パソコンのモニターに向かい合っている弔が、「はぁ」と息を吐き出した。
夏の暑さに頭をやられているぼくは、アイスを口に咥えたまま弔の方を見た。
このアイスはぼくが外から買ってきたものだ。弔の外出許可が下りたから、ときどき外に出て嗜好品を集めている。
さてそんなぼくを弔はなんとなく察知したのか、振り返ることすらなくモニターを指した。気になってぼくもモニターに視線をやる。
『本物か!? 有名RPGゲームのアノキャラに似てる少女が話題に』
「……え、なにこれ」
「だから外に出したくなかったんだ……」
そこには、ぼくの写真が載せられていた。
ウェブサイトに書かれている文面を見ると、ぼくの写真をこっそり撮って、SNSに掲載した人がいるらしい。その人のつぶやきが拡散され、ネットニュースに取り上げられるくらいの出来事になっていた、ということだろう。
業界用語では、これを『バズる』と呼ぶらしい。
「……と、とむらぁ。どうしよう……」
「変身で違う見た目になればいいんじゃないのか?」
「今更言われても、これがもうぼくの姿だよぅ……」
「あー……馴染んだ、ってやつか。たしかに何年もずっとこの姿だったしな」
ぼくの頭を撫でながら、弔は唸る。
PCを操作し、キャラクターの画像を画面に広げた。
「うーん……別のキャラにするっていっても、同じことが起こらないとは限らないしな」
「どうしたらいいの?」
「……あーもう! 泣くなって……! くそっ、こういうときどうしたらいいんだ!?」
「とむらぁ……」
撫でる速度が加速した。
ぼくは今までずっとこの姿だったのだ。今更変えろと言われても、失敗するイメージしかない。そしてそのイメージがぼくの変身の成功率を極限まで引き下げていた。
「ぅっ、うぅ、ぅううぅぅう……」
「あー! だから泣くんじゃねぇ! ……っ、こうなったら……他の奴の手を借りるか」
「……え? どうやって……?」
「こうやってだよ」
と、言って弔はパソコンを操作する。タイピング音が部屋の中に響いた。操作は終わり、ほっぺをつままれながらぼくは画面に表示されている文字を読んだ。
【自由に変身できる狐にどんな姿をさせたい?】
1 名無し
どうする?
版権モノなしで
「えっと……なにこれ?」
「掲示板だよ。社会の底辺が
弔がページを更新すると、すでにコメントがいくつも寄せられている。それを読んでいくと、このように書かれている。
2 名無し
版権ナシ? はーつっかえ
和風ロリかな
3 名無し
耳と尻尾は必須
これは譲れない
4 名無し
なんかこう、絶妙にドレスが似合う感じの……
5 名無し
和風ロリっつってんだろ!!!!!!!
6 名無し
うるせぇ!! 狐=和風のじゃロリババアとか安直に考えるからテメーは駄目なんだよ!
7 名無し
はー? はー? 俺全然駄目じゃないんですけど?? ちょっと何言ってるかわかりませんねそのからっぽの頭の中にタバスコ突っ込んでやろうか貴様
8 名無し
落ち着け
和風やロリである必要はないだろう?
9 名無し
貴様……まさか……
10 名無し
…………………………。
11 名無し
そう───全裸パーカーが似合う茶色短髪の髪ぼさな常時ジト目な気怠げ美少女
12 名無し
性癖の告白いただきましたー
13 名無し
茶髪にするくらいなら金髪でよくね?
14 名無し
バカ野郎髪ぼさが金髪で映えるかアホ
黒か茶色だよ
「とむら、じと目ってなに?」
「じとーっとした目だ」
弔は検索して、キャラの画像をぼくに見せる。なるほど、これがジト目というのか。……ちょっとだけ想像できたような気がする。
そういえば、大前提として語られていることがある。
「とむらはぼくの耳としっぽがあったほうがいい?」
そう、このコメントを寄せている人は全員、なぜか耳としっぽがあることを共通認識としている。そのことについて、不思議でぼくは弔に聞いてみた。
「…………別になくてもいい」
と、多少迷うような響きがあったのでおそらくあったほうがいいのだろう。あとは……茶髪で、髪を短く、ぼさぼさに。
「……なんというか、これならかんたんに設定できそう」
「お、まじか」
まじなのだ。
頭の中でイメージが固定して離れないのだから、体つきなどは今のままでもいいだろう。なので、体格は大きくかわらない───これは、ぼくにとって非常に助かるポイントである。
ぼくは体を大きく変えることが、きっとできないだろうからだ。ぼくの人としての姿は今のままで固定されてるわけで、あんまり大きく変えると頭のなかでこんがらがって口が鼻になるなどの不具合が起きるだろう。
しかし今の体をベースにし、ちょっとした飾りだけ変えるのならば意外とすぐにイメージできる。
要望のように、目を少しだけジト目にして、髪の毛は茶色に、そして短くイメージする───耳としっぽは、自分の元の体のものを投影し、これで大まかなイメージが完成した。
あんまり整形もしてないから、これならすぐに呼び戻せそうだ。
早速ぼくはイメージの姿に変身する。ごっそりと生命力のようなものが、削られた感覚。突然お腹が空くような感覚がした。
目を開いて、自分の体の中を走る触覚に新しいものが増えていることに気づく。耳と、しっぽ。成功だろう。ぼくは目を開き、少し驚いている弔を見た。
「こういうことだよねっ!」
「ああ……いや、お前はそれでいいのか?」
「とむらがこれでいいならこれがいい」
「ああ、俺は別にいいんだけど……なんだかなぁ」
手招きされる。ぼくは誘導されたとおりに、弔の膝に座った。
弔の手がぼくのしっぽを掴む。
「わぅひゃっ!?」
「うおっ……」
「……ごめん……」
「いや、こっちもすまん。創作物じゃあ尻尾は敏感って言われるが……その通りなのな。耳は?」
「ぁう、ふぁひっ」
「こっちもか」
「……大丈夫だよ?」
「嘘つけ」
「ひゅっ!?」
ヤバい。
想像以上に触られるのが気持ちいい。
これは弔の撫でるのが上手なのか、それとも単純にぼくが触られ慣れてないからなのか……どっちなのだろう。
わからないけど、ぼくのしっぽをわさわさとして撫でる弔はどことなく楽しそうだったから、ぼくはなんとか声を抑えるのだった。
「……ん……」
目を覚ます。しっぽに触れている感触がある。朝一番だというのに、それで目が冴えてしまった。荒く息を吐き出して、なんとか平静を保とうとする。
「───っひゃっ……っ」
しっぽが撫ぜられる。駄目だ、これ。どれだけ長々と触れられていたのかはわからないが、かなりお腹も減ってきている。これはまずい。早く振りほどかないと。しっぽを振り、僕は弔の手を剥がす。
そして冷蔵庫に直行した。
「ん───……なんだ?」
人の腕を食べているぼくに、寝起きの弔が聞いてきた。
「だれかさんが人のしっぽを触るからだよっ」
「……すまん」
「そんなに触りたいならもっとかしこまってぼくにお願いするべきじゃないかな」
「調子に乗るな」
「えへへ、ごめん」
弔のほうへと向かう。人の腕はかんたんに食べられるから、基本的に弔の近くで食べることにしている。
冷房が効いた部屋の、弔の布団の中に忍び込んだ。
「ふぁ……あったかいねぇ」
「……………………」
食事を終え、弔の枕を借りて横で寝ることにした。弔の腕を絡め取り、足の間に挟むことで人肌の暖かさも確保する。
ちょっと寒いくらいの冷房だから、このくらいがちょうど温かいのだ。
満足である。
「おい」
「んふふ……だめかな?」
「せっかく起きたんだしもったいないだろ」
「でもとむら、毎日午前中はほとんど寝てるじゃん。まだ朝早いし、一緒に寝ようよ」
「寝てるときにお前の生命力が足りなくなったらどうするんだよ」
「うーん……とむら、調整がんばって!」
「はァ!? 俺に丸投げかよ……まったく」
んふふ。
弔の首に手を回して、引っ張った。抵抗はなく、ぼくの腕の中に弔が収まる。同時に弔がぼくの背中に手を回す。お互いがお互いを包み込んでいる。
あったかくて、ぼくは目を瞑った。そのまま意識が落ちていく。
「……これじゃ、寝れねぇよ」
弔の声が、聞こえた、気がして……。
容姿変更
おみみとしっぽが生えました
主人公側にTSの意識はそんなにないけどそのうち意識しだすんだろうなぁ……っておもってるのできっかけがほしいですね……
文字数少なくてすみません 明日からは普段の分量に戻せると思います