松原姉弟の日常はだいたいこんな感じ / 丸山の導き   作:ぼやーりん

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第2話

 週末はなかなか大変な目に遭った。せっかく塾もない日だし、受験勉強は一旦脇に置いて、以前買ってまだ読めていなかった小説を読み進めようと思っていたのだが、美咲さんと会うのだという姉に強引に、そう強引に(ここは重要である)付き合わされたのだ。

 そうして渋々付いて行ったのだが(あの後、こころさんから「とても楽しそうな顔をしてるわね。素敵だわ! 」などと言われたが、そんなことは断じてない。最近始めた羊毛フェルトを一緒にできて楽しかったとか断じてない)、結局ハロハピのメンバーが全員揃い向かった先は水族館。それだけなら、まあ良かったのだが、なんと姉がその道中で見つけたのは、水族館から逃げ出した迷子のペンギン。

 そこからはもう、波乱万丈であった。姉がペンギンを抱えたまま迷子になったり、ハロハピが路上ライブを始めたり、当初予定していた穏やか休日はそれはもう清々しいほどに何処かへ飛び去ってしまっていた。そうして、家に帰った頃にはもうクタクタであったのだが、それでも何故か、悪くない休日だったと思えてしまうのが、姉の所属するバンド「ハロー・ハッピーワールド! 」の不思議なところである。

 

 

 ともあれ、そんなぶっ飛んだ日曜日の翌日、憂鬱な登校日の朝早くから、どうして自分はこんなことをしなくてはならないのだろう。女子生徒だらけの通学路にまさに異物のごとく混ざり込んでいる自分がはたからどのように見られているのかなど、考えることすら億劫である。

 

(本当にあの人は……。方向音痴が突出し過ぎてるせいで目立たないけど、普通にドジなんだよなぁ……)

 

 通学カバンと持つのとは反対の手で、せめてもの釈明とばかりにこれ見よがしに可愛らしい弁当袋を持っているのは、彼がこの状況でできる最大限の自己主張である。

 だが、本来ならば、別に弁当を忘れたぐらいでこんなことをする必要はない。購買やら学食やらで、勝手に済ませて貰えばいいだけだ。それでも、わざわざ彼が姉の忘れた弁当を届けにきているのは、単なる家族愛によるものではない。本人に問えば、否定するだろうが、その目はすでに学校に到着してこんなところにはいないはずの姉以外の誰かを探しているようであった。

 そうして、校門までたどり着いた頃には彼の胸の内の期待もだいぶ萎んでしまっていたが、ともあれこれで目的は達成である。メッセージで姉を呼び出し、手持ち無沙汰に待っていると、校舎の方から見慣れた水色の髪がぴょこぴょこと跳ねてくるのが見えた。

 

「まったく……。姉さん、弁当忘れるとか、テンプレみたいなドジしなくてもいいか……ら!? 」

 

「——うわ、ホントに佑介くんいる。花音さん愛されてるなぁ……」

 

 なんと、姉だけでなく美咲さんも一緒だった。あ、あれ? こういう時ってまずどうすればいいんだっけ!? ……い、いや。まずは挨拶だ。そう、挨拶だいじ。

 

「み、美咲さん! こ、こ、こんにちわ! 」

 

「え? まだ朝だけど……。うん、こんにちわ」

 

 やってしまったあああ!? なんで「おはよう」が出てこないんだ!? 今の顔、完全に「この人なに言ってるの? 」みたいな顔だよ! …………ああ、もうダメだ。絶対に変な奴だと思われた。

 

「……ふふっ。ユウくん、お弁当届けてくれてありがとうね。さっきまで、美咲ちゃんとその話してたんだ」

 

「とつぜん呼び出されたから何事かと思ったら、『いまからユウくんがお弁当届けにきてくれるんだ〜♪』って惚気られて……。ホント2人とも、朝からごちそうさまです」

 

 変な間を破って姉が話を引き継いでくれたのだが、なんだかこれだと美咲さんが、ただブラコン・シスコン姉弟の惚気に付き合わされているみたいになっているような……。

 

「ち、ちがっ! 別に姉さんのためじゃ——」

 

「わぁ。こんなわかりやすいツンデレが市ヶ谷さん以外にいたとは……」

 

 ……ダメだ。じゃあなんで来たのかと聞かれて、「美咲さんに会えるかもしれないと思って」とか言ったら最後、立派なストーカーの誕生である。……いや、言おうが言うまいが変わらないか。

 とにかく、これ以上いても変に墓穴を掘り続けそうだし、そろそろ自分の学校へ登校するべきだろう。

 

「……はぁ。それじゃあ姉さん、今度からは気を付けてよ。ここまで来るのも色々大変なんだから」

 

「うん♪ 本当にありがとうね、ユウくん」

 

 そう言うと、この馬鹿な姉は何を思ったのか、まったく疑問を抱かせないほどの自然な動作でこちらを抱き寄せ、頭を撫で始めた。

 

「——は? 」

 

「よしよし♪ 」

 

「おぅ……」

 

その時間、実に5秒ほど。

 

「な、な、な……何するんだこの馬鹿ああああ!!!! 」

 

 あろうことか、美咲さんにこんなところを見られるなんて!

 恥も外聞もなく、それはもう脱兎のごとく駆け出した。家に帰ったら覚えておけよ……。

 

 

「ふぇぇ……。わ、わたし何かまずいことしちゃったのかな……? 」

 

「えーと、なんていうか……強いですね。花音さん」

 

 

 

———————————

 

 なんだか校門の前が騒がしい。何かあったのだろうか?

 と思った刹那、他校の制服を着た男子生徒が、涙を流しながら目の前を駆け抜けていった。

 

「——この馬鹿ああああ!!!! 」

 

(えぇ……。なんだろう? これが痴情のもつれって奴なのかな? しかも、あの制服どこかで見たことがあるような……。それにしても、男の子が涙を流して逃げ出すなんて、そんなにおっかない人が——え!? )

 

 彼女の見つめる先、人だかりの中心にいたのは花音と美咲だった。

 

(あそこにいるのって花音ちゃん!? そういえばあの制服、金曜日に花音ちゃんと歩いてた人が……。もしかして、花音ちゃんが泣かせたの!? なんか不思議そうな顔して、美咲ちゃんの方は呆れてる感じだけど……まさか、花音ちゃんからしたらあれでもまだまだ序の口ってこと!? ……うぅ、これじゃあ余計に話を聞きづらくなっちゃったよぉ。それに花音ちゃん、怒るとそんなに恐いんだ……。うん。今度からはなるべく、バイトの時も気を遣うようにしよう……)

 

 友人の意外な一面を知った(?)丸山彩。今はまだそっとしておく時だと、人混みを避けてコソコソと昇降口に向かうのだった。

 

 

すごいぞ丸山! 進め丸山! 真実は彼女の中に——!!

 

 




2話目にしてポンコツと化す主人公。がんばれユウくんっ、負けるなユウくんっ。
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