという服装だし若干露出は多いかもしれないが、これはゲームのキャラが着ていたものだしれっきとした服装なのではないだろうか。
「着替えたほうがいいと思うよ。というか見た目幼いんだし服装とのギャップがすごい」
「でもぼくもとのすがただとはだかだよ」
「人の体で露出が多いと問題になるんだ」
「なるほど」
じゃあ、着替えたほうがいいのかもしれない。
「女子用の服はないから、今度買ってくることにするけど……今回はこれでいいか。弔、準備してきなさい。終わったら出るよ」
「あの、せんせい。しゃかいけんがくって?」
「ん? ああ、ジョンは初めてか。簡単さ」
顔に笑みを浮かべつつ、
「───裏社会のお仕事の見学」
先生に連れられやってきたのは、山奥の小さな集落だった。
「ここに住んでる人は全員
と、先生は言う。
先生は正面から乗り込んだ。ぼくと弔はその後ろについていっている。
「静かだ」
「いつ襲いかかられるともわからないからね。気をつけたほうがいい」
「なんで襲いかかってくるんだ?」
「根城だからだね」
「勝手な奴らだ」
と、弔が言いつつ自分の頭を押し下げ腕を振り翳す。
弔の手が横合いから出てきた人の脇に触れた瞬間、『崩壊』が始まった。
弔が崩壊していく体の中に手を突っ込んでいく。ゆっくりと崩壊を待つのではなく、確実に殺すという意志で腕を振り切り、
わずか数秒で人の体を二つに裂いた。
つよい。
「先生、どいつもこの程度か?」
「いいや……少しおもしろい個性を持った人間がいるよ。と、その前に」
先生は、弔が殺した死体の腕を引きちぎり、ぼくに渡してきた。
「食べるかい?」
「あ、はい。いただきます」
邪魔な袖を取り払って、その肉を噛みちぎった。うん。人の口は小さいから、ちょっとずつしか食べれない。ちょっともどかしい。
ただ不味いわけじゃない。全然食べられるし、腕だから内臓みたいに汚く感じることもない。両手が使えないのも問題なので、腕を咥えながら歩くことにした。
「どういう個性の人間がいるんだ? 先生」
「そうだね……身体能力の強化だ」
「どこにでもあるぜ」
「とはいえ純粋に強い個性だ。僕としても何個もストックはほしい」
「んむっ……せんせい、ぼくのこせいは?」
「君の個性はリスクが大きすぎるからね。僕には合わない……いや、人には合わない個性だ」
「ふーん」
「そうだ。ジョン、君が戦うかい? 死体からでも個性は回収できるしね」
「わかった!」
と、言いながら進んでいく。
驚くくらい人がいない。奥へ、奥へと進んでいると、一つだけ大きい家が見えてきた。
「あれだね」
先生が躊躇もなく乗り込んでいったので、弔とぼくもそれに続く。人が動きやすい広さの玄関が顔を出した。
そこに、たくさんの人がいた。
その中心の、一際大きい体つきの男が話しかけてくる。
「お前等が
「……ああ、ジョン。その腕の持ち主だ」
「んむ? んー……このうで、いります?」
「要らねぇよガキが。ほしいのはお前等の命だけだぜ」
わかりやすい。腕を噛みながらぼくはそう思った。先生を見ても、なにを考えているのかわからない。意図して無視していた周囲の声に耳を傾ける。
『馬鹿な奴等だ……親分が万全の状態のときにここにくるなんてよ』『
「
「───!!」
「誰だ! クソッ! 天槍が漏らしやがったか!」
「あははは、ちがうよ。みんないってるじゃん」
『なんだあのガキ!?』『いやまて、まだ供犠はバレても問題ねぇ!』『どこから漏れた……! クソッ、
「ジョン。供犠と言ったね?」
「はい」
「どういうものか解るかい?」
「たぶんこせいです」
「誰のかは?」
「わかんない」
「しょうがないか……適当に殺して教えてもらおう」
「テメェらッ! やれ!!」
突然、ぼくの体を倦怠感。吐息に血が混じっているような気もする。熱い。これはなんだろう、と考えていると、声が詳細を伝えてくる。
『一度食らったら生きて帰れるものはいねぇ、俺の【呪い】だ! これならあいつは絶対に死んだだろ!』
「のろい、ねぇ」
「……!?」
「おい! 心を読まれてやがる! あのガキを早く殺せ!」
「了解───!!」
狼のような見た目の男が、ぼくを押し倒した。首筋に噛み付く。そのまま噛み千切られた。
痛い、が……触れてみると出血はない。噛みちぎられたぶんの肉を、変身を使って再生しながら身体強化を併用する。握力の強化だ。
狼男を、握りつぶした。
わりとあっさり潰すことができた。腕に力を入れるまでもなかった。ただ、蚊を押しつぶすような気軽さで、人の頭を潰すことができた。血が溢れて、解けた脳みそがこぼれて、ぼくを汚す。気持ち悪い。
「うん、よわいよわい」
つぶやきながら、今殺したばかりの死体の肩を噛みちぎり、飲み込む。再生でちょっと消費したぶんを、それで回復する。
「だーれーにーしーよーうーかーなー」
「……───!!」
伝わってくるのは、怯え。でもそんなの今更だろう。ぼくは、先程攻撃を仕掛けてきた男の頭を蹴り飛ばし、次の敵をどうするか考える。
そのとき、親分と呼ばれた男以外がばたばたと倒れていくのをみて、ぼくは首をかしげた。
「……これが供犠かな」
「味方を殺す個性じゃねぇか」
「というよりは、味方を殺してそのぶんの恩恵を自分が受ける個性だろう。あんまりほしい個性ではないかな」
そもそも盾なんか使わないしね、と先生は言った。
「それ、もう殺していいよ」
先生は冷たく言い放った。先生からのお言葉なので、せっかくなので自分の能力を最大限まで引き上げつつ戦うことにする。
「団員全員殺したぶんのパワーだぜ」
と、親分と呼ばれた男はぼくに言った。
「……今の俺は、だれにも負けねぇ」
瞬間、目にも留まらぬ速度で迫ってくる男。なんとなくの予測で直線機動のそれを回避し、視力の強化に少しばかり多くリソースを回して、背後から殴りかかってくる男を視認。
振られる腕を捕らえて、巻き取るようにしてその体を押し倒す。
「がっ……この……ッ!」
「せんせー、これ、たべていいんですよね」
「ああ、いいよ。食べなさい」
振りほどこうとする男だが、他の部分に回していたぶんの強化を力にまわして、まずは腕を引っこ抜く。暴れないように両腕だ。
次に、逃げられないように足を千切る───これは、ぼくだけではできないので、弔に手伝ってもらうことにする。膝あたりを触れた弔の個性で、両足が体から切り離される。
弔の崩壊は、発生部を切り落とさないかぎり続く。勝手に壊れられても困るので、足はさっさと食べることにした。食べようとして、まず壊れかけてる部分から口にしたが、不味かったので捨てた。さっきから響く懇願がうるさい。
「ぁ、あ、ああああぁぁ……やめてくれ……」
まだまだ可食部はありそうだったが、しかし弔の崩壊が回っている。これはもう手遅れかな、と思い、ぼくは彼の上から退いた。ゆっくりと下半身から塵になっていく男を眺めながら、ぼくはその肉を食んでいた。ざわめく雑音も既にない。それはこの中に、ぼくたち以外生きているものはいないことを示していた。
あっけなく男は塵になった。腕だけ残して消えていった。
男の腕を食べるぼくと、それを優しげな笑みで見守る弔に、先生が「帰ろう」と声をかけるのだった。
お口血だらけ
執筆の過程でなんども原作を読み直してますが、やっぱりおもしろいです。
キャラクター的に結構人を殺す描写とか多くなりますし、人を食う描写も増えますね。
似非ほのぼのはこういう話になるのが主かなって思ってつけました