狐ちゃん奮闘記   作:moti-

5 / 46
第5話

「そういえばお前さァ、首噛まれてなかった?」

 

「かまれたね」

 

「というか千切られてたよな」

 

「ちぎられたね」

 

「……痛くないか?」

 

「へんしんでなおした」

 

「やっぱチートだ、その能力」

 

 まぁ手札が強いのはいいことだ、と弔。

 

 褒められた。

 

 最近の弔は上機嫌だ。なにが楽しいのか、よく鼻歌なんかを歌っていたりもする。だいたいがゲームミュージックなあたり、弔の環境を感じさせるものがある。

 

 弔はゲーム以外の娯楽を知らない。それがいいことなのか、わるいことなのかはわからない。けれど先生がそのような環境をよしとしているのだから、それはいいことなのかもしれない。

 

 弔はテレビを見ない。それをなによりも嫌っている。どいつもこいつも気味悪い報道ばっかだから、とぼくは前に聞いたことがある。

 

 弔は娯楽を解さない。楽しいこと、好きなこと。それを問うとゲームと答えるんだろうが、それ以外の娯楽を知らない。あるいは興味ない。

 

 だから、いろんなことを楽しんでしまう裏の世界の支配者───先生の後継になる、なんていう理想を胸の内に抱えている、ということはぼくは弔から聞いている。その行為を楽しんでいるし、それによって生み出されるだろう犠牲のそのすべての命を奪うことを楽しみにしている。

 

 ぼくはそれが弔のやりたいことだ、と知っているから、何もいうつもりはない。弔から誘われるならそれを手伝うつもりだ。それが間違っているとしても、ぼくは弔の味方をするつもりだ。

 

 とはいえ、今消費できる娯楽がゲームだけでいいのか?

 

 もっと他にもなにか楽しめるものがあるんじゃないのか?

 

 と、いうことでぼくは弔の趣味にできそうなことを探すこととなった。

 

 

 

 

 今すでに趣味としていることがあるかもしれないので、疑問という(てい)を装って、聞き出すことにする。

 

「ねぇとむらー、げーむいがいにすきなことってない?」

 

「……ゲーム以外か。……ねェな。あ、一つある」

 

「え! なに!?」

 

「お前で遊ぶこと」

 

「えー!? ひどいひどいひどいよとむらぁ」

 

「お前が最初に言ったんだろうが」

 

 そういえば、そんなことを言ったような覚えもある。

 

 根に持ってたのか……。

 

「えー? ほんとになにもないの? おんがくとかきかない?」

 

「音楽とか時間の無駄じゃねぇか」

 

「げーむは?」

 

「楽しい」

 

「じゃあえいがとかみないの?」

 

「ヒーローが評価されるクソB級しかねェだろ制作会社全部潰れろ」

 

 荒んでおられる。

 

 と、こんな感じで見事に弔は好きなことがない。ほんとはあるのかもしれないけど、それはわからない。ぼくの個性じゃあ弔の心の中を覗くまで足りないのだ。

 

 暇が有り余っているので、弔の心を読めるようにするのが一番早いのかもしれない。

 

 となると───【個性】の訓練の時間かな。

 

「とむら! しょうぶしよ!」

 

「んー……何の?」

 

「げーむ」

 

「ああ……お前、アレ好きなのな」

 

「とむらにまけてることにはらがたつ」

 

「おいお前先生に与えられてるジョブ的には俺のが兄だぞ敬えよ」

 

「おにいちゃん」

 

「やめてくれ鳥肌物だ」

 

「どうしろっていうの!」

 

 理不尽じゃないか。

 

「……折角だ。対戦して負けたほうが勝ったほうの言うことを聞くなんてのはどうだ」

 

「え、なにきゅうにこわいよ」

 

「いや……普通に戦うってのも退屈だ。せめて罰ゲームくらい用意しようぜ」

 

「どうするの? まけるたびにぬぐ?」

 

「んな野球拳みたいなことしねェよ脱ぎたくないし」

 

「え? とむら、ひょっとしてぼくにまけるのがこわいの? ひょっとしてとむらってよわよわさんなの?」

 

「上等じゃねぇか」

 

 と、いうことで負ける度に服を脱いでいくというルールで勝負が開始されたのだった。

 

 

 

「……………………」

 

「煽っといて負けんなよ」

 

「まだいちまいだけだもん」

 

「全部合わせて5枚しか着てないだろ? 一枚って問題でしかねぇじゃん」

 

「なんでしってるの」

 

 ぼくの問いに、弔は黙ってキャラを選択した。

 

「なんでしってるの」

 

「あのゲーム、キャラが脱ぐシーンあるんだよ」

 

「へぇー」

 

「なんだよ」

 

「弔ってそんな趣味?」

 

「ゲーム性で買ったっつってるじゃねぇか先生みたいな勘違いしてんじゃねぇ」

 

 わりと本気っぽいので、ぼくはそれ以上追求しなかった。

 

 とりあえず、約束は約束だ。一枚脱ぐ。パーカーを脱いで、放り投げた。

 

 へそ出しTシャツである。

 

 この下はブラジャーなので、なるべく死守したいところである。と、いうことで弔にガチガチの対策を決めるためにいつものように、リーチの長い剣士を選択するのだった。

 

 対戦開始。

 

 なんでぼくが脱がないといけないのだ。弔が脱げ。そういう思いを燃料にして、ぼくは視力を強化する。

 

 弔は、基本的に無駄な動きをしない。さらにフェイントが上手だし、戦闘中に相手の癖を暴いてそこを殴ってくる。コンボもどこまでならば繋がるか、などを把握してるし、いうなら単純に強い。

 

 ぼくが目を強化してるのに気づいたのか、弔は確定コンボを主な火力ソースとして振ってくる。普段はもっと大胆に技を振ってくるし、妨害を撒いてくるが、今はそういうのを抜きに堅実に殴ってくる。

 

 だんだんと撃墜圏内に近づいていることを悟って、ぼくは少しだけ焦った。とはいえ、相手も意外と削れているし、こっちは撃墜力が高いキャラだ。ふっ飛ばしに優れているのだから、ダメージが近いということはぼくのほうが若干優位に立てているということでもある。

 

 最悪、こっちは道連れができるので勝ち筋は全然ある。とはいえこのペース、少しでも気を緩めると負けそうだ。ガードをキャンセルして投げ、弔が焦って空中回避をした。取れる、と判断し、咄嗟に横振りを入力する。弔のキャラクターがふっ飛ばされ、撃墜された。

 

「あークソッ、プレミした……!」

 

「あーこれはかったかなーとむらのみすのおかげでー」

 

「うっわうぜぇ」

 

 降りてきた弔が上投げから下必殺技でコンボを決めてぼくのキャラは死んだ。

 

「あっれ!? おっかしいなぁこっちがプレミしたのに何故かイーブンだなぁどういうことだろうなはははははははははッ!!」

 

「むぐぐぅ……!」

 

 結果発表、負けました。

 

 

 

「いやあの、別に脱ぎたくなければ脱がなくていいんだぞ」

 

 服を脱ぎ捨てようとしたぼくに、弔は今更ながらそう言った。ちょっと困惑する。いや、別にぼくは脱いでも構わないんだけど。むしろ裸のほうが落ち着く。

 

 この間先生に諭されたけど別に弔相手にだったら見せて全然問題ないと思うし、別に脱ぐくらいだったらいいでしょと思う。

 

 と、いうことで脱いだ。

 

「……………………」

 

 は、いいのだけれど。

 

 造型の際に服の下の部分までは見ることができていなかったので、なんというか、マネキンのような体だ。これ、あんまり見せておくのも気持ち悪いなぁ、と思ってぼくは服を着た。

 

 弔からはなにも言われなかった。

 

 

 

 

 弔の好きなことを思いつかなかったぼくは、折角なのでこの家の、違う部屋にいるドクターを尋ねることにした。ぼくに配慮してなのかはわからないけど、かわいらしい木の看板にこれまたかわいらしい飾り付けで『どくたぁの部屋』と書かれている。

 

 その扉をノックした。

 

『……誰じゃ』

 

「あ、ぼくです。じょん・どぅ」

 

『ほほぅ!』

 

 がちゃり、と扉が開き、その中へと引きずり込まれた。ちょっと強引にひっぱられたため、少しよろける。

 

 部屋のなかはとても暗く、そして広い。あちらこちらに薬品や機材が置いてあって、いかにも研究室といった容貌をしている。

 

 座った椅子が勝手に移動しているのを見て、どういう技術なのだろう、と疑問に思った。

 

「……それで、どういった要件じゃ?」

 

「あー、えと。とむらのすきなことってなにかなぁっておもいまして」

 

「死柄木の好きなことか……そうだな。好きなこととは違うが、あいつは誰かとの()()()()に飢えておるだろうな」

 

「……どういうことです?」

 

「そうか。お前さんは知らんのか。ならば教えてやろう。死柄木弔はその個性から、()()()()()()()()()()のじゃよ。握手した者すべてを塵にしてしまう、あの子供は……の」

 

「え?」

 

「死柄木の個性は『崩壊』。掌、あの五指に捕らえられたものは例外なく粉々にされる。そういう個性じゃ。死柄木本人にも制御はつかん。そういう個性の影響もあり、あいつには愛を注いでくれる人間がいなかった」

 

「……………………」

 

「あいつは、愛に飢えているだろうよ。なによりも望んでいるだろうことじゃ」

 

「……………………」

 

 なるほど。ぼくは一つ、納得する。なんだかんだ弔がぼくを受け入れてくれていた理由も。弔があれだけ先生を尊敬している理由も。世界に対する苛立ちも、嫌気も。

 

 そのすべての理由がわかるような気がした。

 

「……どくたー」

 

「ん? なんじゃ?」

 

「……ぼくを」

 

 やっぱり、自分の口から言うのは恥ずかしい。けれど弔のためだ。ぼく個人の感傷や感情なんて捨て置いて、吐き出してしまえ。言ってしまえ。

 

「ぼくを、おんなにしてください!」

 

 その言葉に、ドクターが少し困惑したような気がした。

 

 

 

 

「……あー、すまん。ジョンよ。おまえはメスだったのか?」

 

「? いえ、おすですけど」

 

「ならばなぜ女になどと?」

 

「え? おとこのひとっておんながすきなんじゃないんですか?」

 

「……いや、別に生まれ持っての性別を捨て去ってまで女になる必要はないじゃろうに」

 

「でもおとこのひとっておんなのひとがすきですよね?」

 

「それは否定せんがな」

 

「とむらもたぶんおんなのひとがすきです」

 

「それはどうかわからんがな」

 

「ならぼくもとむらがうけいれやすいからだのほうがいいでしょう。つまりおんなになったほうがいい」

 

「その場合受け入れるのはお前のほうじゃがのう」

 

 どういう意味だろう。

 

 とはいえ、ぼくの理論は間違ってないはずだ。わざわざキャラクターが着てる服の枚数まで覚えていたし、きっとそれだけぼくが変身したキャラが好きだったんだろう。

 

 最初はなんとなくで変身したが、今ではこの姿に変身して正解だったと思う。

 

「ふぅむ……しかし……よし。折角じゃ! ワシの学術的興味も含め、お前を女にする手伝いをしてやろう!」

 

「わーい!」

 

 やったぁ。

 

「ということじゃ。まずはその変身の精度を確かめる。服を脱げ」

 

「はーい」

 

 服を全部脱ぎ捨てる。その服はドクターがすべて回収した。ぼくの変身でできたものだから、その性質を確かめたいとのこと。

 

 なるほど。

 

 ドクターに招かれるままに、寝台の上に寝かされる。ぼくの体を観察しているドクターは、それだけで見て取れるものを指摘した。

 

「なんというか……細部というか、服に隠れている部分の作りが甘いの」

 

「……じかくしてます」

 

「例えば肌自体はよくできておる。声のできもいい。ゲームキャラを基にしているのなら、そのキャラの声が地声になる声帯を作り上げたということか。判断材料さえあれば、ある程度アバウトでも作れるようじゃのう」

 

 問題は、と言って、特にぼくが造型のわからなかった性器の部分と、胸の部分を指した。

 

「なんというか……ここに関しては人の形ですらないからの。そもそも性器に当たる部分が存在しておらん。……直接的な外見に影響しておらんし、別にそこはいいんじゃがな。」

 

 ドクターは次に、ぼくの体を触って内部の構造を確かめ始める。

 

「……ふむ。どうしてこれで生命維持ができているのかわからん」

 

「さじをなげた!?」

 

「いや、これどう考えても内臓作られてないしの。声帯、あると思ったら体の中にないし。どうやって喋っておるんじゃ」

 

「えーと……きあい?」

 

「それで喋れたら盲目だって気合で治るわ」

 

 総評、と言って、ドクターはぼくの作った体の問題点を指摘した。

 

「見えない部分の作り込みが甘い」

 

「……だってわからないんだもん」

 

「まぁまぁ。それを勉強するのじゃ。特に、女になるというのなら今作りこみの甘い2つの部分をしっかりすることじゃな。そもそも存在しておらんもん」

 

 マネキンみたいな体を見て、ぼくは小さくため息を吐いた。

 

「さて、ここからはワシの純粋な興味じゃが……頼みがある」

 

 と、ドクターはぼくに言ってくる。わざわざ改善点を指摘してくれたドクターの頼みをぼくが断るわけがない。その頼みに、「任せてください」と返事をする。

 

「オール・フォー・ワンから『首を噛み千切られても血を流さなかった』と聞いてのぉ……その体がどうなっているのか、確かめたいのじゃ!」

 

 

 

 

 ゆっくりと揺すぶられる感覚で、ぼくは意識を取り戻す。やけにお腹が空いた。異常だ。危うくドクターにすら襲いかかるところだった。死ぬ。飢餓感に殺される。そんなぼくに、何故か少し焦りながらドクターは肉を差し出してきた。

 

 たっぷりと食べながら、事情を聞く。なんせほとんどすべて記憶が飛んでしまっているのだ。どういうことなのか、教えてもらわなければ。

 

「いやぁ、すまん。少し張り切りすぎた」

 

 と、笑うのはドクター。映像を撮っていたのか、ぼくにそれを見せてくる。

 

 ある液体をかけられた画面の向こうのぼくが()()()()()。ぐずぐずと溶けていくように、ぼくの形が崩れて壊れる。あっという間に跡形もなくなったあとに、ゆっくりとその体が逆再生のように作り直されていった。

 

「…………どくたー」

 

「悪かったと言っておろう! 悪かった! 死んだらワシの首が飛ぶからの。危うかったわい」

 

 とはいえ、とドクターは続ける。

 

「ジョンは生命力さえあれば、たとえ跡形もなく消え去ってもその体を再生することができるということじゃな。つまり、実質的に生命力が切れるまでは()()()()()()

 

「……ふーん。あ、じゃあとむらのてもにぎれるね」

 

「毎回握るたびに粉々になるのは大変じゃろ。一つだけ実験に付き合ってくれ。うまく行けば、おまえの望み通り死柄木と自由に握手ができるぞ」

 

 と、いうドクターの言葉に乗せられて、ぼくは再び寝台に寝転がった。

 

 ドクターが言ったとおりに、自己治癒能力を、できうる限り全力で発動する。その状態で、ドクターがぼくに薬をかけた。

 

 ……とてもあついし痛いが、先程とは違い溶けた瞬間に再生する。なるほど、たしかにこれならば弔に触れられても問題なさそうだ。

 

「……実験は成功じゃ! いやぁよかった! こうまで良質な実験体を確保できるとはのう!」

 

「とむらとあくしゅしてもだいじょうぶですか」

 

「ああ、全然問題ないだろうよ。再生力が高すぎて、死柄木の個性じゃあ敵わんだろう」

 

「やったー! どくたー、ありがとうございます!」

 

「こっちもいいデータが採れたからの、ウィンウィンじゃよ。……今度なにかの実験があるときに、協力してもらってもいいかの?」

 

「あ、はい。それはぜんぜん」

 

 やっほい、と腕を振り上げるドクターに送り出されつつ、ぼくは部屋を出ていったのだった。

 

 

 

 

「とむらー! とむらとむらとむらとむらとーむらー!!」

 

「うるせェ! 聞こえてるんだよ……!」

 

「こっちむいてとーむらっ!」

 

 ぼくのお願いに顔を背けた弔の手を引っ張る。手袋なんてつけていない、むき出しの腕だ。ぼくは、それを治癒能力を引き上げたうえで、握りしめた。

 

「…………───ッ!?」

 

 弔は、わかりやすく焦った。そうして手を引き剥がそうとする。そうはさせない。少しだけ自分の力を強化して、弔の手を離さないようにした。

 

「……ッな、なんで……」

 

「はなさないもん」

 

 とはいえ、強引に掴んでいるのはぼくとしてちょっと許しがたい。しっかり、手と手を絡めて、握手の形に整形し直す。

 

「これであくしゅだね」

 

「───お前……」

 

「ぼくはさわってもこわれないからさ。とむら、ぼくにはおびえないでいいんだよ?」

 

「…………───ッ!」

 

 弔は、少しだけ涙目になりながら大きく息を吐く。緊張も一緒に吐息に溶かして、ゆっくりと───とても優しい笑みを、浮かべたのだった。




 個性が強すぎるなと思いましたが、蘇生後に人が多い所にいたら秒で衰弱死するくらいのデメリットを用意したらいいかなって……

 弔と握手をするために必要なMP量はわりと多いです。頻繁にやってたら二時間と保ちません。おやつ感覚で人の肉を食う必要があります。現在は食事の確保が安定しているのでデメリットが小さく見えますが、頑張ってデメリットを大きいように描きたいなぁ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。