狐ちゃん奮闘記   作:moti-

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第44話

 ヘリコプターが気丈に飛んでいる。そこから見えるのは……テレビのカメラだ。あんまり中継するようなことじゃないだろうが、なぜか中継されている。

 

 体を前方へと跳ね飛ばした。意識するまでもなく、ぼくの要望に応える体はそのまま目標地点へとぼくを連れて行く───うん、このボディでも戦える。前回は敗北したが、あれはまだ慣れてない体だったことも原因の中にあるのだ。だから、その体に慣れれば十全以上に戦える。

 

 とはいえ、早期に飛び出すような真似はしない。戦況を確認してからだ。少し戦地から離れた場所に座り、様子を伺った。緑谷くんはまるで鬼神の如く、大人数で囲っているのに全く引かずに立ち回っている……やはり恐ろしい。その戦闘力。やはりオールマイトの子供は尋常ではない。先生も苦戦するだろう。だからこそ()()()を用意してあるのだから。

 

「……強すぎない?」

 

 ぼくは、迫りくる(ヴィラン)を千切っては投げ千切っては投げ……と言った表現が似つかわしいほどの奮闘をする緑谷くんを見ながら、ふとつぶやいた。あれだけ強かっただろうか。荼毘があっさりと跳ね飛ばされそうになったのを、ジェントルが抑えた。どうやらラブラバの手助けも入っているようで、見せる戦闘力は普段のジェントルの比ではない。

 

 だがそんなジェントルを、緑谷くんは一瞬の隙をついて仕留めた。通常じゃあ考えつかないような踏み込みで、だ。それは荼毘が放った炎を直進して、そのままジェントルを殴り飛ばすという傷つくことを省みない戦い方。

 

 多くの人が躊躇するようなことを当たり前のように踏み越えてくるから、緑谷出久は恐ろしいのだ。殴りかかった新入り……マグネ、だったか? そいつの腹を貫通した拳を見て、ぼくはふと思ったのだった。

 

 殺すことに躊躇がない。それは美徳になりはしない。言ってて自分が悲しくなるが、それは事実だから仕方がない。

 

 とりあえず死者が出たのだ───ぼくは見物をやめ、戦地へと降りた。腹に穴が空いたマグネを治癒しながら、ぼくに対して殺意のままに殴りかかってくる緑谷くんに対応する。

 

 大振りの拳は釣りだろう。あえて誘いに乗ると、想像通り大きな一撃で潰しにきた。気づいているのだからそれに当たることはない。打ってきた拳をそのまま掴んで、反対の腕も掴む。巻き取るように空中へとぼくを打ち上げてきたから、そのまま回転するようにしてしっぽではじき出した。

 

「……助かったわ」

 

「ん。気をつけてね?」

 

「ええ、ありがとう」

 

 一応修復こそしたが、完治はさせていない。血まで作っているとぼくのほうが生命力不足で悩まされる。だからこそ、なるべく後方支援を頼むように言っておいた。

 

 素直に了承してくれたマグネが、前線から引いた。さて、どのように攻め込もうかと考えたとき、大きな炎が放たれた。緑谷くんを飲み込んだが、しかし全く効いていない。

 

 あの耐久力は卑怯だ。どうやって突破しようか、と考えて、弔が緑谷くんへと襲いかかった。触れるだけで殺せるのだ。なら、それをしない理由はない。一応いつでも修復できるように治癒を待機しつつ、緑谷くんが動きにくいように、弔の援護をする。

 

 だがそれも意味をなさない。まるで完璧に思考が2つに分かれているかのように、緑谷くんはそのすべてを片手ずつで往なす。

 

 完璧に戦闘のためだけに脳が進化しているような感覚。そこに、どことなく獣の面影を見た。

 

 しかし、()()()()()読める。獣であるというのなら───土俵は同じ。獣のぼくだからこそ、獣になりかけているように殺意を滾らせた緑谷くんの動きは読みやすい。

 

「死染───さん───っ!」

 

「緑谷くんは……いや、言わないよ。きみには言わない」

 

「ワン・フォー・オール」

 

 それは呟き。個性の出力がさらに上がる。衝撃波が連合メンバーを襲い、その背後の雄英の校舎を跡形もなく消し飛ばした。出力を増している。それも、尋常ではないほどに。だがその威力は代価を支払い得たものであり、その証拠に緑谷くんの右腕はもはや二度と元に戻ることはないだろうというほどにへし折れている。

 

 隻腕となった彼だが、未だその戦意は衰えていない。一体どれだけ体を壊してきたのか、腕が尋常ではない折れ方をしているというのに顔色一つ変えず、そしてその殺意を鈍らせることはない。その表情が感じさせるのは、痛みに対する『慣れ』だ。つまり、彼はこの程度の痛みならばもはや飽きるほど経験してきたのであろう。

 

 修羅、というべきか。全くなにもかもを捨ててしまえるほどの、自らを省みない戦い方は───そう、全て、ぼくの判断ミスのせいだ。もっと早期に殺しておけば、ここまで成長することはなかった。相手が恐ろしいから、敵対したくない? 自分がバカらしいと思える。そう思うのならもっと早く殺しておくべきだった。少なくとも、敵対した時点で反対を振り切ってでも殺すべきだった。

 

 人は力に惹かれる。なればこそ、茶味が緑谷くんに惹かれた理由もわかる。彼はどこまでも人を信頼しなかった。そしてヒーローを恨んでいた。だから、緑谷くんを見て、人の正義を踏み躙ってでも断罪できる者こそを求めたのだ。

 

 気持ちはわかる。緑谷くんは、あの時点ではひどくまっとうなヒーローで───それ故に、酷く残酷な人間だった。だから、そこに願いを求める理由が理解できる。絶対的な力で、彼の思う悪を言い訳ごと切り裂いてしまえる人間がほしかった。

 

 わかる。とてもわかる。

 

 ───なんというか、緑谷くんと弔は似ているのだろう。そして対極だ。

 

 それはある種残酷な対比だ。本来正義に座す緑谷くんこそが、正義にはなり切れないという事実を突きつけているのだから。

 

 弔は悪の帝王に拾われ、そしてぼくのために世界を犠牲にすることにした。

 

 緑谷くんはオールマイトに憧れ、そして世界のために誰かを犠牲にする。

 

 ステインの言っていたことがわかる。善も悪もなく、世界には無数の正義があり───相容れない者が、争う世界。

 

 世界のために誰かを犠牲にし、自らを犠牲にし続けた正義は今、こうして一人で戦っている。獣に堕ちてまで戦っている。

 

 だがどうか。連合という、弔が作った場所には仲間がいて、今こうして弔の正義のために……いや、思惑はあるだろうが、だがそのためを名目に掲げ戦っている。

 

 だからこその、残酷な対比。その差は何だったのだろうか?

 

「指導者の差───だね」

 

 と、ぼくの心を見透かしたかのようにぼくの頭を撫でる先生が言った。

 

「オールマイトは指導者として二流だった。だからこそ、弟子を今こうして戦わせているんだ」

 

 そして()()()()()()()()がぼくの頭を撫でる。

 

 そして先生は、ぼくを後ろへと放り投げた。

 

 ぼくをキャッチしたのは、トゥワイスという新しい仲間。そしてその側にいた少女と共に、緑谷くんが撒き散らす戦闘の余波から避けるように瓦礫の陰へと隠れる。

 

「なーんか一気に地獄に叩き込まれた気分です」

 

「……ナイスキャッチぃ」

 

「いやいやいやいや! こいつぁキツイぜ! 余裕だな!」

 

「緑谷くんがここまで強くなってるとか思わないよふつー」

 

「あのあの、ジョンちゃんでいいですか?」

 

「んー? そうだよ」

 

 話しかけてきた少女に返しながら、陰に隠れつつ戦闘を見る。……たしか、トガちゃんだったか? ……先生がいよいよ本格参戦してきた、ということは……事態はそれほどまでになっているのだろうか? いや、そういうわけでもない。たしかに先程から余波で雄英の敷地がどんどんと壊れているし、しかもそれが先日の戦いの比ではないほど壊れているが、だからといって先生が出る幕ではなかったはずだ。

 

 ……いや、そう思っているのは案外ぼくだけなのか? 緑谷くんがどんどんと獣になっているから、それに対してシンパシーを感じ取れているだけで……本当のところは、ぼく以外からするととんでもない脅威だったんじゃないだろうか?

 

「なぁに? トガちゃん」

 

「いや、いっつもこんな戦いしてたのかなって。命が幾つあっても足りませんよこんな戦い」

 

「んー……ここまで規模がでかいのは初めてかな。普段はもっとゆるーい戦いばっかりだよ」

 

「そうなんですねー。初陣がこれだとびっくりしちゃうです」

 

「この戦い怖いよな! いや全然!」

 

「……ここはあんまり狙われてないけど、向こう側は地獄みたいだね」

 

 緑谷くんの姿が正面にあるから、その右手側のぼくたちには攻撃が飛んでこない。だが左手側に隠れている仲間たちは攻撃の合間に狙われたりしているようだ。

 

「……先生が増えてるのはトゥワイスくんの個性だよね」

 

「ああ! 違うな!」

 

「えっ?」

 

「違わないぜ! 違うな!」

 

「どっち……?」

 

「違わないぜ! な!」

 

「あ、うん。よくわかった」

 

 先生を増やせるだなんてとんでもない個性だ。デメリットも当然あるだろうが、しかしこの利点はデメリットなんかものともしないほどのものがある。

 

 ……恐るべきは、先生二人を相手にして全く互角に渡り合う緑谷くんのほうか。右腕を失っているのに、むしろ失う前より動きがどんどん最適化されていっている。学習しているのだろう。やはり獣だ。その感覚は、ぼくにも覚えがある。

 

 だが緑谷くんは正義のために戦うのだろう? それに落ちるとどうなるのか、などということは考えなかったのだろうか。

 

 妬ましい。ぼくにないものを持っていたくせに、それを捨ててしまうような緑谷くんが。どうせ捨てるならそれをぼくによこせ、と言いたくなる。だがそんなみっともないことはしない。だって、睡さんが言ってくれたのだ。ぼくは『人』だ、と。根津校長が言ってくれたのだ。ぼくは『獣』であるが……だが、取り繕うことを知っている、と。

 

 だからぼくは、獣であることを肯定する。ぼくが獣であるからこそ───二人を糧にできるから。食べて、飲み込んで、それをぼくの力にする。二人はぼくの力になった。だから、ぼくが獣であることに恥じることはない。恐れることもない。そして、何に憚ることもない。

 

 ───先生の分身が消えた。緑谷くんの、確実に隙に差し込まれる攻撃に耐えきれなかったようだ。……いや、なによりも恐ろしいのは、分身を分身だと見抜いて先に撃破したことだ。それは観察眼によるものか、あるいは勘か。

 

 援護に出るべきか? 少し迷う。先生はどことなく、緑谷くんと戦うことを楽しんでいる節がある。だからこそその邪魔はしたくない。少し迷って、ぼくは動かないことにした。

 

 どうせ保険も仕込んでいるのだ。だから、敗北することはない。

 

 ひょっとすると、いくら緑谷くんが命を賭けて戦っても……それはなにも変えられないのかもしれない。

 

 それは悲しいな、と思った。戦いであれば必ず敗者が存在する───それに、緑谷くんはなってしまうのか。あるいは、連合のだれかがそうなるのか。

 

 ……かろうじて、連合に死者はない。ジェントルとラブラバは意識を失ったが、死んではいない。緑谷くんが本気で殺す気で放った拳を受けて生きているのだから、上出来だ。下手な(ヴィラン)ならば一撃で瞬殺されている。それの連打を堪えたのだ。あまり貶すことはない。

 

 新加入のMr.コンプレスは腕を押さえている。瓦礫に潰されたようだ。ぼくは隠れている瓦礫から左手側へと向かい、彼の手を治癒した。

 

 左手側には先程の二人を除いた全員がいる。それだけ左手側に戦力が固まっていたのだろう。あちらにいた二人は……まぁ、役割的には仕方ないところがあるので、仕方ないと言える。

 

「……マジで腕が治るのか。ありがとよ嬢ちゃん」

 

「ん。こっち側はあとどれだけの人が戦える?」

 

「気絶しちまったこの二人以外はいける」

 

 ぼくの問いには弔が答えた。緑谷くんと正面から戦っていたから、その体のダメージは相当なものだ。とりあえず治癒を掛けて、周囲を確認した。

 

(まと)が小さいのが怠いな。オールマイトくらいデカけりゃまだ戦いようはあるんだが、あのサイズだとどうしてもタイマンを強いられる」

 

「となると……ああ、荼毘は攻撃しづらいわけだ」

 

「……………………」

 

「事実だろうが、凹んでんじゃねぇ」

 

「凹んでねぇよ」

 

 ぼくにそう言われてむっとした荼毘が、弔に言われて言い返した。その返答からだいたいの感情を察せるのだが、そこはおいておく。

 

「……先生も、不利だな」

 

「リーダーが触れりゃあ殺せないわけではないだろ。それ狙いしかねぇな」

 

「そりゃあそうだが……捕らえるまでが厄介だろ。二人がかりでも捕まえれる気がしねぇ」

 

「……勝てねェわけではないが、勝つまでがしんどい、と。なかなか厄介な敵だな」

 

『……捕らえればいいんだよね』

 

 スイコちゃんが言った。マイペースにその体を伸ばしながら。

 

『一応策がないでもないよ。わたしは液体だしね』

 

「……絡め取るってことか? そんなので止まるのか?」

 

 コンプレスの質問は当然のものだ。ぼくはそう思った。だから、スイコちゃんに目をむける。

 

『止めれる』

 

 と、あっさりと彼女は言う。まるで当たり前であるかのように。

 

 まぁ、たしかに進化したスイコちゃんの個性の詳細をぼくは知らない。だからきっとできるのだろう。彼女はあまり嘘をつかないから。

 

「駄目だ」

 

 だが、彼女の意見を弔は却下した。なぜだ、というような目が全員分突き刺さる。その目を受けて、端的に弔は言った。

 

「死にたいだけだろ」

 

『……………………っ』

 

「俺の個性はちょっとずつ強くなっている。……だから、完璧にくっついているやつがいると一緒に崩壊させちまう。どこで勘付いたのかはわからんが、死なせはしない」

 

 弔が言うと、スイコちゃんは黙る。

 

 そういえば、ぼくはスイコちゃんの治癒を試したことがなかった。くっついている状態の彼女だけを治すことができるのだろうか? ……わからないが、そのためにわざわざリスクを背負って検証する気にはなれない。

 

 弔は、緑谷くんを見る。その視線の先で、戦いは既に終わっていた。

 

 先生が、倒れている。

 

 緑谷くんに負けたのだろう。先生は倒れ、それを見下ろす緑谷くんは次の獲物───すなわちぼくたちに目を向けている。

 

「……ふ、ふふふ……やられるとは思わなかったよ。オールマイトより遥かに強い」

 

「……それで?」

 

 先生が話しだした。それにより、緑谷くんの視線は先生の方向へと向けられる。

 

「……オールマイトより強い。それは明らかだ。だから万全以上の用意をしたんだが……それでも敵わなかった」

 

「……なにかあるんなら早く」

 

「そうか。ならそうするとしよう」

 

 先生はなにかのスイッチを押すかのように、指を動かした。

 

 ───直後、巨大な爆発が()()起きて、東京の街を飲み込んでいく。

 

 それはまるで地獄のようで、外部から見ればきれいな花火のようであった。方角から緑谷くんはなにかを悟ったのか、その体を震わせている。そんな緑谷くんに、先生は言った。

 

 

 

「緑谷引子、爆豪勝己の二人を爆弾にさせてもらった」

 

 

 

 にこやかに先生は言う。表情のない緑谷くんを見て、先生は笑った。そして、個性の詳細を語り始める。

 

「『液体を爆弾にする個性』───世界を探せば、いろんな個性がある。これはあるテロリストから奪った個性なんだが、人の血も爆弾に変えることができてね。だからこの間そうしておいた。……ああ、そういえば麗日お茶子にもそうしたかな? 彼女の死体も一緒に大爆発だ。喜ばしい。死体すら残らずめでたくこの世からの消滅だ」

 

「……………………」

 

「ところでどう思う? あの街には君の勝利を固唾を呑んで見守る多くの人がいたと思うけど……あの爆発で、その人達はどうなったと思う?」

 

 先生はそう問いかける。その答えはわかり切っている。マグネさん、トカゲ顔の男……スピナーが少し微妙な表情をしていた。向こうではトゥワイスがそんな顔をしている。

 

 まぁ、たしかにエグいなぁ、とは思う。だが今更こんなことで躊躇しているような精神ではない。全員それを見てその程度の反応しかないのだから、立派な(ヴィラン)たちだなぁ、と思った。

 

「そう」

 

 緑谷くんは端的に言った。そして先生の頭を掴む。

 

「なら死ねよ、もう」

 

 そのまま力が込められていく。頭が割られることは想像できていた。だからぼくは飛び出す。緑谷くんを蹴り飛ばし、その姿を先生から引き剥がす。

 

「……ごめん、助かったよ」

 

「どういたしまして! ……先生は逃げて!」

 

「いや、まだたたか───」

 

 言葉の途中に黒霧がワープゲートで無理やり後退させた。

 

「差し出がましい真似をして申し訳ございません。ですが、今ここであなたを失うのはまずいと判断しました」

 

「……まぁ、いいよ」

 

 ぼくは体の強化を最大まで引き上げた。緑谷くんはどうせ最大を容易に超えてくるんだろう。ならば、ぼくも限界を超えるほど生命力をつぎ込む。

 

「邪魔しないでよ」

 

 獣のように妖しく揺れる瞳が、ぼくに殺意を向けた。そしてぼくへと向かって走ってくる。なんとなく、獣という一部分でのシンパシーで相手が放ってくる攻撃を予想できた。そして回避行動に移る。

 

 だが相手も同じくそれを読んでいたのか、あるいは察知したのか回避潰しをしてくる。ひっかくようにぼくの目を抉りにきたそれを少し後退して回避し、そのまま空いている腹へと向けて拳を放った。

 

 それは緑谷くんの腹を貫通し、大地に赤い大輪を咲かせる。

 

 そして腹に拳が刺さったまま、緑谷くんはぼくの頭を吹き飛ばした。

 

 蘇生が始まる。頭を再生しながら、ぼくは緑谷くんから拳を引き抜く。まだ生命力に余裕はある。だが、補給できるならばしておいたほうがいい。べったりと手に付く血を口にたらし、僅かに付着した肉の破片を飲み込み、生命力を回復させる。

 

「獣だ」

 

 緑谷くんは静かに呟いた。

 

「……そういえば、死染さんは……僕の腕を食べて、そこから格段と力が強くなった。ヒーローには救えないって言葉と、今の光景と、その二つを照らし合わせたらわかる。そうだ。そういうことだったのか」

 

 そういえば、ぶつぶつとつぶやく癖があったんだったか。久しぶりに聞いたなぁ、と思いながら、緑谷くんがぼくを見る目に若干の嫌悪が混じっているのを察する。

 

「死染さんは、人を食べないといけないんだね」

 

「うん、正解。みんなそこまでよくわかるね?」

 

 と、言って、せっかくなのでぼくはあの質問をすることにする。ただ、ぼくにはもう答えが出ている。だからこそ、その問に悲観はない。ただ質問として、単純な疑問として質問する。

 

「───ぼくは人? それとも獣?」

 

「化物だ」

 

 緑谷くんは嫌悪を隠そうともせずに答える。

 

「人を殺して食べるなんて、そんなのはもう人じゃない。だから僕は戦う。そして君を殺す」

 

 緑谷くんはぼくを今この瞬間、なによりも嫌悪していた。憎々しげに、ひょっとしたら先生よりも恨めしいのではないかというほどに睨んでいた。きっと彼の目にはぼく以外見えていない。だからこそ、今から始まるのはぼくと彼との戦いだ。背後に目をやる。手出し無用の意を込めた。それを見て、弔はそのまま受け入れた。静観するように座り込んだままだ。

 

 緑谷くんは嫌悪の念をこれっぽっちも隠さない。

 

 その嫌悪はきっと、同族嫌悪のそれだった。




 次回でたぶんラストバトルです。

 人であることを捨てた獣と人であろうとした獣の戦いです。
 こう書くと後者が善側のように見えますが実際は逆です。

 追記
 執筆してたデータふっとびました
 更新遅れてます
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