吐息を空に重ねる───空気は心地よい。夏は過ぎ去り、気づけば過ごしやすい毎日で、冷房も切れた。
快温。
気温を示す言葉としてどうなのかはわからないが───しかし、それが今の季節を表すのに一番いいような気がした。
秋である。
木々は彩りを増し、日々は急くように暑い日々から涼しい日々へと移り変わっていく。
……なんというか、完全に飼いならされているような気分がして、弔が出かけている間に先生に電話を掛けたのだった。
『どうしたんだい』
1コールで出た先生に、ぼくは自分の悩みを打ち明けようとする。その際に言葉を少しだけ考えた。しかしそれも一瞬。告げる言葉はすぐに決まる。
「先生、ぼくは最近まったく運動してないです」
『うん……うん? それがどうしたのかね?』
「弱くなった気がします」
『ああ、それは安心しなさい。君の戦い方は個性依存だし、戦闘力が衰えるということはないだろう』
「だめギツネです」
『そう卑下することはない。むしろ君は強くなっているはずだ』
「……え?」
困惑するぼくに、先生は言って聞かせる。
『個性は成長するものなんだ。君は個性を毎日使っているだろう? だからこそ、君の個性は昔よりも強くなっている───ずっと、ずっとだ』
「えーと……全然そんな実感ないですよ?」
『自分の体のことは自分で案外気づけないものだ。弔から聞いているよ。半日で限界が来ていた治癒も、まるまる一日掛けっぱなしにできるようようになったみたいじゃないか』
たしかに、言われてみると弔と触れ合う時間は増えている。
しかしそれはぼくに触れるとき、弔が手加減をしてくれてたものだと思っていたのだが……実際、最初に比べて弔の崩壊の速度は遅くなってるし。
そうなると、それはぼくの成果というより弔の成果なんじゃないだろうか?
『心当たりはあるだろう? 君の個性が伸びているという、その実感も』
「……えと……はい。でもあれは、とむらが手加減してるからだと思うんですけど」
『弔が手加減している、ということは間違いないだろうさ。けれど、だからといって君の個性が成長してないというわけにはならないよ。……なんだったら、試してみるかい?』
「えっ?」
『次の弔の仕事についていくといい。基本的に
「…………」
『嫌かい?』
「いえっ、がんばります!」
ぼくは両手を持ち上げて、やる気アピールをした。画面の向こうで先生が笑っている。
『仕事の仲間には弔以外にももうひとりいる』
「……だれです?」
『君も会ったことがあるだろう。運び屋さ』
「……ああ! あのひと」
覚えている。霧みたいな人だ。ワープゲートだったはず。
『彼とは長い付き合いになるだろうから、仲良くしておくんだ』
「はい!」
ぼくは笑って頷いた。
ということを知らせると弔が首を掻いてぼくの顔を引っ張ってきたが、そんなことはさておき。
先生に指定された場所へとぼくと弔は向かっていた。そこで運び屋さんと待ち合わせ、そこからさらに移動するらしい。
先生から下されたオーダーは、小規模な反社会勢力のトップを生け捕りにすること。なんでも個性が強いらしい。
最近なにかを企んでいるらしいから、そこからリーダーの個性が判明したとのこと。
「個性は【纏雷】。雷を纏う個性らしい。俺らのような近接タイプには少しキツイが……まぁ、なんとかなるだろ」
「先生はいい個性を見るとほしくなっちゃうもんねー」
「個性自体はかなり強い。近接キャラには強く出れる。……が、先生に必要な個性かと言われると迷うな」
「先生、もう衝撃反転持ってるもん。たぶんいらないと思うんだけどなぁ」
「ま、そこらへんは実際に戦ってから見てみることとするか」
「先生にどうやって届けるの?」
「黒霧に指定した場所に届けてもらう」
「運び屋さん便利だね」
たわいない会話をしながら、ぼくと弔は指定地に向かっていく。
そしてたどり着いた。
そこにはすでに、何度かあったことのある姿がある。
「おや」
「こんにちわ!」
「えーと……誰で?」
「ジョンだよ!」
「ああ、あの女の子ですか。かなり見た目変わりましたね……?」
「無駄な会話してんじゃねぇ」
「おや、死柄木弔。嫉妬ですか?」
「減らず口を……壊すぞ」
「怖い怖い。ええ、黙ることにしましょう。私も馬に蹴られたくはないので」
「ならさっさとゲートを開け」
「わかりましたよ、死柄木弔」
運び屋が転送の個性を発動する。弔に続いて、ぼくもそれに飛び込んだ。
たどり着いたのは……豪邸の手前。
「忍ぶ気あンのかよ」
門を粉々にしながら、弔が呟いた───そして、警鐘がなる。これは殺意の声か? 弔を引っ張り後ろに飛び退くと、先程立っていた場所になにかが振り下ろされていた。
少しばかり、リーチが長いように思える───薙刀の、その先に鉄の棘を付け加えたようなものだ。
「……狼牙棒かよ。いよいよ忍ぶ気ねぇな」
「ははははッ! この門を壊して正面突入とは豪気な侵入者よ! ようこそッ!」
それを持つ男は、短い髪を後ろに流しており、足の長さに見合った袴を履いている。
「そして疾く死ねィ!」
「お前が死ね」
弔が一歩踏み込んだ。武器に触れ、そして丸腰の相手を断割するだろうという未来を幻視する───しかし、そうはならなかった。
狼牙棒と呼ばれた武器が
それをしゃがんで躱そうとする───のを読まれ、上から武器が叩きつけられた。低い姿勢で横に飛び、弔はそれを回避する。
「縮むのかよ」
「伸縮自在だ!」
「あー……怠い……おいジョン、黒霧。先に行け。俺はこいつを殺してから行く」
「わかりました。───では行きましょう、ジョン・ドゥ」
「ははは! いかせると思うか───!?」
「逆に行かせないと思うかよ」
弔がコンクリートに触れる───周囲の地面が捲れるように崩壊していくのを尻目に、ぼくは屋敷の扉をぶち抜いたのだった。
「別に扉を壊さないでもよかったでしょうに」
「強度確認なんだよ」
「結果は?」
「やる気がないね。豆腐より柔らかい」
「それはそれは、警備もザルですねぇ」
どうせぼくたちの侵入はバレているのだ。ならば、いっそ目的が自分から出張って来てくれるように景気よく壊していったほうがいい。
問題はこうまで暴れているとヒーローが飛んでこないか、というところにある。だから、ヒーローがやってくる前に始末するのが目標になる。
玄関を抜けると、夥しい数の扉が現れた。
「どうします?」
「待ってね……全部壊そう。逃げるより先にぶっ壊したら勝ちだもんね」
速力の強化に可能な限り割り振り、そして扉を壊せるだけの筋力も強化しておく───そして、周囲の扉全部を破壊するために、走る。
まず一番右端の扉。蹴り飛ばし、早すぎて中が見えない。視力の強化に割り振り直してから扉の中身を見て、次の扉に向かう。
武器庫や来客用のであろう整備された部屋などがいくつもある───ほとんどを壊しながら向かっていると、左から六個目に階段が見つかった。戻って、黒霧を捕まえてから引っ張って走る。
「うぉっ、ぉぉおおおおおぉぉっ!?」
「ごめんねたぶん道見つけた!」
「はやっはやあああぁあああ!?」
Uターンするように階段が置かれている───しかし、自分じゃあ曲がりきれない。なので後ろの壁を蹴り、そこから自分の体を飛ばすようにして階段を登った。
発砲音。
聞き逃すことはなく横に逸れて回避───と思ったが、追尾してきたので黒霧を抱える手を離して銃弾を正面から受け止める。
腕を貫通し、喉に当たって体内で爆発した。
「あっはは! 侵入者と言っても早いだけであんまり強くないみたいだね! どれ、おまけだ。受け取っときなよ」
続けて、三発撃ち込まれる。今度は頭二発と心臓に一発。なるほど、頭のほうは脳みその位置から若干逸れるようだ。だから二発。
戦い慣れているな、と判断するが、しかしぼくに限ってはどれだけの攻撃を食らったところで無駄。既に体は修復し終わっている。
「な……なぁっ!? アンタ、なんで死んでないんだ!?」
銃を構える女の人───違う。これは先生が求める個性の人じゃない。雷なんてまとってないし、銃弾の軌道を捻じ曲げた。なるほど、強い個性だ。しかしそれだけで、ぼくや例えば黒霧さんにとってはカモと言えるくらい相性のいい敵である。
撃たれた喉を撫でながら、ぼくはためいきと共に言った。
「……弱いね」
「……ッ!!」
「今はお喋りしてる状況じゃないか。全く。時間制限系って嫌いなんだよね」
実際、ぼくはゲームとかで時間制限が表示されると途端に弱くなる。余裕を見せつけられなくなるのだ。心が逸って焦ってしまう。
「ただ一つ言えるとしたら───ぼくを消し炭にできるだけの火力があったらよかったのにね」
心の声が聞こえてくる。怯えと焦りの声だ。と、同時に黒霧のものだろう困惑も伝わってくる。
『な───なんで死なないの!? ありえない、人間じゃないのかよ……!』
「そのとおり、ぼくは人間じゃないね。ほら、見てよこの耳と───このしっぽっ!!」
速力を強化した。しっぽに筋力強化を掛け、走ってしっぽで殴る。
重い手応えと共に、何かが吹っ飛んだ。なにかと見たらそれは頭だった。なるほど、ぼくのしっぽは人を殺せるくらいまで強くなってるのか。
……いや、少し計算外だった。こんなに脆いとは思ってなかった。普通、もうちょっと硬いだろ。気合で粘ってくれないとこっちも格好がつかない。
「あの……ジョン・ドゥ」
「あ! はいはいなになに黒霧!」
「早くも呼び捨てに……喋っていてよかったのですか? 急いだほうがいいのでは」
「あっ! そうだそうだ。……たぶん、この無駄にでっかい扉の向こうにいるよね?」
「たぶんですが」
「じゃあいこっか。逃げそうだったらお願いね」
「了解です。……あの、なにをしているので?」
「栄養補給」
殺した女の人の腕を千切りながら言う。大盤振る舞いに個性を使ったので、戦闘中にお腹が空かないとは限らない。一応補給しておいたほうがいいだろう。
腕を食べながら、ぼくは扉の前まで歩いた。
蹴り破る。
───そこには、一人の男の姿があった。
「ようこそ」
「殺しにきました! あ、じゃない。殺しちゃいけないんだ」
「ははは、正直なお嬢さんだ」
髪型は大きく逆だっていて、目は殺意でギラついている。ミリタリーコートは特別仕様なのか、電気をたくさん貯めていた。触れると静電気で痛そうだ。
「異能解放軍下部組織、神獣のリーダー……
「そう。どうでもいいよ」
体を強化する。纏った雷の上から、蹴りかかった。
それで足を斜めに切り落とす。
「……あれ?」
想像以上に弱かった───ひょっとしたら、先生の言ったとおりぼくはかなり強いのかもしれない。
どことない不完全燃焼感に苛まれながら、黒霧に男を渡す。ワープで指定された場所に置きにいったのだろう。すこしだけどこかへと消え、すぐに戻ってきた。
黒霧を連れ外に出ると、体を壊された男と、半ばから折れた狼牙棒の残骸がある。自分の手をぶらつかせながら、弔はこちらに手を振ってきた。
「弱かった?」
「ああ、雑魚だ」
「なでなで」
「やめろ」
「ふふ……遊ばれてますね死柄木弔」
「次不快なこと言ったら殺すからな黒霧」
黒霧と弔が出会ったのがいつとか公式設定がわからなかったので時系列ぼかしてます
公式からなにかあったらこの作品ではこういう設定なんですで押し通すつもりですのでご了承ください
あと異能解放軍についてちょこちょこオリ設定交えていきます